平成3年

年次経済報告

長期拡大の条件と国際社会における役割

平成3年8月9日

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年度リスト]

第3章 長期拡大と供給制約

第4節 貯蓄率と供給力

我が国の部門別貯蓄・投資バランスは,民間企業が一貫して大幅な投資超過にある一方,家計部門がそれをほぼ相殺する大幅な貯蓄超過にあり,言い換えれば,家計部門の高貯蓄が民間企業の活発な投資の源泉をなしている。こうして,国内貯蓄が国内投資の源泉である限りにおいて,人口の高齢化にともなって生じる貯蓄率の低下は国内投資を制約する要因となり,資本蓄積の抑制を通じて経済成長が制約される可能性が考えられる。

我が国の家計貯蓄率は,国民所得統計ベースでみて,既に第1次石油危機以降,長期的に緩やかな低下傾向にあるが,本節では,上記の観点から,21世紀初頭の本格的な高齢化社会の到来に向け,今後の家計貯蓄率に影響を及ぼす諸要因について検討を加えるともに,貯蓄と投資の因果関係を分析し,貯蓄率が低下するなかで高い投資率を維持し,成長を維持することが可能かどうかを検討する。

1 人口の高齢化と貯蓄率

(人口の高齢化と貯蓄率)

我が国における家計の貯蓄率が欧米諸国に比較して高い理由として,これまで,所得の成長率が高いこと,土地・住宅価格が高いこと,また年金制度が未成熟であることなど,様々な説明がなされてきたが,老年人口の割合が小さく,人口の高齢化が欧米ほど進んでいないことが重要な一因として挙げられる。単純なライフサイクル仮説によれば,人は一生の間で,所得の増加する若年期から壮年期にかけて老後に備えた貯蓄を行い,老年期にそれを取り崩して生活水準を維持するから,人口構成が若い社会では全体として貯蓄率が高く,高齢化した社会では逆に貯蓄率が低いことになる。

いま,OECD諸国について,縦軸に家計貯蓄率を,また横軸に老年人口指数(65歳以上人口の15~64歳人口に対する比率)をとり,国ごとに両者の関係をプロットしてみると,老年人口指数が高い国ほど家計貯蓄率が低いという緩やかな関係が観察される(第3-4-1図)。

我が国における人口の高齢化の状況を総人口に占める65歳以上人口の割合(老年人口比率)でみると,1950年頃までは5%程度で推移していたものが,その後は上昇を続け,90年には12.1%に達している。厚生省人口問題研究所の91年6月暫定推計(出生率中位推計)によれば,老年人口比率は今後更に上昇し,2000年には16.9%と現在の西欧水準に達し,また2025年には25.4%と我が国が先進国中最も高齢化が進んだ社会になることが見込まれている。第3-4-1図に示される高齢化と貯蓄率の関係は各国の社会保障制度の違い等を大きく反映しており,高齢化の程度が西欧水準並みに達することが直ちに家計貯蓄率が西欧並みに低下することを意味するわけではないが,このような急速な人口の高齢化自体,我が国の家計貯蓄率が長期的に低下する可能性を示唆している。

(高齢者世帯の貯蓄行動)

ライフサイクル仮説は人口の高齢化にともなう貯蓄率の低下を説明する基本的な仮説であるが,現実のデータからライフサイクル仮説が示唆する年齢階級別貯蓄率のパターンを観測することは必ずしも容易ではない。

総務庁「家計調査」により,勤労者世帯について世帯主の年齢階級別に家計貯蓄率をみると,60歳以上の貯蓄率は20歳代とともに平均より低く,高齢者世帯の増加が全体として貯蓄率を低下させる傾向があることがわかる(第3-4-2図)。しかし,60歳以上の貯蓄率が平均を下回る程度は80年代の平均で7ポイント程度に過ぎず,現在10%強の65歳以上人口割合が将来20%強に達するとしても,年齢階級別の貯蓄率が不変という前提の下で推計すると,その平均家計貯蓄率に与える直接的な影響は1ポイント弱と極めて小さいという結果が得られる。また,総務庁「貯蓄動向調査」(90年)で勤労者世帯,一般世帯を含めた全世帯について世帯主年齢階級別家計貯蓄率(貯蓄純増-負債純増+実物投資の年間収入に対する比率)をみても,家計調査とは反対に60~64歳では平均より貯蓄率が高く,65歳以上になって平均を下回るもののその程度は3ポイント程度と家計調査でみた勤労者世帯の場合より更に小さい。

