2.見当たらない景気回復の原動力
(1)個人消費の大幅鈍化とその背景
(i)大幅に鈍化した個人消費とその背景
GDPの約7割を占め、09年以降の景気回復をけん引してきた個人消費は、11年4月以降、その伸びが鈍化した(第2-2-4図)。実質個人消費支出は、11年春から夏にかけては、7月に東日本大震災の影響で一時的に落ち込んでいた自動車販売の反動増により大きくプラスになったことを除いては、基調として減少傾向となった。この結果、10年の4四半期平均で+2.1%ポイントあった実質経済成長率に対する個人消費の寄与度は、11年7~9月期までの平均で+1.2%ポイントと低いものとなっている(前掲2-2-1図)。11年夏から秋にかけては持ち直しの動きがみられるものの、後述のとおり、所得環境は依然として弱いことに留意が必要である。
費目別にみると、09年7~9月期から11年1~3月期にかけては、自動車のほか、耐久財(自動車除く)や非耐久財、サービスのそれぞれが、おおむねプラスに寄与してきた。しかしながら、11年春以降、自動車がマイナス寄与となったほか、耐久財(自動車除く)や非耐久財のプラス寄与も縮小した(第2-2-5図)。
10年後半までと11年に入ってからの動きの違いをみると、物価上昇率が高まっている費目や不要不急の費目で消費が抑制されている傾向がみられる(第2-2-6図)。具体的には、耐久財においては、家具及び住宅設備やその他耐久財(宝飾品、治療用装置等)が上昇から横ばい傾向に転じている。非耐久財においては、11年夏にかけてガソリンや衣料品・靴が減少している。サービスにおいては、飲食・宿泊サービスが上昇から横ばい傾向になった。伸びが鈍化もしくは減少しているこれら費目は、全体の2割弱を占めており、消費全体の減速に寄与していることがわかる。
(ii)個人消費が鈍化した要因
このように11年に入り個人消費が鈍化した要因として、雇用の回復の遅れや失業率の高止まり、消費者物価の上昇、住宅市場の不振等を背景に、家計の実質所得が減少もしくは伸びが抑制されるとともに、実質資産の減少等から家計のバランスシート調整が引き続き家計の重しとなっていることがあげられる(第2-2-7図)。さらに、金融機関の厳しい貸出態度(消費者からみた場合に厳しい資金調達環境)や、アメリカ経済の減速懸念と連邦債務上限引上げ問題を契機とした消費者マインドの悪化も、消費の抑制に拍車をかけていると考えられる。
次項以降では、個人消費を抑制するそれぞれの項目について、概観する。
(iii)実質所得の伸び悩み
家計あたりの年間実質所得を中位所得(median income)でみると、08年以降減少が続いており、所得環境の悪化がみてとれる(第2-2-8図)。10年には、1996年の水準まで落ち込んでいる。10年の平均所得と中位所得を08年と比較すると、中位所得の減少率の方が大きいことから、所得の偏りが広がっていることが示唆される1。また、貧困層人口は過去最高を更新し、全人口に占める貧困層人口の割合も15.1%となり、過去30年で最高の水準に達している。
次に、実質可処分所得をみると、10年秋頃から伸びが鈍化しており、10年末以降はほぼ横ばいとなり、11年半ばからは減少している(第2-2-9図)。この背景には、11年初からのガソリン価格をはじめとする一次産品価格の高騰や消費者物価の上昇、雇用の回復の遅れを反映した雇用者報酬の伸び悩みなどがある。また、移転所得も、11年に入って伸び幅が縮小している。これは、長期失業者や雇用意欲喪失者の増加等により失業保険の継続受給者数が減少(後述)し、給付額が減少2したことによる。さらに、景気対策の一環として行われていた勤労者向け所得税減税(Making Work Pay)が10年12月に終了したことなどにより、11年に入り税還付金が減少したことも一因であると考えられる。
今後、物価上昇は11年初の一次産品価格の高騰の影響が更に和らぐにつれ幾分落ち着くことが見込まれるが、雇用回復の先行きは不透明なことから、実質可処分所得は伸び悩む可能性があり、引き続き、個人消費に対し下押し要因として働く可能性がある。
(iv)引き続き重い債務負担感
このように実質可処分所得が伸び悩んでいる中で、住宅価格が依然として下落傾向にあることなどを背景に、家計の資産は減少している(第2-2-10図)。このため、家計の債務残高は縮小傾向にあるものの、総資産比でみれば依然として過去の傾向線を大幅に上回っているなど、引き続き高水準となっている。このため、家計は所得を債務の削減に回していると考えられ、また、債務負担に耐え切れずに破産に至る者がいることも勘案すれば、家計の債務負担が個人消費の大きな抑制要因となっていることがうかがえる。
(v)雇用の回復の遅れ
(ア)11年春頃から雇用情勢は悪化
雇用者数は、11年2~4月には好況期の目安とされる20万人前後の伸びをみせていた。しかし、5月以降は増加テンポが鈍化し、5~10月平均で10万人に満たない伸びとなっている(第2-2-11図)。
