5. 建 設
(1) 好調な建設投資
90年度の建設投資総額は名目で82兆7.600億円(見込み),前年度比12.2%増となり,過去最高となる見込みである。また,名目建設投資総額を実質建設投資総額で除したデフレーター(以下「建設投資デフレーター」という。)が前年度比約4.5%の上昇となったため,実質では同7.7%増となる見込みである(第5-1表)。名目GNPに占める建設投資総額の割合は,86年度より4年連続して前年度水準を上回ったが,さらに90年度は19.0%と引き続き前年度を上回り,81年度以来9年振りの19%台が見込まれている。
90年度の名目投資額(見込み)動向を建築と土木とに分けてみると,まず建築は,前年度比で住宅投資が11.6%増,非住宅投資は18.3%増となり,全体としては14.8%増と投資総額の伸びを上回った。また,土木は公共事業が6.7%増,公共事業以外が10.1%増となったため,全体としては7.9%増となった。
90年度は非住宅投資に支えられて建築が高い伸びとなり,土木も堅調となったことから,全体として好調であったといえる。
投資主体別にみると,前年度比で政府投資の6.5%増に対して民間投資は15.1%増と高い伸びとなった。
建設投資デフレーターはやや落ちついてきている。
建設資材価格の動きを品目別にみると,製材・木製品は90年秋にやや下降したものの,その後ゆるやかに上昇した。また,窯業製品,鉄鋼,金属製品は90年度を通じゆるやかに上昇した。
(2) 公共投資の動向
公共投資の動向を一般会計と産業投資特別会計社会資本整備勘定と併せた公共事業関係費(当初)でみると,89年度は前年度比2.0%増で,90年度は同0.2%増となった。これは,我が国経済が順調に推移していることから,景気を刺激することなく,引き続き内需を中心とした景気の持続的拡大の維持に配慮するとともに,社会資本整備の重要性にかんがみ,89年度予算と同水準を維持することとしたためである。90年度上半期における公共事業等の事業執行については,88年度,89年度と同様,上半期における契約済額の割合の目途を設定しない方針の下,景気の動向に応じて適切な運用を図ることとされた。
予算執行状況を反映する公共工事着工評価額の推移をみると(第5-2図①),地方単独事業の増加などから,上半期,下半期いずれも前年同期を上回り,90年度全体では前年度比8.6%増となった。
公共工事着工評価額の動向を発注主体別にみると,前年度比で国を除くすべての発注主体で増加し,市区町村,都道府県の発注額の増加が著しい。
一方,公共事業の進捗を示す公的固定資本形成(実質)の推移をみると,90年度全体では,前年度比3.1%増となった。四半期別にみると,前期比で4~6月期は1.0%増,7~9月は0.2%増,10~12月は0.1%増の後,2年1~3月期は0.4%増となった。公的固定資本形成のデフレーターの上昇率は,前年度に比べてやや低下した。
91年度における一般会計の公共事業関係費予算(当初)は6兆5,897億円,前年度比6.O%増となり,NTTの株式売払収入の活用による産業投資特別会計社会資本整備勘定の1兆2,300億円と併せた公共事業関係費は,前年度比5.1%増の7兆8,197億円となった。
(3) 高い伸びを示した民間建設投資
90年度においては,建設投資(名山のうち民間建設投資は67.9%を占め,前年度の66.2%より比率を高めた。また,建築着工総床面積のうち,.民間建築主によるものは,91.8%を占めている。
そこで,まず民間建設投資の動向を建設業大手50社の民間からの建設工事受注額でみると(第5-3表),89年度に前年度比22.7%増の後,90年度も同27.7%増と高い伸びとなった。これを業種別にみると,製造業からの受注は,繊維工業でわずかながら減少したものの,機械工業,鉄鋼業で大幅な増加となったことから20.8%と大幅な増加となった。また,非製造業からの受注も,不動産業,商業・サービス・保険業をはじめとしてすべての業種で二桁の増加となり,29.5%増と大幅な増加となった。なお,90年度の民間,公的を合わせた施工高は,前年度比で21.6%増となり,年度末未消化工事高は,23.1%増となった。
また,民間からの建設工事受注額(元請工事額)を中小465社についてみると,前年度比で11.6%増と高い伸びとなった。
次に,建設投資での比率の高い建築工事についてみることとする。90年度の建築着工床面積は,居住用は前年度比で0.3%の減少となり,非居住用が5.6%増となったことから,全体では2.3%増と7年連続で増加した。
