第4節 小さな政府を目指すための課題

この節では、「官から民へ」について、現在も引き続き検討が行われている、いわゆる官製市場の開放や市場化テストについてどのような取組が行われているかを概観するとともに、「官から民へ」の効果をより高めるために必要な措置や、「官から民へ」を進めることによって生じ得る諸課題を克服するための対応について検討する。

1 官製市場の開放に向けた取組の強化

「官から民へ」を進めることは、事業の効率性を高め消費者の選択肢を増やすことに貢献する。先進諸国の経験からは、こうした「官から民へ」を目指した施策の導入は、単に定型的な業務や施設整備・管理といった業務だけでなく、より幅広い分野で成果を上げている。我が国でも、いわゆる官製市場と呼ばれる医療、介護、教育、保育といった分野で、現在、より消費者の選択肢を増やし、民のノウハウを導入するための検討が行われている。また、「官から民へ」を具体化するため、「市場化テスト(官民競争入札制度)」の本格的導入に向けて、モデル事業を2005年度において試行的に実施するとともに、法的枠組み(「公共サービス効率化法(市場化テスト法)」(仮称))も含めた制度の整備が進められている。

(1)個別分野における取組と検討状況

 官製市場開放の意義

サービス提供主体が一定の法人等に限定されているなど公的関与の強い、いわゆる「官製市場」の改革については、総合規制改革会議やそれを受け継いだ規制改革・民間開放推進会議(以下推進会議と略す)を中心に議論が行われ、構造改革特区等においては、条件付きながら民間開放が一部の分野で実現しつつある。

一般に、医療、介護、教育、保育といった分野で、参入や提供されるサービス内容等に関して強い公的関与が行われているのは、これらの公共サービスが国民の生命や健康、教育の機会均等といった基本的な権利にかかわるものであって、官が一定程度直接的に保障する必要があることに加え、これらの公共サービス提供者と利用者の間の情報の非対称性によって、利用者が適切な選択を行うことが困難な場合がある(例えば、医療の場合、患者は疾患を治すのにどの程度の治療が妥当なのか判断できない)といったことがある。加えて、これらの公共サービス提供の費用の多くは、公的保険や補助金によって賄われている部分が多く、サービスが過大に提供されるような場合には財政負担を大きく増加させる懸念もある。しかしながら、官製市場におけるこうした特性は、必ずしもそうしたサービス提供の民間開放を否定する理由とはならない。国民の生命や健康、教育の機会均等の確保といった観点からは、最小限の公的規制が必要であるが、その方法については、対象となる分野の特性によって、「事前規制型」から「事後チェック型」への転換という形で行うことや、また、情報の非対称性に伴う問題点についても、提供主体が官であれ民であれ、情報開示を徹底し、第三者評価等の義務付け等により対処することも現行規制を代替する手段の一つとして考えられる。サービスの過大供給等に伴う財政的負担に対応するという課題については、利用者に費用の一部負担等を適切に求めることにより、需要を管理するということも採り得る手段として考えることができる。

こうした公共サービスの提供について、株式会社等民間事業者の参入により民間開放することの利点としては、事業者間の競争が促進されサービスの提供費用が低下すること、事業経営のノウハウの導入により経営効率が改善すること、民間の創意工夫により利用者のニーズにあったサービス提供や多様な選択肢が生まれること等がある。以下では、主な個別分野について、参入規制の緩和、消費者の選択肢の拡大に関する改革の進展状況について述べる。

 参入規制の緩和

これまで医療、教育等の分野では、事業の継続性の問題やサービスの質を確保するといった観点から、株式会社等の営利を追及する経営主体の参入が認められなかったが、構造改革特区等を中心に部分的に開放が行われつつある(第2-4-1表)。

まず、医療については、株式会社の病院運営への参入が、2004年10月の特区法の一部改正によって構造改革特区において認められることとなった。しかし、対象となるのは自由診療(保険外診療)で、かつ「高度な医療」に限られており、保険の対象となる医療提供については引き続き参入は認められていない。こうしたこともあり、特区の認定申請については、2005年3月の第7次認定までの時点では地方公共団体からの申請はなく、2005年5月の第8次認定で1件という状況である。また、株式会社による医療法人への出資についても、出資自体は可能であっても、法的に社員にはなれない等の制約も存在する。

