第二部 各論 二 鉱工業生産、企業 2 企業経営の分析
(一)法人企業全般の動向
昭和二七年における企業全般の動向を把握する目的で、大蔵省「法人企業統計調査」によつて企業収益の状況や、資産ならびに負債、資本の変化や攻勢をみよう。同調査は金融機関を除く全営利法人を対象としたもので、一月から六月までに決算期に到来した会社を総括して上期とし、七月から一二月のそれを下期として取扱つている。
(1)企業利益の低下
昭和二七年における企業経営の状況を、使用総資本に対する利益率、司法総資本の回転率、および売上高利益率の三者についてみれば、次表に示すごとく前年より低下した。
このような利益の低落が経営内容にどのような変化を与えたか、以下資産、負債ならびに資本にあらわれた変化について検討しよう。
まず企業経営の弾力性は動乱後どのように変化したかを、次表に示す運転資本増減の推移についてみよう。運転資本は流動資産から短期負債を除いたもので、長期資本のうちで、流動資産に充当されている額を表す。従つてこれが増加すれば、それだけ経営の弾力性がますことになる。
これでみると、二六年上期以降運転資金の増勢が鈍化し、二七年上期から下期にかけて、急激な減少を示した。そこでさらに第四二図に示す資産、負債および資本の変化から、この間の推移をみよう。動乱勃発後二六年上期までは、棚卸資産の急激な膨脹に伴う運転資金需要を反映して、短期負債が顕著な増大をみせた。
他方固定資産の増加はそれ程顕著ではなかつたが、これは遊休設備の活用ないしは多少の修理を加える程度で生産規模を拡大することができたからである。従つて固定資産の増加を大巾に増大した利益で賄うことができ、一方において二六年以降長期負債が増加したので、運転資本は急激に増大した。しかし景気上昇が頂点を過ぎた二六年下期に入ると、製品在庫や、売掛債権の増加に伴つて短期負債は依然著しい増勢を続けた。なお固定資産は再評価を除いても一、八四〇億円の増大を示した。これは綿紡、化繊、製紙などの消費財部門や、電源開発、計画造船など財政投資に支えられた電力、海運、電気機械、セメントなどの業種における設備拡張が行われたほか、鉄鋼、石炭などの合理化投資が活況を呈しはじめたことに起因している。一方自己資本の増加は、同じく再評価を除いて一、二〇〇億円程度であつたので、これに長期負債の増加一、〇四〇億円を加えても、運転資本の増加は約三七〇億円となり、その増勢は鈍化した。
二七年に入つて、上期には綿紡、ソーダ、薄板、普通線材、ゴム等消費財関連商品の操短をはじめ、各業種において需給調整が行われたために棚卸資産の増勢が余りみられなかつた。しかし財政投資に支えられた部門における設備の拡充や合理化投資は前期に引続いて活発に行われた。そのほか中小紡績の増錘や、製紙、パルプなどにおける設備の増加もみられたので、固定資産は一、二七〇億円の増加となつた。他方これを賄う源泉として、増資が大いに行われたが、同時に長期負債も増大し、両者を加えると一、八九〇億円となつて、利益の減少をカバーしたばかりでなく、ゆうに棚卸資産の増加をも賄つた。しかし利益の減少が四〇五億円にも上つたことや、売掛債権が依然増大したことなどから、企業の資金繰りは前年より困難になつたことがうかがわれる。
ところで下期に入るや、電力、海運、鉄鋼、石炭を中心とする固定資産の増加は再評価を除いて二千億円になんなんとした。それ故自己資本や長期負債の増大によつては賄いきれずに、運転資本は減少した。
そこで二六年上期以降の固定資産と、運転資本との推移をみれば、第四三図のごとく、固定資産の膨脹が経営の弾力性を喪失させていることがわかる。
ただし二七年の後半来の固定資産の増加のうちには、以上に述べた有形固定資産の増加以外に、鉄鋼、綿紡、化繊、石炭などの大企業において、企業系列再編成の動きを反映する関係会社投資が急激に増加しているのを見逃すことはできない。
(二)収益の配分状況
つぎに収益の配分状況は如何に変化したであろうか。第四四図は最近三カ年における収益の配分状況を示すものである。
まずはじめに棚卸資産使用高をみれば、二七年には七一・九%と前年より一%方比重が増加した。けれども二七年下期には輸入原料の値下りその他から原料高の傾向が若干緩和されたことがうかがわれる。つぎに減価償却費は、再評価の実施、設備投資の進捗に基づく固定資産の増加、に伴つて二七年には一・二二%と増加した。その結果固定資産に対する減価償却費の割合が三・六%と、前年の二・八%よりかなりふえた。
