平成5年

年次経済報告

バブルの教訓と新たな発展への課題

平成5年7月27日

経済企画庁


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第1章 低迷が続いた日本経済

第2節 慎重化した家計行動

1 低い伸びが続いた個人消費

今回の景気後退においては,個人消費は低い伸びとなった。これが今回の景気後退の特徴点であるとともに,景気の停滞の理由の一つでもあった。

まず,近年の消費の状況を概観し,次になぜ従来にないほど消費が低い伸びとなったのか,その理由を考えてみよう。

(全体としての消費の動向)

個人消費は,景気が調整局面に入った91年以降伸びが鈍化していたが,92年度には更に低い伸びとなった。

民間最終消費支出(国民経済計算,実質)は,87~90年度には年平均4~5%程度の増加となっていたが,91年度は2.6%増となり,92年度には1.0%増とさらに伸びが鈍化した。これは第1次・第2次石油危機直後に匹敵する低い伸びである(第1次直後の74年度1.4%増,第2次直後の80年度0.7%増)。しかも,92年度平均の増加の多くは,前年度からのゲタ(当該年度中横ばいの場合の年度平均でみた前年度からの増加率,1.3%)によるものであり,92年度中の伸びとしてはほぼ横ばいであった(93年1~3月期の前年比は0.5%増)。

総務庁の「家計調査」をみても,実質消費支出(全世帯)の伸びは,91年度の2.1%増の後,92年度は0.5%の減少となった。これを供給側からみると,全国百貨店販売額(通産省調べ,店舗調整済)は,91年3.8%増から92年には3.0%減とかつてない落込みとなった。この百貨店販売額の動きについては,法人消費が含まれていること,最近,価格が割安な郊外型専門店やディスカウント店との競争が激化していることなどにより,低めの数字が出ていることに留意する必要があるが,食料品など日用品の割合が高いチェーンストア売上高(日本チェーンストア協会調べ,店舗調整後)も,91年度の4.3%増から,92年度には1.3%減となっており,92年度に消費が一段と低い伸びとなったことは明らかである。

このように,全体の需要の約6割を占める消費が低い伸びとなったことが,今回の景気後退が多くの人々の予想以上に厳しいものとなった一つの要因であった。これまでの例では,消費はむしろ需要の下支え要因として作用することが多く,これは,①他の需要項目に比べて変動の度合いが小さいこと,②景気後退の影響は企業収益→雇用者所得→消費というルートで波及してくるため,全体としての景気に対して遅行することが多いこと,などによる。

では,なぜ今回は消費が低い伸びとなったのだろうか。以下では,この点を,①所得要因,②耐久消費財のストック調整要因,③バブル崩壊要因,④消費のデモンストレーション効果に分けて考えた上で,最後に消費性向の動きに注目する。今回,消費が低い伸びとなったのは,これらの要因が一様に同時に作用したわけではなく,異なる要因が波状的に作用したためだった。

(低い伸びとなった雇用者所得)

消費の動きを決める最も基本的な要因は所得の動きである。

今回の景気後退局面における実質雇用者所得の伸びを消費支出の動きと比べてみると( 第1-2-1図① ),91年度には,所得は堅調に増加していたものの,これにかい離して消費が低い伸びとなったが,92年度には所得の伸びが急速に低下し,これに歩調を合わせて消費の伸びも低下している。

では,92年度の実質雇用者所得の伸びはなぜ鈍化したのか。この点をみるために,実質雇用者所得を,賃金(さらに所定内,所定外,特別給与に区分),物価,雇用者数という三つの要因に分けてみる( 第1-2-1図② )。これによると,92年度に入ってから実質雇用者所得の伸びが鈍化したのは,所定外給与の大幅減少(91年度4.5%減→92年度10.7%減),ボーナス等の特別給与の伸びの低下(91年度4.4%増→92年度0.7%増),雇用者数の増勢鈍化(91年度3.2%増→92年度1.9%増)によるものだった。つまり,92年度には,景気後退が長期化するなかで,雇用調整の波が次第に残業時間,ボーナス等の特別給与,雇用者数へと波及して雇用者の実質所得の伸びを低めたのである。

(耐久消費財のストック循環)