学校設置については、2003年の構造改革特区法の改正によって、地方公共団体が教育上等の特別なニーズがあると認める場合には、株式会社及び不登校児童生徒等の教育を行うNPO法人による学校設置が認められている。2004年には、株式会社の運営による中学校、高等学校、大学、大学院の4校が開設され、株式会社等の特性を活かした教育の提供が始まっている。なお、株式会社やNPOが特区で運営する学校では、提供する教育サービス自体は従来の他の形式による学校と大きく異ならないにもかかわらず、一切の公的助成の対象外となっているとの指摘もある。

公設民営学校については、構造改革特区において、高等学校又は幼稚園を対象に、地方公共団体が校地・校舎などの基本財産、運営に要する経費等について必要な支援を行うとともに、運営計画及び収支予算の認可等の関与を行う公私協力学校法人を設立することとなっている。ただし、契約に基づいて公立学校の管理・運営を包括的に民間に委託する方式については、行政事務の民間委託の基本的な在り方等に関する考え方の整理を踏まえつつ、引き続き検討を行うこととされている。

介護については、2000年度から介護保険制度が導入されたことにより、在宅介護を中心に多くの民間事業者の参入があった。他方、特別養護老人ホームなど施設介護については、介護保険導入後も引き続き参入規制が行われていたが、2002年に、構造改革特区において、地方公共団体が十分関与できる公設民営方式又はPFI方式による特別養護老人ホームへの株式会社等の参入が容認された。ただし、株式会社等の参入の認可にあたっては、純資産額や事業撤退の際の他の法人への事業引継ぎ等の条件が付される場合もあり、実際の参入は限られたものとなっている。

保育所については、全国一律の設置・運営基準が設けられ、認可保育所と認可外保育所のどちらかに区分される。現在の参入規制の状況については、認可保育所についても2000年から設置主体制限が撤廃され、株式会社等の参入が可能となっているが、地方公共団体によっては実質的に株式会社の参入を認めていない場合があるほか、公立保育所の運営を包括的に民間に委託することが可能であることが地方公共団体に対して十分に周知されていないといった状況がある。

 保険診療と保険外診療の併用(いわゆる混合診療)について

保険診療と保険外診療の併用(いわゆる混合診療)の問題については、患者の立場から個別に見たときに保険外の負担が過大な事例があり、現行制度では患者の切実な要望に的確に対応し切れていない実態がある。この問題については、これまで国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上するという観点から、精力的に議論が進められてきた。その結果、2004年12月に「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」(厚生労働大臣及び内閣府行政改革・構造改革特区・地域再生担当大臣)がなされ、「必要かつ適切な医療は基本的に保険診療により確保する」という国民皆保険の理念の下、「将来的な保険導入のための評価を行うものであるかどうか」との観点から、保険診療と保険外診療との併用の在り方について、現行制度を抜本的に見直し、新たな枠組みとして再構成することとされたところである46。これを踏まえ、抗がん剤などの国内未承認薬、先進技術について、迅速に保険診療との併用を認める等の改革が進められているところである。

 官製市場における民間参入の定量的効果

株式会社等の民間事業者の参入により期待される効果には、効率性の向上、利用者の選択肢の拡大等があるが、内閣府(2003b)では、このうち、生産性がどの程度上昇する可能性があるかについて分析している。

医療については、1か月当たり患者数を生産高として、それを、生産性、資本投入、労働投入で説明するモデルを推計し、公立病院と民間病院の生産性の差を計測したところ、後者の生産性は前者よりも37.9%高いとの結果となっている(第2-4-2図)。介護施設については、営利法人等による運営の例が少ないことから直接的に官民の生産性格差を計測することはできないものの、訪問介護においては、全ての主体が営利法人並みの効率性を達成することにより全体で10.7%の費用を削減することが可能であるとの推計結果になっている。最後に、保育所についても、利用児童数と開所時間を乗じたものを生産高として医療の場合と同じ生産関数を推計すると、民間保育所の生産性は公営保育所よりも21.1%高いとの結果が得られている。