一方,総務庁「全国消費実態調査」(89年)で世帯主が無職の「無職世帯」をみると,その約8割が年金・恩給を主な収入としており,世帯主年齢階級別貯蓄率(黒字率)は60~69歳でマイナス11.7%,70歳以上ではマイナス8.4%と,いずれもかなりの貯蓄取崩しが見られている。

以上のことから,高齢者世帯でも世帯主である高齢者が就労を続けている世帯では貯蓄率は平均を大きく下回ることはなく,このことからは厳密な意味でライフサイクル仮説が成立しているとはいえないが,無職世帯になると貯蓄の取崩しが生じていることとあわせてみると,緩やかな意味でライフサイクル仮説が成立しているということができる。

ここで,「高齢者世帯」があくまで世帯主としての高齢者及びそれと生計を一にする者を指すのに対し,例えば子供の世帯に入っている高齢者の消費,貯蓄は世帯主である子供の家計に含まれることから,高齢者との同居が若・壮年層の貯蓄率を引き下げている可能性も考えられる。しかし,前記「全国消費実態調査」で65歳以上の世帯構成員のいる世帯の貯蓄率を世帯主年齢階級別にみると,貯蓄率は30歳未満では65歳以上の世帯構成員のいない世帯を下回るものの,中・壮年層については65歳以上の世帯構成員のいない世帯との差はほとんど見られず,必ずしも高齢者との同居が貯蓄率を低下させているとはいえない。これは,高齢者がいることによって,その高齢者の年金・恩給給付や勤労収入が加わり,また高齢者が育児,家事を手伝うことによって世帯主以外の世帯員の就労が促進されて世帯所得が高まるためと考えられる。

(遺産と世代間所得移転)

厳密なライフサイクル仮説では,個人は老後に貯蓄を取り崩し,死亡する時点では貯蓄はゼロになるが,実際には相当の貯蓄が取り崩されずに遺産として残る。

高齢者の貯蓄目的を,貯蓄広報中央委員会「貯蓄に関する世論調査」(90年,3項目以内複数回答)でみると,若・壮年層に比べて「子供の教育費」や「土地・住宅購入などの資金」が少ない反面,「老後の生活費」及び「病気・災害の備え」がいずれも約7割を占めるほか,「特に目的はないが貯蓄していれば安心」が約3割に上っており,高齢者の貯蓄はいざという時のための「備荒的貯蓄」の性格が強い。この背景には,家族の介護・扶助機能が低下するなかで,必要な時に用立てられる私的貯蓄の必要性に対する認識が強まっていることが挙げられる。こうした動機による貯蓄は,明確な使用目的をもった貯蓄とは異なり,結果的に取り崩されずに子孫に相続される蓋然性が高いと考えられる。また,遺産についての考え方をみると,「こども等になるべく多く遺産を残してやりたい」が60歳代及び70歳以上では6割を超え,自分たちの人生を楽しみたいなどの理由から「こども等に財産を残すことは考えない」を大きく上回っており,高齢者の貯蓄行動として,遺産を残すことが目的とはされていなくても,結果として遺産が残ることについては積極的に容認されていることがわかる。

こうした高齢者の備荒的貯蓄が将来も続くとすれば,高齢者層の貯蓄率が低下せず,既に示唆したように人口の高齢化が家計貯蓄率を低下させる効果は小さいものにとどまる可能性があるが,長期的には,高齢者の貯蓄が結果的に遺産として現役世代に移転されることにより,現役世代の貯蓄率を低下させることが考えられる。

(家計資産の蓄積と貯蓄率)

