第3章 経済力の活用と成果配分

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(経済力の活用と成果配分の視点)

1986年以来の経済拡大は3年半を超える長期に及び,80年代の10年間に国民一人当たり実質GNPは50%近く増加した。また,1世帯当たり平均4千万円を超える資産(土地と純金融資産)を持っているという計算も可能である。しかし,我々の生活がそれに見合うだけ豊かになったという実感は依然として乏しいという声が強い。こうしたGNPに代表される生産力の面と生活の豊かさのギャップの存在は,近年様々の角度から論じられるようになった問題である。

その原因については,地価の高さなどから住生活が貧しい,大都市の肥大化に社会資本の整備が追いつかず過密がひどくなった,モノやサービスの値段が高い,労働時間が長くてゆっくり遊ぶ暇がないなどといったいくつかの要因が指摘されてきた。

本章では,豊かさが実感できない原因を,日本の経済力の活用と成果配分の観点から幅広く議論する。技術革新に支えられたマクロ的な経済力が,個人もしくは消費者のレベルにまで,また海外を含めてうまく行き渡っているか,そして,個人間や個人・企業間の分配が公平にあるいは公正に行われているかといった問題を再点検する。ここでは,均等な分配が必ずしも望ましいと考えているわけではなく,だれもが納得できるような公正なルールに則った公平な分配が行われているかという視点を重視したい。

こうした問題は,伝統的には所得分配の問題として議論が行われてきたが,ここであらためて「経済力の活用と成果配分」として,厳密にいえば異種の問題にまで視野を拡げようという理由は次のとおりである。第一に,国内の貧困の問題が相対的に重要性を減じる一方で,先進国から発展途上国へのグローバルな再分配の問題が重要性を増していることである。第二に,分配問題というと労働者への分配や所得格差の議論が中心であったが,最近は,消費者への成果配分の問題,すなわち消費者の利益が最大化されているかという問題があらためて関心を集めていることである。第三に,日本の様々な経済制度が,外国人などいわば新参者に対して開かれたフェアなものであるかどうかが問われていることである。第四に,日本が豊かである,繁栄しているといわれることが多くなったために,我々日本人自身が,真の豊かさを手に入れるために,この巨大な経済力の成果をどのように分かち合うかということについて,真剣に考え始めたということである。これには,所得水準が全体としては上昇するなかで,人々が分配の公平性が保たれているかどうかに敏感になっているという意識面の変化も関係があるかもしれない。また,海外旅行や海外生活の機会が増え,日本の物価・地価の高さをあらためて実感することも多くなっていると思われる。

以下では,まず資産価格の上昇とともに,資産保有の格差がどの程度拡大しているかどうか分析するとともに,所得分配が依然として平等といえるかどうか確認する(第1節)。次に,生産活動の成果が企業から個人にどのよう形で分配されているかをみる(第2節)。また,所得・資産分配は,制度・政策と深く関わり合っているところから,現在の所得や資産の再分配がどのように機能しているか分析し,それをどう変えていけばよいか考える(第3節)。さらに,拡大を続ける経済協力や直接投資などが,グローバルな成果配分という観点からどのように機能しているかを分析する(第4節)。最後に,内外価格差問題を手掛かりに,消費者への成果配分を妨げる制度的な要因を摘出し,消費者の利益を最大限に引き出す消費者のための経済政策の在り方を考える(第5節)。

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