(2)市場化テストの取組とその状況

 市場化テストの取組

「市場化テスト」は、官と民を対等な立場で競争させ、「民でできるものは民へ」を具体化させる仕組みである。既に第2節で述べたように、市場化テストは2005年度から国のモデル事業について試行的に導入されているが、今後、本格的な導入に向けて、法的枠組み(「公共サービス効率化法(市場化テスト法)」(仮称))を含めた制度の整備を図ることとされている47

そこで、2005年度にモデル事業が導入されるまでの経緯をみると、まず、2004年10月から11月にかけて民間事業者等から市場化テストの対象となる事業の提案を募集した結果、75の事業主体から119の提案が寄せられた(第2-4-3表)。こうした民間等からの提案事項は、担当府省において検討された後、その実施可能性が報告されたが、その内容については、2005年度のモデル事業の対象とするとの回答が18、市場化テストの対象として検討するとの回答が13、対象とすることは不可能・不適切との回答が76(うち18は別項目と重複)、既に民間に開放済みが46(うち18は重複)、事実誤認が21(うち4は重複)であった。規制改革・民間開放推進会議と各府省との折衝を経て、最終的に2004年12月に2005年度のモデル事業として選定された事業は、ハローワーク(公共職業安定所)関連、社会保険庁関連、行刑施設関連の3分野における8事業である。より具体的には、ハローワーク関連では、キャリア交流プラザにおける無料の職業紹介事業を含む就職支援、若年者版キャリア交流プラザ事業における就職支援や、求人開拓事業、アビリティガーデン(生涯職業能力開発促進センター)における職業訓練事業が対象となっており、社会保険庁関連では、国民年金保険料の収納事業、厚生年金保険・政府管掌健康保険の未適用事業所に対する適用促進事業、年金電話相談センター事業、行刑施設関連では刑務所の施設警備、被収容者の処遇にかかわる補助事業がそれぞれ対象となっている。これらのモデル事業については、既に多数の入札参加民間事業者等があり、手続は着実に進んでいる。

他方、今回民間事業者等から寄せられたモデル事業の提案の中で、担当府省から市場化テストにはなじまないと判断されたものについてみると、「公権力の行使を伴う」、「公正・中立性の確保が必要」、「行政判断が必要」といった公共性による理由や48、情報の機密性保持あるいは個人情報保護といった理由が担当府省からあげられている場合が多い49。今回民間事業者等から提案のあった事項については、関連する現行の法規制等において官が行うことが定められているものもある50

こうした機密保持・個人情報保護等の観点については、「官から民へ」を進めるにあたって共通の課題となるものであり、受託業者の守秘義務を担保するような仕組みを検討する必要があろう。また、その他の制度的課題についても、引き続き今後さらに検討を進めていく必要がある。

2 「官から民へ」の実効性を上げるための課題

以上にみたように、「官から民へ」の動きは、近年、多方面で急速に進んでいるが、制度を導入しさえすれば期待された効果が発揮されるという訳ではない。導入された制度が実際に財政の効率化や利用者の満足度の向上に資するためには、様々な環境整備が必要である。

(1)官の体制の見直し

「官から民へ」をうまく利用して成果を上げるには、まず官の側で、民のノウハウを十分活かせるような環境を整備する必要がある51

 予算・会計制度

公共サービスを民間に開放するという判断を下す際には、これまで官が行ってきた費用がどの程度で、民への開放によってどれくらい費用が削減できるのかといったことが定量的に把握できなければならない。しかし、官の財政管理は現金主義が中心であり、かつ事業ごとに会計が切り離されていないため間接部門の経費まで含めた費用の計算が困難であり、実際には民の費用と同じ条件での比較ができない場合が多い。官と民の費用格差を客観的に把握し、民間開放を効果的に進めるためには、事業部門において民間的な会計制度を参考とすることも有効である。

また、公共サービスの民間開放でライフサイクルを通じた費用の最小化を図るためには、複数年度の契約が必要となる。その場合、債務負担行為等による複数年度の予算執行が求められることとなるが、複数年度の予算執行を認める要件が厳し過ぎると民間開放が限定的にしか進まないという問題と、逆に無秩序に認めると財政規律が緩むという弊害があり、両者をバランスさせる必要がある。このためには、複数年度の予算執行をある程度柔軟に認める一方、単年度の予算管理だけでなく複数年度にわたる予算の管理をより重視して行うとともに、個別の事業についても後年度の債務が高まらないよう執行管理を厳しくするといったことが必要である。