家計資産は,自ら築いたものであれ,親から相続したものであれ,過去の貯蓄の蓄積であるが,ある程度の資産があればそれだけ将来に備えた貯蓄の必要性が減少することから,無限に資産が累積するとは考えにくい。しかし,どの程度の資産があれば十分かは個々の家計によって異なり,またそれ以上に個々人の意識に依存することから,経済全体として,家計資産の蓄積状況が貯蓄率にどう影響するかは,結局は現実のデータから検証する以外にない。

本報告では既に第2章において,家計資産の消費に与える影響をマクロベースで分析し,時系列的にみて,金融資産と消費との間には正の相関が見られる一方,実物資産(土地)と消費の間には有意な関係が見られないことを示したが,このことは,家計の金融資産の蓄積が進むと貯蓄率が低下する可能性があることを示唆している。一方,こうした時系列分析とは別に,全国消費実態調査の個表データを用い,一定時点(84年)における家計の金融資産と消費の関係を家計の属性別にみると,金融資産と消費の関係は世帯の属性によって異なっており,低所得層や40歳代後半~50歳代前半の教育費支出の多い年代のように,流動性制約が存在すると考えられる世帯については,金融資産の存在が流動性制約を緩和し,貯蓄率を低下させる一方,土地・住宅の取得計画がある世帯では金融資産が土地・建物の買入れや新増改築・修理のために保有されており,こうした世帯では金融資産と消費との間には負の相関が見られている(第3-4-3表)。

こうした点から考えると,出生率の低下による世帯当たり子供数の減少を背景に,今後,親からの相続の形で現役世代の実物資産保有率が上昇し,土地・住宅の取得のための貯蓄動機が弱まることによって,貯蓄率が長期的に低下することも考えられる。

(公的年金と貯蓄率)

公的年金制度は私的貯蓄を代替する機能を有し,若年層や壮年層の老後に備えた貯蓄の必要性を減じることによってその貯蓄率を低下させる一方,高齢層の貯蓄取崩しの必要性を軽減することによってその貯蓄率を高める効果をもつことが期待されるが,これとは逆に,公的年金が早期退職を促進することによって,現役世代の老後に備えた貯蓄を増加させる可能性もある。このように,公的年金が私的貯蓄を代替する効果を現実にもつかどうかは,将来において期待される年金給付が個人にとっての資産として認識されているかどうかに依存するが,後にみるように,資産変数に年金資産を加えた貯蓄率関数の計測によれば,社会保障基金の資産残高の増加は貯蓄率を低下させる効果をもち,公的年金は私的貯蓄を少なくともある程度代替する役割を果たしていることがわかる。

公的年金制度として,我が国の場合いわゆる「修正積立方式」,すなわち,年金支給を雇用主負担分を含む受給者自身の積立てとその時点での現役世代の負担(社会保険料及び税)により賄う方式をとっているが,こうして公的年金が貯蓄率の高い現役世代から貯蓄率の低い高齢層への所得移転の性格をもつことにより,それは家計全体としての貯蓄率を低下させる効果をもつことになる。

ここで,公的年金に関しては,将来の支給開始年齢の引上げが現役世代の貯蓄率を上昇させる可能性が考えられるが,その実際の影響は高齢者就業の可能性によって異なると考えられる。ライフサイクル仮説の考えからは,高齢期の就業によって就労期間だけ引退後の老後の期間は短くなることから老後に備えた貯蓄の必要性が減少し,現役世代の貯蓄率がそれだけ低下することが考えられるが,年金支給開始年齢が引き上げられた場合にもその間の就業が確実であればこうした効果が生じる可能性がある。また,高齢期の就業が不確実な場合には,支給開始年齢の引上げは将来において期待される年金給付の減少と同様,現役世代の貯蓄率を高める要因となるが,高齢期に就業機会が確保できた時点でこの追加的な貯蓄は老後のためには不要となり,ライフサイクルを通じた貯蓄が結局は変化しないことも考えられる。こうして,年金の支給開始年齢の引上げは,短期的に現役世代の貯蓄率を上昇させる可能性があるが,その貯蓄率に与える長期的な影響については必ずしも明確ではない。

(人口構成とマクロの家計貯蓄率)