もちろん,所得の動きだけで消費を説明できるわけではない。事実,91年度には所得の動きからは説明できないほど消費が低い伸びとなった。このかい離が結果的には消費性向の低下という現象に集約的に現れることになる。こうしたかい離を生じさせる第1の要因として考えられるのが,耐久消費財のストック循環である。

耐久消費財への支出と,その他のフローの消費は同じ消費支出としてカウントされているが,両者の経済的性格は大きく異なっている。フローの消費は,基本的には消費した時点で効用を享受し尽くしてしまうのに対して,耐久消費財への支出は基本的には投資であり,いったん保有してしまえば,かなり長期にわたってその財によってもたらされる帰属サービスを享受することができるからである。このため,家計は現在の所得水準のみならず現在の資産や将来の所得水準を考慮した上で耐久消費財ストック水準を想定し,それに現在のストック水準を調整しているものと考えられる(耐久消費財のストック調整)。このストック調整は連続的に行われるわけではなく,特定の時点でまとめて行われる場合が多い。これは,耐久消費財の場合には商品毎に特色・品質が異なるため,自分の好みに合った商品を探すためにコストがかかる(取引コストの存在)ためと,それを購入する際も小分けにして買い足すことよりも,乗用車や家電製品のようにこれまで使っていたものを処分して新たに買い換えることが多いためである。

また,各家計においては,ストックの償却を通じて一定の保有期間後には買換え需要が発生するが,マクロでみれば景気拡大期に耐久消費財の購入圧力が高まるため,買換え需要が同時期に発生しやすい。以上のようなことから,各家計におけるストックの変化分である耐久財消費(償却・廃棄分を除く)は他の消費よりも所得の変化に対する変動は大きくなり,ストック循環が形成されることとなる。

いくつかの家電製品,乗用車の国内出荷金額(実質)の動きをみると( 第1-2-2図 ),AV家電製品(ビデオカメラ,カラーテレビ,VTR)などについては4年前後の比較的明瞭なサイクルがみられる。特に,AV家電製品,白物家電製品の87~88年頃の山は高く,この時期にこれら耐久消費財の複数保有の広まり,大型化,高機能化などをアピールした新製品投入による需要掘り起こしにより,耐久消費財の保有水準が一段と高まったと考えられる。

こうした循環的動きからいえば,92年に入ってからは家電製品が増加に転じてくることが期待されたが,現実には需要は盛り上がらなかった。これは,上記の耐久財がバブル期に需要の前倒しが行われたというよりも,上記の耐久消費財消費が一巡する中で,乗用車,エアコンの需要がそれぞれ89年の物品税の廃止や90年の猛暑をきっかけに急増したため,その反動が当該品目ばかりでなく他の耐久財消費を更に抑制する方向に働いたものと考えられる。

このように,今回の景気調整局面における耐久消費財のストック調整は,第2次石油危機後の80~81年当時に匹敵する厳しいものだったが,93年に入ってからは白物家電(エアコンを含む),AV家電ともに底を打って反転の動きが出てきている。

(バブル崩壊の消費への影響)

91年度以降の消費に影響したもう一つの要因はバブルの崩壊を伴った株価等の金融資産価格の下落であった。

つまり,80年代後半以降の資産価格の上昇は,いわゆる「資産効果」を通じて消費を拡大させたが,90年以降の資産価格の下落は,「逆資産効果」を通じて消費の伸びを低くした。こうした点については,既に平成3年度及び4年度白書において分析されている。この間の資産価格の影響度合いを,資産効果も考慮した平均消費性向関数によって求めると( 後出, 第1-2-6図 参照),実質消費支出の前年比が81~85年平均の3.1%から86~89年平均の4.3%に高まったうち(1.2%上昇)の0.2%程度は株価上昇による資産効果で説明することができる。同様に,90~92年の消費の増加率が平均の2.6%へと鈍化したが(86~89年平均から1.7%低下),このうち逆資産効果による分が0.7%程度を占めるという結果が得られる。

具体的な消費の動きのなかにも,逆資産効果の影響と考えられる現象がいくつか観察される。例えば,資産効果は必需的な消費よりも通常は消費対象とならないような高額商品に現れるものと考えられるので,その反動としての逆資産効果も同様に高額商品に現れるはずである。そこで,百貨店の売上を品目別に見ると,美術工芸品,貴金属,高級雑貨等を含む「その他商品」が91年後半から特に大きく減少している(91年1.9%減,92年7.4%減)。

