第1章

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第3節 デフレ脱却に向けた動き

政府は、「三本の矢」からなる経済政策によって、長引くデフレからの早期脱却と日本経済の再生を目指している1別ウィンドウで開きます。デフレ脱却が実現されることにより、①実質金利の高止まりが是正され、また企業が将来における名目売上の拡大を期待することにより前向きの投資が出てくる、②企業の生む付加価値が圧縮される状況が是正され、生産性上昇が賃金上昇につながりやすい環境が実現される、さらには③経済成長が進み財政健全化を促し、そうした財政健全化の進展が経済再生の一段の進展に寄与するという好循環の動きがより確かなものとなることが期待される2別ウィンドウで開きます

所得から支出へといった経済の好循環が生まれる中、消費者物価は2013年春頃から緩やかに上昇してきた。しかし、2014年夏以降上昇テンポが鈍化し、最近では横ばい圏内の動きとなっている。2013年以降にみられる物価上昇はデフレ脱却に向けた持続的なものといえるだろうか。本節では、消費者物価を始め、幾つかの物価関連指標の動向を分析することにより、デフレ脱却に向けた動きを点検する。

1 物価動向の概観

消費者物価は、為替の円安方向への動き、景気回復に伴うマクロ経済の需給バランスの改善などを背景に上昇を始めた。こうした動きを踏まえ2013年12月の月例経済報告では、デフレ状況にないとの認識が示された。しかし、2013年に高い伸びを示した輸入物価上昇率が2014年に入り急速に低下する中で、そうした消費者物価上昇の動きは鈍化することとなった。ここでは、輸入物価から消費者物価にわたる指標の動きを確認することによって最近の物価動向を概観する。

(輸入物価及び国内企業物価は前年比上昇幅が低下)

円ベースの輸入物価は、2012年秋以降の円安方向への動きを受け、2013年中は前年比で10~20%程度上昇したが、前年比上昇幅は2014年に入って急速に低下した3別ウィンドウで開きます第1-3-1図別ウィンドウで開きます(1))。特に、「石油・石炭・天然ガス」は、①契約通貨としてドルを使用する割合が高いこと4別ウィンドウで開きます、②輸入物価指数におけるウエイトが大きいことから5別ウィンドウで開きます、2013年以降上昇寄与が大きくなっている。もっとも、最近では、為替が円安方向へ動いているものの、原油や石炭等の国際価格が下落していることにより、前年比で小幅な上昇寄与にとどまっている。

国内企業物価の前年比を確認すると、2013年7月から同年末まで2%以上の上昇となっている(第1-3-1図別ウィンドウで開きます(2))。この期間においては、「石油・石炭・天然ガス」の輸入価格上昇を受けて、ガソリン価格や電気代が上昇したことから6別ウィンドウで開きます、これらを含む「エネルギー」の寄与が大きくなっている。2014年に入って、設備の定期修理による供給能力の低下等を受けたガソリン価格の上昇7別ウィンドウで開きますや電力会社による値上げの動きがあったものの、輸入物価の前年比上昇幅が低下していることを背景に国内企業物価の前年比上昇幅は低下している。

(消費者物価は緩やかに上昇してきたが、最近では横ばい)

輸入物価の上昇は、企業間取引から、その後、最終消費財へと徐々に転嫁されることにより、2013年以降の消費者物価の押上げに寄与してきた。固定基準方式の「生鮮食品を除く総合(いわゆるコア、以下「コアCPI」という。)」の前年比をみると、同年6月にプラスになって以降プラスが続いている(第1-3-2図別ウィンドウで開きます(1))。また、消費者物価の基調を捉えるため、変動の大きなエネルギーなども除いた連鎖基準方式の「生鮮食品、石油製品及びその他特殊要因を除く総合(いわゆるコアコア、以下「コアコアCPI」という。)」8別ウィンドウで開きますの前年比の推移をみても、2013年10月にプラスになって以降プラスが続いている。

コアCPI及びコアコアCPIの季節調整値の推移をみると、2013年春以降緩やかな上昇傾向となっている(第1-3-2図別ウィンドウで開きます(2))。ただし、コアCPI及びコアコアCPIのいずれも、2014年夏にかけて上昇テンポが鈍化し、最近では横ばいとなっている。

