第1章 第1節 5.高まる地域銀行の役割

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(中小企業への資金供給者としての地域銀行の役割)

世界的な金融危機が深刻化し、地域経済も総じて弱まる中で、金融機関の貸出を巡る環境は変化し、銀行の貸出態度が厳格化するとともに、中小企業の資金繰り悪化が生じている。都市銀行の国内貸出動向をみると、2007年は年間を通じて前年割れとなっていたが、2008年の4月から9月までは僅かな増加となった(第1-1-14図)。さらに、10月以降、急速に増加しているが、これは大幅な株安により、大企業を中心に直接金融による資金調達が困難となったためであろう。一方、地域銀行(地方銀行と第二地方銀行の合計)は、2005年3月以降、約3年半にわたり前年を上回っている。こうした結果、銀行全体の国内貸出に占めるシェアをみると、2007年3月以降、地域銀行が都市銀行を上回っており、間接金融による資金調達において地域銀行の役割が拡大している(付図1-7)。

第1-1-14図 銀行の貸出残高 業態別寄与度の推移
-増加を続ける地域銀行の貸出-

第1-1-14図
(備考) 1. 全国銀行協会「全国銀行預金貸出金速報」により作成。
2. 都市銀行は、05年は7行、06年以降は6行。
  地域銀行(地方銀行と第二地方銀行の合計)は、06年1~9月は111行。06年10月~07年4月は110行。07年5月~08年9月は109行。08年10月以降は108行。

また、中小企業等向け貸出残高については、地域銀行が都市銀行を上回っていたが、2006年以降、その差が拡大している(第1-1-15図)。2008年9月期決算をみても、都市銀行は前年を下回ったが、地域銀行は前年並みを維持し、中小企業への資金供給者として地域銀行の役割が一層高まっている。

第1-1-15図 都市銀行と地域銀行の国内貸出残高(末残)の比較

第1-1-15図
(備考) 1. 各銀行の決算、ディスクロージャー誌により作成。
2. 中小企業等とは、資本金3億円(ただし、卸売業は1億円、小売業、サービス業は5,000万円)以下の会社または常用する従業員が300人(ただし、卸売業は100人、小売業は50人、サービス業は100人)以下の会社及び個人。
3. 都市銀行は6行。地域銀行は、06年3月期は111行、07年3月期は110行。07年9月期以降は109行。

地域銀行を各行の本店所在地に基づき11地域に分類し、各地域の貸出残高の伸び(前年比)をみると、2008年3月期から同年9月期にかけて、南関東、東海、近畿等で伸びがやや鈍化したものの、北海道、東北、北関東等では伸びが上昇した(第1-1-16図)。さらに、2008年9月期の中小企業等向け貸出残高の伸びをみると、東海、近畿では3月期とほぼ同程度の伸びであったが、北海道、南関東では伸びが大幅に縮小し、北陸、中国、九州等では低下幅が拡大する等、地域間でかなりばらつきがみられた。各地域の地域銀行が貸出全体の増勢は維持しつつも、多くの地域で、中小企業等向け貸出については慎重化したものとみられる。

地域銀行各行の2008年9月期決算によれば、建設・不動産業の大型倒産の増加や、金融危機に伴う大幅な株安が地域銀行の収益を急速に悪化させている。これに伴い、地域銀行の自己資本比率が2008年3月期に比べ僅かながら低下しており7、今後これが中小企業向け融資に影響を及ぼすことも懸念される。

第1-1-16図 地域銀行の貸出残高(末残)の伸び
-多くの地域で貸出全体の増勢は維持しつつも中小企業向けは慎重化-

第1-1-16図

(備考) 1. 各銀行の決算、ディスクロージャー誌により作成。
2. 地域区分はA。
3. 対象銀行は、地方銀行64行、第二地方銀行45行の計109行。
4. (2)の中小企業等とは、資本金3億円(ただし、卸売業は1億円、小売業、サービス業は5,000万円)以下の会社または常用する従業員が300人(ただし、卸売業は100人、小売業は50人、サービス業は100人)以下の会社及び個人。

(再編が進む地域金融機関)

1990年代以降、金融自由化やバブル崩壊後の多額の不良債権処理の中で、金融機関の再編が進み、都市銀行は3大メガバンクを中核とした金融グループに再編されてきた。特定の地域を地盤とする地域金融機関においても、信用金庫や信用組合を中心に再編が進んでいる。信用金庫や信用組合の数を1990年3月末と2008年12月8で比較すると、信用金庫は454金庫から279金庫と約6割に、信用組合は415組合から163組合と約4割と共に激減している。また、地域銀行においても、地方銀行数は64行と変わっていないが、第二地方銀行の数は68行から44行と7割弱となっており、再編が進んでいる(付表1-8)。

1990年度以降の地域銀行の合併をみると、地域別では、近畿が最も多く、北海道・東北、九州がそれに続く(第1-1-17図)。また、こうした合併の内訳をみると、地方銀行と第二地方銀行の合併と、第二地方銀行同士の合併とがほぼ半数ずつを占める。ただし、こうした地域銀行の合併のほぼ全てが、同一県内に本店を置く銀行間によるものである9。なお、この他、合併ではなく、持株会社による経営統合方式をとっているケースもある10。さらに、今後の経営統合に向け、交渉が進められているものもある11

こうした地域金融機関の再編は、多額の不良債権により単独での存続が困難となったことや、2005年4月のペイオフ完全解禁に備え経営基盤を強化する必要が生じたことによっている。さらに、再編の背景としては、「金融機関等の組織再編成の促進に関する法律」12(組織再編成特措法)や「金融機能強化のための特別措置に関する法律」13(金融機能強化法)に基づき、地域金融機関の再編を促す制度が整備されたこともある。地域経済の活力が低下する中で、地域銀行の経営効率化は従来に増して求められており、引き続き合併等による経営基盤の強化の動きがあるものと思われる。

また、人口減少等により自らの地盤である地域の活力低下に直面する中で、地域金融機関の中には、従来型の金融サービスだけではなく、地域金融機関の持ち味を活かし、地元企業、自治体、大学、NPO等の多様な主体と連携して、自らの地盤である地域の活性化に向け、積極的な取組を行う事例も増えている。

第1-1-17図 1990年度以降の地域銀行の合併
-近畿、北海道・東北、九州等で進む地域銀行の合併-

第1-1-17図

(備考) 1. 全国銀行協会「銀行の提携・合併リスト」により作成。
2. 地域区分はA。

7.
金融庁によれば、地域銀行の自己資本比率(足利銀行を除く)は、2008年3月期10.7%、同年9月期10.4%。
8.
2008年12月1日現在。
9.
県外の地域銀行同士が合併した事例はこれまでで1件。
10.
持株会社による経営統合方式は、北海道・北陸、中国、九州でそれぞれ1件ずつある。
11.
公表されているもので、東北、近畿でそれぞれ1件。
12.
施行は当初2003年1月~2008年3月。なお、改正法が第170回国会にて2008年12月に可決成立し、施行期間が2012年3月末まで延長された。
13.
施行は当初2004年8月~2008年3月。なお、改正法が第170回国会にて2008年12月に可決成立し、施行期間が2012年3月末まで延長された。

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