第3章 「人口の波」と経済構造の変化

第3章のポイント

第1節■人口動態の変化とその経済的意味

 2007年からは人口減少と団塊世代の定年退職という人口動態上の2つの大きな変化が始まり、労働力人口の減少は加速、現役世代の経済的負担は急速に上昇

 労働力人口が量的に縮小する中で生産性を高めるためにはその質の向上が重要

 一人当たりのストックが相対的に大きくなり、その有効活用が重要に

第2節■人口の波と家計行動への影響

 団塊世代は高齢層に移行。これによりマクロの消費性向は教養娯楽(家電・旅行等)等への支出を中心に当面上昇の方向

 老人医療費が経済成長以上に伸びると将来の負担は増大。世代間バランスを悪化させない医療制度改革により将来の世代の負担軽減を図ることが重要

 家計貯蓄率(2003年の8%程度)は高齢化要因のみを考慮すると2010年頃には3%程度まで低下

 高齢層のリスクに対する許容度は他の年齢層より相対的に高いことから、高齢化がリスク資産需要を低下させる可能性は低い

 団塊ジュニア世代(1971~74年生)は30歳代後半に住宅取得のピークを迎える見込み。他方、既存住宅の活用、特にリバース・モーゲージの広がりには課題

第3節■人口の波と企業競争力

 試算では、団塊世代が定年退職年齢に達していくことにより、企業の人件費は2009年にかけて2.6%程度減少

 他方、団塊世代が退職期に入り、退職一時金や企業年金といった退職給付に関する負担には増加圧力

 個票分析によると、団塊世代の比率が高い事業所では雇用抑制効果がみられた

 企業は新卒採用を積極化させる動き。過去に若年雇用を抑制した企業、業況感が高い企業ほど雇用増の計画を持つ傾向が強い

 企業の競争力の観点からは、意欲と能力のある高齢労働者の継続雇用等を通じて労働者の技能伝承を図ることが重要

第4節■イノベーションの源泉と競争力の向上への課題

 人口減少下では生産性向上が不可欠であり、企業は付加価値の高い技術創造により競争力を向上させることが必要

 競争力の源泉はイノベーションにある。イノベーションやこれを通じた生産性の向上には、技術を経営に活かす体制の整備や、人材の量・質の充実が重要

 サービス業のイノベーションとこれによる生産性の向上も課題

第3章 「人口の波」と経済構造の変化

今から2年先に訪れる2007年度は、新たな成長基盤の構築を目指す「重点強化期間」が終了した後の最初の年度であると同時に、人口推計によると、我が国の総人口が戦後初めて減少し始め、かつ、戦後生まれのベビーブーム世代(団塊世代1)の第一陣が60歳という定年退職の年齢に到達する節目の年でもある。団塊世代は、その人口規模の大きさだけではなく、消費、貯蓄活動、住宅取得、雇用等の様々な側面から戦後の我が国経済の動きを形作ってきた。この世代がリタイアし始めるということは、家計からみたマクロ経済の在り方や雇用や退職給付の在り方など企業の行動にも大きな変化をもたらし得るものである。また、本格的な人口減少、少子高齢社会の幕開けは、生産性の向上を通じた経済活力の維持という課題を改めて浮き彫りにするものでもある。本章では、2007年をキーワードに、まず第1節において、ここ数年から長期にわたって起こる人口動態の変化等を整理する。第2節以降では、主に以下の論点について分析を深めることにより、政策運営上の課題についても明らかにする。

団塊世代の高齢化により、消費構造のサービス化がさらに進展するのか、退職後の住み替えや団塊ジュニア世代の住宅取得は住宅需要の在り方を変化させるのか?(第2節)

高齢化の進展により、マクロ貯蓄率はさらに低下し、近い将来にゼロ%を切るのか、その中で家計の金融資産ポートフォリオはどのように変化し、金融市場にどのような影響を与えるのか?(第2節)

団塊世代はこれまで人件費圧迫要因となり、若年層の雇用を抑制してきたといえるか?これら世代の退職を見据え、新卒採用等の兆しがみえてきているか?(第3節)

団塊世代の退職により総人件費の縮小が予想される一方、退職給付の増大は企業収益にマイナスの影響を与え得るが、企業年金制度をはじめとする退職給付制度における課題は何か?(第3節)

人口減少下でマクロおよび個々の企業ベースでの競争力を維持していく観点から、サービス業を含むイノベーションの発現や技術・研究人材の確保など生産性向上に向けた課題は何か?(第4節)