また,大型小売店販売額の動きを地域別にみると,90年までは三大都市圏の伸びが相対的に高かったが,91年以降は逆に低くなっている。資産価格の変動によるキャピタルゲイン,ロスは,地方圏よりも都市部において集中的に発生したことを考えると,これも間接的ながら,逆資産効果の存在を示唆している( 第1-2-3図 )。

(消費の「デモンストレーション効果」)

個人消費の動きは,個々の家計の経済状態に依存するばかりではなく,流行現象のように他の家計の消費行動に影響されるという面がある(「デモンストレーション効果」)。80年代後半のバブルの時期には,消費の「デモンストレーション効果」が強く働き,「周りの人々が買うから,自分も買う」という消費者行動を呼び,「高級化・ブランド志向」を生むなど消費者マインドを活発化させた。逆に,バブル崩壊後の91年度以降は,「周りの人々が節約しているから,自分も節約する」という態度を引き起こし,消費の伸びを低くする役割を果たしたものと考えられる。

(平均消費性向の動きの評価)

今回の景気調整局面においては,平均消費性向の動きが大変注目された。それは一つには,91年度には,消費性向が低下したために,予想以上に消費が低い伸びとなったからであり,もう一つは,景気後退期に消費性向が低下するということが,経済のメカニズムからしてパラドックスともいえる現象だったからである。

なぜ,パラドックスなのか。この点をみるために,まず,景気調整過程における平均消費性向の動きに関する考え方を整理しておこう。標準的な消費理論であるライフサイクル・恒常所得仮説によれば,当期の消費は当期の所得だけではなく当期の資産,将来の期待所得(の現在割引価値)を合わせた恒常所得に対応して変化する。この場合,各家計の借入難易度(流動性制約の程度)に応じて当期の所得の相対的重要性が変化する。ここで,恒常所得自体は将来の所得に関する予想が大きく変化しない限りは現実の所得に比べ安定しているため,景気調整過程に入り現実の所得の伸びが鈍化しても恒常所得に対応する消費はそれほど鈍化せず,結果的に平均消費性向が上昇することになる。このように消費が平準化されることにより平均消費性向が変化する現象は「ラチェット効果」と呼ばれている。

ところが,91年度には,景気後退期に入ったにもかかわらず,消費性向が低下したのである。国民経済計算ベースの消費性向は,90年度の86.5%から91年度には85.4%に低下した。

このパラドックスは,これまでに指摘してきた耐久消費財のストック循環,逆資産効果,「デモンストレーション効果」などによって説明することも可能である。しかし,これまでの景気後退期における平均消費性向の動きをチェックしてみると,おおむね景気後退期の初期に低下した後,上昇するというパターンが観察される( 第1-2-4図 )。つまり,景気後退期の初期における消費性向の低下は,決してパラドックスではなく,むしろ一般的に観察される現象なのである。

では,なぜ景気後退期の初期には消費性向が低下するのか。この点をみるために,ここでは,上記のライフサイクル・恒常所得仮説に加え,将来の所得の不確実性を通じる予備的貯蓄を考慮した消費性向関数による分析を試みる。まず,消費動向調査(経済企画庁)から得られる「収入の増え方」,「物価の上がり方」に関する項目についてのアンケート調査結果にカールソン・パーキン法(一定の仮定の下に,アンケートに対する定性的な回答を,具体的な数値に換算する方法)を適用することにより,家計の実質所得リスク(実質所得の期待増加率の標準偏差)を計測すると,今回の場合も含めて,総じて景気後退期の初期にはリスクの高まりが見られる( 第1-2-5図 , 付注1-1 )。次に,実質可処分所得の伸び,純金融資産の可処分所得比に,この実質所得リスクを説明変数として加えた平均消費性向関数を推計してみると,前述の「ラチェット効果」を表す実質可処分所得の伸びは消費性向にはマイナスに寄与し,資産効果(または逆資産効果)を表す純金融資産の可処分所得比は消費性向にプラスに寄与し,不確実性を示す実質所得リスクは消費性向にマイナスに寄与するという期待通りの結果が得られた。この分析に即して考えると,景気後退初期には,それまでの景気拡大期待が現実によって裏切られることになるため,特に不確実性が高まりやすくなり,これが消費性向を低下させ,その効果がラチェット効果を上回るため,結果的に消費性向は低下するものと考えられる。