雇用者数の伸びにみられる雇用創出力の弱さは、結果として失業率にも表れている。失業率は、10年11月の9.8%から11年3月には8.8%まで改善したものの、4月以降再び上昇し、9%超の水準で高止まっている。
失業者数は、09年10月をピークに減少していたものの、11年春からは若干増加傾向にある(第2-2-12図)。前回の景気後退期のピークである03年半ばの水準と比べて、400万人程度上回っているなど、依然として厳しい雇用状況である。
このように、失業者数が遅々として減少しない中、失業状態は悪化している。例えば、平均失業期間は史上最長水準となっており、また、失業者全体に占める長期失業者の割合が4割強まで上昇し、長期失業者数も高止まっている状況にある(第2-2-13図)。
労働力人口は、世界金融危機発生以降、ほぼ横ばいで推移している(第2-2-14図)。生産年齢人口の伸びに対して、労働力人口の伸びが追い付いていない3ことから、労働参加率は歴史的低水準まで落ち込んでいる。この理由の一つに、長期にわたり職を得ることができずに求職活動を諦めてしまった雇用意欲喪失者の高止まりがある。雇用意欲喪失者は、世界金融危機以降に急増した後、11年初めにかけて低下したものの、11年夏以降は高止まっている(2-2-15図)。このことは、雇用機会を喪失している者が統計上の失業者以外にも多く存在していることを意味し、実態は失業率に表れているよりも雇用環境が厳しくなっていることを示している。
(イ)雇用回復の遅れの主因
このように雇用の回復が遅れているのは、景気循環的な問題なのか、あるいは構造的な問題も内包しているのだろうか。景気循環的要素がどの程度失業率に影響しているのかを見るために、オークンの法則とUV曲線4を用いて分析してみる。
まず、オークンの法則から導かれる失業率と実質経済成長率の関係をみると、直近の失業率は実質経済成長率と比較して高水準となっている(第2-2-16図)。これは、高止まっている失業率が循環的要因以外の構造的な要因を抱えていることを示唆している。
次に、労働市場の需給状況をUV曲線でみると、景気回復局面がスタートした09年7月以降、欠員率の上昇ほどには失業率が低下しておらず、UV曲線が上方にシフトしている可能性がある(第2-2-17図)。欠員が増えているにも関わらず失業率が改善していないことから、オークンの法則から導かれる結果と同様、高止まっている失業率は、労働需給のミスマッチ等の構造的な要因が影響している可能性を示唆している。
構造的な要因について分析するため、01年11月の景気の谷以降の産業別の雇用状況と景気循環との関係に着目する。まず、雇用者数全体の1割強5を占める財生産部門は、景気後退で大きく失われた雇用を景気回復局面でもほとんど取り戻すことができていない(第2-2-18図)。一方で、雇用者数全体の7割程度を占める民間サービス部門は、全体として緩やかな改善傾向を続けている(第2-2-19図)。
財生産部門を産業別に見ると、製造業(全体の9.0%)と建設業(同4.2%)では、景気回復局面においても雇用者数はほとんど増加していない。一方、鉱業(同0.6%)は急回復しているが、雇用全体に与えるインパクトはほとんどない。
民間サービス部門を産業別に見ると、1)おおむね景気循環に応じて雇用者数が増減している分野、2)景気循環に関係なく雇用者数の減少傾向が続く分野、3)景気循環に関係なく雇用者数が伸び続けている分野、の3つに大きく分けられる。まず、卸売(同4.2%)・小売(同11.2%)・物流(同3.3%)・金融(同5.8%)・専門サービス(同13.1%)・レジャー・接客(同10.1%)は、景気回復局面において雇用者は小幅ながらも増加傾向となっている。一方、情報サービス(同2.0%)は、景気回復局面においても雇用者の減少傾向が続いている。教育・医療(同15.3%)については、景気循環に関係なく雇用者数が伸び続けている。
このように、製造業では、01年11月~07年12月の景気回復局面でも雇用を減らしており、構造的な要因を抱えている可能性がある。製造業において雇用が生み出されていない主な背景として、海外へのアウトソーシング(海外移転)の進展と労働生産性の上昇の2点が考えられる。まず、製造業の国内雇用は、全産業の国内雇用と比較すると減少のペースが大きい一方で、海外関連子会社の雇用者は増加しており、雇用のアウトソーシングが進んでいることがみてとれる(第2-2-21図)。また、製造業の労働生産性の推移をみると、世界金融危機発生直後を除いて労働生産性が高まり続けていることがわかる(第2-2-22図)。そのほか、低賃金の新興国との競争激化によるコスト削減圧力やコンピュータ・機械への代替が進んでいることも、製造業の雇用創出力が弱まった要因として指摘されている。
以上のほか、雇用情勢が悪化している要因としては、技能等のミスマッチがいまだ解消していないことなどにより雇用拡大産業への労働移動が進んでいないことも考えられる。各産業における雇用創出力の強化とともに、産業を跨いだ労働移動を促すための工夫が必要である。
