第1章 景気停滞が長びく日本経済
第1章 景気停滞が長びく日本経済
1997年度は,自律回復過程への復帰が挫折して景気が足踏みし,停滞状態になった年である。税負担増やある程度の駆け込み需要の反動により「97年度前半は景気の足取りが緩やかになる」ことは,政府の経済見通しでも織り込んでいたが,影響は予想以上に大きく現われた。とくに96年度末の駆け込み需要は政府の予想を大きく上回り,その反動減も大きかった。その状況からは回復に向かったが,テンポは緩慢だった。さらに,秋口から生じた株価の下落,そして複数の金融機関破たんによる金融システムへの信頼低下等が,家計や企業の心理を悪化させ,回復を頓挫させた。アジア通貨・経済混乱も先行き不透明感の強まりを増幅した。現在景気は停滞を続け,厳しさを増している。
景気動向が昨年の政府の予想以上に厳しくなったのには,次のような三つの要因がある。第一は,消費税率引上げによる駆け込み需要の反動減及び消費税率引上げ,特別減税の終了等の影響が長引いたことである。今回の負担増の家計消費への影響は織り込んでいたが,7~9月期には回復に転じたもののテンポが遅かった。
第二は,バブル後遺症である企業や金融機関のバランスシート調整の遅れの問題である。この問題は,経営基盤の弱い金融機関の破たんの要因になっている面もある。また,不良債権問題等により金融システムへの信頼は低下しており,中長期的にも日本版ビッグバンを控えていることから,金融機関は収益性や健全性の向上のための見直しを進めている。金融機関は資産構成の健全化や収益性改善のために貸出抑制に向かわざるを得ず,これが,いわゆる「貸し渋り」問題として実体経済に影響を及ぼしている。政府・日銀の安定化策で金融システム不安は落ち着いたが,金融機関の貸出態度には依然として慎重さがみられる状況である。
第三はアジアの混乱である。これは各国が通貨のドル・ペッグへの固執や短期資本流入によるバブル的状況を放置したことが主因である。内外需の拡大を通じた日本の景気回復は,アジア製品の輸入拡大にも資するものである。
景気回復期にみられる好循環は再び断ち切られた。当初は家計の可処分所得・消費が減速,また企業の予想以上に需要が減速したことから在庫が溜まって生産調整に至ったが,次第にその影響が設備投資や雇用にも及んできている。そこで97年度末から98年度初にかけて景気下支えと金融システム安定化のための対策が取られ,とくに98年度に入って過去最大規模の「総合経済対策」がとられ,経済を下支えし更に上向かせようとしている。しかし,これが民需中心の持続的な回復につながっていくためには,規制緩和等経済構造改革,公正で透明な税制へ向けた検討,金融システム改革などを通じ,国民や企業の意欲が十分に生かされるようになることが必要である。民間部門が,積極的に新たな投資機会に挑戦するようになることを期待したい。
なお,以上述べたように,97年初以来の景気動向は,駆込み需要による盛り上がりとその反動による一時的落ち込み,その後の短期的回復と秋からのもう一段の落ち込みと,景気局面がめまぐるしく変わったが,経済企画庁は「景気基準日付」における景気の転換点(「山」)を暫定的に97年3月と認定した(注1)。