コアCPI及びコアコアCPIの前年比を寄与度分解することによって、消費者物価が横ばいとなっている背景を確認しよう(第1-3-2図別ウィンドウで開きます(3)、(4))。コアCPIについては、2013年以降、「石油・石炭・天然ガス」の輸入物価の上昇を受けて「エネルギー」がその上昇に寄与したほか、需給バランスの改善を背景に「他のサービス」が上昇に寄与したことなどにより、2014年4月まで前年比上昇幅を拡大させてきた。しかし、同年5月以降、「エネルギー」の寄与度の縮小もあって、上昇幅は縮小傾向にある。また、コアコアCPIについては、需給要因等により「他のサービス」が上昇に寄与したほか、輸入物価の上昇に起因する仕入価格高騰を受けた価格転嫁の動きが徐々に進んだことにより「食料」及び「その他工業製品」が上昇寄与に転じた結果、2014年4月までプラス幅が拡大してきた。しかし、同年5月以降、前年比のプラス幅は横ばいからやや縮小して推移しており、輸入物価の上昇による価格転嫁の動きはほぼ一巡したとみられる9別ウィンドウで開きます

(物価横ばいの背景には、景気回復力の弱さも影響)

物価の基調が2014年秋頃から横ばいとなった背景には、輸入物価の上昇による価格転嫁の動きが一巡した影響があると考えられる。それでは、景気の動向は、物価の基調にどのような影響を与えているのだろうか。

最初に、物価上昇の広がりを確認するため、価格が上昇している品目数の割合から下落している品目数の割合を引いた物価DIをみる。国内企業物価、消費者物価いずれにおいても、価格の上昇品目数が価格の下落品目数を上回る姿となっており、2013年以降のデフレ脱却に向けた動きの中で、物価上昇の動きが広がってきたことが分かる(第1-3-3図別ウィンドウで開きます(1)、(2))。特に、コアコアCPIについてみると、物価DIの水準は2013年5月以降マイナス幅が着実に縮小し、2013年10月以降はプラスに転じた。また、2008年秋頃の30%超には達していないものの、ほぼ全ての種類の財・サービスでプラスに転じている。こうした動きは、2013年以降の物価上昇が、輸入物価の上昇による価格転嫁といった費用面からの影響に加え、2012年末以降の景気回復の影響を受けてきたことを示唆している。ただし、最近では、国内企業物価、消費者物価いずれにおいても物価DIのプラス幅は横ばい圏内で推移しており、輸入物価の上昇による価格転嫁の動きが一巡する中で、消費税率引上げ以降にみられる景気の回復力の弱さも影響している可能性がある。

次に、基礎的支出(支出弾力性が1未満の品目)と選択的支出(支出弾力性が1以上の品目)に分けて消費者物価の動向をみてみる。基礎的支出の消費者物価については、「光熱・水道」に含まれる電気代、「交通・通信」に含まれるガソリン等の上昇鈍化を反映し、2014年8月以降プラス幅が縮小している。一方、選択的支出の消費者物価については、2014年4月以降プラス幅の縮小が継続している(第1-3-3図別ウィンドウで開きます(3)、(4))。選択的支出の消費者物価は、趣味・嗜好性の強い商品・サービスから構成され、個人消費の動向の影響を受けやすいと考えられる。こうした点を踏まえれば、選択的支出の消費者物価の上昇鈍化の動きからも、消費税率引上げ以降にみられる個人消費の弱さが消費者物価に影響を与えていることがうかがえる。

2 デフレ脱却に向けた進捗

2013年以降の物価上昇は、輸入物価の上昇による価格転嫁といった費用面からの影響に加え、経済全般の需給の改善を受けて幅広い品目に波及していることから、消費者物価でみるデフレ脱却に向けた動きはある程度確かなものであった。一方で、デフレ脱却に向けた進展を消費者物価の動向のみで評価することは十分ではない。以下では、GDPデフレーターやGDPギャップ、予想物価上昇率、そして単位労働費用の動向を分析する。

(GDPデフレーターは付加価値デフレからの脱却に向けた動き)

