第1節 人口動態の変化とその経済的意味
● 総人口は2007年以降減少に
ここではまず、我が国人口の推移についてみてみよう。第一に、我が国の総人口の動きをみると、戦後の第一次ベビーブーム時に生まれた世代(いわゆる「団塊世代」:1947~49年生まれ世代)の子ども世代にあたる第2次ベビーブーム世代(1971年~74年生まれ世代。以下、団塊ジュニア世代という。)が出生の後、1974年には合計特殊出生率が当時の置換水準である2.11を切るなど少子化が進行している。将来推計人口によれば、こうした少子化の流れの中で、2006年には死亡数が出生数を上回り(人口の自然減の始まり)、戦後これまで一度も減少を経験しなかった総人口は2006年をピークに減少を始める見込みとなっている。先進諸国においても今後、人口の減少や人口増加率の鈍化が見込まれているものの、我が国は、その中でも最も早く人口減少に転じ、減少の勢いも最も大きい(第3-1-1図)。
● 地域別の人口格差は拡大方向
第二に、地域別に我が国の人口動態をみると、地価の下落を反映した「都心回帰」による人口流入が続く東京等の都市圏や、出生率が高い水準にある沖縄においては、まだ人口の増加が続いているが、その他の地域(北海道、東北、北陸、中国、四国、九州)では既に人口のピークを超え、今後も減少が続くことにより、地域間の人口格差が広がることが見込まれている(第3-1-2図)。人口流入が比較的大きい東京圏の中では、東京23区の人口増加率が全体のそれを上回って推移しており(付図3-1)、都心部のマンション着工増とあいまって、都心部への人口回帰の傾向が続いている。ただし、近年は出生県を転出した経験を持つ者が再び居住地として出生県に戻る「Uターン」率が総じて高まっていること、大都市圏から非大都市圏への移動を考えている人が逆のフローよりも増加している中で、団塊世代を含む男性高年齢層は定年退職を理由とする居住地域移動の考えを持っていること等から、地方圏における人口減少が現在の見通しよりも緩和される可能性もある2。
● 世帯は小規模化が進み、当面は増加が続く
第三に、世帯数についてみると、一般世帯人員が総人口と同様に2005年頃にピークを迎えることが予想されているものの、人口の少子高齢化を反映した単独世帯や夫婦のみの世帯等の増加によって、平均世帯人員数の緩やかな減少が続き、一般世帯数は2000年の4678万世帯から2015年に予想されるピーク水準の5048万世帯まで緩やかに増加を続けると見込まれている(第3-1-3図)。世帯の動態を諸外国の状況と比較すると、2000年時点では我が国は現在のアメリカやカナダ等と同様に平均世帯人員が相対的に大きく、単独世帯の割合が比較的低い状態にあるが、将来は現在の多くの欧州諸国と同様、平均世帯人員は低下(単独世帯は増加)する見通しとなっている。
● 団塊世代の60歳代突入と進む高齢化
2007年には総人口の減少が始まるとともに、団塊世代の第一陣が60歳という現時点の一般的な定年年齢に達するという人口動態上のもう一つの大きな節目を迎えることとなる。まず、団塊世代の規模の大きさを確認すると、2004年時点で同世代に該当する55~57歳人口は680万人(総人口比5.3%)、就業者数ベースでも500万人(就業者数合計比8.0%)と我が国の人口構成の中で特に大きな「こぶ」を形成している(第3-1-4図)。
2012年以降には、団塊世代がさらに高齢の65歳以上の年齢層に入っていくことにより、我が国は本格的な高齢社会を迎える。15から64歳の生産年齢人口は、これまでの少子高齢化の進行を受けて、既に1995年を境に減少に転じているが、2012年以降は団塊世代の「こぶ」が高齢期に達することで、さらに減少が進むと見込まれる(付図3-2)。
● 消費ニーズでみた現役世代の負担は急増
こうした年齢階級別の人口の動向から、現役世代の負担感を表す従属人口比率(14歳以下人口および65歳以上人口が総人口に占める割合)の推移をみると1990年代半ばに上昇に転じており、今後もさらなる上昇が見込まれている。
