第4節 公的金融を巡る諸問題

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91年以降の今回の緩和期は,金融緩和にもかかわらず民間金融機関の貸出の伸び率が低下を続ける一方,政府系金融機関の伸び率が高まった年もあった。うち,97年度には,民間金融機関のいわゆる「貸し渋り」等に対応するため,中小・中堅企業等に対して新たな融資制度を創設するなどの措置が講じられた。

このように,政府系金融機関は民間部門を補完しながら重要な役割を果してきていると考えられるが,同時に財政投融資の対象分野・事業や資金調達面における改革の議論が進んでいる。

(政府系金融機関と民間金融機関の貸出の関係)

民間金融機関のいわゆる「貸し渋り」状態が続くなかで,政府系金融機関においては,財政投融資を適切に活用し,中小・中堅企業等の資金需要に応えるべく対応が図られている。これまでの民間金融機関と公的金融機関の貸出動向をみると,民間金融機関の貸出伸び率の低下に比べて,政府系金融機関の伸びがより低くなる傾向にあった(注1)。今回の緩和期をみると,金融緩和にもかかわらず民間金融機関の貸出伸び率が低下を続けた。政府系金融機関の貸出伸び率は低下したが,91年以降民間金融機関の伸び率を上回っている(第3-4-1図)。

次に,政府系金融機関の融資残高の伸び率をみると,ほぼ一貫して名目GDP成長率を上回っている。70年代には20%前後の伸び率を続けたあと,80年代には伸びを低めた。90年代前半のバブル崩壊後の景気後退局面では,経済成長率が低下し,民間銀行の貸出の伸びが低下する一方で,政府系金融機関の融資残高は再び伸びを高めた(第3-4-2図)。

(いわゆる「貸し渋り」と政府系金融機関貸出)

政府系金融機関は,民間金融機関のいわゆる「貸し渋り」に対し,健全な企業への資金供給を円滑化することを目的に対応が図られている。したがって,民間金融機関のいわゆる「貸し渋り」が,金融機関サイドの要因によるところが大きいとすると,民間金融機関の貸出を補完する形で政府系金融機関の貸出が伸びたとしても,特に貸出債権の資産内容が悪化することはない(注2 )。

 政府系金融機関は,民間金融機関の貸出態度慎重化により中小・中堅企業等に対する必要な資金供給が妨げられることがないよう,積極的に融資を行なっている。

第3-4-3図 政府系金融機関の延滞債権比率

(公的金融における能動的な資金調達の必要性)

上記のように,景気が低迷している場合に政府系金融機関が積極的に融資を行うことで景気循環を安定化させる機能を果たしてきたと考えられる。これを資金調達面からみる場合,多くの調達手段があるわけだが,例えば郵便貯金についてみると,過去の金利低下局面で郵便貯金の金利低下が民間銀行の預金金利の低下に遅れていたことから,金利低下期に郵便貯金の伸び率が相対的に高まっている。ただし,今日では郵便貯金の金利は民間金融機関の預金金利等を参考に決定することとなっており,郵便貯金の金利低下が民間銀行の預金金利の低下に遅れていたことによる郵便貯金の伸び率の相対的な高まりはすでに見られなくなっている。

金融自由化の流れの中では,郵便貯金に限らず資金調達面において,予想しがたい経済環境の変化によって上下に振らされることが想定される。また,現状では財政投融資の出口の所要資金量と入口の資金量が切り離されていることなどの問題点も指摘されていることから,財政投融資の資金調達について必要な額を能動的に調達することとすべきである。その際,マーケットメカニズムが可能な限り働くようにすることも検討される必要がある。

(財政投融資の改革の方向)

財政投融資改革についての議論が進められている。

財政投融資の性格としての有償資金にふさわしい分野,事業に限定するために,償還確実性を精査する必要があり,そのためにも対象事業のコスト分析手法により将来に生ずると考えられる税負担等を予め割引現在価値ベースで定量的に分析する手法の導入が検討されている。

また,調達面に関しては,現在原資となっている郵便貯金及び年金積立金の預託義務が廃止されることとなっているが,先に述べたように,今後財政投融資における原資が能動的に調達される場合の新たな財政投融資の資金調達のあり方として,①財投機関債(政府保証のない特殊法人債券),②政府保証債(政府保証のある特殊法人債券),③財投債(国の信用で市場原理に基づいて一括調達する債券),等が考えられている。

財投債は,国が政策として事業を進めていくと判断した以上,国の信用で市場原理に基づいて一括して調達することにより,国の負担を最小限に抑える必要があるとの考えに立っている。財投機関債では,それぞれの機関がその財務について市場の評価を受けることにより,経営効率化が促されることが期待される。しかし一方で,財政投融資対象機関はそもそも純粋な民間セクターでは採算に合わない事業を政策として行なっているため,一般的には市場の評価は低くなり調達コストは高まることが予想される(そもそも政府の保証なしで資金調達に支障のない機関は民営化されるべきであるとも言える)。それぞれメリット,デメリットがあり,現実的には両者を併用してそれぞれの長所を生かしていく必要があろう。

財投機関債の場合,財務について市場の評価を受け事業の効率化が促されることが期待されている。これに関して「暗黙の政府保証」の有無が重要になる。例えば,現在でも政府保証のない債券を発行する特殊法人は存在するが,その債券の利回りをみると,市場では「暗黙の政府保証」が付されていると認識されていると推察される。例えば,昨年11月の金融機関の破綻で信用リスクが急激に高まった結果,社債と国債の流通利回り格差は拡大した。これに対し,政府保証のない特殊法人の発行する債券の国債との利回り格差は,ある程度拡大はしているが,その程度は金融債,A格債ほどは拡大していない(第3-4-4図)。これは,これら特殊法人の発行する債券は明示的な政府保証はないが,「暗黙の政府保証」が付されていると市場で認識されている結果であると考えられる。すなわち,これら法人の経営に問題が生じた時に公的部門の支援が受けられることを市場参加者が期待している結果であると考えられる。

このように財投機関債に「暗黙の政府保証」があると市場に認識されている場合には,財務について市場の評価を受け効率化を促すという効果は期待できない。そのため,実施にあたっては,財投機関債発行法人等についての破たん及びその処理の仕組みの法的整備,補給金の取扱い,ディスクロージャーの取扱いといった点に関し,市場の評価が適切に行われるための条件整備を進めておく必要がある。

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