この消費性向関数によれば,91年の消費性向の0.7%の低下のうち,所得リスク要因によって説明される分が0.4%,逆資産効果による分が0.2%となり,今回の消費性向の低下には,バブル崩壊による逆資産効果よりも,景気調整過程入りによる将来の所得リスクの上昇の方が大きく影響したという結論が得られる( 第1-2-6図 )。ただし,所得リスクの計測に当たっては,いくつかの方法が考えられ,この推計結果は十分な幅を持って解釈すべきであろう。

なお,92年4~6月期以降については,国民経済計算ベースの消費性向はまだ公表されていないが,前述のラチェット効果もあって,足元までに消費性向は下げ止まった可能性も考えられる。これは,前述のような景気後退期における消費性向の変動パターンを考えると,自然な動きであるといえる。

2 回復の動きが続く住宅建設

90年末以降減少に転じた住宅建設には91年10月頃から回復の動きがみられている。その後の動きを着工戸数の動きで見ると,次のような三つの局面に分かれる。第1の局面は91年10月の127万戸(季調済年率,以下同じ)から92年8月の145万戸までほぼ順調に建設戸数が増加していった時期,第2の局面は,その後93年1月まで回復が止まってほぼ横ばいとなった時期,そして第3の局面が,93年2月以降,再び着工戸数の増加が生じた時期である。ただし,こうした建設戸数ベースの推移と,GNPベースの住宅投資の動きは必ずしも一致しない。すなわち,国民経済計算でみた実質民間住宅投資は,92年1~3月期まで減少が続き,その後も総じていえば,建設戸数ベースより低い伸びとなった。

以下では,こうした三つの局面がいかにして生じてきたか,GNPベースとのかい離の理由は何か,そして今後をどのように展望するかを考えるため,住宅着工の動きを,持家,貸家,分譲という三つに分けて,その動きをみよう。

(新設住宅着工戸数の動向)

住宅投資の変動のメカニズムは,持家と貸家と分譲住宅でそれぞれ異なっている。

まず持家についてみよう。持家は全体としてみると,91年8月以降,ほぼ一貫して増加してきている。特に,全体の約半分強を占める住宅金融公庫を利用した持家(以下,公庫持家)の着工が順調に回復している。これは,91年後半から金利の低下や地価の下落が住宅投資環境を好転させた中で,92年に入ってからは数次にわたる経済対策により住宅融資制度の拡充が図られたためであり,公庫の貸出額も92年半ば以降伸びが高まっている。一方,民間持家については,減少気味で推移しており,民間金融機関や住宅金融専門会社の住宅向け新規貸出額もこのところ減少傾向にある。過去においても公庫融資が増加する局面では民間持家が減少する傾向が見られたが,今回はバブル崩壊の影響で,この傾向が比較的強かったものと考えられる。

貸家については,民間,公庫とも91年末から92年の前半にかけて比較的高い伸びを示し,前述の第1の局面における着工戸数の回復の原動力となった。これは,生産緑地法改正に伴う税制改正により,三大都市圏の市街化区域内農地において宅地転用が進み,貸家建設が増加している影響が大きい。貸家建設増加に占める三大都市圏の寄与度が92年に入ってから急速に高まっており( 第1-2-7図 ),92年の貸家建設増加数の約94%を占めているのはこのためである。また,公庫への賃貸住宅建設資金申込も急増したが,これも生産緑地法改正の影響によるものとみられる。しかし,農地の宅地転用の動きが高水準で横ばいとなる中で,貸家市場にやや供給過剰感が出てきており,貸家着工全体は92年夏以降は横ばいないし減少となった。これが,第2の局面における着工戸数停滞の一因であった。

分譲住宅は,戸建分譲と共同建分譲(いわゆる分譲マンション)に分けられる。このうち戸建分譲の方は,91年後半から92年にかけてそれほど大きく変動していないが,共同建分譲は91年に大幅に減少した後,92年中も減少傾向で推移した。しかし,93年に入ってからは下げ止まりから増加する動きがみられる。前述の第3の局面における,戸数の増加は,この分譲住宅の増加が主因である。

以上のようにみると,前述の三つの局面変化は,基調的に公庫の持家が増加するなかで,貸家が生産緑地法の効果という一時的な要因によって増加した後,頭打ちとなり(第1から第2の局面),93年に入ってから分譲が回復し始めた(第3の局面)こと等によってもたらされたことになる。