ここでの従属人口比率は人口構成比から単純に算出されたものであるが、現役世代の経済的な負担感を示す指標として、各年齢層の人口をそれぞれ年齢層の消費ニーズでウェイト付けした従属人口比率(これを「消費ベースの従属人口比率」という)についても考慮する必要がある3。消費ベースの従属人口比率を算出するに当たっては、教育費や医療費といった政府部門からの現物移転についても消費ニーズとして含めており、端的に言えば、この比率が高いほど、生産年齢人口でみた現役世代が高齢者や子どもを支えるための経済的負担が重くなる。この消費ベースの従属人口比率は、人口ベースの従属人口比率に比べ低い水準にあるものの、少子化や消費ニーズの高い高齢者の増加を反映して、より急速に上昇していくと見込まれる(第3-1-5図)。特に医療給付費から従属人口比率を計算すると団塊世代が高年齢化する今後15年程度で急速に高まり、消費ベースのそれを押し上げると考えられる。
● 高齢化で労働力は減少へ
また、2007年以降には団塊世代という人口の塊が労働力率の相対的に低い年齢層に流入していくことから経済全体の労働力人口の縮小要因となる。ここで単純なケースとして2004年の年齢階級別の労働力率が維持されると仮定し、今後の労働力人口の推移を試算すると(標準ケース)、労働力率及び労働力人口は2004年の60.4%、6,642万人から減少を続け、5年後の2010年時点には58.5%、6,460万人程度(約180万人減)、10年後の2015年時点には56.8%、6,260万人程度(約380万人減)まで減少する(第3-1-6図)。また、高年齢層の労働力率が低下する極端なケースとして、仮に2030年までに我が国の高年齢者の労働力率が現在の先進諸国の平均と同様の水準まで収斂するとの前提を置けば、労働力人口は2015年には6,000万人近くにまで低下する(縮小ケース)。一方、高年齢層の労働力率は、労働力不足への対応を図る企業側の対応、多様な働き方が可能になる労働市場が整備されること等により、ある程度上昇する可能性もある4。
労働力人口が減少していくということは経済成長の源泉の一つが縮小していくということを意味する。ここで、同様に少子高齢化の流れにある他の先進諸国の状況と比較してみよう。戦後のベビーブームは他の先進諸国にも共通の現象であるが、我が国の場合、特にアメリカと比較して、ベビーブームに該当する期間が比較的短く、ベビーブーム後の人口が相対的に急激に減少したこと(いわばブームの「尖り度」が強いこと)に特徴がある(第3-1-7図)。このため、諸外国に比べ、少子化の進行とあいまって、我が国の生産年齢人口シェアの低下および65歳以上人口のシェア上昇は相対的に早期にかつ急激に生じる。従って、労働力人口についても、我が国では高年齢層の労働力率が他の先進諸国と比べて高い水準にあるものの、団塊世代の高齢化という人口要因の大きさによって、比較的早く、大きな規模で減少していくことが予想される。
● 団塊ジュニア世代は中核世代に
このように大きな流れとしては、戦後のベビーブーム世代に当たる団塊世代が労働力の中心である現役時代から、退職後の多様な生き方の時代に移行していく一方で、その子ども世代にあたる団塊ジュニア世代が現役世代の中核となっていく。人口面でみれば、団塊ジュニア世代は総人口の6.2%(2004年)を占め、団塊世代に比肩する人口動態の第二の「こぶ」を形成している。
この団塊世代を他の先進諸国と比較すると、上述したとおり、先進国によって戦後のベビーブームの時期や長さ、規模の大きさが異なっていることから、第二次ベビーブームの共通点はより不明確である。こうした中でも、アメリカの第二次ベビーブーム世代(70年代後半から90年代半ばまでに生まれた世代)は「ジェネレーションY」と称され、企業のマーケティング戦略上も特に重要視されている人口グループである。日米の人口分布を比較すると、第一次世代と同様に第二次世代についても、アメリカに比べ日本の方が若干ながら早期にブームが開始し、相対的に期間が短い(「尖り度」が強い)(付図3-3)。このように我が国の場合は、少子化の影響でこれより若い年齢層の人口比率が急速に低下していくために団塊ジュニア世代の「こぶ」が相対的に大きくなっている面があるが、少なくともその規模の面から言えば、この世代が今後の経済に与える影響は小さくない。
第一に、労働力率の面では、近年の晩婚化の流れの中で、団塊ジュニア世代の女性が30~34歳というM字型労働力率カーブの「くぼみ」に位置していることから、2000年代初頭には労働力率や労働力人口減少に対する同世代のマイナスの寄与が大きくなっている(第3-1-8図)。しかし、今後は、女性を中心に労働力率が相対的に高まる年齢層に入っていくことから、全体の労働力人口が減少していくなかにあっても、同世代の労働力は一定の下支え効果を持つと考えられる。