このように原材料費や減価償却費などが増大したため、二七年の附加価値率は一五・〇三%と、前年より〇・七%方相対的に減少を示した。
そこでは附加価値はどのように配分されたか。総説の第一九図に掲げられているように、二七年においては前年とは逆に人件費の増大と、社内留保の縮少とが顕著であつた。すなわちしばしば指摘したように、前年に上げ遅れていた賃金上昇が人件費の増大となつて、利益の低下をもたらした。従つて人件費の比重は二七年下期において六五・八%と、二六年下期の五四・三%より大巾にふえた。そのほか二六年下期以降支払利子が顕著に増大して二七年下期には一一・六%に上つた。インフレ期には昨年の報告書に指摘したように尨大な債務者利潤(貨幣価値の低落によつて債務者が得る利得)が企業利益を支え、借入金が増大しても支払利子の増加は企業にさしたる負担とならなかつた。しかるに物価の下押し気味となり、債務者利潤の発生する可能性が失われた二七年において設備、運転資金需要を賄うための借入金が著しく増大したことは、支払利子が企業に大きな重圧を加える結果となつた。それはとくに後述するごとく、借入金が顕著な増勢をみせた鉄鋼、海運、石炭、電力、あるいは商事業の如く他人資本の比重が大きい業種の金繰りを圧迫している。
また増資が行われて、資本金が膨脹したことから、配当額も増加し、附加価値配分中の比重が増大した。
一方税金は利益が減少するにつれて、法人税の課税額が少くなることから、二七年下期には一一・六%と、前年同期の一九・五%より低位に止つた。けれどもここでいう税金とは、租税公課のほかに、利益金処分の法人税引当金をとつており、実際に当期間に支払つた税金の額を表しているわけではない。だから、二六年下期以降のように企業の利益が下降している時には、企業は今期より高い、前期にあげた利益に対して課せられた法人税を支払わなければならないわけである。そこで一応前期の法人税引当金を当期に支払つたものと仮定して、企業の税負担を試算すれば、二七年下期には一五・七%と増大する。
以上のように人件費、支払利子、配当など取前が大きくなつたために、社内留保は減少を続け、二七年下期には三・一%と、最も好調であつた二六年上期の一三・二%よりかなり低くなつた。
このように二七年の企業経営は、利益の低下、経営の弾力性の減少、社内留保の縮少というコースを辿つた。それでは二七年末における企業の資産、負債ならびに資本の構成はどうか。
(三)企業の資産、負債ならびに資本構成
景気停滞が企業経営に与えた影響は前にみた通りであるが、最近三カ年の各年末における資本ならびに負債、資本は第四五図の如くである。すなわち固定資産については二七年再評価の影響を除いても約四、二〇〇億円、つまり前年における増加額を三割五分程度も上廻る増加がみられた。ところが自己資本の増加は、同じく再評価積立金の増加を除くと、約二、三〇〇億円に止つた。さらに長期負債の増加は一、三〇〇億円程度だつたので、短期負債の比重は再び増大して、二五年とほぼ同程度の五九%となつた。
そこでバランス・シートの借方を資金の使途、貸方を源泉と考えて両者の関係を比較しよう。本来固定資産は自己資本、長期負債、利益金のいづれかによつて賄われ、さらに棚卸資産のうち恒常的在庫もまたこれらを以て充当されているのが、弾力性のある経営の形と考えられる。いま三カ年のバランス・シートをみると、二五、二六両年には自己資本、利益金および長期負債で固定資産を賄つた上に棚卸資産の三七%を賄つていたものが、二七年においてはそれが二五%にすぎなかつた。従つて棚卸資産の大半は短期負債で賄わければならない形となつている。
以上全産業の動向を総括すれば、企業は棚卸物価で修正した結果動乱後総資本でみると五割二分、営業収入でみると七割見当規模を拡大することができた。しかもそのうち固定資産については同じく棚売物価で修正して七割六分も増大して、かなりの拡充、強化が行われた。けれども自己資本は六割三分程度と、固定資産の増大にくらべて、相対的に低かつた。そしてわが国の企業が全般的に他人資本に依存する度合は依然大きい。
(四)産業別の動向
前項の企業全般の分析に続いて、業種別の特徴的な動向を述べよう。ここでは通産省で行つた一一二社における決裁書の集計結果をもととし、若干の補足的調査の結果を利用して分析した。この集計は大企業を対象としており、また大半が九月、三月の決算期を上、下期としている。従つて対象企業の範囲および時期、区分において前項に述べた全産業の場合とは異つている。
