平成10年度年次経済報告(経済白書)公表に当たって
バブル崩壊後の長期の景気停滞の後,我が国経済は緩やかながら回復を続けていました。1997年度には自立回復過程への復帰は頓挫し,停滞状態に陥ることになりました。年度当初は,消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減が予想以上に大きく現れましたが,その後回復に向かっていました。しかし,秋以降の金融機関破たんによる金融システムへの信頼低下やアジア経済・通貨危機等が影響する中,家計や企業の心理の悪化,金融機関の貸出態度の慎重化等が実体経済に影響を及ぼしました。こうした状況を克服するため,昨年末から景気下支えと金融システム安定化のための対策を取り,また98年度に入って,過去最大規模の「総合経済対策」を決定しました。
確かに,日本経済は停滞し,金融システムへの信頼感の低下,高コスト構造の存在といった構造的課題に直面しています。しかし,こうした課題が誰の目にも明らかな今こそ,これらの課題の解決に取り組み,新たな創造的発展を遂げるための基礎を築くべきときなのです。不良債権処理をはじめとする金融システム改革,規制緩和を中心とした経済構造改革等の一連の政策により,日本経済が抱える構造的課題を解決していけば,新たに広がった事業機会,投資機会を通じた民間部門の積極的行動により,民需主導の自立的回復軌道への復帰が可能となるはずです。リスクを恐れず新たな機会に挑戦しようとする個人や企業の出現こそ,更なる発展を育むための不可欠な要素であり,そのための環境整備を行っていくことが政府に求められているのです。
本報告は,日本経済の現状を明らかにするとともに,当面の景気回復と中長期的な発展を可能とするためには何が必要かという問いにこたえようとするものです。
以上の内容を踏まえ,本年度の年次経済報告の副題は「創造的発展への基礎固め」といたしました。本年度の年次経済報告が,我が国経済の現状に対する理解を深め,その課題を解決する上で,いささかでも貢献できれば幸いであります。
平成10年7月17日
尾身 幸次
経済企画庁長官