平成元年
年次経済報告
平成経済の門出と日本経済の新しい潮流
平成元年8月8日
経済企画庁
(落ち着いて推移した国内卸売物価)
60年秋からの一層の円高傾向に加え,原油価格の下落や輸入数量の増加等の寄与もうけて,国内卸売物価は下落を続けた。63年当初もその傾向は続いていたが,北米の干ばつによる穀物価格の上昇が輸入物価に波及したこと,為替円安の影響,海外市況の高騰をうけて非鉄金属が上昇したことなどから,国内卸売物価は6月から4カ月間前月比でやや上昇した。その後,安定的に推移したものの平成元年にはいって,原油価格の上昇,為替円安の影響による輸入物価の上昇をうけて,前月比で2月より,前年同月比でも3月より上昇した(国内卸売物価が前年同月比でプラスになるのは,昭和60年4月以来3年11カ月ぶり)(第9-1図①)。
このように,足元を見れば若干上昇したものの63年度全体では国内卸売物価は前年度に比べ0.5%の下落と4年連続の下落となり,総じて落ち着いた動きとなった。また,輸出物価は前年度比0.3%の下落,輸入物価も同3.6%の下落となりその結果,総合卸売物価は同0.7%の下落と4年連続の下落となった。
63年度の動きを四半期ベースの前期比騰落率でみると(第9-2表),4~6月期の国内卸売物価は非鉄金属,鉱産物,食料用農畜水産物等が上昇したものの,スクラップ類,製材・木製品,石油・石炭製品等が下落したことにより0.3%下落した。また,輸出物価は契約通貨ベースでの上昇をうけて上昇,輸入物価は原油価格の下落等により下落した。これにより総合は0.3%の下落となった。7~9月期は非鉄金属,食料用農畜水産物が続騰したことに加えスクラップ類,鉄鋼等の上昇,電力の夏季割増料金適用による季節的要因で電力・都市ガス・水道が上昇したことから国内卸売物価は0.3%の上昇となった。また,輸出物価,輸入物価ともに為替円安の影響から上昇しており総合では0.9%の上昇となった。10~12月期は,非鉄金属,スクラップ類は引き続き上昇したものの,電力・都市ガス・水道,繊維製品,電気機器,石油・石炭製品,鉄鋼等が下落したことにより国内卸売物価は0.2%下落した。また,輸出物価,輸入物価は為替円高により下落に転じた。これにより,a合は0.8%の下落となった。
平成元年1~3月期は石油・石炭製品,電気機器が続落,食料用農畜水産物等が下落したもののスクラップ類,非鉄金属,製材・木製品が引き続き上昇したことから国内卸売物価は0.1%の上昇となった。輸出物価,輸入物価は為替円安等により再び上昇に転じた。以上から総合は0.5%上昇した。
(上昇に転じた輸入物価)
このように国内卸売物価は落ち着いた動きとなっているが,平成元年1月より輸入物価が前月比で5ヵ月連続の上昇となっている。これは第一に海外市況高から石油・石炭・天然ガス,木材・同製品等が上昇していること,第二に1月からドル高円安となったことなどによる。
特に石油・石炭・天然ガスのうち原油については,昨年11月OPECの総会において,原油バスケット価格目標18ドル/バーレルにむけて新生産枠による生産抑制をうちだしたこと,これをうけて非OPEC諸国についても,協調減産体制をとったこと,さらには北海油田での火災,アラスカパイプラインの事故なども重なって大幅に上昇した。元年6月にはいり若干は落着きをとり戻したものの高水準を維持している。
この輸入物価の上昇は,総合卸売物価に直接ひびくだけでなく原材料価格の上昇となって国内卸売物価にも時間のずれを伴って影響を及ぼすことが予想される。今後の輸入物価の動向には充分注意する必要がある。
63年度の国内商品市況の動きを日経商品指数(42種)の月末値でみると (第9-3図),一部商品の需給逼迫,為替円安等の影響から平成元年にはいって上昇基調となった。
