平成元年
年次経済報告
平成経済の門出と日本経済の新しい潮流
平成元年8月8日
経済企画庁
63年度の個人消費は,62年度に引き続き堅調に推移し着実な伸びとなった。
個人消費支出の推移を「国民所得統計」でみると,民間最終消費支出は前年度比で62年度名目4.7%増,実質4.5%増となった後,63年度は名目4.7%増,実質4.7%増と着実な増加となった (第8-1表)。四半期別の推移をみると,前年同期比(実質)で,63年1~3月期5.4%増,4~6月期,7~9月期とも5.1%増の後,10~12月期4.6%増,元年1~3月期3.9%増と堅調な増加となっている。
(63年度の消費動向)
まずウエイトの大きい勤労者世帯の消費支出を「家計調査」でみると,名目では前年度比で61年度1.6%増の後,62年度は1.3%増とやや伸びを弱めたが63年度は3.8%増と高い伸びとなった。一方,実質伸び率の推移をみると消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)が61年度0.3%の下落,62年度0.3%の上昇の後63年度も0.6%の上昇と引き続き落ち着いていることから,61年度1.9%増の後62年度は1.-0%増と伸びを弱めたが,63年度は3.2%増と堅調な伸びとなった。
また四半期別に前年同期比(実質)でみると,63年1~3月期2.9%増,4~6月期2.4%増,7~9月期は4.1%増と54年4~6月期(4.2%増)以来の高い伸びを記録した後,10~12月期3.7%増,元年1~3月期2.4%増と堅調に推移した。
次に一般世帯の消費支出についてみると,前年度比で62年度名目5.6%増,実質5.3%増の後,63年度は名目1.6%増,実質1.0%増と伸びを低めた。これを四半期別に前年同期比(実質)でみると,63年1~3月期5.4%増,4~6月期3.4%増,7~9月期2.4%増の後,10~12月期2.0%減,元年1~3月期0.6%増と63年に入って伸びが鈍化している。
次に消費支出の動向(全世帯)を費目別にみると,62年度には10大費目すべてが実質増加となったのに対し63年度は8費目で実質増加となっている。内容を詳しくみると,交通・通信では自動車等関係費の高い伸びにより,前年度の実質3.8%増から実質4.2%増と引き続き堅調に推移した。被服・履物では洋服が男子・婦人物とも好調なこともあって,前年度の実質2.2%増から実質4.3%増へと伸びを高めた。又,教養・娯楽では教養・娯楽用耐久財が前年度に引き続き2桁の伸びとなったことに加え,教養・娯楽サービスの大幅増により前年度の実質2.9%増から実質5.9%増へと一段と伸びを高めた。一方,家具・家事用品は前年度大幅増となった家庭用耐久財がマイナスとなったため,前年度の実質6.1%増から実質横這いとなった。又,住居は家賃・地代,設備修繕・維持ともマイナスとなったため,前年度の実質4.8%増から実質減少(△2.7%)となった。
次に,勤労者の実収入の動向をみてみよう。63年度の実収入は名目4.3%増,実質3.7%増と57年度(実質3.9%増)以来の高い伸びとなった。実収入は55年度に実質減少となった後,56年度以降実質増加で推移している。
実収入の内訳をみると,世帯主収入は62年度名目1.5%増,実質1.2%増の後,63年度は定期収入の伸びが堅調に推移した(実質2.7%増)ことに加え,臨時収入・賞与も大幅な伸び(実質8.9%増)となったため,名目4.7%増,実質4.1%増と伸びを高めた。又,妻の収入については62年度名目2.8%増,実質2.5%増の後,63年度は名目10.7%増,実質10.0%増と大幅な伸びとなった。一方,他の世帯員収入は62年度名目0.1%増,実質0.2%減の後,63年度は名目7.1%減,実質7.7%減となった。
実収入の動きを四半期別に前年同期比(実質)でみると,63年1~3月期2.3%増,4~6月期4.3%増,7~9月期4.0%増,10~12月期4.7%増,元年1~3月期1.0%増と総じて堅調に推移している。
以上の実収入の動きに対し税金や社会保障費等の非消費支出は,62年度に引き続き63年度も所得税減税が実施されたため0.9%増と低い伸びに留まった。その結果,可処分所得の伸びは実収入の伸びが非消費支出の伸びを上回ったことから,名目4.9%増,実質4.3%増と高い伸びとなっている。また,実質可処分所得の四半期別の推移をみると,63年4~6月期から前年同期比で,4.3%増,4.4%増,5.4%増,2.2%増となった。
