第1章 第1節 1.外需の弱まりにより生産は減少へ

[目次]  [戻る]  [次へ]

日本経済は、サブプライム住宅ローン問題を背景にした原油・原材料価格の高騰、輸出の緩やかな減少等により、2007年の年末には景気後退局面に移行している。それでも、当初は、景気の減速テンポは緩やかであった。しかし、2008年秋以降、欧米の大手金融機関の破綻を契機として、欧米で金融危機が深刻化し、その影響が世界経済全体に急速に広がっていくなかで、日本の景気も悪化している。

こうしたなかで、地域経済をみると、2007年秋には、北海道では弱い動きがみられたものの、ほぼ全ての地域でまだ景気は回復していた。しかし、2008年半ばに、北海道や東北では、ガソリン・灯油価格の上昇によるマイナスの影響を大きく受けたこともあり、景気は弱含みとなった。また、多くの地域で、生産動向が弱含みとなり、個人消費や雇用情勢といった家計部門もより弱まった。そのため、これまで景気の回復が続いていた南関東や東海でも回復の動きに足踏みがみられるようになった。さらに、2008年秋以降は、ガソリン価格は下落局面に入ったものの、100年に一度と言われるような世界的な金融危機や景気減速の影響を地域経済も大きく受けている。これまで輸出に牽引されてきた東海や南関東でも、生産動向が減少し、それに伴い雇用情勢も悪化しつつある等、厳しい状況にある地域が広がっている(第1-0-1図、第1-0-2図)。

第1-0-1図 各地域の景気判断(内閣府「地域経済動向」08年5月 → 8月 → 11月)
-厳しい状況が一層広がっている-
 
第1-0-1図
(備考) 各地域の鉱工業生産、消費、雇用等の指標及び各種の情報を基に、内閣府が四半期に1度各地域の景気動向を取りまとめたもの。
08年11月は、主に08年7-9月期の指標で判断。
第1-0-2図 各地域の景況感の推移
-景気の実感は南関東、東海で大きく悪化-
 
第1-0-2図
 
(備考) 1. 内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。
2. 地域区分はA。
 
以下では、2008年の地域経済の動きを大きく企業部門と家計部門に分け、それぞれの部門を取り巻く状況の変化をみることとする1

第1節 企業部門を取り巻く状況の変化

1.外需の弱まりにより生産は減少へ

(各地で減少する生産)

2007年後半からの各地域における生産動向を地域別の鉱工業生産指数によってみてみることとしよう。鉱工業生産の変化率(前期比)をみると、2007年下期(7月~12月)には、ほぼ全ての地域で鉱工業生産は増加していたが、2008年上期(1月~6月)になると、多くの地域において減少に転じた。2008年第3期には、多くの地域で減少となり、特に、これまで生産動向が好調であった関東、東海、九州で、2008年第2期から2008年第3期にかけて減少幅が拡大し、減少のテンポが速まった(第1-1-1図)。

第1-1-1図 鉱工業生産指数 変化率
-各地で生産は減少に-

第1-1-1図

(備考) 1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
2. 地域区分はB。
3. 平成17年基準。
   

さらに、鉱工業生産の変化率を、「一般機械」、「電子部品・デバイス」、「輸送機械」といった業種別に寄与度分解してみた。それによると、2006年、2007年にはこれらの業種が景気の牽引力となっていた。2007年下期においても、ほぼ全ての地域において、これら3業種は鉱工業生産の増加に対してプラスに寄与していた。しかし、2008年上期には、世界経済の減速を背景に、「一般機械」がほぼ全ての地域でマイナスの寄与となり、世界的なIT関連生産財の需給軟化もあり、「電子部品・デバイス」も多くの地域でマイナスの寄与となった。また、「輸送機械」も、欧米での乗用車販売の不振から、東海等でマイナスの寄与となった。さらに、2008年第3期になると、関東、東海、北陸、四国、九州で、「一般機械」、「電子部品・デバイス」、「輸送機械」の3業種全てがマイナスの寄与となっている(第1-1-2図)。

第1-1-2図 鉱工業生産指数 業種別寄与度
-一般機械、電子部品・デバイス、輸送機械が増加から減少に-

第1-1-2図

(備考) 1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「鉱工業指数」により作成。
2. 地域区分はB。
3. 電子部品・デバイスにおいて、北海道、四国は電気機械の生産指数を用いて作成。
4. 平成17年基準。

(地域間で時間差のみられた輸送機械の減少)

2008年第3期における鉱工業生産の減少率は東海で最も大きかったが、これは、東海の主要産業である輸送機械が大きく減少したためである。他方、工業製品出荷額に占める輸送機械の割合が、東海に次いで高い地域についてみると、輸送機械は、九州では小幅に減少したが、中国では僅かながらも増加した。こうした地域間の違いは、輸送機械、特に自動車の輸出先の違いによるところが大きい。