四半期別の前期比騰落率をみると,63年1~3月期に大幅に下落した後,4~6月期は米国・カナダの干ばつの影響による海外の穀物相場高から,食品が上昇したことに加え,世界的な需給逼迫により非鉄,繊維等も高騰したために総合で上昇した。7~9月期は食品,非鉄等は続騰したものの,輸入の増加による需給緩和から木材,繊維等が下落したほか,原油の市況軟調と供給増加から石油が下落したことにより総合では保合いとなった。10~12月期は合板メーカーの減産と海外相場高により木材が上昇したほか,同じく非鉄も海外の在庫減から上昇したものの,長雨による秋需の遅れから鋼材が下落したほか繊維,食料も下落したために総合では下落した。しかし,平成元年にはいって一転して商品市況は上昇基調となった。1~3月期は食品を除く全ての品目で上昇となった。特に63年から引き続き非鉄が上昇しており,また,景気拡大による需要の増加から建設資材関連の木材,鋼材の上昇が目立っている。
なお,4月以降もこの上昇傾向は続いており5月の総合指数は62年10月以来の高水準となった。
今後も景気の拡大による需要の増加は続くと思われること,さらには為替円安による海外相場からの影響等,商品市況の動向には充分注意していく必要がある。
消費者物価(全国)の動きを総合指数の前年度比上昇率でみると昭和61年度0.0%,62年度0.5%と極めて低い伸びで推移した後,63年度は0.8%の上昇と3年連続して1%未満の上昇にとどまった。
63年度の動きを前年同月比騰落率でみると(第9-1図②),63年9月までは1%未満の上昇で推移したものの,商品の上昇をうけて10月からは1%台の上昇で推移した。
特殊分類指数の前年度比騰落率でみると(第9-4表),商品は61年度1.6%の下落,62年度0.6%の下落から63年度は0.2%の上昇と3年振りに上昇に転じた。これは生鮮野菜が7月以降高騰したことによる。一方,サービスは61年度2.3%の上昇,62年度2.0%の上昇をうけて63年度は1.4%の上昇とその上昇率は鈍化した。
このように全国の消費者物価指数が前年度に引き続き安定した動きとなったのは,サービス価格の上昇が鈍化したこと,円高・原油安の下で輸入原材料価格の下落に加え,製品輸入の拡大等により耐久消費財等が下落したことなどが主な要因として挙げられる。
内訳別にみると,米類が政府売渡価格の引き下げ等により下落となった。生鮮商品は生鮮野菜等の高騰から3年振りの上昇となった。工業製品は前年度に引き続き下落したが,このうち大企業性製品は4年連続の下落となったものの,中小企業性製品については,占める割合の多い繊維製品の上昇をうけて前年度に引き続き上昇した。
サービスは各項目とも上昇しているものの,おおむねここ数年その上昇率は漸次縮小してきており,全体では現行基準の指数が得られる昭和46年度以降最も低い上昇率となった。
(公共料金等)
公共料金については物価安定を図るという観点から経営の徹底した合理化を前提とし,受益者負担,独立採算性を原則としつつ物価及び国民生活に及ぱす影響を十分考慮して厳正に取扱っている。こうしたことから電話料金については,NTTが平成元年2月から320kmを超える遠距離通話料金を約1割,隣接区域内及び20kmまでの区間の通話料金については,3分で30円から20円に引き下げる等の料金改定を行った。また,電気・ガス料金については,平成元年4月から,電力10社が平均2.96%(消費税分を除く),ガス大手3社が平均4.17%(消費税分を除く)の引き下げを行った。また,米については政府買入価格が63年産で4.6%,政府売渡価格が平成元年2月から平均2.2%,4月1日から平均3.7%(消費税上乗せ後平均0.8%)の引き下げを行った。
一方,値上げしたものとしては大手民鉄料金があり63年5月に関東6社が加重平均10.4%値上げされた。なお,この値上率は特定都市鉄道整備積立金4.6%を含んだものとなっている。
また,公団家賃も63年10月より平均18.1%の値上げが実施された。
(制度改正による物価への影響)
元年4月は税制改正の一環として既存間接税の改廃と消費税の導入が実施された。物価もこうした制度改正を反映して,4月に上昇したものの一般的には適正な転嫁が行われたとみられる。
導入時の4月の動きをみると,国内卸売物価は前月比1.8%の上昇(前年同月比2.2%の上昇),全国消費者物価指数は前月比1.8%の上昇(前年同月比2.4%の上昇)となった。
こうした税制改正の影響も6月には概ね出尽くしたと考えられる。