GDPデフレーターは生産一単位当たりの名目付加価値(企業や家計の所得)を表すことから、名目でみた企業所得や賃金が伸び悩む「付加価値デフレ」からの脱却に向けた動きを検証する際に用いられる。同時に、GDPデフレーターは、輸入物価の変化が国内物価に完全に転嫁されたと仮定する場合、国内要因による物価変動を反映したものとなるため、国内で生じたインフレ(もしくは、デフレ)を測る尺度としてもみられている。例えば、為替レートが円安方向に動くと、GDPデフレーターは当初低下する傾向がある。これは、円安方向への動きによる輸入価格の上昇を企業が国内の財・サービス価格や輸出価格に転嫁するのに一定の時間を要するためである。輸入価格の上昇が財・サービス価格に転嫁されるにしたがって、GDPデフレーターの低下幅は縮小し、価格転嫁が完全に行われると、他の条件を一定とすればGDPデフレーターは元の水準に戻ることになる。このため、価格転嫁が一巡した段階でGDPデフレーターが上昇していれば、それは国内要因による物価上昇を反映したものと評価することができる。

最近のGDPデフレーターの動きについては、以下の2点が特徴として挙げられる。

第一に、GDPデフレーターの前年比マイナス幅は、2010年から2013年にかけて縮小傾向となっている10別ウィンドウで開きます第1-3-4図別ウィンドウで開きます(1))。特に2014年4-6月期以降は消費税率引上げの影響を除いても前年比プラスに転じているとみられ、付加価値デフレに歯止めがかかりつつあることを示している11別ウィンドウで開きます

第二に、所得面からみると、生産一単位当たりの労働の取り分を表す単位労働費用は、2014年1-3月期まではおおむねマイナスに寄与をしていたが、同年4-6月期よりプラス寄与に転じている(第1-3-4図別ウィンドウで開きます(2))。こうした動きは、ベースアップ等の賃上げの動きを反映したものと考えられ、賃金費用面からの物価上昇圧力が高まりつつあると考えられる12別ウィンドウで開きます

(需給ギャップは長期的には改善の動き)

以下では、需給動向に焦点を当て、経済全体の需給動向を示すとともに経済の物価変動圧力を測る尺度でもあるGDPギャップや日銀短観の需給判断DI(国内での製商品・サービス需給判断)の動きをみてみる。

まず、GDPギャップの動向をみると、2009年以降、GDPギャップのマイナス幅は縮小し、物価への下押し圧力が和らいできたことが確認できる(第1-3-5図別ウィンドウで開きます(1))。特に、2013年以降、個人消費主導で景気が持ち直したことを背景に、民間最終消費要因が2013年1-3月期にプラスに転じたほか、民間投資等その他の要因についても、マイナス幅が着実に縮小してきた。ただし、2014年4-6月期以降、GDPギャップはマイナス幅が拡大している。特に個人消費の足踏み状態を反映して民間最終消費要因がマイナスに寄与している。

次に、日銀短観の需給判断DIを規模別・業種別にみると、次の点が確認できる。企業は慎重に回答する傾向があるため、いずれも供給超過と回答する企業が多いものの、大企業、中小企業共に2013年に入って着実に需給が改善し、2014年3月調査時点では2000年代を通じて需給が最も引き締まった状況にある(第1-3-5図別ウィンドウで開きます(2)、(3))。ただし、2014年6月調査以降、大企業、中小企業共に需給判断DIのマイナス幅は拡大しており、これまで改善に寄与してきた小売などを中心に需給が緩和する動きがみられる。

今後、底堅い動きが続く個人消費が着実に持ち直していくことで、需給の改善が再び物価の押上げに寄与していくことがデフレ脱却に向けて重要である。

(予想物価上昇率は横ばい圏内の動き)

物価動向に影響を与える要因として、GDPギャップとともに人々が抱く予想物価の変動が挙げられる。人々が物価下落の長期化を予想すれば、需給環境が改善しても最終価格への価格転嫁は難しく、デフレからの脱却は困難となる。一方、人々が将来の物価上昇を予想するならば、人々の財・サービスの購入価格上昇に対する抵抗感が小さくなる可能性があり、企業がコスト上昇分を販売価格に転嫁しやすい環境になると考えられる。こうした家計の予想物価上昇率は現実の物価上昇に先行して推移する特性がみられる。実際に、消費動向調査に基づく予想物価上昇率とコアCPI及びコアコアCPIの時差相関係数を確認すると、予想物価上昇率はコアCPIの実績値に対して3か月程度、また、コアコアCPIの実績値に対して5か月程度先行している(第1-3-6図別ウィンドウで開きます(1))。