居住用建築物の内訳をみると,居住専用が1.3%増,居住産業併用は8.8%減となった。また,非居住用建築物の内訳をみると,農林水産業用を除いてすべての業種で増加となり,公務・文教用が前年度比二桁の増加を示したことなどから,非居住用建築物全体として5.0%の伸びとなった。
(4) 住宅建設は高水準ながら年度後半から減少傾向
90年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は167万戸で前年度比0.4%減となり,前年度に引き続き高水準となったが,年度後半には減少傾向がみられた(第5-4表)。
これを資金別にみると,民間資金による住宅は,持家,貸家が減少したものの,分譲住宅が39.1%増と高い伸びとなり,また戸数は少ないが給与住宅も高い伸びを示したことから,全体として0.9%増となった。公的資金住宅は,公営住宅が5.4%増,公団住宅が7.9%増となったが,ウエイトの大きい公庫住宅が5.O%減となったことなどから全体では3.5%減となった。
また,利用関係別にみると,持家は5.O%減,貸家も6.5%減となった。分譲はマンションを含む共同建て分譲が33.2%増と大幅に増加したことなどから20.3%増の高い伸びとなった。また,給与住宅も19.4%増と高い伸びを示した。
年度内の動きをその後の動きも含めてみると,貸家は,前期比で4~6月期は増加したが,7~9月期以降減少が続き,1~3月期は13.1%減と大幅に減少した。持家も,前期比で4~6月期は増加したが,7~9月期以降減少が続いている。分譲住宅は,前期比で4~6月期7.O%増となるなど,10~12月期までは増加したが,1~3月期には9,5%減と大きく減少した。こうした動きを反映して,90年度の住宅建設は,72,73,87,89年度に次ぐ史上五番目の高水準となったが,年度後半より減少傾向がみられ,91年度に入っても減少傾向が続いている。
なお,新設着工住宅の一戸当たり平均床面積は90年度には80.8mと前年度を0.2%下回った。これは,相対的に規模の大きい持家が前年度より床面積を拡げたものの,戸数シェアが低下したことに加え,貸家,分譲の床面積が減少したことによる。こうした結果,新設住宅着工総床面積は,前年度比で0.7%の減少となり,戸数ベースの減少率を上回る減少となった。
(5) 住宅金融及び金利の動向
90年の住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,全国銀行では前年比で89年21.6%の大幅増の後,90年には18.7%の大幅減となった。また,住宅金融公庫は0.3%の微増となり,住宅金融専門会社は18.9%の大幅な増加となった。以上の結果,全国銀行,住宅金融公庫,住宅金融専門会社の新規貸出額の合計でみると,90年は前年比4.4%の減少となった。また,住宅ローン金利の推移をみると,住宅金融公庫貸付金利は90年3月,4月(政令金利口を除く),6月,9月,,10月(基準金利口を除く)に上昇し,その後,11月(政令金利口のみ),12月,91年2月(12月,2月は基準金利口を除く)と低下したが,基準金利は法定上限の年5.5%となっている。また,民間住宅ローン金利は90年1月,3月,10月と上昇したが,その後,91年2月,4月と低下している。
(6) 地価は東京圏以外の主要都市で上昇
最近の地価の変動率の推移を地価公示でみると,全国については,89年に住宅地7.9%,商業地10.3%,90年に住宅地17.O%,商業地16.7%の上昇となった後,91年の地価公示による90年中の全国平均変動率は,用途別で,住宅地10.7%,宅地見込地13.1%,商業地12.9%,準工業地13.7%,工業地13.5%,市街化調整区域内宅地10.8%となっている。
地域別に地価の変動率をみると,90年中は,東京圏では住宅地6.6%,商業地4.1%と前年に引き続き安定基調で推移し,大阪圏では住宅地6.5%,商業地8.1%と前年に比べ変動率が大幅に低下し,また,名古屋圏では住宅地18.8%,商業地19.1%と地方圏とともに高い変動率を示したが,秋以降の動きをみてみると,地方圏の一部等を除き沈静化の傾向を示すところが多くなってきている。
なお,東京都地価動向調査によれば,90年10月1日から91年1月1日の東京都の変動率は,住宅地マイナス0.6%,商業地マイナス0.3%,1月1日から4月1日までの変動率では,住宅地マイナス0.5%,商業地マイナス0.3%となり,全般的に下落傾向にある。