(ウ)失業対策の動向
最後に、失業保険給付の状況と今後について見ていく。
新規に失業保険の申請が認められると、まず、州・地方政府から失業保険給付(UI)が26週間支給される。UIを受けている間に職が得られない場合には、連邦政府から緊急失業給付(EUC。11年12月末までの時限措置。)が34~53週間(期間は居住する州の失業率の水準による。)支給される。それでもなお職が得られない場合、州・地方政府による延長失業給付(EB)が13週もしくは20週(期間は居住する州の失業率の水準による。)支給される。最も給付が長く受けられる州では99週間にわたって給付が受けられる。
11年に入り、新たに失業保険を申請する者が減少しない中で、長く失業給付を受けている者が減少に転じている(第2-2-23図)。具体的には、新規失業保険申請者とUIを受けている者の合計が11年に入り減少からほぼ横ばい6に転じる一方で、EUCを受けている者は10年と同じペースで減少を続け7、EBを受けている者は11年に入り減少に転じている8。しかし、このことは必ずしも、長期失業者が職を得たことで失業保険給付の対象者でなくなったことを意味しない。前述のとおり、失業者に占める長期失業者の割合や雇用意欲喪失者の人数が高止まりしていることから、失業給付が受けられる期間(最長で99週間)を超えて失業している者が増えていたり、長期失業により技能や就業意欲が減退した失業者が労働市場からの退出を余儀なくされている可能性がある。
このような状況の中で、11年9月にオバマ大統領が打ち出した雇用対策(後述)では、同年12月末が期限となっている連邦政府によるEUCの延長が盛り込まれているが、与野党の対立の中でその行方は依然として不透明である。仮にEUCが打ち切られれば、雇用意欲喪失者の更なる増加や失業給付を受けることができない失業者の増加に繋がり、失業者の生活がさらに困窮するのに加え、実質可処分所得が減少することで、個人消費の更なる下押し要因となりかねない。
(vi)高止まるガソリン価格と株価変動に対する脆弱さの露呈
個人消費を所得階層別にみた際の特徴として、中低所得者層の消費はガソリン価格や食料価格に対し、高所得者層の消費は株価に対し、それぞれ脆弱性を有している9ことが挙げられる。11年半ばより、こうした脆弱さが露呈し、消費を下押ししている。
ガソリン価格は11年前半に急上昇し、5月の平均小売価格は3.91ドル(1ガロン当たり)に達した。その後、若干の低下はみられたものの、10月には3.45ドルと、10年の平均と比べ25%程度高く、依然として高水準にある10(第2-2-24図)。車社会であるアメリカにおいて基礎的な消費項目と言えるガソリンの価格が高止まっていることにより、中低所得者層のガソリン以外の消費が抑制されているものと考えられる。原油価格は11年夏に下落したものの依然として11年前半と同水準にあり、長期的には新興国の需要拡大等により上昇基調にあることから、ガソリン価格が今後大きく低下することは考えづらい。このため、低所得者層の消費は抑制され続ける可能性がある。
一方、高所得者層については、所得の上位5%が株式資産の約8割を保有しており、また、高所得者層の消費が全体の過半を占めている11。株価の変動は資産効果(逆資産効果)を通じて高所得者層の消費に影響を与えるが、消費支出額の変動が高所得者層ほど大きい(第2-2-25図)ことから、消費全体に与える影響も大きい。11年夏以降、アメリカ経済の減速懸念やヨーロッパの債務問題などを背景に株価が大きく下落した中で、高所得者層の景況感が悪化した。これにより、高所得者層の消費が抑制されたものと考えられる(第2-2-26図)。
(vii)住宅市場の不振
(ア)住宅価格は下落傾向が継続
住宅価格は、09年初以降、持ち直しの動きが続いていたが、10年後半から再び下落傾向が続いている(第2-2-27図)。持ち直しの動きは、10年4月末に終了した住宅減税など政府が実施してきた政策の下支えによるところが大きく12、政策効果の減衰により再び下落に転じているものと考えられる。例えば、ケース・シラー住宅価格指数をみると、11年夏以降下げ幅を縮小しているものの、ピークをつけた06年7月と比べると31%も価格が下落している。
住宅市場では、そうした住宅価格の下落が、住宅の買換えや住宅ローンの借換え等を抑制させ、また、家計の実物資産を減少させることで家計の債務負担を増大させる。これにより、住宅需要が減退し、次にみるように、住宅着工数や住宅販売数の低迷ももたらされている。さらに、販売の低迷や差押え物件の流入等により在庫が高止まりしており、これが更なる住宅価格の下押し圧力になっているなど、悪循環の様相もみられる。
(イ)低迷する住宅着工・販売
住宅取得環境が良好であるにも関わらず、着工、販売ともに低迷しており、また、中古住宅市場には、依然高水準の在庫が残っている(第2-2-28図)。