 制度的阻害要因の縮減

既にみたように、地方自治法の改正による指定管理者制度の導入によって、地方公共団体の公の施設の管理の委託が可能となった。しかし、他の法令等により、国や地方公共団体等が「管理者」として位置付けられているような分野については、依然として包括的な委託が困難である。加えて、国庫補助金等の交付を受けて取得した公共施設については、転用等の財産処分が制限されている。こうした制約については、真に官の関与が必要な分野にとどめ、また官の関与の仕方も、民の裁量がある程度確保できるような形にしていくことが重要である。

ただし、こうした公共施設の使用・処分にかかる制約については、一部では緩和する動きもみられる。具体的には、2004年2月の地域再生プログラムの決定を受けて、これまでに認可された地域再生計画の中には、道路占用許可の弾力化によるオープン・カフェの設置、映画ロケ、イベント、カーレースに伴う道路使用許可の円滑化、補助金で整備された校舎等の社会福祉・産業用施設等への転用といった公共施設の使用に関する弾力化措置がとられている。

 官における説明責任・透明性の向上

官が引き続き事業を継続していく場合には、客観的な事実に基づいて官が自ら事業継続の正当性を証明しなければならない。官にはそうした説明責任を全うするためにも、統計的手法等を用いた客観的政策評価を行う能力が求められる。加えて、民への事業の開放を進める際には、例えば、入札条件等の作成、民から提案された内容の評価、事業期間中の民間サービス提供の適切な監視等が必要となると考えられるが、そのためには、そうした業務のノウハウをガイドライン等の形で整備し、また、評価の際に外部の専門家を活用するといったことも重要である。

 官の雇用の問題への対応

「官から民へ」を推し進めていくと、それによって生じる官の余剰人員をどうするかという問題が生じ得る。一つには、官の関与が不要となった分野から行政需要が伸びている分野へと官の中の配置転換を柔軟に行えるような制度を整備することが重要であるが、それと同時に、民で働くことを希望する人材については、民への移転が円滑に行えるよう、官民の間の年金のポータビリティを確保するなどの環境を整備する必要もある。

(2)競争的環境の整備

「官から民へ」が期待された効果を持つためには、常に受託した民間事業者が潜在的な競争圧力に面していることが決定的に重要である。その意味では、官が事業を自ら継続しているような場合であっても、潜在的な民間事業者との競争が確保されているのであれば、十分な効果を持ち得る。こうした観点からみると、我が国の状況は、様々な制度が導入された割には、競争的環境の広がりが十分みられない。

 入札手続の改善

具体的には、市区町村の定型的業務の委託契約の方法について総務省(2004a)でみると、多くの業務分野で競争入札による契約の割合は1割から2割程度にとどまっており、過半が随意契約(競争によらず任意に特定の相手方を選択して契約を締結)によるものとなっている。また、指定管理者制度についても、管理者の選定に際して過半の地方公共団体が公募によらず選定しており、民への開放の機会が十分に確保されているとはいえない状況にある。こうした状況では、業務を受託した事業者に対し他の事業者との競争原理が十分に働かず、長期的にみてサービス提供の一層の質の改善と効率化を図るインセンティブが乏しくなる懸念がある。地方公共団体の規模が小さい場合や、地理的な条件によっては委託すべき民間事業者が限られているという事情はあるものの、そうした場合には、市町村の枠を超えた広域連携によってまとまった発注を行うなどの工夫も一つの方法であろう。

 競争条件の均等化と市場メカニズムの援用

「官から民へ」を進めるためには、市場メカニズムを援用することによって、より効率的に良質なサービスを提供する主体が公共サービスの提供を行うというプロセスを確立する必要がある。その際、官と民の競争条件の均等化を図ることも重要である。現行の制度においては、公共サービスの提供主体が官から民になった場合に、その事業に関する補助金が適用されない場合があるが、官民の競争条件の均等化という観点からは、提供される手段や提供主体によらない中立的な制度設計が求められる。例えば、補助金を供給者に支給する方式から、利用者に直接補助を与えるバウチャー制度に転換することで、提供主体の別による支援措置の差を解消することも一つの方法として考えられる。また、バウチャー制度は、消費者の選択肢を広げるという意味でも、より市場メカニズムを活かした手法であるといえる。

