第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 九 国民生活 3 国民消費水準
(一)都市、農家総合消費水準
1 家計調査よりみた数字
以上家計調査よりみた都市と農村の消費水準を述べたが、これを総合して国民全体の消費水準を算出すると、戦前に対して昭和二五年八二%、二六年八六%となり、二六年は前年に比し四%の上昇を示した。
またこれを国民所得の中での個人消費支出でみると、次表のごとく二六年は戦前の八七・三%となり前述の数字とほゞ同様な結果をうる。
2 一人当生活物資供給量よりみた消費水準
一方生活物資およびサービスの国民一人当供給量指数によれば、昭和二六年は戦前の約八七%となりこれも前項の結果とほゞ一致している。
戦前消費水準の回復はまず主食に向けられ、援助輸入、生産力回復等に努めた結果二三年ですでに戦前の九割、二六年にはほゞ戦前の水準まで到達した。かくて厳重な食糧統制も漸次緩和され、本年六月より麦類統制撤廃が実施される段階にまで到つている。しかし戦後の輸入食糧が小麦を主体としたものであつたことから上の主食九七%の回復率も、米の八一%に対して小麦のそれは戦前の三倍となつており、内容に大きな変化がみられる。なお主食は現在の耕地面積、および人口の状態から絶対的不足は避けられず、輸入食糧の確保をはかる一方国内自給度の向上が必要であろう。
非主食は二六年において戦前の七六%で、主食の回復よりかなり低位にある、特に砂糖、大豆等輸入原料に依存する面の回復が遅れており、調味料の低水準もその間接的な影響を受けているものである。また酒類は戦前のようやく五割にすぎない。なお非主食中の二大項目である野菜と水産物はそれぞれ戦前の八六%および一一二%に達している。特に水産物が戦前の水準を越えているのは二六年が例年にない豊漁にめぐまれたからである。上のごとく非主食の項目間には回復に跛行性がみられるが、二三、二四年頃と比較すればかなり均一化してきており、生産および輸入の増加によつて回復の遅れていた項目を引上げる努力の払われたあとがうかがわれる。たゞし、前述のごとく主食の構成が戦前とは大きく異なつている現在、非主食各項目の劃一的な戦前への回復ということは無意味であり、綜合的に食生活改善という面から今後の方途を見出すべきであろう。(附表六四および六五参照)
被服の水準は戦前の七割となつているが、衣料品だけをとつてみれば、こゝ二、三年来の生産回復にもかかわらず戦前一人当り九・四封度に対して二六年は五・五封度であり、しかも戦後は価値の低い国産化学繊維の比重が大きくなつているので、実質的に戦前の六割程度で、最も回復の遅れているものの一つとなつている。
住居水準は上水道一人当り排水量が水道施設の普及によつて戦前の約二倍になつており、また家具什器類の供給量も一割以上戦前を上回つているため、住宅水準(一人当畳数)が八五%の低位にあるにかかわらず、全体としては九四%の水準を示している。住宅水準は戦後各年ほとんど増減なく推移しているが、これは新築が行われる一方海外よりの引揚と自然増による人口増加があつたためである。なお、上八五%の住宅水準も償却不足による老朽化を考えると、実質的には数字に表現されているよりもかなり低いものと考えられる。また住宅事情は戦災の有無によつて地域的の差が甚だしく、二三年においても下表の如くであり、特にその後の人口都市集中傾向とともに大都市の住宅不足は深刻さを加えている。
なお建設省住宅局調による昭和二七年三月末現在の住宅不足戸数は、全国で約三一六万戸と推定されており、一方人口増、災害喪失、老朽消耗による住宅需要増は毎年三二万戸程度と推定されているので、現在のように年間増加三〇万戸程度では不足戸数は減少するよりむしろ増加する傾向にあり、したがつて住宅問題は国民生活にとつて最も大きな問題となりつつある。
光熱は相対的に安価な電気の消費が大きいのとガスの復旧、普及が進んだため、一人当木炭供給量がいまだ七割の水準にあるにもかかわらず全体としては戦前水準を上回つている。
最後に雑貨はサービス関係のものが多く、これらは商品類に比し相対的に価格水準が低いためこの面に消費が向つて戦前の九三%まで回復している。
以上個別的に述べた所を通観するに、二三年頃までは一にも二にも食生活の回復に重点を置き又置かざるを得なかつた訳であるが、この面における一応の安定をうるとともに漸次被服に移り、今後前述のごとき事情もあり住居の問題に焦点が移行していくであろう。
(二)国民生活と財政
国民生活と財政の関連をみるに、国民所得に対する租税負担の割合は、国民所得著増の結果昭和二五年よりは国税、地方税を合わせて二・五ポイント減少している。この負担減は特に国税負担減少によるものであることが明らかであつて、所得税減税の項かがあらわれている。
もつとも戦前の負担率からみるとまだかなり重いが、一方社会保障費、輸入食糧補給金などの国民厚生に関する財政支出が一般会計歳出のそれぞれ一〇・四%、三・四%に上り、また若干性質は異るが住宅公庫貸付金も歳出二・二%が支出せられており、この面から所得の再分配が遅れている点も考慮しなければならない。
以上昭和二六年の国民生活の推移を概観したが、全般的にみれば消費水準も戦後毎年着実な回復を示しており、殊に食糧事情は比較的安定し、エンゲル係数が六〇%にもおよんだ頃の窮迫した状態から脱したものといえよう。しかし手から口へのその日暮し的な生活から堅実かつ安定的な生活への二次的な回復には、非主食、衣料の一層の向上をはかるとともに減耗した資産の充実に努めねばならぬ段階に立ち至つている。特に今後住宅不足の緩和をはかるには、実質的な所得の一層の増加が必要となる。これはいままでの回復過程にもましてより一段と困難な事柄であり、それは経済全般のより強力な発展が期待されねばならない。また同時に消費を効率的にする生活の合理化にも努力がなさるべきであろう。