まず、住宅取得環境をみると、住宅ローン金利は歴史的に低水準にある。長期金利の低下とともに住宅ローン金利(30年・固定)は継続的に5%を割り込み、11年9月には連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が調査を開始した1971年以来最も低い水準を記録した。
しかし、こうした環境にもかかわらず、住宅販売は低迷が続いている。新築販売は、10年5月以降、年率30万件と歴史的に低い水準で底ばいの状況となっている。中古販売は、 10年末に住宅ローン金利が一時的に上昇に転じたことに伴う駆け込み需要で販売件数が増加したが、その後11年に入り減少傾向となるなど、引き続き弱い動きをみせている13。
このように住宅取得環境が良好な中で、着工・販売が低迷する背景には、後述の通り、消費者が住宅を買い換えようとしても、住宅ローンの残額が当該住宅の現在価値を上回る状態(ネガティブ・エクイティ)にあることから、住宅売却により損が生じるほか、住宅ローンの融資額をきめる住宅再評価額が低いことから購入に必要な融資を受けられない14ことや必要とされる頭金が増額されるなど、金融機関の融資基準が厳しいことなどが挙げられる。
販売不振が続く中、中古住宅の在庫は依然高い水準にあり、こうした需給バランスの悪化が住宅価格の更なる下押し圧力となっている。中古在庫の積み上がりの背景には、販売の低迷のほか、差押え物件が中古住宅市場に流入し続けていることが挙げられる。10年の住宅販売件数523万件(新築及び中古住宅)に対し、同年の新規個人破産(デフォルト)の件数だけでも380万件にものぼり、しかも、差押え物件は、競売において中古住宅市場の7割程度の価格で販売されるため、差押え物件が市場に流入することが住宅価格を引き下げる要因にもなる。
差押え件数は、10年10月以降減少が続いていたが、11年春以降は高水準で横ばいとなっている(第2-2-29図)。10年10月に、大手金融機関が差押え手続きを加速させるために、差押え関係書類の内容を確認せずに従業員に不正に署名(Robo-signers)させていたことが発覚し、差押え手続きの一時的な停止、見直しが行われた。このため、差押えに遅れが生じ、差押え件数が減少傾向にあった。その後、差押え手続きが再開され、11年夏からは、金融機関が再び差押えを加速させつつある兆候も示されており15、さらに、ローン延滞率は10年を通じて減少傾向にあったものの11年に入り再び増加していることから、今後、差押え件数が増えていくことも考えられる。
(ウ)主要都市から見る地域別の特徴
バランスシート調整が必要となった背景として住宅バブルの発生とその崩壊がしばしば指摘される。しかし、主要20都市16の推移をケース・シラー住宅価格指数でみると、住宅バブルは一部の都市で見られたものの、近年の住宅価格の下落は、これらの都市に限らず全国的に発生している。このことから、住宅バブルがあった地域はもちろん、そうではない地域においても世界金融危機発生後に住宅価格は下落し、アメリカ全土で家計のバランスシート調整が迫られるようになったことが分かる。
各都市の住宅価格の推移を可処分所得の伸びと比較すると、南部のフロリダ州やカリフォルニア州の主要都市において、家計の所得より大きくかい離して住宅価格が高騰し、バブルが生じていることが分かる(第2-2-30図)。これらの都市は、温暖であることなどから高齢者の定年退職後の転居先や別荘等の購入先のほか、投機目的としても注目を集め、価格が高騰したと考えられる。06年後半頃にバブルが崩壊し、住宅価格がピーク時の50%程度まで急落しており、全米の差押え物件の半数以上がフロリダ州やカリフォルニア州その他の西部地域で発生している。
一方、住宅バブルを形成していない都市においても、06年以降、地域経済の停滞や失業率の高止まりなどを背景に住宅価格は下落傾向にある。オハイオ州、ミシガン州、イリノイ州の3州で全土の約15%の差押え件数を占めるまでに至っている。
(エ)住宅ローンの厳しい資金繰りとネガティブ・エクイティの存在
下落傾向が継続する住宅価格や高止まりする中古在庫に加え、金融機関の厳しい貸出態度や高い割合で存在するネガティブ・エクイティが、消費者の住宅の買換えや住宅ローンの借換えを困難にし、住宅市場の回復をさらに遅らせている。
まず、金融機関の貸出態度については、10年までのような厳格化の動きは見られなくなったものの、「変化なし」と回答する金融機関が太宗を占めており、引き続き、厳しい傾向にある(第2-2-31図)。金融機関の住宅向け貸出の不良債権比率は依然として高止まりしており(第2-2-32図)、加えて、11年に入ってからは、住宅ローンを証券化する際の裏付け債権の情報が不適切であったことによりデフォルトし損失を被ったとして、金融機関に対し住宅ローン証券の買い戻しを求める訴訟が増加していること17が、金融機関の貸出態度の緩和を妨げる要因として挙げられる。
