第1部 第2章 第1節 グローバル化に適応する地域の製造業 1.
第1節 グローバル化に適応する地域の製造業
1.製造業の概況
(1) ともに上昇する海外生産比率と輸入浸透度
初めに海外生産比率の推移をみると、製造業全体では、93年の7.4%から2002年には17.1%まで上昇している。業種別にみると、輸送用機械が同期間内で17.3%から47.6%と約3倍、電気機械も12.6%から26.5%と約2倍の伸びとなっている(第1-2-1(1)図)。繊維、化学、鉄鋼、非鉄金属の素材型業種をみると、製造業全体は下回っているものの、総じて約2倍の伸びとなっており、海外生産比率は着実に高まっている。
また、業種別の輸入浸透度をみると、製造業全体としては10年間で緩やかに上昇しているが、このうち電気機械、繊維では顕著に上昇している(第1-2-1(2)図)。
一方で、地域の製造業の雇用はどうなっているのだろうか。99年から2001年にかけて、地域別・業種別に従業者数の増減率の寄与度をみる(第1-2-1(3)図)。
製造業は全地域で減少し、特に北陸、中国、四国では5%を超えて減少しており、中でも、繊維の減少寄与度が大きくなっている。また、東北、北関東、四国では電気機械の減少も大きくなっている。一方で東海では輸送用機械が、九州では電気機械がそれぞれ増加寄与を示しており、地域ごとの産業構成の差がみられるところである。
さらに、地域別に一人当たりの付加価値額の推移をみると(第1-2-1(4)図)、99年から2002年では、地方圏の各地域がおおむね上昇している中、南関東では低下している。とりわけ増加しているのは北陸、東海、中国であるが、いずれの地域も従業者数は減少している。
(2) 自治体の工場誘致策に差はみられるか
海外生産比率の高まりは、すなわち工場の海外移転や国内の生産拠点の集約を意味しており、これが雇用に影響を与えている。こうした中、自治体は様々な工場等の企業誘致策を取っている。しかし、第1章でみたように、長期的にみるとサービス経済化が着実に進展している中で、なぜ、製造業、つまり工場の誘致が必要なのか。
自治体にとっては、地域の雇用を確保することはその地域に住む人々が豊かな生活を送る上で当然のことと言える。また、補助金の支出を上回る税収の増加も期待できる。本年度の経済財政白書で分析したとおり(4)、県民所得、つまり地域の経済格差は労働生産性の違いと密接な関係があり、製造業、サービス業等に従事する人の割合が高いほど、その地域の生産性は高いという傾向がある。また、上記白書では、製造業への特化度が高い地域ほど失業率は低いという分析も示されている。よって、自治体にとって、製造業、工場誘致はいまだに重要な政策になっていると言える。
自治体の誘致策にはどのようなものがあるのか。中身をみると、補助金の交付や工場用地のリース制度、工場立地に対する融資制度、法人事業税や不動産取得税等の免除若しくは軽減等と多種多様である。
補助金については、金額や目的によっての明らかな相違がみられる。日経グローカル(5)の「47都道府県調査・主要製造業調査」によると、1億円に満たない雇用補助金から、最大90億円を支出する工場の新設にかかる設備投資に対する補助金まで様々である。
一方で、「先端医療産業特区(6)」の認定を受けている神戸市のように、補助金だけではなく、規制緩和の特例措置を活用することで企業が進出を決定する事例もみられ、補助金の多寡が工場誘致に直結するというわけでは必ずしもないと言える。誘致策は自治体の知恵の絞りどころと言うべきだろうか。
(3) 2年ぶりに前年を上回った新設工場立地件数
こうした中、工場の立地状況はどうなっているのだろうか。
ここ10年間の新規工場立地件数をみると(第1-2-1(5)図)、96年、2000年、2003年は前年を上回ったものの、その他の年はすべて前年を下回って推移している。
2003年は2年ぶりに国内の工場立地件数が前年を上回った。この中には海外での立地を検討したものの、国内で立地した企業が含まれており、これは海外と比較して国内立地に優位性を認める企業もみられるということを意味している。付加価値の低いものは海外で、付加価値の高いものは国内で、という生産のすみ分けが進んできたためとも言える。また、経済産業省「海外事業活動基本調査」(2003年)で海外への進出動機をみると、「現地販売の拡大」が最多となっており(7)、単なるコスト削減のための進出ではなく、市場開拓型の海外進出も進んできていると言える。
工場の国内回帰の動きはみられるが、長期的にみて海外生産比率や輸入浸透度はなおも上昇し、世界との結び付きは更に強まると考えられる。その際に企業はどのような対応を取ることが戦略的に望ましいのか。行政はどのような支援を行っていけば良いのか。以下では、グローバル化の流れに対応しながらも国内に製造基盤を有している企業等の事例を研究することとする。