第二に、世帯主年齢別の世帯構成からみると、団塊及び団塊ジュニア世代の人口動態の影響を強く受け、2005年時点では、団塊世代を含む50歳代後半と団塊ジュニア世代を含む30歳代前半に2つのピークを持つ(付図3-4)。こうした世帯構成の「双峰性」は今後も長期的に維持されるが、そのような中でも、団塊世代の被扶養者化により世帯全体に対するウェイトは縮小する一方で、団塊ジュニア世代が年齢を重ねるにつれて世帯主となることにより世帯全体に対するウェイトが増加していく。後節に述べるように、世帯数の増加に加え、30~40歳代の年齢層は相対的な所得の高まりとともに消費・貯蓄活動を支える存在となることや住宅取得年齢に入ることなどから、団塊ジュニア世代の経済活動面での影響が高まっていくと考えられる。
● 人口減少・高齢化と一人当たり付加価値の関係
2007年以降総人口が減少し、団塊世代の高齢化によって大量の退職者が現れれば労働力人口も減少していく。労働力の減少は、労働時間の趨勢に大きな変化がないことを前提にすれば、潜在的な労働投入量の減少により経済成長にマイナスの影響を持つことになる。一方で、労働力人口の減少は資本ストックが一定であっても一人当たりの資本ストック(資本装備率)の上昇により、一人当たりの付加価値(労働生産性)を高める方向に働く。労働力の減少が労働節約的な技術革新を引き起こす効果を持てば、一人当たり付加価値のさらなる増加につながる。
そこで、我が国の労働生産性上昇率と労働力人口の増減率との関係を時系列でみると、生産性の上昇と人口の減少に負の関係は確認されない。特に1988年以降は労働力人口が鈍化から減少傾向で推移する中で、労働生産性の伸びは緩やかに鈍化している(第3-1-9図)。一方、アメリカを例にとると、これらには負の関係が存在しており、1975年以降は、労働力人口の増加率が鈍化傾向で推移する中で労働生産性上昇率が高まっていることが確認される。また、OECD諸国について90年代以降のこれらの関係をみると、国ごとのばらつきが小さくないことに留意する必要があるものの、スウェーデンなど既に労働力人口の減少が生じている国や労働力人口の伸び率が低い諸国においては、相対的に高い労働生産性上昇率が実現されている(付図3-5)。この中で、我が国は近似線の下方に位置しており、諸外国の平均的な姿と比較して人口増減率に見合った生産性上昇が達成されていない。これらの事実は、第1章で述べたように90年代の経済の長期的な低迷の中で、技術革新の停滞や生産要素の非効率な配分など人口動態とは別の要因によって、労働生産性が低く抑えられていることを意味しており、我が国の人口が将来にわたって減少していく中で、労働生産性がその分高められるという経路が必ずしも無条件に働くわけではないという警鐘を鳴らしている。
● 質を考慮した労働力は高学歴化等で上昇
労働力人口が減少していくことが見込まれる中で、経済全体の生産性を高め、これを経済成長の源泉としていくためには、第4節に述べるようなイノベーションによる生産性向上に加え、労働力の「質」を維持していくことも必要である5。こうした労働の質の変化(人的資本の蓄積)を定量的に把握するために「ディビジア労働指数」の動向をみてみよう(第3-1-10図)。ディビジア労働指数とは、性別、年齢、学歴、勤続年数別に労働者の質が異なり、労働市場が完全であるとの前提の下、現実に支払われている賃金が、各属性別の労働者の質(=生産性)の違いを反映していると仮定し、労働者の構成の変化によって、質を考慮した労働力がどの程度変化しているかをみる概念である6。ディビジア労働指数の試算値をみると、就業者数は停滞しているがディビジア労働指数は上昇していることがわかる。つまり、ディビジア労働指数の上昇は、労働の「質」の向上分が下支えしている。こうした「質」の向上分については、賃金の高い比較的高年齢の労働力が増加したことにより、90年代後半以降は年齢効果や勤続年数効果が高い寄与を維持する一方で、労働力の高学歴化が趨勢的に続いていることから学歴効果の寄与が徐々に高まっている。