次に、ネガティブ・エクイティの割合をみると、11年4~6月期では、住宅ローン全体の22.5%を占めている。地域別では、西部地域でネガティブ・エクイティの物件が約30%と高水準であり、南部・中西部も20%を超過している(第2-2-33図)。これら3地域では、長期的にみて価格の下落基調が続いており、今後もこの傾向が続くようであれば、更にネガティブ・エクイティの割合が高まることになる。
ネガティブ・エクイティの存在は、住宅を売却する場合には消費者に損が生じることとなり、また、ローンの借換えの際には必要額に満たないローンしか認められないことに繋がり、住宅ローン金利が歴史的に低水準である中でも、住宅の買換えやローン借換えを困難なものにしている18。さらに、仮に失業などにより収入面で打撃を受けると、途端に住宅ローンの返済が不可能となり、差押えに発展する可能性もある。
また、アメリカでは、金融機関が破たんした債務者の個人資産に遡及していくことが実態上少ない19ことから、ネガティブ・エクイティは、「戦略的デフォルト」20のインセンティブを高める。戦略的デフォルトにより自宅を失った個人は、新規に住宅を購入する資力はなく、賃貸物件に入居しているものと考えられる。実際、住宅所有率は、04年に過去最高を記録して以降、下落が続き、11年4~6月期では65.9%と1998年以来の最低水準となった。7~9月期には持ち直したものの、依然として低い水準にある。他方、賃貸住宅入居戸数は増加傾向にある(第2-2-34図)。
(オ)不透明感ある追加対策の行く末と今後の見通し
住宅市場の低迷に対し、政府はこれまで、住宅ローンの借換え促進策(HARP)21や住宅ローン返済に係る支援(HAMP)22等を実施してきた。しかしながら、HAMPでは当初400万件の差押え防止を目標としていたものの、恒久的対策実施者は11年8月時点でも80万件程度に留まっているなど、住宅ローンの金利が歴史的に低い水準に下がる中でもこれら支援策による恩恵を享受できていない者は多く、十分な効果は得られていない(第2-2-35図)。さらに、HAMPにより融資を受けた者の2割程度が融資1年半以内に再延滞を行うなど課題が多い23。
こうしたことから、11年10月には、借換えを促進させるため、HARPの改善策が発表された。具体的には、対象拡大のために政府支援機関(GSE)である連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)や連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が買い取る住宅ローンについて住宅の現在価値に対するローンの上限を撤廃することや、返済期間がより短いローンに借り換えた場合に課されるGSEの住宅ローン手数料の免除、実施期間の18か月間の延長などが盛り込まれている。これにより、HARPが終了する13年12月までに、180万件以上(8月時点の利用者累計は約90万件)の利用者が見込まれている。しかし、これら借換え支援は、金融機関や住宅ローン保険会社に義務付けているものではなく、貸し手である金融機関が積極的に借換えを促進させる動機付けに乏しいといえ、実際に住宅ローンの借換えが促進されるかは定かではない。
今後の住宅市場の動向について考えると、住宅ローンの長期延滞を含む隠れ在庫(Shadow Inventory)はピーク時より22%減少したものの、未だ160万件程度存在するとされ、市場に出ている中古在庫物件数と合わせると540万件となる24。これを11年8月の中古住宅販売件数から同月の差押え発生件数を差し引いたもので除して試算すると、中古住宅販売件数の6ヵ月分と言われている適正水準まで余剰在庫を解消するためには、少なくとも残り15ヵ月の期間25は要するものと考えられる。ローン延滞やネガティブ・エクイティの割合に大きな改善がない中、差押えは今後も高い水準に推移すると考えられ、それが住宅価格を下押しし、再び差押えを増加させるなど、住宅市場が更に悪化する懸念もある。
住宅市場の低迷は、今後もしばらくの間は続かざるを得ない可能性がある。
コラム2-3: GSE改革の行方
アメリカの住宅ローンは、8割以上が証券化(住宅ローン担保証券:MBS)されているが、サブプライム問題によりMBS市場から民間企業が撤退して以降、政府支援機関(GSE)であるファニーメイとフレディマックが、ほぼ全てのMBS新規発行を担っている(注1)。GSEは、一定の基準をみたす住宅ローン(コンフォーミング・ローン)を金融機関から買い取りMBSの発行により証券化することで、金融機関が本来抱えるべき住宅ローンの信用リスク、流動性リスクを一手に引き受けている(図1)。
