第二部 各論 三 建設 1 国土開発ならびに国土保全


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 経済の自立を達成する一つの条件として経済活動の基盤を整備すること、国内資源を有効に利用することが肝要である。建設事業はそれらの目的を遂行するために治山治水、災害復旧等の国土保全や、土地改良、開拓、造林、水力開発等の資源開発を行い、道路、港湾、鉄道、都市、水道等を整備し、さらに経済活動の容器である建物を建設するものである。

 昭和二七年度のこれら土木建築事業費の総額は前年度にくらべて約三割ほど増加し、六、〇〇〇億円にのぼるものとみられる。その増加額のうち三分の二は国および地方財政支出が占め、三分の一は民間の支出増加であつた。しかし民間の増加分も財政支出が半ばを占める電源開発費や、公共事業に附随する地元負担金などであるから、結局増加分の大部分は財政資金に支えられたわけである。また国土開発保全に向けられたものは前年度を五割ほど上回り、全事業費の六割を占めたが、これによつて二七年度は国土の開発保全に著しく重点がおかれたことがうかがわれる。

1 国土開発ならびに国土保全

 このように昭和二七年度は国土開発および国土保全にかなり重点がおかれたのであるが、その主な動きについてみてみよう。

(一)国土開発

 前年度にくらべ最も支出の多かつたのは、水力発電である。電力開発工事費は前年度の六三五億円に対して約二倍の一、二一三億円と見込まれている。このうち土木事業を伴う水力開発は前年度の約三倍、六六〇億円に達した。残りは火力発電、送配変電、一般改良工事費である。

 この莫大な資金を投じて二七年度中に完成したものは水力二三ヶ所、一九・七万キロワツト、火力三二ヶ所一五・七万キロワツトであり、二八年度以降に継続されたものは水力九八ヶ所、二五三万キロワツト、火力九九万キロワツトである。この一年間に工事中の水力発電所の出力は現有水力発電設備能力の四〇%近い大規模なものである。ところがダム建設の場合には建設事前において技術的には地質、将来の堆砂等の問題、社会経済的には水没保障の問題、治水に与える影響、他種利水との調整の問題、建設費の費用振分けの問題等がある。しかし、本年に入つて共同費用振分け基準の政令が実施され、水没保障の標準も閣議了解をみて態勢は一段と整備されてきた。

第49図 国土保全ならびに資源開発事業費

 つぎに食糧増産関係の一般公共事業費(財政支出分)は前年度の五割増、約二四〇億円にのぼつているが、その六割が灌漑、排水等の土地改良に、四割が干拓および開墾に向けられた。その他に農林漁業資金融通特別会計(後に農林漁業金融公庫)二六年度より創立され二六年度は一二〇億円、二七年度は二〇八億円を融資した。そのうちそれぞれ二六億円、四二億円は公共事業の地元負担金分に対するものであるが、残りは大部分土地改良、林道、造林、共同施設等の建設に向けられたものである。

 その他国土を開発する以外の土木事業としては道路、港湾、都市計画、上下水道、鉄道等の事業があるが、いずれも経済、生活の発展に比して相応しているとはいい難い状況である。なかでも道路の現状は、最近の自動車交通発達の状況に鑑み甚だしく立ちおくれている。

 現在、旧道路法による国、府県道延長一三七千粁のうち円滑な自動車交通の期待できる改良済の道路は一二%にすぎず、舗装は簡易舗装を含めて僅か四・六%にすぎない。市、町村道についてもその総延長七四〇千粁の八割程度が自動車交通不能の状態である。これに対して自動車交通は激増の傾向にあり、自動車保有台数は戦前一〇―一一年平均の二・五倍、自動車による貨物輸送量は同じく戦前の一・六倍に達しているので、道路の負担と道路の現状との間には著しい不均衡が生じている。

 二七年度の道路建設改良費は公共事業費において約三割増の一五〇億円にのぼり、約九〇〇粁の道路、三〇〇近い橋梁が建設改良された。その他に地方単独事業として一〇〇億円以上の建設改良費が支出された。さらに安全保障諸費によつて駐留軍施設と密接な関係にある道路について現在までに一〇四億円にのぼる建設改良工事が実施されている。その他二七年度には有料道路を建設するため、特定道路設備事業特別会計が創設され二二億円が計上されたが、これは新機軸として注目されている。

