平成3年

年次経済報告

長期拡大の条件と国際社会における役割

平成3年8月9日

経済企画庁


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4. 企業経営

(1) 企業収益の業種別の動向

90年度の企業収益は,売上高は堅調に推移したものの,経常利益は高水準なから一部の業種で減益となった。

まず,日本銀行「主要企業短期経済観測」により,売上高の推移をみると,製造業では(第4-1図),89年度には前年度比7.5%の増収の後,90年度には同9.6%の増収となった。業種別の売上高をみると,石油精製(前年度比24.5%増),金属(同12.4%増),造船(同12.1%増),自動車(同1167%増),精密機械(同11.7%増)の伸びが高かった。非鉄金属,金属,一般機械,造船,精密機械の5業種は89年度に続いての二桁増収となった。また,非製造業においては,89年度に前年度比20.O%の増収の後,90年度には同3.O%の増収となった。業種別の売上高をみると,建設,不動産,サービス,リースの4業種が89年度に続いての二桁増収となった。

第4-1図 売上高伸び率と経常利益伸び率の関係(90年度,前年度比)

次に,同調査により経常利益の動向をみると,90年度の経常利益は,製造業では,石油精製(前年度比76.7%増),造船(同19.5%増),精密機械(同18.2%増),金属(同12.O%増)の伸びが高かったものの,紙・パルプ(同53.8%減),鉄鋼(同16.2%減),窯業(同15.2%減)等で減益となったことから,全体では前年度比1.2%の減益となった。また,素材,加工業種別では,素材業種(同9.8%減)が減益となり,加工業種(同3.9%増)も増益率を大きく鈍化させた。一方,非製造業は前年度に引き続き堅調に推移し,90年度は前年度比5.6%の増益(除く電力,ガスでは同10.1%の増益)となった。業種別にみると,建設(同27.7%増),サービス(同10.4%増)の伸びが高かったが,リース(同30.1%減),電力・ガス(同15.9%減)では大幅な減益となった。全業種のなかで,89年度に続いての二桁増益となったのは,金属,造船,精密機械,建設の4業種にとどまった。このように,経常利益は,原材料費,物流費,金融費用,人件費等の上昇があったことから,高水準ながらも一部の業種で減益となった。

91年度は,製造業では,売上高は増収率がやや鈍化し,経常利益も売上の伸び悩みや原材料,人件費の増大等から,素材業種では2年連続の減益,加工業種でも5年ぶりに小幅ながら減益が見込まれている。一方,非製造業では,好調なビル建設や堅調な個人消費に支えられ,わずかながら増益になると見込まれている。

なお,大蔵省「法人企業統計季報]によると,売上高経常利益率は90年度には全産業で3.0%(製造業4.8%,非製造業2.3%)となり,前年度(全産業3.5%,製造業5.4%,非製造業2.6%)に比べやや低下したものの,引き続き高い水準となった。

(2) 企業収益の規模別の動向

日本銀行「全国企業短期経済観測」により,中小企業の経常利益をみると,90年度には製造業で前年度比8.2%の増益と前年度(同8.7%増)に続き増益となったものの,非製造業では前年度(同7.8%増)と一転して同10.2%の減益となった。前記「法人企業統計季報」によると,大企業,中小企業の売上高経常利益率は,90年度には大企業製造業では4.9%(前年度5.4%),中小企業製造業では4.4%(前年度5.3%)となった。また大企業非製造業では2.3%(前年度2.4%),中小企業非製造業では2.2%(前年度2.9%),となった(第4-2図①)。

金融収支の動向をみると(第4-2図②),各業種,各規模で金融収支は悪化しているが,とりわけ中小企業では金融収支の悪化とともに,売上高経常利益率が低下している。

第4-2図 企業規模別利益率の推移

(3) 企業マインドの現状

企業の業況判断は,このところ製品需給の引き締まり感がやや緩和していることや金融収支の悪化等から,良好感は緩やかに低下してきているものの,なお高い水準にある。製造業・素材業種では市況軟化や諸コスト増大から前年度に引き続き良好感を低下させたのに対し,加工業種と非製造業では,引き続き高い良好感を維持している。前記「主要企業短期経済観測」により各種判断指標の現状をみてみよう(第4-3図)。製品需給はがなりの引き締まり地合が続いており,製商品在庫水準も,依然として「過大」超幅が低い水準にあるが,このところ,製品需給の引き締まり感はやや後退しており,価格に関する判断にもやや変化がみられる。仕入価格は,外注加工費の上昇や物流コストの上昇があるものの,原材料費の価格低下によりこのところ「上昇」超が縮小している。また製商品価格も市況関連製品の下落から,素材業種を中心に「下落」超となった。

第4-3図 企業マインドの変化(主要企業・製造業)

資金繰りは,緩和感が緩やかな後退傾向をたどっており,一方生産設備,雇用人員の判断では,依然として不足感が強く,D.Iは「不足」超が続いている。

このように,各種判断指標は,景気が一時の高原状態からやや低下していることを示しているものの,これまでのところ収益面を中心とする企業マインドは,良好感がなお高い水準にある。

(4) 企業倒産の動き

90年度の企業倒産は,前年を上回ったが依然として低水準で推移した。全国銀行協会連合会の調べによる銀行取引停止処分者件数の動きでみると(第4-4図),件数は89年度5,163件(前年度比30.4%減)の後,90年度は5,990件(同16.0%増)となり,84年度以来6年ぶりに対前年度比増加となった。負債金額は89年度は8,377億円(同16.3%減)の後,90年度は16,156億円(同92.9%増)となった。業種別に件数の前年度比をみると,不動産業(67.3%増),サービス業(23.1%増),小売業(16.2%増),卸売業(15.1%増),製造業(12.9%増),建設業(5.7%増)など殆どの業種で増加した。また,東京商工リサーチ調べ(負債金額1,000万円以上の法人企業)による企業倒産の動きをみると,件数は89年度6.653件(同29.3%減),90年度7.157件(同7.6%増)となり,負債金額は89年度11,866億円(同35.8%減),90年度は32,753億円(同176.O%増)となった。

第4-4図 銀行取引停止処分者件数の動向


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