はじめに
1993年秋の景気の谷以来緩慢ながらも回復を続けてきた日本経済は,1997年度に入って,消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減に加え,消費税率引き上げ,特別減税の終了等の影響や,更に秋以降の金融機関破たんによる金融システムへの信頼低下等の影響もあり,景気は停滞状態となった。
政府は,1997年度当初からの消費税率引き上げや駆け込み需要の反動減に伴う景気の短期的減速は避けられず,97年度前半には景気の足取りは緩やかになるが,次第に回復テンポを取り戻し,自律的回復過程に入ると考えていた。駆け込み需要とその反動減は当初の予測を上回るものであったが,その後は景気は緩慢ながら回復の方向に向かっていた。しかし,秋以降の金融機関破たんによる金融システムへの信頼低下やアジア経済・通貨危機の影響もあり,景気は減速し,現在景気は停滞を続け,厳しさを増している。
家計需要の落ち込みと生産調整に始まった景気減速は,徐々に経済の諸方面に及び,投資や雇用も厳しい状況となっている。この過程で,バブル期の後遺症としての金融機関のバランスシートの悪化や企業の収益性低下などの調整が遅れたことの影響の大きさが改めて認識された。また,より長期的にも,将来の産業構造変化,日本的市場システムの変化,財政収支の悪化と将来の負担増などへの懸念が国民の積極的行動を抑制し,90年代を通じた低成長の要因となっていることも明らかになってきた。
これに対して,昨年11月から各種の経済政策がとられ,これによって景気の落ち込みといった事態は回避され,昨年度末にかけて心配された金融システム不安は落ち着いている。しかしなお,日本経済は停滞状態を続けている。こうした厳しい経済状態から早期に脱却するため,本年4月に過去最大規模の「総合経済対策」が策定された。今回の一連の対策は,景気の下支えとともに,日本経済の構造を改革し体質を強化する措置,そして,バブルの後遺症といえる不良債権を解決するための措置の三つを組み合わせたものである。需要面からの景気刺激策は,民間部門の投資意欲が弱まっているなかで効果が減殺されている面があるが,経済構造改革等の効果と相まって,我が国経済は自律的回復過程へ向かうことが期待されている。民間部門が,一連の政策によって広がった事業機会,投資機会を生かすよう,リスクをおそれぬ積極的行動に移ることを期待したい。