こうした労働の質の変化を「人口の波」という観点から捉え直すと、団塊世代は前後の世代と比較して就業者の母集団である人口が多い一方で、競争倍率の高さを反映して大学進学率が相対的に低かったという特徴があるが、そのことがかえって同世代の大卒労働者の価値、すなわち賃金を相対的に高めたのではないかという指摘がある7。その効果が大きいのならば、同世代は、若年期から壮年期に移行するなかで労働力率の高まり、長期雇用慣行下での勤続年数の蓄積、相対的な賃金の高さを反映して、80年代から90年代にかけてディビジア労働指数の高い伸びに寄与してきたと考えられる。一方、2000年以降は団塊世代は賃金カーブのピークを超えつつあることから、ディビジア労働指数の伸びを鈍化させる方向に働いている可能性がある。他方、団塊ジュニア世代は90年代前半を中心に労働市場に参加し始めたため、労働力構成の「若返り」により年齢効果・勤続年数効果を低下させ、「質」の伸びの鈍化に寄与したが、近年では年齢を重ねるにつれて増加に寄与するようになっていると考えられる。
● 今後は労働の質が低下に向かう恐れも
今後、ディビジア労働指数がどのように推移すると見込まれるのかについて、幾つかの観点から検討してみたい8。第一に、労働属性別の賃金については、賃金カーブの構造や勤続年数の変化等の雇用慣行の在り方に大きく左右されるが、一般的に言えば、少子化の中で団塊ジュニア世代が壮年期に入っていくことにより労働力構成の高年齢化が進むことから指数への押上げ効果は持続すると考えられる。他方、第二に、転職市場の拡大や長期雇用の減少とあいまって賃金のフラット化が進めば、労働の「質」は伸びが鈍化ないし低下する可能性もある。第三に、企業の法定外福利費に占める教育訓練費は、従業員の高齢化で退職給付費が増加し、社会保険料の引上げで法定福利費が増加していく中、相対的にそのシェアが伸び悩む状況にあり、かつてのように企業内訓練による労働の質の向上は見込みがたい。したがって質の向上への効果は期待しにくい。第四に、後述するように、大学進学率の高まりは高学歴の労働者を増加させる効果があるが、教育の質が維持されなければ、必ずしも労働の質にプラスに寄与するわけではない。
今後、団塊世代労働者の退職や少子化により労働力人口等は減少していくことが見込まれるが、その中で労働生産性の高まりを実現させるためには、高等教育や社会人教育の質の向上、技術・研究人材の確保等により労働の質を維持していくことや、サービス分野を含むイノベーション活動の促進やその成果の効率的な活用等が不可欠な要素となろう。
● 人口減少・高齢化と相対的に大きくなる一人当たりの社会資本ストック
さて、しばしば指摘されることであるが、人口の減少によって、一人当たりの付加価値というフローの面だけでなく、国土面積、住宅面積や住宅ストック、道路渋滞の緩和というソフト面も含む社会資本ストック、大学等の学校教育施設、金融資産などのストック面でも一人当たりの規模が高まると考えられる。その中には人口規模や構成に対して相対的に余剰となるものも現れる。以下、この点を幾つかの側面から検討する9。
第一に、住宅ストックについて、新設着工戸数の長期的な推移をみると、団塊世代が世帯として独立しはじめた20歳代後半に差しかかった1970年代前半まで大きく増加した。その後は、バブル時の貸家ブームなど一時的な盛り上がりはみられたものの、横ばいの圏内で推移している(第3-1-11図)。住宅ストックは着工戸数や世帯数の動向等を反映して、緩やかな増加傾向が続いている。今後、当面は世帯数の増加が続くと見込まれるものの、現在の住宅ストック数が2015年に予想されるピーク時の世帯数を既に10%程度上回っていることから、世帯数の増加率が逓減していく中でこれまでのような新設着工増による住宅ストックの量的な増加は見込み難い。むしろ今後は住宅ストックの質の向上と有効活用が課題となろう。一方、親世代からの住宅資産相続の動向等にもよるが、団塊ジュニア世代が今後住宅取得年齢に入ると言われていることから、中期的にはある程度の住宅需要の高まりも考えられる。