(1)消費財、投資財の好調と貿易関連商品の低落
前項で述べたように、全般的にみて企業利益は二六年上期をピークとして低下を続けたが、業種により傾向を異にしている。以下通産省調の経営分析資料によつて検討しよう。まず貿易関連消費財、国内消費財、投資財、基礎財の四グループについて、売上高利益率の推移を示せば、第四六図のごとくである。すなわち貿易関連消費財は綿紡財にしても、化繊にしても二六年度中の落ち込み方が最も大きかつたが、二七年には落勢が鈍つた。一方国内消費財では二七年中における消費の増大を反映して、毛紡、油脂その他で利益率は増勢に転じた。そのうち紙は原木の値上りから、売上高は増大したものの、利益率は落勢を辿つた。また投資財においては造船、セメント、電気機械のように財政投資に関連のある業種や、スクーター、小型三、四輪の好況を反映した自動車などが概して好調に推移した。基礎財のうちでは、貿易関連商品である鉄鋼業の急激な落勢と、ストの打撃を被つた石炭鉱業の二七年下期における急落がみられたほかは、漸落の傾向にある。なおその他の業種では電力業が豊水に恵まれて、利益は増大した。また流通部門では、海運業が世界的な不況の波に押されて赤字に転じ、商事は輸出から輸入、輸入から内需に転換して内需の増大に救われ好転した。
(2)経営の弾力性は如何に変化したか。
このような収益性の変化が企業経営に如何なる変化をもたらしたか。また企業はどのようにして景気後退に対処したか。
まず経営の弾力性がどのような推移を辿つたかを検討しよう。第四七図は売上高利益率と同様各企業をグループ別に分類して、運転資本比率の推移を記したものである。運転資本比率は総資本で運転資本を除したもので、これが高ければ、経営の弾力性が大きいことをあらわす。これと前述の売上高利益率とを対比すれば、概して利益が上昇している業種では、運転資本も増大している。ただ利益率の増減率にくらべて、運転資本のそれは緩やかな推移を示している。この一つの理由は、固定資産の増大にくらべて、自己資本の増加が相対的に少かつた業種でも、長期借入金の増勢が顕著であつたことから、運転資本をそれ程減少させずにすんだことである。この傾向は化学肥料、パルプ、製紙、化繊、電気機械などをはじめ、これらの大企業にほぼ共通してみられる。しかし鉄鋼の大メーカーや、石炭の大手筋のように後述するような理由から、二七年下期には運転資本が減少している企業もみられる。もう一つの理由としては、十大紡などにみられるように、利益低下の潮流の中にあつて、経営の不健全化を回避しようとした企業の対応策があげられよう。このことは企業の資産、負債および資本にあらわれた変化をみればさらに明らかとなろう。
すなわち綿紡績業では原棉買付量を抑制するとともに売掛債権の回収強化をはかり、二七年上期までは収益のおちこみの甚しいさなかにありながら、短期借入金の返済を履行して来た。また附加価値の配分状況を附表によつてみれば、雇用削減による労務費の切下げ、配当の抑制などを行つて、極力社内留保の減少を喰い止めようとした態度が見出される。その結果として二七年下期における十大紡の資産、負債ならびに資本の構成を二六年上期と比較すれば、純益が実に六分の一におちこんでいるのに、自己資本は四〇%から逆に四四%へと向上している。しかしながら利益の低下は著しく、雇用整理や配当のきりつめなどによる切り抜け策にも限界があり、二七年に顕著だつた内需転換も、決済条件の悪化を招いて機屋や流通機構の資金繰りを窮屈にさせ、その結果紡績メーカーの資金繰りを悪化させている。また紡績内部でも、操短枠の設定基準や、内需紡の行き過ぎた増錘競争から矛盾をはらんでいる。そこで紡績業の経営を立て直すためには、矢張り輸出振興をはかる必要が生じ、輸出紡を中心とした綿糸布買取機関の設立、原棉割当輸出リンク制の実施などの動きがみられている。もつとも綿紡績業内部でも輸出紡と内需紡、大紡績と中小紡の間には経営の行き方に著しい差異があり、中小紡の中位以下のクラスでは後述するように、固定資産の増大から、経営難に陥つているものも漸次増加している。