次に消費マインドの指標である平均消費性向の動きをみてみると,61年度77.4%と若干の回復がみられたが58年度以降低下傾向にあり,63年度は62年度の76.6%から75.8%へと一段と低下した。四半期別(季調値)にみると,63年4~6月期75.8%,7~9月期76.0%,10~12月期75.2%,元年1~3月期77.1%と推移した。
(消費支出の寄与度分解)
以上のように63年度の個人消費は堅調に推移したが,家計調査でみた勤労者世帯の消費支出の増減をいくつかの要因に分解して考えた(第8-2図)。これは,消費支出の増減を決定する要因を①消費マインドの問題(消費性向要因)②実収入の伸び(実収入要因)③税金等非消費支出の影響(非消費支出要因)一④物価上昇率(物価要因)(三分解したものである。これによると,実収入要因が一貫して消費支出を拡大する要因として働いており,特に63年度は大きくプラスに寄与している。これに対し,物価上昇は消費支出を押し下げる要因として働き,60年度までは大きくマイナスに寄与してきた。しかし,61年度に消費者物価の低下をうけてプラスに寄与した後,62,63年度とも小幅なマイナス寄与に留まっている。消費性向要因については,このところの低下傾向をうけて63年度もマイナスの寄与となっている。また非消費支出要因は,60年度まで大きくマイナスに働いていたが,61年度の社会保障費の減少,62,63年度の所得税減税によりマイナスの寄与は大幅に小さくなっている。
63年度の動きを四半期別にみると,消費性向要因,物価要因,非消費支出要因がマイナスに寄与する中,実収入要因が一貫してプラスに寄与している。尚,元年1~3月期は実収入要因の寄与がやや低下している一方,63年12月に所得税減税が実施されたことにより,非消費支出要因がプラスの寄与となっていることがわかる。
63年度の消費動向を財・サービス別にみてみると,63年度は実質で財支出が1.9%増,サービス支出が2.0%増と堅調な増加となった。
全世帯の実質消費支出の内訳を形態別にみてみると(第8-3図),耐久財,非・半耐久財,サービスとも消費支出の増加に大きく寄与している。また,63年度も前年度に引き続き全項目とも上昇に寄与している。
これを四半期別にみると,耐久財は63年4~6月期にマイナスの寄与となったものの,その後はプラスの寄与を高めている。非・半耐久財は一貫してプラスに寄与しており,特に元年1~3月期は大幅にプラスの寄与を高めている。
サービスは63年4~6月期,7~9月期に大きくプラスに寄与した後,10~12月期は一転してマイナスの寄与となった。しかし,元年1~3月期にはマイナスの寄与は大幅に小さくなっている。
ここで,63年度好調に推移した耐久財,非・半耐久財,サービスについてその内容をみてみよう。耐久財,非・半耐久財の動きを供給サイドのデータからみると(前掲第8-1図),全国百貨店販売額で62年度6.3%増の後,63年度9.8%増,新車新規登録・届出台数で62年度7.8%増の後,63年度7.7%増となるなどいずれも好調に推移している。耐久財,非・半耐久財が好調な要因としては本編でも述べたように,第一には雇用回復や物価安定,また63年に入ってからの勤労者世帯の実収入の上昇等により家計にゆとりが生じていること。第二には金融資産の蓄積が進展していること。第三には最近のライフスタイルの変化の下での多様化・高級化といった消費者ニーズと企業の内需拡大努力とがうまくマッチングし,新しい需要を創出したことなどが考えられる。次にサービス支出の動きについてみると,63年度に伸びを高めたサービス支出について55年度を起点として費目別にその推移を眺めてみよう(第8-4図)。これによると,63年度は住居サービス,家事サービスを除いて概ね上昇していることがみてとれる。増加した費目のうち教養・娯楽サービスは61,62年度と減少を続けたが,63年度は余暇・レジャー関連を中心に大幅に増加した。交通・通信サービスはこのところ増加傾向にあるが,63年度も自動車等維持費の増加により引き続き高い伸びとなった。一般外食もこのところ増加傾向にあり,63年度も伸びを高めている。一方,減少した費目をみると,60年度以降増加していた住居サービスが実質3.5%の減少となった。また金額的ウエイトは小さいものの,家事サービスも実質6.1%減と大きく減少した。
以上のように,61年度に伸びを回復したサービス支出は,63年度も消費支出全体の押し上げ要因となった。今後もライフスタイルの変化の下での消費の多様化を背景として,海外旅行等の教養・娯楽サービスを中心に底固い伸びが期待でき,サービス化の進展は一貫して進むものと思われる。