コラム3 海外における「官から民へ」に伴う雇用問題への対処

官民競争や外部委託等によって事業主体が民に移る場合、海外では、公務員の雇用は次のように対処されている。

英国では、政府部門、民間部門にかかわらず、事業移管に際しての雇用者の権利保護を定めたTUPE(Transfer of Undertakings (Protection and Employment)Regulations)が1981年から施行されている。この制度により、公的事業の全体又は一部が民間の雇用主に移管され、公務員が民間企業に移籍した場合でも、それまでの雇用条件(賃金や労働時間等)が維持され、これを制限する協定や同意は基本的に無効とされる。ただし、実際の雇用への対応としては、被雇用者がそのまま新会社に引き継がれるケースばかりではなく、他の職場への配置転換を行ったり、退職し他の民間企業で仕事を探す職員に対して経済的なインセンティブや職業紹介を行う場合もある。

アメリカでは、政府による民間委託の手続を定めた規則(A-76と呼ばれる)がOMB(行政管理予算局)により通達されている。この中では、職場を失う連邦職員について援助を行うことを規定しており、民間事業者は連邦政府職員に対して転職の打診義務を負う一方、職員は雇用にかかわる拒否権を有するとされている。民間事業者へ移管しなかった職員は、政府内で配置転換される機会を与えられるが、それを拒否した場合には、上乗せされた退職金により早期退職するか、あるいは解雇の対象となる場合もある。ただし、解雇の対象となる場合には、離職手当や失業給付が支給され、職業訓練等の支援を受けるほか、再雇用優先リストに掲載され、従前の省庁に再雇用される機会を待つことも可能となっている。

オーストラリアでは、外部委託等により影響を受ける公務員の処遇について、清算方式(Clean Break approach)と調整方式(Phased approach)がある。清算方式の場合、民間事業者が従業員として公務員を採用するかどうかは、民間事業者の選択に任され、継続雇用は保証されない。これに対し、調整方式の場合は、事業に携わる公務員の一定割合が民間事業者の従業員として継続雇用される。民間に移管された公務員については、雇用内容は継続的に保証される。再雇用されない職員は、政府内部で配置転換するか、割増し退職金を得て退職することとなる。ただし、実際の運用上は、かなりの割合の職員が民間側の事業者に再雇用されている。

参考文献:内閣府(2005)「世界経済の潮流2005春」

コラム表3 各国における雇用面での対応

 ベンチマーキングの普及

また、公共サービス提供者の効率性を高め、より良い経営管理手法(ベスト・プラクティス)を採用するインセンティブを与えるためには、ベンチマーキング手法を採用することも有効である。例えば、特定の事業について、事業者・団体の費用や成果を指標化し比較可能なものとすることで、事業者・団体間の競争意識を高める効果が期待できる。他の先進国でも、特に教育や医療の分野において、公共サービスの質や費用についての指標が開発され、公共サービス提供者間の競争促進に貢献している52。我が国においても、「自治体病院経営指標」が公表され、経営状況の良い病院に係る類型別の経営指標等が示されており、それとの比較により各病院の現状を把握し、その経営状況の改善に資することが目指されている。同様の経営指標は、水道・下水道事業等においても公表されており、官による公共サービス提供にかかる説明責任の向上にも貢献している。

3 本章のまとめ

最後に、本章における主な考察をまとめると、以下のとおりである。

 小さな政府の実現にむけて

第1節では、政府の規模と経済活動との関係や、政府の規模に対する国民の意識について分析した。一般に、政府の大きさとは、支出や負担の額を指す場合と規制等の官の関与の強さを指す場合があるが、いずれの場合にせよ、政府の規模が大きくなる場合には、経済全体として効率的な資源配分が達成されず、そうでない場合と比べて経済活動に抑制的な影響を及ぼす可能性がある。OECD諸国のデータを用いた推計では、政府支出の規模が大きいほど経済成長率には負の影響を与えるという関係が観察されるなど、政府支出の規模とマクロ的な経済活力とは密接な関係があることが示唆され、また規制の度合いが強いほど生産性が低くなるとの結果がみられる。こうしたことを考えると、政府の規模を適切に抑制することが必要である。