東海からの輸出2をみると、2007年は年後半に増加スピードがやや鈍化したものの、前年同期比10%程度の高い伸びを維持し、自動車、自動車用部品、一般機械、電気機械の全てが輸出総額の増加に対しプラスに寄与していた。しかし、2008年に入ると、自動車輸出がほぼ前年並みとなったことで、輸出総額の伸びも鈍化し、2008年第2期以降は、前年比5%程度の減少となった。さらに、10月の輸出は、自動車輸出が更に減少し、前年同月比15%程度の減少となっている(第1-1-3図)。

第1-1-3図 自動車等の輸出動向
-自動車輸出の減少が東海から九州・中国へ-

第1-1-3図

(備考) 1. 財務省「貿易統計」により作成。金額ベース。
2. 東海からの輸出については、名古屋税関管内(長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)からの輸出を用いた。
3. 九州・中国からの輸出については、門司税関、長崎税関、沖縄地区税関の管内(九州7県(福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県)、山口県、沖縄県)からの輸出を用いた。

一方、九州・中国からの輸出3、自動車が好調であったことから、2008年第3期まで高い伸びを維持した。このように、2008年の自動車輸出の動向が地域間で異なるのは、東海からの自動車輸出の大半が米国向けであり、米国での販売不振の影響を受け、急速にその米国向け輸出が減少したのに対して、九州・中国からの自動車輸出は、アジア向け比率が高く、それが2008年第3期まで堅調に推移したためである。しかし、米国に端を発したサブプライムローン問題が世界各地に飛び火し、2008年秋以降、景気減速が世界的な広がりをみせる中、10月には九州・中国からの自動車輸出も減少に転じた。

(世界的な景気後退や円高など、生産を巡る環境の悪化)

今後の生産動向については、懸念材料が多い。「景気ウォッチャー調査」の企業動向関連の現状判断DIの推移をみると、2007年半ば以降は低下傾向にあり、2008年に入って一度持ち直したが、春以降、再び低下傾向を示している。特に10月に景況感が急速に冷え込んで大幅に低下した後、11月にはさらに低下した。業種別にみると、製造業における景況の悪化が著しく、製造業DIの10月における低下幅は、現行調査方法となった2001年8月以来、最大であった。さらに、先行き判断DIについても、先行き懸念の高まりから、10月の製造業DIの低下幅は、01年8月以来最大となり、11月にはさらに低下した(付図1-1)。

景気ウォッチャーの2008年10月調査のコメントをみると、「円高の影響もあり、輸出関連の受注が低迷している。国内市場向けも低調である(北陸=繊維工業)」、「自動車産業の売上不振により、ここ数か月は見積りすらない(九州=一般機械器具製造業)」といった声が寄せられている。欧米における金融危機の深刻化やそれに伴う世界的な景気減速、急速な円高により、自動車や半導体関連を中心に海外からの受注が減少しつつあること等に言及するコメントが多かった。

さらに、11月調査のコメントをみると、「最近設備投資を行った企業でもリストラが始まるようである(北関東=電気機械器具製造業)」、「自動車関連企業を始め大企業から設備投資のキャンセルが相次いでおり、需要は前年の半分ほどに減少している(東海=鉄鋼業)」、「国内・国外共に受注が止まっている。円高により、海外客からの受注キャンセルや延期が出ている(北陸=一般機械器具製造業)」といったものが目につく。景気の急速な悪化に対応するためのリストラ、設備投資の見送り、受注のキャンセル等が指摘されており、生産を取り巻く状況の悪化が読み取れる。

2008年秋には、輸出型製造業を中心に各社から減産計画が相次いで発表されたが、収益環境の予想以上の悪化から、年末に向け、減産レベルを当初の減産計画よりもさらに引き下げることを発表する企業も多い。加えて、減産計画の発表が、自動車産業から他業種にも広がってきている。各地域の多くの業種で生産に対する下方圧力が一層強まっている。


1. 本章での家計・企業部門での分類は、あくまでも便宜的なものであることに注意が必要である。例えば、観光は、消費者のサービス消費といった観点からみれば家計部門に関わるものであり、地域の産業振興や雇用創出といった観点からみれば企業部門に関わるものである。このように、経済的活動の多くは、企業・家計部門の両方に関連していることが多い。
2. 東海からの輸出については、名古屋税関管内(長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)からの輸出を用いた。
3. 九州・中国からの輸出については、門司税関、長崎税関、沖縄地区税関の管内(九州7県、山口県、沖縄県)からの輸出を用いた。

[目次]  [戻る]  [次へ]