第3章 各種構造改革下の経済政策

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90年代に入って累次の裁量的な財政政策や金融緩和政策は景気を下支えする効果を持ったものの,結果として経済の自律的回復が定着しなかったことから,裁量政策の有効性について議論になっている。需要面を刺激しようとする政策が,短期的効果だけでなく民間需要主導の自律的回復に結びつくためには,需要追加が企業や家計の将来予想を改善し,投資行動を誘発する必要がある。したがって,バブルの後遺症を克服し,民間部門のコンフィデンスを回復するよう,第2章で論じたような供給面から経済体質を強化する効果を持つ政策が同時にとられることによって,政策効果は持続性を持つと考えられる。さらに,90年代の日本の景気回復が緩慢だった背景には資産市場の低迷や企業・金融機関のバランスシート問題があり,これが需要刺激効果を顕在化させなかったとみられる。

マクロの財政政策の効果がバブル崩壊後顕在化しなかった理由として,次のような可能性が考えられる。第一に,潜在生産能力の伸びの低下が家計や企業の将来予想を弱めているほか,資産価格下落などの影響によって民間需要が抑えられ,財政刺激策の波及効果が中断した可能性である。第二に,限界消費性向の低下や限界輸入性向の上昇によって財政の乗数が過去に比べて下がった可能性である。第三に,財政赤字が無視し得ない大きさになってきたことで,人々の財政赤字についての意識が深まり,財政赤字の拡大に対して,家計の行動が慎重になってきた可能性である。裁量的財政政策の需要拡大効果が顕在化しなかったのは,これらの要因のうち,バブルの後遺症(第一の要因)によって民間需要が減退し,その効果が減殺されたところが大きい。

金融緩和策についても,企業の資本コストの軽減や,企業・金融機関のバランスシートの改善を通じて景気へのプラス効果を持ったはずであるが,資産デフレの影響が残り,そして期待成長率の低いなかでは効果は十分発揮されていない可能性がある。

また,金融機関の貸出態度慎重化も,実体経済に影響を及ぼした。不良債権に関しては,金融機関が不良債権等に関する情報開示を正しく行っていないのではないかといった疑念もみられることが金融システムの安定性に対する不透明感が払拭されないひとつの背景となっている。各金融機関のこれまでの不良債権の償却は間接償却といった,いわば「帳簿上の処理」が中心であった。不良債権問題の抜本的解決のためには,債権債務関係を整理し,債権回収を進めることが重要であり,このためには,担保不動産の売買や有効利用が促進される必要があり,不動産市場の改善・活性化が重要である。

景気回復を妨げた要因の一つに,いわゆる「貸し渋り」があった。株価の下落が評価損計上による収益減や含み益減少を通じ自己資本比率押し下げ要因となり,早期是正措置導入を控えた銀行は貸出に極めて慎重になった。金融システム安定化のための各種政策もあって,さしあたり98年3月期は乗り切ったが,財務内容を改善し収益性を高めようとする金融機関の貸出態度の厳しさは続いている。

98年度には,景気の著しい停滞から脱し,アジア経済の回復にも貢献すべく,過去最大規模の「総合経済対策」が取りまとめられた。この対策は,すでに決定され実施に移されている,規制緩和等の経済構造改革,特別減税や法人税・有価証券取引税・土地関係税制の減税,金融システム改革,金融システム安定化策などとあいまって効果を発揮すると考える。一方で供給サイドから経済体質を強化し民間の自由な活動の機会を広げるとともに,他方で需要面から緊急措置をとるのであって,単に需要面の刺激策と考えるべきではない。

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