平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


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第4章 日本経済のストック化

(ストック化の意味するもの)

経済発展の基礎はいうまでもなく資本蓄積であり,それは貯蓄を供給する家計やそれで実物投資を行う企業の不断の努力の賜物である。他方,保有資産の残高が増加してくると,それが逆に家計や企業の行動に大きな影響を及ぼすようになる。

個々の経済主体にとっては,毎期の貯蓄・投資決定といったフローの意思決定だけではなく,ストックレベルでの意思決定,すなわち保有資産の構成や利用方法を見直し,必要に応じて資産の組み替えを行うことが有用となる。そうすることによって保有資産の収益性を顕著に高めることが期待されるからである。

一方,公共部門にとっても,経済活動の基盤となる社会資本の着実な整備,蓄積が重要であり,また,保有資産や負債の見直しが必要になる。社会資本の蓄積が依然として立ち遅れている我が国にあってはその担い手としての公共部門の役割はとりわけ重要である。なお,公有地の再開発などによる有効利用,国債管理政策の見直しなども公共部門のストック面の課題として捉えることができよう。

このように,ミクロレベルで各経済主体がそれぞれのストック面をより強く意識して行動するようになった結果,資産市場の動向が経済活動に与える影響は,プラス面でもマイナス面でも格段に大きくなっている。マイナス面の例としては62年10月の株価暴落,最近の地価高騰やいわゆる「財テク」の行き過ぎなどがあげられよう。しかし,健全なストック拡大は当然経済社会にプラスの影響をもたらす。現在の大型景気をリードする活発な家計消費や設備投資の背景には,それらを基底から支える要因として資産効果が寄与していると考えられる。また,より長期的な側面として,美しい都市の建設が進み,住宅や社会資本の蓄積が進めば,仮にフローのGNPが同じでも,国民生活はそれだけゆとりのある豊かなものになると期待される。

こうした資産蓄積の裏側では,資金運用側と調達側をつなぐ金融システムの重要性が一層高まっているといえる。蓄積された資本やその価値を体化した株式が市場で取引されるようになり,また新たな資本蓄積に必要な資金を外部調達するために各種金融資産が広範に流通するようになると,実物,金融を併せた資産市場の規模は飛躍的に拡大する。また,資産市場が高度に組織されてくると,家計や企業は資産の組み替えをより効率的に行えるようになる。

さらに,資産残高が増えてくると,それをだれが保有しているかという問題が重要になってくる。資産保有の分布状況は,昨今の土地・住宅問題の深刻さをみれば,それ固有の問題としても重要であるが,そればかりではなく,資産からの所得の分配にも大きな影響を与える。近年,土地や株式からのキャピタルゲインは,未実現のものを含めると時にGNPの大きさを凌ぐほどの規模に達するし,利子,配当などインカムゲイン(財産所得)も相当な規模に増大してきている。

本章では,以上のように資産残高が増加し,その保有や取引の経済全体に与える影響が高まってゆくことを「ストック化」とよぶこととし,ストック化が日本経済に与える影響や我が国が目指すべき方向,そのための政策対応等について検討する(第4-0-1図)。


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