第10節 財政政策と経済対策
97年度には,95年度から先行実施されている所得税等の恒久減税と一体のものとして法定されていた消費税率の引上げが行われ,また,当時の経済事情等を踏まえた結果,特別減税は実施しないこととされるとともに,11月には「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が成立した。しかし,97年秋以降の経済・金融情勢に対応するため,各種の経済構造改革や金融システム安定化策とともに,財政面からも特別減税,97年度補正予算,98年度公共事業等の前倒し執行を行い,さらに4月には過去最大規模の「総合経済対策」が決定された。第3章第1節で詳しく述べるように,今次の財政面からの措置は,単なる需要面からの景気刺激策というだけではなく,経済構造改革や不良債権処理などを通じて日本経済の供給サイドを強化し,また国民の先行き不透明感を払拭することを同時に狙ったものである。なお,財政構造改革法は一部修正されたが財政構造改革の基本的骨格は堅持されており,財政運営の将来展望を明らかにするのに資すると考えられる。
(財政構造改革と平成10年度予算)
人口構造の高齢化,我が国の経済社会情勢の変化など財政を取り巻く環境が大きく変化している中で,我が国の財政は急速な悪化をみている( 第1-10-1図)。このため,97年1月に財政構造改革会議が発足し,3月には「財政構造改革五原則」が示された。これを踏まえ,6月に「財政構造改革の推進方策」が決定され,「財政構造改革の推進について」が閣議決定された。政府は,これらを法律により明確化するため,「財政構造改革の推進に関する特別措置法案」を国会に提出し,11月に成立した。
財政構造改革法は,財政構造改革の当面の目標(平成15年度(2003年度)までに国及び地方公共団体の財政赤字の対GDP比を3%以下とする。平成15年度までに特例公債依存から脱却する。平成15年度の公債依存度を平成9年度に比して引き下げる。)を定めるとともに,歳出の改革と縮減のための具体的な方策や枠組みを一体として定めている点に大きな特徴を有している(注1)。
このように財政構造改革の動きが本格化する一方,昨年秋に複数の金融機関の破たんやアジアの通貨危機が起きたことから,我が国の経済は足踏み状態となった。
こうした中で,平成10年度(98年度)予算は,昨年成立した財政構造改革法に従い,歳出全般について聖域を設けることなく徹底した見直しを行いつつ,限られた財源を重点的・効率的に配分している。また,長年の懸案である国鉄長期債務及び国有林野累積債務について具体的な処理策をまとめた。
歳出面については,一般歳出の規模を前年度当初予算に対して5,705億円(1.3%)の縮減を達成した。歳入面については,平成10年分の所得税・平成10年度分の住民税について2兆円の特別減税を行った。法人課税については,課税ベースの適正化が行われるとともに,法人税の基本税率が37.5%から34.5%に,法人事業税の基本税率が12%から11%にそれぞれ引き下げられた。金融関係税制については,金融システム改革を推進し,金融・資本市場の活性化を図るという政策的観点等を踏まえ,有価証券取引税,取引所税の税率を二分の一に引き下げられた。土地税制については,地価税の課税が当分の間停止され,法人の土地譲渡益に対する追加課税の一部が廃止されるなどの見直しが行われた。
以上の措置を受け,公債発行予定額については,前年度当初予算より1兆1,500億円減額し,15兆5,570億円となった。
(過去最大規模の「総合経済対策」)
バブル崩壊後の後遺症から脱しきれておらず,構造的な変動が続いている中で,アジアの金融・経済の混乱,大型金融機関の破綻やいわゆる貸し渋り等による家計や企業の景況感の悪化などの内外の悪条件が一斉に重なったが,これらの影響は従来からの予想を上回るものであり,実体経済にまで深刻な影響を及ぼし,景気は本年に入ってから一層厳しさを増した。
このような我が国経済の極めて深刻な状況が新たに判明したことに鑑み,政府としては更なる追加措置を講ずる必要があると判断し,我が国経済を力強い回復軌道に乗せるため,4月24日,総事業費16兆円超の総合経済対策を決定するとともに,財政構造改革法について,その時々の経済状況に応じ緊急避難的に適切な措置を講じ得る枠組みを整備し,財政構造改革の基本的骨格は堅持しつつ,必要最小限の修正を加えることとした。
この総合経済対策を実施するために必要な経費の追加等を行うほか,今回の対策に盛り込まれた税制上の措置に伴い租税及び印紙収入について減収を見込むとともに,公債金の増額等を行う平成10年度補正予算が5月11日に国会に提出され,6月17日に成立した。また,平成10年分所得税の特別減税のための法律案,財政構造改革法の改正法案などが提出され,成立した。財政構造改革法の改正法では,特例公債発行枠の弾力化を可能とする措置を講ずるとともに,財政構造改革の当面の目標年度を平成17年度とするなどとしている。また,景気回復を妨げている要因である不良債権問題の悪影響を真に払拭するために,土地・債権の流動化と土地の有効利用策も打ち出されており,債権債務関係の迅速な処理,不動産担保証券市場の整備等のほか,公共用地の先行取得等の措置も盛り込まれている。