アメリカ連邦議会においては、住宅金融市場の改革に向けた議論が進められており、11年2月には、財務省と住宅開発省から「アメリカの住宅金融市場改革に関わる連邦議会への報告書(“Reforming America’s Housing Finance Market: A Report to Congress”)」が議会に提出された。この報告書では、GSEについても触れられており、これまで総額1,600億ドル以上の公的資金が注入されているなど連邦政府財政に大きな影響を与えていることもあり(図2)、MBS市場への関与縮小が盛り込まれている(注2)。
体的には、1)MBS発行体が金融機関の代わりに信用リスクを取る代償として金融機関に対し保証料を課しているところ、民間企業のMBS発行市場への参入を促進するため、GSEが金融機関に求める保証料を引き上げる(GSEの競争優位性を低下させる)ことや、2)民間資金を一層活用するため、民間保証会社等が提供する貸倒損失に係る保証をGSEが活用することが盛り込まれている。また、GSE買取り対象住宅ローンの基準額上限は、2008年に制定された住宅経済復興法により11年10月1日まで時限的に引き上げられていた(注3)が、これを予定通り引き下げることも改めて確認された(表3)。
世界金融危機発生後の住宅金融市場は、GSEによって支えられてきた部分が大きいが、仮に上記報告書に盛り込まれた施策が実施されると、例えば、貸し手の金融機関の負担が増えることから、住宅ローン金利の上昇や融資基準の更なる厳格化といった影響も生じかねない。GSE改革の行方によっては低迷する住宅市場の更なる下押し圧力になる可能性もある。
現在、議会の関係委員会において住宅金融市場改革のための審議が行われているが、具体的にどの程度まで政府関与を残すのかなどについて与野党の間で意見に隔たりも大きく、12年の大統領選挙を控え、成案が得られるのか、得られたとしてどのような内容となるのか、予断を許さない状況にある。今後の行く末が注目される。
(2)堅調な企業部門の先行きに陰り
(i)生産:増加のテンポが緩やかに
(ア)いまだ回復していない鉱工業生産
次に、企業部門の状況をみる。個人消費の回復が11年に入り大幅に鈍化しているのに対し、企業部門では収益の順調な回復に伴い、09年半ば以降、堅調に回復を示してきた。ただし、生産、民間設備投資ともに08年の水準は回復しておらず、さらに11年半ば以降は、先行きに陰りが生じている。
まず、鉱工業生産(製造業)の推移をみると、金融危機後の大幅な減少から回復しつつあったものの、11年に入り増加のテンポが緩やかになった。11年3月に発生した東日本大震災がもたらしたサプライチェーンの寸断により、自動車産業をはじめとする一部の産業では生産の縮小を余儀なくされ26、4月には前月比0.5%減少と落ち込み、7月以降、サプラチェーンの復旧に伴い、順次回復していった。しかしながら、東日本大震災という一時的要因を除いたとしても、10年前半に記録したような高い伸びには戻っていない。
財別にみると、製造業の中でも、08年以降の減少が大きかった耐久財が回復傾向にある一方で、非耐久財は低調な伸びを示しており、全体としては、08年以前の水準にまで戻っていない(第2-2-36図)。
(イ)品目別の特徴
生産の品目別の特徴を輸出との関係に着目してみると、輸出が増加している品目に回復の兆しが見られるなど輸出の増加と生産の回復に正の相関がみられる。国内需要は個人消費が低迷する中、外需にけん引されて、生産活動が回復しているものと考えられる(図2-2-37図)。
品目別の動きを経年変化でみると、耐久財では、一次金属や加工金属、機械が回復傾向にある一方で、電気機器や家具の回復は遅い。非耐久財では、紡績・繊維やプラスチック・ゴムといった原材料が緩やかながら回復傾向を示している。また、石油石炭製品と食料品が07年以降底堅く推移しているのに対して、衣服やカーペットなどの織物製品は、09年の大幅な生産の減少以降、回復していない(第2-2-38図)。
(ii)企業収益と設備投資:企業収益は回復傾向にあるが、先々の設備投資には慎重
(ア)回復傾向にある企業収益
企業収益は、産業全体でみると、世界金融危機発生前の水準に戻してきている。内部資金を蓄積する動きが続き、依然として設備投資額を大きく上回っている(第2-2-39図)。この背景には、企業がコスト削減や新興国など海外需要の取り込みなどを積極化させたことにより収益力を向上させている中で、世界金融危機以降、投資を控えて投資時期をうかがうとともに、財務状況の向上のために資金を蓄える動きを進めたことなどがあげられる。現在は、潤沢な資金を元手にM&A(企業の合併・買収)などによって更なる収益拡大に乗り出す動きや、堅調な収益をもとに株主還元の一環として増配を行う動きもあるとの指摘もある。
(イ)設備投資の現状
民間設備投資は、10年初に増加に転じてからは、10年後半から11年にかけて増加のテンポが緩やかとなったものの、堅調に推移している(第2-2-40図)。ただし、設備投資の先行指標とされるコア資本財受注27をみると、11年前半をピークに低下傾向にあり、また、次にみるように設備投資意欲が大幅に減退していることから、11年末以降、設備投資の回復のテンポが鈍化する可能性がある。