これまで,遺産,家計資産,そして公的年金の順に,人口の高齢化との関係で重要と考えられる要因についてその貯蓄率の関係を現役世代,高齢者にわけて整理したが,このほか,家計貯蓄率の一般的な決定要因としては,所得や物価上昇が挙げられる。

こうした諸要因が現実の家計貯蓄率の動きにどう反映されているかをみるため,国民所得統計ベースの家計貯蓄率を,所得要因,資産要因,社会保障要因,物価要因及び人口構成要因の五つの要因に分け,貯蓄率の変動を要因分解してみると,第3-4-4図に示すように,80年代には人口構成要因と所得要因が貯蓄率の上昇要因となる一方,資産要因と社会保障要因が貯蓄率を低下させる要因となっており,80年代の家計貯蓄率の緩やかな低下には家計,社会保障基金を併せた資産残高の増加が大きく寄与していることがわかる。ここで,人口構成要因については,82年以降,出生率の低下を反映して15歳未満人口の減少が65歳以上人口の増加を上回っているため,高齢化の進展にもかかわらず,従属人口比率(15歳未満人口と65歳以上人口の全人口に占める比率)が減少し,全体として貯蓄率を上昇させる要因となっている。

こうした貯蓄率の決定要因のうち,今後大きな変化が予想されるのは,人口構成要因,社会保障要因及び資産要因の三つである。特に,人口構成要因については,最近年における15歳未満人口の減少には,出生数の減少に加え,第2次ベビーブーム世代が成長して15歳以上人口に移ったことが影響しており,こうした効果が失われた後には15歳未満人口の減少が鈍化し,65歳以上人口を加えた従属人口比率は今後急速に上昇することが見込まれている。すなわち,これまで貯蓄率の上昇要因として働いてきた人口構成要因は,ここ数年のうちに貯蓄率の低下要因に転じる可能性が高いと考えられる。また,家計の金融資産については,引き続きその蓄積が進むと見られるが,そのことが逆に貯蓄率を低下させる要因となるため,金融資産の蓄積速度は次第に緩やかなものとなるとが見込まれる。

こうして,家計貯蓄率は様々な要因によって方向の異なる影響を受けることから,その将来の動向を的確に予測することには限界があるが,一つの試算として,経済審議会2010年委員会報告(91年6月)によれば,我が国の家計貯蓄率は,これまでの低下傾向が今後とも続き,現在の14%程度から2010年には9%程度まで低下するものと見られている。

2 投資の源泉としての貯蓄

高度成長期においては,家計の高貯蓄が民間企業の投資の源泉となり,「投資が投資を呼ぶ」過程を通じて,高成長が実現された。既に論じたように,人口の高齢化にともない,我が国においても家計貯蓄率が長期的に低下していく可能性があるが,ここでは,貯蓄率の低下が将来の投資に与える影響を考えてみよう。

(貯蓄率と投資率の関係)

本報告第4章でみるように,G7諸国の貯蓄率と投資率(いずれも政府・民間をあわせた国内貯蓄及び国内投資の名目GDPに対する割合)の推移をみると,両者の間には密接な関係があり,投資率はおおむね貯蓄率の動きに従った変化を示していることがわかる。一方,各国のデータを時系列で集めたプールデータに基づく回帰分析の結果でみると,60年代には貯蓄率と投資率がほぼ1対1で対応していたものが,最近になるほど両者の間の関係は弱まってきている(第3-4-5表)。これらの結果は,先進国全体としては依然貯蓄率と投資率の間に密接な関係が存在する一方で,先進国の内部では,国際的な資本移動の自由化により,為替相場の国内投資と国内貯蓄とのかい離に対する調整機能が妨げられている面があること,つまり,経常収支不均衡を調整する力が弱まるということを示唆している。また,我が国について,貯蓄率と投資率の関係を期間を変えて計測してみると,貯蓄率の係数は60年代に0.85,70年代に0.90とほぼ1に近く,かつ説明力も高く,貯蓄率と投資率がほぼ1対1に対応していたが,80年代になると貯蓄率の係数は0.57に低下し,かつ説明力も大きく落ちるという結果が得られる(第3-4-6表)。これは80年代には我が国の貯蓄の一部が国内投資に向かわずに海外へ投資され,同時に貯蓄と投資の差に等しい経常収支の黒字が生じていることに対応している。こうして,国際的な資本移動が存在する場合,一国の投資率はその国の貯蓄率によって必ずしも制約されないことがわかる。

