第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 九 国民生活 2 農家
都市消費水準の停滞に反し、昭和二六年の農家消費水準は顕著な向上を示した。
すなわち、二六年の消費水準は物価の上昇を除去した実質家計支出でみると前年より一〇%上昇し、また消費数量指数によつてみても八%の増加で、いずれにしても前年より約一割の上昇である。
かくて戦前基準で二五年は九五%、二六年は一〇四%と遂に戦前の水準を突破した。かかる農家消費水準の好転はすでに「農家経済の動向」において述べたごとく、耕種、養蚕、養蓄、工芸作物収入の増加に加えて農外収入の増加があり、全体としての所得増加が年度間二八%に上り、その上租税公課が相対的に減少を示し、なお農村家計用品物価の上昇が年度間二七%に止まつたことによる。
都市の消費水準は二六年において戦前の七一%であるから、その回復率には大いなる相違があるわけであるが、戦前農村の消費水準は都市の六―七割程度であつたと推定されているので、二六年の都市、農村の消費水準を横に比較するとほぼ大差なかつたものと推定される。もつとも、都市と農村では消費構造に大いなる相違があるから、厳密な意味で両者の同時的比較は困難であることに畄意しなければならない。
次に費目別に消費水準の変化をみると在表の通りである。
被服、雑費、嗜好品の増加が顕著であり、副食調味料は若干の増加、主食、光熱、住居はほぼ前年水準に持越した。このように農家家計支出の増加が主として二次的な面に向けられたことは、農家生活に幾分でも余裕を生じたことを示すものといえよう。
なお食糧消費水準の上昇にもかかわらず、エンゲル係数は二五年の五六%から二六年の五五%と僅かに減少しており、所得増加による他の費目への支出増加が大きかつたことを物語つている。
上のように農家全般の平均としては消費水準の向上をみているものゝ、下層農家と上層農家の乖離が大きくなつている点も見逃しえない。(農家経済の項参照)