内訳をみると、10年以降、IT・機械投資が堅調に推移しているほか、回復が遅れていた構築物投資も11年半ばから増加している。
(ウ)設備投資意欲は大幅に鈍化
企業の6か月先の設備投資動向に関する景況感指数をみると、11年半ば以降、大幅に鈍化している(第2-2-41図)。さらに、ニューヨーク連銀が年に1回、各製造業に対して行う特別調査においても、11年の年間設備投資計画(総額)は前年より減少している(第2-2-42図)。本調査は7月に行われたが、8月以降、米国及び欧州それぞれの財政問題により、景況感が更に悪化したことを踏まえれば、11年の設備投資額は計画を下回る可能性がある。
このように、先行き不透明感から企業の設備投資意欲は減退しており、先々の設備投資の動向は楽観できないものと考えられる。
(エ)慎重な姿勢の中小企業
全企業数の99%を占める中小企業においては、資金の供給面を見ると依然厳しい状況が続く。中小企業は、大企業に比べ、資金調達を金融機関からの借入れに依存している度合いが高い(第2-2-43図)が、中小企業に対する金融機関の貸出態度は、大企業に比べ改善の動きが遅れており、引き続き厳しい経営を迫られている(第2-2-44図)。
また、仮に資金調達が可能であっても新規投資に見合う十分な収益が得られるかが不透明であることも、中小企業が設備投資に慎重な一因と考えられる。中小企業の最大の懸案事項は売上げの低迷となっており、景況感の悪化とともに設備投資に対する意欲は11年春先から低下傾向にある(第2-2-45図)。
(オ)設備稼働率は依然低水準
設備稼働率をみると、鉱工業生産と同様に、金融危機以降の大幅な低下から回復基調にあったが、11年に入り回復のテンポが緩やかになっている。鉱業部門を除いて、08年以前までの水準には戻っておらず、生産設備に不足感が少ないことから、新たな設備投資には向かい難い状況にある(第2-2-46図)。
(カ)今後の見通し
オバマ大統領は、企業に設備投資を促すため、11年9月に発表した雇用対策法案の中で、設備投資減税の1年間の延長を提案している28。設備投資減税の延長がなされるか不確かな状況であるが、仮に延長されたとしても、前述のとおり、先行き不透明感があることや設備不足感が依然として少ないことから、蓄積された内部資金の一部は、老朽化設備の更新やITソフトウェアなどの合理化投資に向かうことはあっても、増産にむけた新規投資に向かうとの期待は薄いと考えられる。また、設備投資の構成要素である構築物投資についても、金融機関の商業用不動産向け貸出の不良債権比率が依然として高止まりしている中(前掲第2-2-32図)、金融機関の貸出態度も依然として厳しく、これまでの伸びは一過性にとどまる可能性がある。
(3)弱い外需
(i)財輸出はおおむね横ばいに
最後に、外需について概観する。09年半ば以降、金融危機による内外の需要低迷から回復し、輸出入29はともに増加傾向にあったが、11年春以降、弱い動きを見せている。
財輸出は、10年後半以降、新興国による需要拡大とドルの主要通貨に対する減価も進み、10年10~12月、11年1~3月と2期連続して5%以上の増加をみせたが、11年5月より前期比減少に転じ、弱い動きとなっている。財輸入は、原油価格の上昇により5月に1,900億ドルと高い水準を記録した後、原油価格が下落に転じるとともに、内需が弱いことから減少している。その結果、貿易収支の赤字幅は縮小傾向にある(第2-2-47図)。
(ii)財輸出鈍化の背景
11年春以降の財輸出鈍化の背景には、世界経済の減速による各国需要の減退のほか、主要な輸出品目の単価が概ね横ばいに転じたことも挙げられる。同時期に原油・穀物といった一次産品の価格高騰が和らいだことがその背景にある。具体的には、新興国向けの輸出拡大から石油やプラスチック等の工業原材料や農作物等の食・飲料が全体の約4割と大きなシェアを占めている中、これらの輸出単価は11年春までは上昇していたが、夏にかけて概ね横ばいに転じた(第2-2-48図)。
11年9月以降、世界経済の減速懸念や欧州債務問題によりドルが安全資産として選好され、ドルは主要国通貨に対して増価が進んでいる。実効為替レートを見ると9月単月で5%増価をしている。このため、今後輸出の下押し圧力として働く可能性もある(第2-2-49図)。
(iii)輸出拡大への取組と今後の見通し
アメリカ経済の影響を大きく受けやすい北米自由貿易協定(NAFTA)を構成するカナダやメキシコ、また、政府債務問題に揺れるヨーロッパの需要回復は望みにくい中、中国やNIEs、中南米諸国など新興国の需要の増加がなければ、輸出の更なる拡大は難しい。輸出受注に関する景況感をみても、11年8月以降、大幅に悪化している(第2-2-50図)。これまで輸出拡大に寄与してきた新興国において世界経済の減速懸念から企業の景況感が悪化しており、これらがアメリカ企業側の輸出に対する先行き不透明感に繋がっているものと考えられる。