第二に、家計の保有する金融資産については、バブル崩壊以降長期にわたって続いた株価の低迷や金融取引フローの縮小を受けて、金融資産残高は減少傾向で推移していたが、2003年度に株価の反転を受けて増加に転じ、2004年度では1,416兆円となっている(第3-1-12図)。年齢別の金融純資産をみると、例えばアメリカとは異なり、年齢が高まるにつれて保有額が増加するという傾向がある。また、金融資産の内訳は、高齢層ほど株式や株式投資信託などのリスク資産のウェイトが高い。こうした年齢別の金融資産を前提にすれば、今後団塊世代が高年齢層に入っていくこと等の人口要因のみで、株式等を中心に金融資産は世帯数がピークを迎える2015年頃までに年率で0.3%程度増加していくと見込まれる10。一方で高齢化等の要因により貯蓄率は減少傾向にあることから「貯蓄から投資」の促進によるストックの有効活用が重要な課題となる。
● いわゆる「大学全入時代」に求められる教育の質の向上
第三に、学校教育施設については、少子化が進むことにより、小、中、高校、大学・短期大学の学校数が現在の水準と大きく変わらなければ、一校当たりの入学者数は大きく減少していく。特に、大学・短期大学については、18歳人口の減少に伴い、入学者の減少から2007年度には収容力(入学者数/志願者数)は100%に達し、いわゆる「定員割れ」が増加することが懸念されている(第3-1-13図)。収容力と競争倍率はおおむね逆数の関係にあることを踏まえると、仮に今後、競争倍率の低下によって大学等が授業料を引き下げることで入学生を引きつけるという経路が働くとすれば、授業料の低下は結果として学生一人当たりの教員数で測った「教育の質」を低下させるという可能性も懸念される(付表3-7)。このため、教育の質の低下が労働の質の低下を招くことのないよう、高等教育の質を維持・向上していくことが今後一層重要である。後節で述べるように、今後、イノベーションの担い手となる科学技術人材の質・量の面での確保が重要な課題となるなか、学部・学科の再編や定員のスリム化、カリキュラムの見直し等を通じ、各大学の創意工夫による質の高い教育プログラムの提供等が課題となる。
● 社会資本のストック・マネジメントが課題に
第四に、人口減少によって一人当たりの社会資本ストックも相対的に大きくなる。これは、特に戦後のキャッチアップや高度経済成長の過程の中で、質・量ともに社会資本整備を進めてきた結果である。社会資本ストックの豊かさは、例えば通勤や道路混雑の緩和などの面で国民生活の豊かさに寄与する一方で、特に高度成長期に形成されたストックが今後数十年の内に更新期を迎えること等を通じて、維持・更新投資が大幅に増加していくことをも意味する。国土交通省の推計によれば、仮に今後の社会資本総投資額が一定に推移したと仮定した場合、総投資に占める維持・更新費用の割合は2001年度の約20%から2020年頃には50%に達するとされている(第3-1-14図)11。これに伴って、人口一人当たりの維持・更新費用についても急速に高まることが予想される。また、国民経済計算における一般政府の固定資本減耗(社会資本等の減価償却分を擬制した概念)とこれを除く一般政府の固定資本形成の推移をみると、これまで社会資本ストックが積み上がってきたことを背景に、前者は着実に増加する一方、後者は減少しているため、2001年度時点には、前者が後者を上回る水準になっており、このことからも巨大な社会資本ストックの存在が潜在的に経済全体にもたらす影響を推し量ることができる。
また、社会資本の類型によっては人口減少・少子高齢社会に対応したストック配分が遅れている可能性がある。例えば、広義の社会資本として、人口当たりの老人福祉施設と65歳以上人口比率、小中学校施設と14歳以下人口比率の関係を都道府県別にみると、については相関がみられず、また、についてもおおむね正の相関がみられるもののばらつきは小さくなく、適切なストック配分がなされていないという可能性もある(付図3-8)。過大な社会資本ストックは、その廃棄コストの高さから、処分が容易ではなく、例えば、少子化の進行によって小学校が廃校のまま放置されるという事例もみられる。このように、莫大な維持・更新費用の発生や社会情勢の変化に対応できていない配分という問題に対しては、公共投資を真に必要な分野に限定するとともに、技術開発による社会資本の長寿命化、福祉施設等への転用の促進といった個々のストックの維持・管理技術の向上に加え、適切なマネジメント単位の設定により当該エリアのストックを総合的に管理運営するといった戦略的な社会資本ストック・マネジメントが求められる。