第二部 各論 七 物価 1 わが国物価の国際的地位


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(一)国際物価に対する割高

 昭和二六年春以降の世界的な景気後退を反映して、主要国際商品が軟化し、また輸出競争が激化した結果、二七年度におけるわが国卸売物価も弱含みに推移し、年度を通じて一―二%低落している。

 このようにわが国物価は軟化傾向をたどつたとはいえ、朝鮮動乱前に対してはなお五割ほど高い水準にある。一方国際物価をみると国によつて若干違いはあるが、三十数ヶ国を綜合した最近の水準は動乱前の大体二割高になつている。もつともこうした騰貴率の相違がそのままわが国物価の対外的な割高の巾を示すものではない。なぜならば、いまから振りかえつてみると二四年四月に設定された一ドル三六〇円の為替レートは円より実際より安く評価したという面もあつて、三六〇円で換算した当時の物価は海外にくらべてかなり割安となり、動乱直前においてもなおある程度低かつたからである。試みに主な輸出商品だけをとつて、動乱直前の国内価格を国際価格に比較すると、国内価格の方が一割余り下回つていた。従つて、動乱後におけるわが国物価の急騰には、国際物価に対する下からのさや寄せ過程が織り込まれていたといえる。しかし、二六年初め頃にはさや寄せも終つたもようで、同年三月頃にははやくも国際物価を逆に一割程度上回つてしまつた。その後の動きは国際物価の推移にほぼ順応しているが、ひとたび開いた割高の巾は結局最近まで持越されることになつたわけである。このことは、わが国の物価が上るときはたやすく上つて反面かなり下りにくいことを示している。

(二)割高を支えている要因

 国際物価を上回つたわが国の物価は、貿易などの面からたえず引下げの要請を受けている。それにも拘らずわが国の物価が対外的な割高の巾を縮少しないのは、つぎのような諸要因によるものであると思われる。

第63図 各国物価の比較

 まず第一に、国内需要の増大があげられる。動乱後の日本経済は海外需要の増大に刺激されて拡大の方向をたどり、この間の投資の活溌化、さらには昭和二七年に入つて消費の上昇がもたらされた。ところで輸出は二六年春頃からはやくも後退したが、そこから誘発された内需の増大が割高な物価水準を保たせている。第二に特需が輸出後退後における国際収支面の支えとなつたことも、また物価水準を維持させてきた一因としてかぞえられる。第三は金融の支えであり、上りすぎた物価が反落する過程において、滞貨金融、救済融資などのテコ入れが物価下支えの役割を果している。第四は企業が、操短、出荷調整などの対応策をとつたことで、このような動きは後述のごときコスト高で企業の採算が窮屈になつた二七年の後半から強まつてきている。

(三)物価割高の内容の変化

 わが国物価の対外的な割高の巾はここ二ヵ年来変らないにしても、その内容は著しい変化がみられる。

 まず商品別にみると、繊維、金属、雑品(主にゴム、皮革)など貿易と関係の深い商品の価格は、いずれも昭和二六年上期をピークに示し、その後は輸出価格の低落や輸出契約の減退を主因としてほぼ一貫した下押しの傾向をたどり、二七年末から最近にかけてピーク以後の最低を記録している。ことに輸出と結びつきの強い工業製品の反落が著しく、なかでも繊維の価格は動乱前の水準まで戻つてしまつた。また機械や化学品も輸出減退から受けた直接、間接の影響で上に類似したカーブを画いた。しかしこれらの商品は、二六年来概して高水準を維持した国内投資需要に支えられて、下落のテンポも余り強くはなかつた。さらに燃料、建築材料のごとく、主に投資の国内需要から受ける影響の強い商品の価格は、二六年以降もジリ高の過程を続けて、二八年に入つて動乱後のピークを示している。とくに石炭、木材などの基礎原料は供給面の制約もあつて価格の値上りが著しい。なお食糧などの消費財は、二六年末以来の消費増大に拘らず、一方で供給増加の裏付けがあつたため、価格の騰貴を引きおこさずにすんだ。

第五二表 商品類別卸売物価指数

 このような動きを別の角度からみれば、食糧、基礎原料、製品価格の相対的な変化となつてあらわれ、ここに二七年の物価動向における最も顕著な特色が見出される。

 動乱直後は輸出価格にひきずられて工業製品の価格騰貴が先行し、原料価格の値上りはむしろおくれていた。しかも製品単位当りの賃金が労働生産性の向上によつてむしろ低落したので、企業の利益は目立つて増大した。だいたいの計算をしてみると第五三表のとおりで、二六年三月では製品価格が動乱前の七割高となつていたのに対し、原料価格と製品価格を綜合したものは二割高にとどまつた。しかし二六年春いらい、製品価格が反落しまた原料でも輸入品の価格は顕著に下つてきたが、国内産原料が引続き上昇過程をたどつたために、原料価格全体としては漸騰することになり、その結果企業の採算は次第に低下している。

第64図 原料製品別卸売物価の推移

第五三表 製品価格と原料価格および賃金の関係

 こうしてここ一、二年来製品価格が下げ渋つているうちに、原料価格がジリジリと上つてきたため、対外的な物価割高の巾は二年前と余り変らないとしても、その内容はすつかり底堅くなつてしまつたわけである。

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