3. 設備投資

(1) 増勢を続けた90年度

90年度の民間設備投資は実質GNPベース(85年基準,速報)で,89兆6,676億円となった。これを前年度比でみると(第3-1表),88年度に16.6%増と二桁の伸びとなった後,89年度は14.1%増,90年度も13.6%増と増勢を続けた。

第3-1表 民間設備投資関連指標の動向

四半期別では,89年4~6月期に消費税導入前の前倒しで著増となった前期の反動で前期比0.7%減となった後は,7~9月期5.7%増,10~12月期3.8%増,90年1~3月期に3.6%増,4~6月期3.0%増といずれも年率10%を超える伸びを続け,7~9月期は2.3%増(年率9.4%増)とわずかに年率10%を下回ったものの,10~12月期3.5%増,91年1~3月期2.6%増と再び高い伸びが続いている。

こうした動きを規模別・産業別に概観すると(第3-2図),金利上昇の影響等で特に中小企業を中心として年度後半から非製造業の伸びがやや減速してきたものの,プラザ合意に続く円高直後の調整局面から88年度以降急速に回復した製造業では企業規模を問わず投資意欲は根強く,89年度に引き続き90年度も大幅な増加となっている。

第3-2図 規模別・産業別設備投資の動向

(2) 90年度設備投資の特徴

今回の設備投資増勢の特徴としては,特定の業種への偏りが少なく幅広い業種にわたり,かつ,その投資内容が多様で多方面に及んでいることがあげられる。このことは,今回景気拡大局面において設備投資が内需主導型の景気拡大の牽引役となるとともに,好調な国内需要がさらに設備投資を誘発するという好循環を形成し,三年連続の二桁増加という設備投資の高い伸びが持続した要因と考えられる。また,今回の設備投資の増勢は,能力増強を目的とする投資の比率が高かった高度成長期と異なり,長期的視点に立っておこなわれ比較的需要動向に左右ざれにくい独立投資の堅調な増加によるところが大きい。人手不足に対応するための省力化投資,技術革新に伴う研究開発投資,情報化の進展に対応した情報化投資等の独立投資への投資意欲が強かったため,90年央以降の金利上昇や湾岸危機による先行き不透明感の広がりにもかかわらず,設備投資が増勢を続けたものと考えられる。

(3) 業種別動向

主要業種について90年度の設備投資内容を要約すると(第3-3図),素材型製造業では,化学が堅調な内需を背景に設備の改造・増設等の能力増強投資を中心に増加した。主力の有機化学ではエチレンから樹脂加工にいたる広い範囲で能力増強が活発化,無機化学では半導体関連の酸素,窒素等ガス能力増強投資等,医薬品では研究開発投資等により増加した。鉄鋼では高炉大手を中心に自動車,建築,電機向け等の薄板類の高品質化に対応した亜鉛メッキ設備の増強投資や,合理化・省力化投資,更には高炉改修工事もあり大幅増加となった。非鉄金属では,製練で電子機器材料等高付加価値分野での能力増強投資が活発化,圧延でも好調な需要を背景にアルミ関連で能力増強がおこなわれるなど全般に旺盛な投資により引き続き増加した。紙・パルプでは印刷・情報用紙や新聞用紙を中心に,再生紙需要の高まりに伴う古紙処理設備の新・増設等もあり,一時に比べ増勢は鈍化したものの高水準の投資となった。窯業・土石ではセメントの合理化・省力化投資が続く他,不動産部門等多角化投資もあり大幅増加となった。

第3-3図 1990年度 業種別設備投資動向

加工型製造業をみると,寄与度の大きい電機機械では,電子機器がコンピュータ,OA,通信機器等情報化関連の需要を中心に増加,重電機器も設備投資需要の好調により続伸,また電子部品でも半導体の新世代商品への投資が活発化した。輸送用機械では自動車が堅調な内需に対応して工場の新・増設,新商品開発関連投資に加えて,人手不足を背景とした合理化・省力化投資を活発化させたことからさらに増勢を強めた。一般機械では堅調な内需を背景に工作機械,建設機械,産業用ロボット,事務機械など幅広い分野にわたり積極的な投資がおこなわれた。

一方,非製造業をみると,電力では景気拡大の持続を背景とした電力需要の増大に対応するため電源部門,送配電部門ともに積極的な投資をおこない,大幅増加となった。リースは上期は需要堅調に加え消費税導入前の駆け込みで低い伸びとなった前年の反動もあり伸長したものの,下期以降金利高止まりや資金調達難等の影響でやや伸びを低めた。不動産は首都圏を中心どする大規模プロジェクトや大型賃貸ビル建設等で大企業は堅調に増加したものの,金利高止まりの影響が大きい中小企業には投資抑制的な動きもみられた。卸小売では消費の高級化を反映して百貨店における店舗の増改築・改装投資やスーパーの新規出店,さらには流通設備の拡充等により続伸した。鉄道は新車両導入等輸送力増強工事や新建設工事の本格化等により大幅増加となった。航空は新機材導入が活発化,海運でもリプレース需要や陸上施設整備等により増加となった。

通信はデジタル化投資やNCC(新規参入第一種電気通信事業者)のエリア拡大投資等で増加を続けた。

(4) 今後の展望

以上みた通り,90年度の設備投資は幅広い業種にわたり増勢を続けた。しかし,90年度なかば以降,設備投資環境には変化がみられている。企業収益は高水準ながらも,一部の業種で減益となり,金融引締めの影響も現れている。こうした状況下,91年度の設備投資計画を日本銀行「企業短期経済観測( 5月調査)」によりみると,主要企業の計画は製造業で前年度比6.2%増,非製造業で同7.7%増,全産業で同7.1%増と2月調査からはかなり上方修正されたものの,90年度までの高い伸びからはやや減速する計画となっている。しかし,三年連続の二桁増のあととしては高い水準である。

高水準の投資が続く要因としては,既にみたように独立投資が堅調に増加することや,製造業において依然として設備不足感が強いこと,懐妊期間の長い大型の都市開発や鉄道,航空,空港,道路等の社会資本整備型の大規模プロジェクトを始めとする非製造業の着実な増加が設備投資全体を下支えすること等があげられる。このように91年度の設備投資は,90年度よりはやや減速するものの,全体としては今後とも堅調に増加するものと考えられる。