このように運転資本の推移をみると、二七年に比較的好況を保ちえた国内消費財や投資財では利益が増加したばかりでなく、経営の弾力性もふえた。とくに従来基盤の弱体であつた機械工業の多くが、二七年において若干でも経営の弾力性が増加した。反面綿紡、化繊のような輸出産業や鉄鋼の大メーカーや石炭などの基幹産業では運転資本が減少した。また海運や商事等の貿易関連部門の経営の弾力性の乏しさは特に目立つている。
(3)固定資産の増大
全産業の項で検討した結果にみるように、二七年中の固定資産は前年の増加額を四割程度も上回る増勢を示した。そして二七年中における固定資産の増加は、鉄鋼、石炭、造船などの合理化投資の進捗や、電源開発、公共事業等の財政投資に関連する業種に顕著にみられたことも前述したとおりである。
しからば増大した固定資産を賄う源泉としての資本および負債はどのように変化したであろうか。
これらの大企業に共通していえることは、二七年上期には多くの企業において増資や起債が活溌に行われ、長期借入金の増大と相俟つて、運転資本をそれ程減少させることなく固定資産を増大させることができた。しかるに下期になると、自己資本の増加は固定資産のそれに及ばず、長期負債の依存度は一層増大した。そのため、前にみたような運転資本の減少を招き、設備資金の調達が企業の資金繰りを圧迫した事情がうかがわれることである。しかしその態容は比較的好況を保つた財政投資に関連する造船、電気機械、セメントなどの業種と、下期の落ち込み方の激しかつた鉄鋼や石炭などでは自ら異るものがあつた。すなわち前者の投資財グループでは利益が増大したり、あるいはその減少が軽微に止まつたりしたため、固定資産の増大による運転資本への喰い込みはさしてみられなかつた。それに反して後者は市況の不振や炭労ストによる打撃から利益が大きく減り、他方において合理化投資を主体とした固定資産の増大は顕著であつた。そのため運転資本は二七年上期から下期にかけて、マイナスに転じ、大規模な設備投資が企業経営の弾力性を失わせている。
附図1 資産ならびに負債資本の構成および変動(対象企業23種)
だがこのような傾向はひとり大企業のみに止まらない。すなわち先に述べた中小紡績において、増錘が企業経理を圧迫した結果赤字経営を余儀なくされているものが二七年上期以降かなり目立つている。そのほか大阪地区の中小企業で、動乱ブーム時の利益を設備に投じた企業が、二七年に入つて反落期に苦境に陥つた例もある。
以上みてきたように、二七年の大企業において、固定資産の増大が一様に外部負債とくに財政資金の依存度を大きくさせた。そして概して固定資産の膨脹にくらべて自己資本の増加が小さかつた企業ほど経営の弾力性を失つていることがうかがわれる。
(4)附加価値の配分状況
法人企業全般について附加価値の配分状況を検討した結果、社内留保は人件費の比重の増大、支払利子負担の増加などによつて、前年より金額からみても、比率からみても減少したことが明らかになつた。それでは主要業種において、附加価値の配分状況は二六年上期以降如何なる変化を示したか。
付図の二は、業種における付加価値の配分状況を示すものである。
まず人件費については、造船、通信機など比較的好況を保つた業種では、二七年において支払総額は増大したけれども、利益が増大したために比重は逆に横這いないしは低下している。反面鉄鋼、石炭においては、絶対額では減少したものの、比重は増大した。このように人権費は絶対額ではそれ程顕著な増加はなかつたが、全般的に利益が低下しているので、相対的なウエイトが高くなつたものといえよう。しかし中には十大紡のように、附加価値絶対額の減少に対して雇用整理を行つて、人件費の比重を切下げた企業もみられる。
つぎに支払利子は、借入金が著しく膨脹した鉄鋼一貫メーカーや、製紙、パルプなどでは増大した。とくに一貫メーカーの支払利子は二七年下期には、二六年上期の約三倍に達し、これが社内留保を激減させる大きな原因となつた。また電力では二六年下期には欠損を生じたことから二七年の比率は前年より低下したものの、支払利子総額では二七年下期には前年上期にくらべて倍増した。これに反して借入金の返済に努めた大紡績や同じ鉄鋼のなかでも三大平炉メーカーでは、支払利子の負担はそれ程増大しておらず、綿紡のごときは逆に比重が減少している。
また配当(役員賞与も含む)は二七年上期までは大半の大企業にみられたように、増資によつて金額も比率も上昇した。しかし下期になると、鉄鋼一貫メーカー、石炭などにみられるように、大幅な配当率切下げによつて比重が減少した企業もあらわれるに至つた。