(二)国土保全

 国土保全および資源開発における最大の悩みは風水害、震災等の災害である。戦後公共事業の対象となる公共施設災害のみでも時価に見積ると年々一、〇〇〇億円以上に達し、農作物の被害、家財の損失を加えると二、〇〇〇億円以上にのぼつていたのであるが、幸いに昭和二七年度は戦後最も災害の軽微な年であり、はじめてその年に計上された災害復旧費がその年の公共施設災害額を上回つた。すなわち災害公共事業費予算六七四億円に対して災害額は五一五億円であつた。

 しかしなお、過去から累積された災害復旧事業費所要額のうち今なお手のつけられていないいわゆる残事業額は二七年度末現在で一、七八○億円(内国庫支出を要するものは、一、二九二億円)という巨額に達している。そのほかに地方公共団体の単独事業として実施すべき災害復旧事業費の残事業額は、同じく二七年度末現在で二九五億円あり、前者と合せると実に二、〇〇〇億円を超えるものが今後の負担として残つている。その残事業額は二三年度の差に外の分までもいまだ若干残つているが、残事業額のうち最も多いのは河川関係の土木災害事業額で半ばを占めている。

 災害については少なくとも二七年度は小康をえてきたが、つい最近また北九州に痛ましい惨害の発生をみた。

 これらの事態に対しては基本的には水源地帯における治山事業と相まつて、砂防事業、河川改修事業、災害復旧事業等を一貫して強力に遂行する必要があるが、財政の現状から多大な制約を受けざるをえない現状である。たとえば二四年度を第一年度とする治水一〇ヶ年計画は直轄河川、中小河川合せて約一、四〇〇の河川改修を目標としたものであるが、二七年度に着工中のものは約二五〇河川であり、二七年度までに予算化された改修費の累計は僅か九・五%にすぎなく同じく二四年度を第一年度とする砂防五ケ年計画は一七%の進捗を示したにすぎない。治山についても二七年度は林野の荒廃面積の六%に手をつけたのみである。これら治山治水事業費に対する財政支出は前年度の三割増、約四〇〇億円に達し、その七割近くは河川関係であつた。

(三)国土総合開発

 ところが治山治水の問題は電源開発、食糧増産にも関連するので水、土地、森林各資源を相互に矛盾なく総合的、計画的に利用することが望ましくそのほうが投資効率もよいわけである。このために洪水を防止するとともに、発電、農業用水、工業用水、水道用水等を確保するため多目的ダムの建設を通じて河川総合開発事業が各地において盛に実施されるに至り、建設省関係で現在施行中の多目的ダムは二〇地点に達し、完成したものは七地点ある。しかし、この傾向は河川のみならずもつと広く地域全体の総合開発計画に発展し、国土総合開発法に基づいて先に一九地域の総合開発計画特定地域の指定をみたが、そのうち北上特定地域総合開発計画は本年二月初の閣議決定をえた。この地域は二二年、二三年に大水害をうけたのであるが、その後五ヶ所の多目的ダムを建設して洪水調節、発電、灌漑に役立たせるため事業を遂行中のものであるが、さらに同計画によつてそれらの事業を中心として一〇万町歩の土地改良、開拓を行い、治山、砂防、道路、港湾、牧野改良、林業開発等の各種事業を向う一○年間ほどの間に遂行しようとするものである。これに対し二七年度は国費二一億円が支出され、二八年度には三六億円が予定されているがこの二ヶ年の支出は確定事業費(国費分)の一三%にあたつている。この地域計画はかなり大規模な最初のものであるので総合開発の試金石とみられている。また北海道では北海道総合開発法によつて、二七年度より五ケ年計画事業が発足したがその事業費に対する国の支出分は二七年度は一〇三億円、二八年度は一四五億円が計上された。しかしこの二ヶ年の支出は事業費(国費分)の一九%にすぎない。

 以上みるように国土の開発保全は次第に総合性をみるようになつてきたが、二七年度は一歩前進をみた年として注目される。

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