このことからいえば,人口の高齢化等を反映した家計貯蓄率の低下等により国内貯蓄が長期的に減少することが投資の制約要因となるか否かについて必ずしも確定的なことはいえない。我が国が将来にわたって比較的高い投資率を維持することが可能であるかどうかは,将来における実際の家計貯蓄率の低下の程度や,我が国と同様に人口の高齢化が見込まれている他の先進諸国の貯蓄投資バランス及び世界の資金需給の動向にも依存するほか,我が国自身の投資収益率の動向によっても左右され,我が国において,経済の効率化や技術進歩の促進を図ることにより,高い投資収益率を実現することができるならば,比較的高い投資率を維持することは可能であり,またこのことが経済成長の維持を通じて貯蓄率の低下をある程度抑制することにもなろう。

(人口の高齢化と技術進歩)

人口が高齢化するなかで経済成長を維持する上では,上で述べたように,経済の効率化や技術進歩の促進を図ることがこれまで以上に必要になる。第一節でみたように,我が国ではこれまでも経済成長に対する生産性上昇の寄与が大きいが,労働力供給制約が中長期的に強まるなかでは,低生産性部門における合理化・省力化や低生産性部門から高生産性部門への労働力移動を一層促進することのほか,過剰サービスを見直す等,限られた人的資源を有効に活用することが重要な課題となろう。

また,人口の高齢化にともなって投資の源泉としての貯蓄が稀少となるにつれ,その限られた貯蓄を有効に使う意味で,投資の限界生産性を高めることが必要になるが,そのためには我が国の技術力を生かし,経済成長に対する技術進歩の寄与を高めることが重要である。第一節で述べたように,我が国においては,近年,情報化・マイクロエレクトロニクス化を軸とする技術革新が急速に進展し,経済成長に対する技術進歩の寄与が大きく高まっている。情報化関連の技術進歩が極めて急速であることから,高齢者がこうした新技術に追いつけず,労働力の高齢化が技術進歩を遅らせる要因になることが懸念されるが,高齢者はたとえ情報機器を駆使することは苦手でも,若年層に比べて知識・経験が豊富であり,高齢化によって全体としての労働力の質は高まる可能性がある。特に,我が国の場合,今後,高学歴の高齢者が増加することは,こうした労働力の質の向上に寄与するものと考えられる。

また,労働力が稀少になるにつれ,労働代替投資が活発化するとともに,労働節約的な技術進歩が促進されることが期待される。第3-4-7図は60~88年におけるOECD諸国の生産性上昇率と労働力人口の増加率(ともに年率)を比較したものであるが,これによれば,欧州諸国を中心に労働力人口の増加率の小さい国で平均を上回る生産性上昇がみられているのに対して,カナダ等労働力人口の伸びの高い国では生産性の上昇が低いという関係が見られている。

また,第3-4-7図でも示されているように,我が国の生産性上昇率は各国に比較して飛び抜けて高い。こうした我が国の技術進歩の高さの背景としては,昨年度の年次経済報告でみたように,我が国においては,技術進歩が経済成長に寄与するとともに高い経済成長が高い技術進歩を可能にするという「経済成長と技術進歩の間の好循環」が存在することが挙げられるが,これに加えて,我が国の雇用慣行や企業内教育訓練を含む企業内システムや長期的取引関係などの企業間システムそのものが高い技術進歩を可能にするとともに,これまで石油危機や円高などの急激な環境変化に我が国経済が大きな適応力を示してきたことが指摘できる。本報告第1節では,近年,経済成長に対する技術進歩の寄与が大きく高まっていることを示したが,我が国におけるこうした高い技術進歩を可能としてきた企業システムは,人口の高齢化等の経済環境に応じて変化を遂げつつも,新たな技術革新の可能性を経済成長に結び付ける上で一定の役割を果たすことが期待されよう。