次に,着工戸数とGNPの住宅投資との差について考えてみる。これについても前述の持家,貸家,分譲という三つの区分が重要な意味を持ってくる。同じ1戸であっても,1戸当たりの付加価値がかなり違うため,どんな種類の住宅が増加するかによって,投資額が大きく異なってくるからである。例えば,1戸当たりの床面積をみると,貸家が最も狭く(92年度平均の1戸当たり床面積は,貸家48.7m2,分譲90.3m2,持家137.5m2),戸数を見るほどにはGNPベースの投資額は増えないという結果になる。92年夏頃まで,戸数では増加が続いたにもかかわらず,投資額が増えなかった理由として,それが貸家中心であったことがあげられよう。

以上のようにみてくると,今後住宅建設が本格的に回復し,住宅投資が拡大していくかどうかを展望する上では,分譲,特に共同建分譲住宅の着工に注目する必要がある。公庫融資枠が拡大し,公庫の持家が引き続き堅調な増勢を保つものとみられる中で,共同建分譲住宅の着工が順調に増加していけば,建設戸数全体も増勢を維持することができ,投資額としても増加が期待できるからである。そこで次に,共同建分譲住宅の動向をみよう。

(共同建分譲住宅の着工・販売の動向)

まず,共同建分譲住宅の供給メカニズムは,他の形態の住宅とはかなり違うことに注意する必要がある。

第一に,持家の場合は,需要者が住宅を建設するのに対して,共同建分譲住宅の場合は,供給者と需要者が異なるため需要と供給のミスマッチが起こる可能性がある。

第二に,共同建分譲住宅の場合,建設計画,用地手当て,着工,販売に至るまで少なくとも1年以上を要するため,供給側からみれば将来の需要,コスト面(地価,建築費,金利等)に係るリスクが大きいという面がある。

共同建分譲住宅の着工の推移をみると( 第1-2-8図 ),87~90年にかけて大幅に増加し,その後92年までは停滞局面が続いた。これは,次のように,バブルの影響による面が大きい。

その第一は,リゾートマンションやワンルームマンションの増加である。80年代後半には特に地方圏で共同建分譲住宅の建設が増えた。これは基本的には地価の上昇が地方に波及していく中で,需要が一戸建から共同建にシフトするとともに,地方にリゾートマンションが積極的に建設されたためと考えられる。首都圏でも,90年にはワンルーム・マンションの着工が大幅に増加した。リゾートマンションやワンルームマンションは,当時,地価の上昇期待が大きかった中で,値上がり期待を折り込んだ投資物件として販売,購入された面が強い。

第二は,首都圏における高額マンションの増加である。これはバブル期には,既に住宅を購入している家計にとっては,地価の上昇が自己資産(担保価値)を上昇させ,買い換え等を通じた高額マンションの取得が可能になったことによる。

第三に,供給側からみても,地価の値上がり期待が上記の主観的な供給リスクを小さくし,マンション供給を活発化させたと考えられる。

このような投資色の強いマンションの着工はバブル崩壊後は激減しており,共同建分譲住宅着工戸数も92年にはバブル発生前の水準に戻った。その後,供給面からの調整は着実に進み,首都圏,近畿圏のマンションの在庫戸数も依然高水準ながら92年に入ってからは減少傾向にあり,供給過剰感が薄れつつある。こうしたなかで,マンションの販売状況をみると,特に,首都圏では91年末から月間契約率が回復し始め,高額マンションの動きは依然として鈍いものの,初めて住宅を取得する人々を主な対象とした3~5千万円台の物件の売れ行きが好調となってきている。これは,金利の低下,地価の低下によって住宅取得環境が改善し,初めて住宅を取得しようとする人々の需要が底固い動きを示す中で,供給業者側も実需に見合った価格帯のマンションの供給に力を入れてきているからである。

このように,このところ生じているマンション販売面での回復の動きは,バブル期における動きとは全く異なったものであり,持続可能なものだといえる。93年に入ってからの分譲住宅の増加は,上記のような,販売面での回復の動きが徐々に着工増に結びついてきたものと考えられ,今後こうした形での分譲住宅の増加が,持家の堅調な増加とあいまって住宅投資を拡大させていくことが期待される。