第3章 長期拡大と供給制約

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景気拡大の長期化にともなって国内では次第に製品需給や労働力需給が引締まりをみせ,設備不足感や人手不足感が強まるなど供給制約の存在を示唆するような状況も見られている。特に労働市場では,有効求人倍率(有効求人数/有効求職者数)が90年度には1.43倍に達するなど,高度成長期のいざなぎ景気に匹敵し,また73年の景気過熱期に迫る需給の引締まりを示している。

原理的には,財市場であれ,労働市場であれ,需要の増加から需給のひっ迫が生じれば価格上昇が生じ,これが需要の減少と供給の増加を誘発することによって需給の均衡が回復されるはずであり,価格上昇に対する供給側の反応が敏速であればあるほど需給均衡に必要とされる価格上昇は小さくて済む。しかし,現実には企業の生産能力を短期的に大幅に増加させることは困難であることから,急速な需要の増加が生じると需給のひっ迫から物価上昇が生じ,極端な場合には名目需要の増加が物価上昇に吸収されて財の生産が増加しないことが生じうる。こうした観点からは,物価上昇が供給制約の存在を示す重要な指標であると考えられるが,今回の景気拡大期においては90年度の国内卸売物価が前年度に比べて1.5%の上昇にとどまるなど,物価は安定基調を維持しており,物価面からみるかぎり,経済全体が供給制約に直面しているという姿は必ずしも確認されない。

こうしたなかで建設業など人手不足感が強く,かつ省力化の余地が比較的少ない分野では,比較的高い賃金上昇がみられ,物流経費や人件費の上昇が物価を押し上げる要因となってきていることも考えられる。

第3章においては,まず第1節で長期拡大の現局面における経済全体としての需給状況を検討した後,第2節では労働市場に焦点を当て,現在の人手不足問題の背景を労働力の需給両面から明らかにするとともに,続く第3節で人手不足が賃金,物価等に与える影響について分析を行う。また,第3章の残りの部分では,労働力供給とともに我が国の経済成長を制約する可能性のある要因として,第4節で貯蓄率,また第5節でエネルギーの問題を取り上げ,これまでの動向を振り返るとともに,長期的な視点から経済成長との関連について検討を加えることとする。

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