第1章 第1節 2.不振が続く建設・不動産業

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(各地で増加した建設・不動産業の倒産)

耐震偽装問題の再発を防止するため、建築基準法が建築確認・検査の厳格化を柱として改正され、2007年6月に施行されたが、改正内容の周知が十分でなかったことや、大臣認定構造計算プログラム4の認定が遅れたことがあり、建築確認手続の現場が混乱し、建築着工が大幅に減少した。このため、2007年後半以降、新設住宅着工戸数、建設着工床面積(民間非居住用)ともに、全地域で大きく低下した(付図1-2付図1-3)。

また、マンション発売戸数についても、2005年をピークに低下を始め、2007年には前年と比べ2割程度の落ち込みとなった。新築マンションの販売在庫も、2007年後半から首都圏や近畿圏をはじめ各地で積み上がり、建設・不動産の業況を一層悪化させることとなった(付図1-4付図1-5)。さらに、サブプライムローン問題が顕在化していく中で、不動産投資信託(REIT)や外資系の不動産ファンド5の資金引揚げ の影響による信用収縮の深刻化により、新興不動産会社が倒産し、こうした新興不動産業者に対する焦げ付きが中堅建設業者に発生した。こうしたことから、2008年夏以降、建設・不動産業を中心に倒産件数が急増するとともに、大型倒産が各地で発生した(第1-1-4図)。

倒産件数をみると、全ての地域において、2008年に入り増加している。業種別では、建設・不動産業の増加が目立っている。2008年第3期でみると、北陸、近畿、中国、四国、九州・沖縄といった西日本地域における倒産件数の増加の多くが、建設・不動産業における倒産である。

(各地でみられた老舗建設業者の倒産)

2008年第2期と第3期について、負債総額50億円以上の大型倒産の件数を地域別にみると、上場企業の倒産が多かったこともあり、多くの大企業が本社を置く南関東が突出している(第1-1-5図)。南関東では、大型倒産のうち、建設・不動産業の件数が2008年第2期から第3期にかけて2倍強の伸びとなっている。

南関東以外の地域については、東日本に比べて西日本において、大型倒産に占める建設・不動産業の割合が高い。北陸、中国、四国、九州では、大型倒産の大半が建設・不動産業であった。

第1-1-4図 倒産件数 産業別寄与度
-各地で建設・不動産業を中心に倒産が増加-

第1-1-4図
(備考) 1. (株)東京商工リサーチ「倒産月報」により作成。
2. 地域区分はA。
 

第1-1-5図 大型倒産件数(負債総額50億円以上) -各地でみられた建設・不動産業の大型倒産-

第1-1-5図

(備考) 1. (株)東京商工リサーチ「倒産月報」により作成。
2. 地域区分はA。

2008年に入ってからの建設・不動産業の大型倒産をみると、売上額が県下トップクラスの老舗建設業者が多く含まれている。こうした業者の倒産理由の共通点としては、公共事業を中心とした事業展開を行ってきたものの、近年の公共事業の削減や、入札制度の透明化等による入札価格の低下によって収益が悪化したことが挙げられる。なかには、新たな収益源を求め、マンション分野に参入したものの、2007年後半からのマンション販売の不振等による資金繰りの行き詰まりから倒産に至るケースもみられた。こうした地場の大手・中堅建設業者の倒産は、取引先の下請け建設業者等での不良債権の発生や受注減少による業績悪化を招くことも多い。

こうした老舗建設業者の倒産の背景の一つである公共事業の縮小について、建設事業者数との関係からみてみよう。近年、財政再建のため、国・地方ともに公共事業費を縮小させてきたが、こうした中で、建設業許可業者数も減少傾向にある。そこで、建設業許可業者数がピークであった2000年度から2007年度までの7年間において、公共事業請負金額と建設業許可業者数のそれぞれの減少の程度を比較してみた。この7年間で、公共事業請負金額は日本全国で約8%減少しているのに対して、全国の建設業許可業者数は2%の減少にとどまっており、公共事業費が事業者の減少を大幅に上回るペースで減少していることが分かる(第1-1-6図)。

地域別でみても、全ての地域で、公共事業費が建設業許可業者の減少を大幅に上回るペースで減少している。また、建設業許可業者の減少率と公共工事請負金額の減少率を比較すると、北海道、東北、四国といった公共投資の割合の高い地域でその差が大きい。こうした地域では、建設業者の過剰の度合いが高くなっており、業者間の競争も激化しているものと考えられる。

第1-1-6図 公共工事と建設業許可業者数 平均増減率(00年度→07年度) -建設業許可業者の減少を上回る公共工事の減少-

第1-1-6図

(備考) 国土交通省「建設業許可業者の現況」、保証事業会社協会及び北海道建設業信用保証(株)・東日本建設業保証(株)・西日本建設業保証(株)「公共工事前払金保証統計」により作成。

(地価の下落)

市街地価格指数の推移を用いて地価の動向をみると、2008年3月には、地方圏ではまだ下落が続いていたが、下落幅の縮小がみられた。一方、関東と近畿では、2007年3月に上昇に転じ、2008年3月には上昇率は鈍化していたものの、依然好調であった。しかし、2008年9月には、マンションを中心とした住宅販売の不振に加え、世界的な金融危機により不動産市場に資金が流れにくくなったこと等もあり、これまで上昇していた関東や近畿でも下落に転じた(第1-1-7図)。

関東や近畿では、特に東京区部や大阪府といった都心部での下落率が大きかった。なかでも、東京区部は、2004年9月以降、上昇の増勢を強めていたが、2008年3月にほぼ横ばいとなり、9月には他地域に比べ大きく下落した。こうした資産価格の下落は、不動産業者の収益環境を一層悪化させるものとなっている(第1-1-8図)。

第1-1-7図 地域別市街地価格指数(全用途)
-地価は上昇していた関東や近畿でも低下-

第1-1-7図

(備考) 1. (財)日本不動産研究所「市街地価格指数」により作成。
2. 前期比=半年間の変動率。
3. 地域区分はC。但し、長野県は東海に含む。

第1-1-8図 市街地価格指数(全用途)
-地価は東京区部で急激に低下-

第1-1-8図
(備考) 1. (財)日本不動産研究所「市街地価格指数」により作成。
2. 前期比=半年間の変動率。

4.
大臣認定構造計算プログラムとは、改正建築基準法の規定による国土交通大臣の認定を受けた構造計算プログラムであり、建築物の構造計算の迅速かつ適確な実施に資するものである。偽装を確実に排除できる改ざん防止機能のほか、多様な設計に対応できる汎用性を備える。認定プログラムを用いた建築確認申請は審査期間が短縮される。
5.
外資系の不動産ファンドなどが資金繰りに窮した結果、不動産会社が外資系ファンドへ物件の転売を予定通りに行えず倒産に至った事例などがある。

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