さらに税金は利益が低下した貿易関連消費財や、石炭、鉄鋼などで一様に比重が減退している。けれどもここでとつた税金は利益金処分中の納税引当金であるため、法人企業全般の項で述べたように、実際には前期の利益に対して課せられた税額を支払わなければならない。それ故にこれらの企業の税負担は、これよりも遙かに重い。
最後に社内留保をみれば、利益の減少にくらべて社内留保の減り方が緩慢な十大紡と、逆に社内留保の激減が目立つ鉄鋼一貫メーカーとの動向が注目されよう。すなわち前者は極力留保を厚くするための対策の結果と看做される。また後者は、(1)二六年中に入荷あるいは契約した高値の輸入原料を使用せざるをえなかつたために、使用原料の割高に苦しめられたこと、(2)内外市況が不冴えになつてきたこと、(3)大規模な合理化投資を行つていること、などのほかに、(4)一貫メーカーを通じて、系列内の平炉、単圧メーカーに対する資金融通を行つたことなどから借入金が膨脹を続けたために、支払利子の負担が激増したことによる影響が強い。ところが同じ鉄鋼メーカーのなかでも、三大平炉メーカーでは、社内留保の減少はそれ程顕著ではなく、それ以下の平炉メーカーでは二七年に入つてから落ち方が大きくなつている。ここで鉄鋼メーカーを規模別に分つて、使用総資本利益率、社内留保の推移についてみれば第四八図のごとくである。
また石炭大手筋では、二七年一〇月下旬より二カ月にわたる炭労ストの影響で、労務費の割合が急増して、社内留保は激減した。
他方、造船、電気機械、自動車など機械工業では社内留保の比重が増大し、また国内消費財関係でも、二七年下期の増加が目立つている。いずれにしても鉄鋼、石炭、電力などについてみれば、前二者は自己資金による調達力が減退しており、電力は自己調達力が低位にある。このことは今後さらに大規模な設備投資を続けようとしているこれらの企業において、外部資金に依存する度合が強いことを意味する。そうなれば金利負担は一そう増大することが予想されるので、企業が如何にこれを克服して設備投資を遂行して行くか、また合理化投資が達成された暁における鉄鋼や石炭のコストや開発後の電気料金などが、金利負担をどの程度カバー出来るか、などの問題が残されている。
(三)企業組織化の動き
以上述べたように、内外市場における競争が激しくなつて、企業の利益率が低下し、経営の弾力性が乏しくなつてきたので、企業はこれに対する対応策を講じつつある。それは、企業間の協調と企業系列の再編成とである。
まず、企業間の協調についてみると、綿紡、化繊、鉄鋼、肥料、石炭などの主要業種において、操短、出荷調整、建値協調、関連メーカーや商社への販売価格の指示などそれぞれ何れかの形で市価維持の策を講ずるとともに、海外市場に進出するために、共同買取あるいは販売機関設立の機運が強まつており、すでに綿紡では、輸出振興組合が設立された。これらの共同機関は輸出に伴うリスクの負担や対価を抱えて輸出価格の極端な低落を防止しようとするものである。
このような横の協調が進むと同時に、他方では、企業が合同し、あるいは系列をつくつて、生産面、販売面の強化が行われている。その方式にはいろいろあるが、第一の例は、旧財閥系商社の合同にみられる動きで、これは合同によつて資本力を強化し、営業を多角化し、経費を節減して、経営の合理化を行おうとするものである。第二の方式は、コスト切下げと販路確保のために原料生産、下請加工、あるいは製品販売関係の企業を大企業を中心として系列化することである。たとえば鉄鋼における一貫メーカーおよび平炉大メーカーを中心に、一貫、平炉、単圧メーカーあるいは炭礦、鉄鉱山、汽船会社など関連部門を含めての企業系列が再編成されつつあり、大電機メーカーがかつて分離した企業である第二会社を再び傘下に吸収すると共に共同販売会社をつくり、また海運でも、大オペレーターが中小船主を傘下におさめる動きなどがある。
第三に、このような企業系列がつくられていくと、綿紡メーカーでもみられるように、同一企業内で合理化された高能率工場へ生産を集中するのみでなく、染色加工など関連部門の合理化を援助し、また鉄鋼メーカーについてみられるように、同一系列内の企業に、生産分野を劃定して、合理化投資を集中的に行うとともに、合理化がすすむにつれて生産をそこへ集中して、低能率工場を休止しようとする動きもみえている。