消費動向調査や生活意識に関するアンケート調査に基づく家計の予想物価上昇率についてみると、2013年以降おおむね上昇している(第1-3-6図別ウィンドウで開きます(2))。特に2013年4-6月期に大きく上昇しているが、これは日本銀行が2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入したことが影響している可能性がある。ただし、2014年に入ってから、家計の予想物価上昇率はおおむね横ばい圏内の動きとなっている。2014年10月、日本銀行は、物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクが存在することから、当該リスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持する観点から、「量的・質的金融緩和」の導入後初めてとなる緩和策の拡大を行ったが、ここでも、予想物価上昇率の上昇を通じたデフレ脱却が展望されている。今後、当該緩和策の拡大により、家計の予想物価上昇率が更に上昇することが期待される。

(単位労働費用は2013年後半以降上昇の兆し)

経済の好循環の動きを維持していくためには雇用・賃金の改善が重要な役割を果たすが、雇用や賃金の増加は持続的な物価上昇を実現する上でも重要となっている。ここでは、雇用・賃金面からデフレ脱却に向けた進展状況を確認する。

まず、2013年以降の単位労働費用の動きをみると、単位労働費用は景気回復局面で低下する傾向にあることから、当初は前年の水準を下回って推移していたが、2014年4-6月期以降、前年の水準を上回るようになっている(第1-3-7図別ウィンドウで開きます(1))。これには、消費税率引上げに伴う実質GDPの落ち込みも影響しているが、ベースアップ等による賃金引上げの影響が大きい。

次に、雇用情勢と単位労働費用の関係をみてみる。単位労働費用については、完全失業率との間に負の相関関係がみられ、完全失業率が低下すると単位労働費用が上昇するが(第1-3-7図別ウィンドウで開きます(2))、こうした関係は労働市場の需給の改善が、賃金上昇につながることを示している。労働市場の需給状況を確認するために日銀短観の雇用判断DIをみると、2013年以降、雇用人員が不足していると回答する企業が、雇用人員が過剰であると回答する企業を上回っている(第1-3-7図別ウィンドウで開きます(3))。特に、非製造業では、雇用人員が不足していると回答する企業が、雇用人員が過剰であると回答する企業を大きく上回っている。これは、非製造業の中に、労働市場の需給が改善している建設業や宿泊・飲食サービスが含まれているためと考えられる。

最後に、単位労働費用と消費者物価の関係を確認してみる。生産一単位当たりの労働コストである単位労働費用が上昇すると、収益への影響を避けるため、企業には販売価格を上昇させるインセンティブが働く。1980年代以降の単位労働費用と消費者物価(食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(いわゆる「米国型コア」))の関係をみてみると、その関係は次第に弱くなってはいるものの、依然、両者には正の相関関係が存在しており、賃金費用の面からみた物価上昇圧力が確認できる(第1-3-7図別ウィンドウで開きます(4))13別ウィンドウで開きます

以上のことから、雇用情勢が改善傾向にある中で、労働市場の需給の改善が賃金を押し上げ、そうした賃金上昇が消費者物価の上昇圧力となっていると考えられる。

3 デフレ脱却に向けた動きの中でみられる企業や家計の前向きな動き

ここまで、2013年以降のデフレ脱却に向けた動きを消費者物価やその他の物価関連指標を用いて確認してきた。消費者物価が横ばいとなり、その他の物価関連指標の一部で改善の動きに足踏みがみられるものの、デフレ脱却に向けて着実に前進してきた。以下では、そうしたデフレ脱却に向けた動きの中でみられる、企業、家計の行動変化について検証する。

(好調な企業収益を背景に設備投資・賃上げに前向きな動き)

デフレ下では、名目金利がゼロ制約に直面する中、実質金利が高止まり、企業の投資を抑制してきたが、デフレ脱却に向けた動きの中で企業の投資行動に変化はみられるだろうか。設備投資については、2012年末以降、好調な企業収益を背景にキャッシュフローが増加することにより、自己資金による投資余力が今まで以上に高まってきた(第1-3-8図別ウィンドウで開きます(1))。投資環境が良好な中、日銀短観の設備判断DIによれば、設備不足感も高まっている(第1-3-8図別ウィンドウで開きます(2))。

