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第1章 多くの人が活躍できる労働市場の構築に向けて

第2節 より多くの人が活躍できる労働市場の構築

1. 就労への意欲阻害要因の解消と就業能力向上のための支援

(3)政策・制度間の連携や整合性が重要

●意欲阻害要因の解消を補完する就業促進的な支援
   公的給付や所得税制による経済面からの意欲阻害要因の解消や、能力向上や求職サポート等を通じた就業支援は、それぞれ、おおむね失業の減少や雇用の増加に効果があると評価されているところ (31)であるが、両者の連携や整合性を図ることでより大きな効果を持つことが期待される。    例えば、非就労型給付の給付要件の厳格化や就労型給付の拡充は、働き手の就労へのインセンティブを高めると考えられるが、職業訓練や求職サポートといった就業能力向上型の支援を組み合わせることで、高まった意欲が実際の就業として実現する可能性をより大きくすると考えられる。いくつかの国では、手当の受給期間が長期化している者に対して就職支援プログラム等への参加を給付要件とし、より密接に両者を結びつける取組が行われている(第1-2-9表)
   また、アメリカのEITCについて、配偶者の無い母親の就業促進に効果があったとされている。こうした効果をより高めるためには、育児サービスの提供といった就業のための環境整備が働き手のインセンティブ向上を補完するものと考えられる。

●各種公的給付や税制間の整合性が重要
  勤労所得を得ることによって、一般的に失業給付、生活保護給付、住宅給付等各種の非就労型給付は減額又は支払の停止となることが想定される。働き手にとって、就労することが経済的に見合うものであるかどうかは、EITC等の就労型給付だけでなく、非就労型給付にも影響される。
   (第1-2-10図)は、OECD推計による、働き手が(1)失業状態、(2)非労働力の状態から就業(平均的な生産労働者の67%の水準の賃金を得る)する場合の限界実効税率(02年)を示したものである。この限界実効税率は、就労による粗所得の増加額に対する、所得税・社会保障負担の増加分と公的給付減額分を足し合わせた額の割合 (32)である。各国の限界実効税率をみると、多くの国で80%を超えており、中には100%を超えるケースも存在するなど総じて非常に高くなっている。こうした中で就労型給付は、国により大きさに差はあるものの、英国では限界実効税率を25%程度引き下げるなど、働き手の意欲の阻害を減らすことに寄与している。
   一方、さきに紹介したアメリカと英国とを比較すると、控除額の大きさから英国の方が就業型給付による引下げ寄与は大きいものの、住宅給付等の非就業型給付が大きいために限界実効税率はアメリカを上回っている。英国では、就労型給付の効果がほかの税や給付によって減殺されているとの指摘がある(33) 。つまり、働き手の就労意欲の阻害を取り除くという目的に対しては、EITC等の就労型給付はあくまで数ある制度のうちの一つであり、就労型給付の制度設計や改革を行うに当たっては、他の税や公的給付との整合性を図ることにより、より効果的なものとなるよう検討していくことが重要である 。


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