アンケート調査の結果によると、国民も小さな政府を志向する傾向がみられる。調査結果を基にコンジョイント分析を行うと、国民は社会保障支出のような自分に受益が直接あるようなものについては、ある程度負担を増加させる意志はあるものの、そうでないものについては負担の意志を持ちにくいということが明らかになった。したがって、官が提供する公共サービスについてはなぜそれが必要かを国民の納得する形で説明した上で、歳出の内容を十分に見直し合理化することにより、政府の規模を適切に抑制することが、国民の支持を得る上で重要である53

 「官から民へ」の推進

第2節では、官と民との新たな役割分担について論じ、様々な「官から民へ」の方法について、その長所短所を考察した。官と民の役割分担については、経済・社会環境の変化もあって、従来官の領域とされていた分野でも役割分担の見直しが必要であり、その際、包括的な公共サービスの「官から民へ」の事業移管を進めるための横断的手法として、市場化テストの本格導入が必要であることを述べている。「官から民へ」の大きな長所としては、単に財政面での効率化に資するだけでなく、適切な契約関係の下では民のノウハウの活用により公共サービスの質についても高め得るものである。指定管理者制度の下で、公設民営の施設管理を行う事業者についての調査結果からは、民間事業者はサービス提供体制の整備という点において官よりも優位にあり、また、指定管理者に指名されたNPOは、住民とのパートナーシップの構築という面で官よりも優位にあることが示されている。

「官から民へ」の一つの形態として公的企業の民営化があるが、過去の民営化の事例からすると、民営化は収益改善、民間事業者の参入促進など大きな効果があった。郵政公社を取り巻く事業環境の厳しさからすると、民営化によって経営の自由度を高め、事業の独立採算を持続可能なものとすることが、国民の将来負担が増加するリスクを減らす上でも重要である。既に着実に実施されてきた財政改革や今回の郵政民営化によって、これまで官に偏っていた資金の流れが変わり、民間経済の活性化に資することが期待されるが、その一方で、公的部門の資金調達は、必要な分だけを市場から調達するという原則がより徹底されることになる。こうした中で、政策金融については、あくまで民を補完するということを原則に、その機能も十分に考慮した上で真に行うべきものを厳選する必要がある。

 国から地方へ

第3節では、地方における行財政改革の動きを概観した。公的な事業の多くが地方のレベルで行われていることを考えると、小さな政府を実現するためには、実際の執行主体である地方公共団体に多くの裁量を与えると同時に、その行財政改革を進めることが極めて重要である。三位一体の改革は、国と地方を通じた行政のスリム化を進め、地方の権限と責任を拡大することにより地方の自立性を高めるものであり、その受け皿となる地方公共団体についても、合併や様々な行財政改革が進められるなど体制の整備が進んでいる。全国の市町村のデータを用いた分析では、合併など広域化により規模の経済性のメリットが現れていることが確認された。また、総じてみれば、行財政改革に取組んでいる団体については財政の効率化が進んでいる。今後さらに財政効率化を進めるには、行政効率化に成功している団体のベスト・プラクティスに習うことも重要である。

 「官から民へ」の実効性をあげるために

第4節では、「官から民へ」の実効性をあげるための課題について検討した。「官から民へ」の様々な制度が導入されたが、その実効性を上げるためには、制度の運用面において、もっと適切な措置がとられる必要がある。具体的には、民の参加を高め、官と民の競争を促進するためには、入札や事業者選定の過程をより透明で公平なものとしなければならない。また、民の制約となる制度的な障壁についてもできるだけ少なくする必要がある。加えて、官・民双方の側において、制度の理解を深め、それを活かす知識・技能を習得することが重要である。また、さらに広い範囲で官業の民間開放を進めるためには、個人情報や機密情報の保護を担保する仕組みや、官と民の間の人材の移動を円滑にする措置等を検討する必要がある。その上で、市場メカニズムをうまく活かして、官と民との競争を促進し、効率的で、かつ良質な公共サービスを提供していくプロセスを作る必要がある。