企業は、リーマンショック前に行った投資に起因する過剰設備の償却に努める中、新規の設備投資を抑制してきたが、新設設備投資額が減価償却費を上回るようになってきた(第1-3-8図別ウィンドウで開きます(3))。こうした背景には、実質金利の低下とともに、デフレ脱却に向けた動きの中で企業が将来における名目売上の拡大を期待できるようになったこと、為替の円安方向への動きの中、国内生産拠点への再評価等を背景に、国内拠点の維持更新投資や高機能化投資などへの需要を高めているといった前向きの動きがあると考えられる14別ウィンドウで開きます。中小企業についても設備判断の過剰感が解消する中、資金繰りの改善もあって設備投資に増加の動きがみられる15別ウィンドウで開きます

また、2012年末以降の景気回復の動きの中で実現された企業収益の改善は、賃金の引上げをもたらした。企業収益と賃金の関係をみると、製造業と非製造業のいずれにおいても、前年度の経常利益が増加すると、翌年度の賃金が増加する傾向があるが16別ウィンドウで開きます第1-3-9図別ウィンドウで開きます(1))、2013年度の経常利益は前年度を上回るなど、企業収益が着実に改善した結果、日本労働組合総連合会の調査によると、2014年の定期昇給を含む賃金引上げ率は2.07%となり、15年ぶりに2%を上回ることとなった(第1-3-9図別ウィンドウで開きます(2))17別ウィンドウで開きます

デフレ脱却に向けて進展がみられる中、設備投資や賃上げに前向きな動きがみられており、そうした動きが持続していくことが重要である。

(家計においてみられる労働参加の高まり)

デフレ下では、名目売上が抑制され、企業の生む付加価値が圧縮されるため人件費を含むコストの削減が促される。長期間にわたる単位労働費用の推移をみると、1990年代半ば以降、GDPデフレーターが低下傾向にある中で、低下傾向が続いてきた(第1-3-10図別ウィンドウで開きます(1))。そうした単位労働費用の変化を労働生産性要因と賃金要因に分解すると、我が国では、労働生産性が上昇しても賃金の上昇に結びつかず、その結果、単位労働費用が抑制されてきたことが分かる(第1-3-10図別ウィンドウで開きます(2))。これは、デフレの下で、コスト削減の動きが進む中、労働生産性上昇の果実が十分に労働者に行き届かなかったことを表している。

しかし、デフレ脱却に向けた動きが進む中、名目賃金が増加に転じ、最近では単位労働費用にも上昇の兆しがみられるようになった。これには、消費税率引上げに伴う実質GDPの落ち込みで労働生産性要因がプラスに寄与したことも影響しているが、ベースアップ等による賃金引上げの影響により賃金要因がプラスに寄与したことが影響している。賃金上昇の背景には、デフレ下で生じていた名目売上の減少圧力に起因するコスト削減の動きが軽減されていることが考えられる。デフレ脱却に向かう中で、今後とも、生産性の上昇が賃金上昇に結び付いていくことが期待される。

また、2012年末以降、経済の好循環が生まれ始めてからは、雇用者数の増加がはっきりとしてきたが、特に女性については、労働参加の拡大が人口減少のマイナス寄与を上回って推移していた18別ウィンドウで開きます。女性の労働供給は賃金弾性値が大きいことから19別ウィンドウで開きます、女性の労働供給の増加には賃金上昇が影響していると考えられる。

以上から、消費者物価は横ばいとなり、その他物価関連指標の一部で改善の動きに足踏みがみられるものの、2013年以降デフレ脱却に向けて着実に前進してきたとみられる。今後デフレ脱却に向けた動きをより確実なものとしていくためには、所得から支出といった経済の好循環の動きを維持する中で需給環境の更なる改善を図るとともに、デフレ脱却に向けた動きの中でみられる企業、家計の供給面での前向きな動きを促していくことが重要となる。また、日本銀行による「量的・質的金融緩和」の強化とあいまって、予想物価上昇率が高まっていくことが期待される。持続的な物価上昇実現のためには、消費や投資の活性化による需給改善や労働参加の高まりなど需要面・供給面の双方での改善により物価上昇を支えることが重要である。

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