11年10月、オバマ政権は、これまで協定の批准が難航していた韓国、コロンビア、パナマとのFTA発効に向け、FTA法案を議会に提出し、同法案は10月12日に議会両院を通過した。韓国とのFTAにより、5年以内に工業製品や消費財の95%で関税が撤廃され、今後、財輸出額を年間110億ドル増加させるとの試算もある。
また、現在、10年9月に打ち出した国家輸出戦略に基づき、中小企業の輸出支援、通商関連の商談ミッションの増加など、5年間での輸出倍増に向けた取組が進められている30。特に、中小企業は輸出企業数全体の97%と大きな割合を占めるものの、輸出額に占める割合は30%程度とまだ小さいため、輸出入銀行を通じて中小企業の輸出増加に力を注いでいる。その結果、輸出入銀行による11年の輸出融資承認額は過去最大の320億ドルを記録し、406億ドルの輸出全体の押上げに寄与したとされる。
11年前半をみると前期比16%増と輸出倍増に向けて堅調に推移しているが、夏以降はドル高局面となっており、また、新興国の景気減速懸念などもあることから、今後の動向に注視する必要がある。
(4)政府財政の緊縮
(i)連邦財政の悪化
(ア)マイナス寄与となる政府支出
連邦政府支出は、09年2月に成立したアメリカ再生・再投資法(ARRA)に基づく一連の景気刺激策の多くが終了したことや財政再建に向けた取組により、10年半ばをピークに減少傾向にある(第2-2-51図)。経済成長に対する寄与は、10年第4四半期以降マイナスが続いていたが、11年第2四半期以降はやや持ち直している。ただし、こうした持ち直しの動きは、それまで大きくマイナスであった国防関連支出の増によるところが大きく、非国防関連支出については減少が続いていることに留意が必要である。
(イ)大規模景気刺激策の効果と財政収支の悪化
ARRAに基づく総額7,872億ドル31(GDP比5.5%)の景気刺激策は、11年1~3月期の時点で8割の施策が実施済みとなった。支出の推移をみると、10年4~6月期をピークに縮小傾向にある(第2-2-52図)。
このように大規模な景気刺激策の効果は、どの程度あったのであろうか。各機関の試算によれば、四半期ごとにみて、ARRAに基づく施策の実施により、それが行われなかった場合に到達したであろう実質GDPの水準をおおむね2~3%程度分拡大させ、数百万人の雇用が創出されたとされている(第2-2-53表)。このように、ARRAは一定の効果が認められるものの、特に雇用については08~09年の2年間で約870万人が職を失っており、実質GDPも雇用者数も金融危機前の水準を取り戻すに至っていないことを考えれば、必ずしも十分な効果を発揮したとは言い難い。
一方、こうした大規模な景気刺激策の実施により、財政収支は大きく悪化した。11年度の連邦政府財政収支は1兆2,956億ドル(GDP比8.7%)の赤字となり、過去最大となった09年度(1兆4,157億ドル、GDP比10.2%)に次ぐ財政赤字の規模となった(第2-2-54図)。また、連邦政府債務残高は、2000年代に入りGDP比50~60%台で推移していたが、09年度以降急上昇し、11年度末時点で14.8兆ドル(GDP比98.9%)と、1947年(同106.8%)以来となる歴史的な高水準にある。
(ウ)財政赤字削減に向けた取組の進展
こうした中、2011年予算管理法に基づき、今後10年間で総額2.1兆ドルの財政赤字削減が実施されることとなった。このため、連邦政府支出は当面、景気の下押し要因となることが予想される(詳細は後述)。
(ii)硬直的な州・地方財政
地域経済の悪化とそれに伴う税収減、失業保険給付の増大等を背景に、州・地方政府の財政は逼迫した状況が続いている。歳入については、税収は11年度には回復したものの、依然として金融危機前の水準を回復していない(第2-2-55図)。歳出については、税収減等によって生じた歳入不足に対処するため、09年度以降、歳出削減が広範に実施されている32。この結果、州・地方政府支出は直近のピークとなる07年10~12月期から減少を辿り、同支出の実質経済成長率に対する寄与は、07年12月の景気後退局面入り以降、総じてマイナスの状態が続いている(第2-2-56図)。
ARRAに基づく連邦政府の州・地方政府に対する支援33の大半が11年度に終了したことなどを受け、12年度は、11年度以上の歳入不足が生じる見通しとなっている(第2-2-57図)。こうした事態に対処するため、各州では歳出削減・増税措置等が強化される見込みである。
州・地方政府の緊縮財政は、政府職員のレイオフに加え、地域企業に対する業務発注の削減等を通じ、企業の収益や民間雇用を減少させることも考えられ、当該地域の家計の購買力低下や企業の業績圧迫等により、地域経済の下押し圧力となる。地域経済の悪化は、州・地方政府の税収を低下させることで更なる緊縮財政をもたらすこととなり、ひいては地域経済を更に悪化させるという悪循環に陥る可能性がある。