昭和63年

年次経済報告

内需型成長の持続と国際社会への貢献

昭和63年8月5日

経済企画庁


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5. 建  設

(1) 大きく伸びた建設投資

62年度の建設投資総額は名目で61兆2,200億円(見込み),前年度比14.4%増となり,60兆円を超えて過去最高となる見込みである。また,名目建設投資総額を実質建設投資総額で除したデフレーター(以下「建設投資デフレーター」という。)が前年度比約1.3%の上昇となったため,実質では同13.0%増となる見込みである(第5-1表)。名目GNPに占める建設投資総額は,61年度16.0%と54年度以降7年ぶりに上昇した後,62年度は17.6%と前年度をさらに上回るものと見込まれている。

第5-1表 建設投資の推移

62年度の名目投資額(見込み)動向を建築と土木とに分けてみると,まず建築は,前年度比で住宅投資が19.4%増,非住宅投資も11.4%増とそれぞれ2桁の高い伸びを示し,全体としては,15.7%増と投資総額の伸びを上回った。また,土木も公共事業が13.4%増,公共事業以外が10.7%増となったため,全体としては12.6.%増となった。62年度は住宅投資の高い伸びに支えられて建築が好調,土木も前年度を大きく上回り,全体として一段と高い伸びを示したといえる。

投資主体別にみると,前年度比で政府投資の9.4%増に対して民間投資は17.7%増と好調であった。

建設投資デフレーターは落ち着いている。

建設資材価格の動きを品目別にみると,公共・住宅投資の伸びを背景に,製材・木製品,続いて鉄鋼が夏場から急騰した。その後,年末から低下に向かい63年に入ってからは落ち着いている。また,窯業・土石製品はほぼ横ばい,金属製品は上昇傾向にある。

(2) 公共投資の動向

公共投資の動向を一般会計の公共事業関係費予算(当初)でみると,61年度の前年度比2.3%減に引き続き,62年度も同2.3%減と抑制する一方,内需拡大の要請に対応しつつ,社会資本の計画的,着実な整備を推進するため,種々の工夫を行うことにより,一般公共事業の事業費としては,前年度比5.2%増を確保することとなった。

こうした中で,62年5月29B,政府は内需を中心とした景気の積極的な拡大を図るため,「緊急経済対策」を経済対策閣僚会議で決定した。そのなかで,公共投資等について総額5兆円の事業規模を確保することとし,このうち一般公共事業についてはNTTの株式売却収入の活用を図りつつ事業費2兆4,500億円を追加すること等が決定された。これを受けて6月2日の閣議において,62年度上半期の公共事業等の施行については過去最高を上回る80%以上の契約済額を目指して可能な限り施行の促進を図ること,公共事業の配分は各地域の経済情勢,社会資本の整備状況等を勘案して適切に行うこと等が決定された。さらに,公共事業等施行対策連絡会議の決定に基づき,上半期の契約目標を80.1%とする公共事業の前倒し執行を行うとともに,地方公共団体においても80%以上の執行促進を図るよう要請した。この結果,62年9月末の契約率は国等が80.1%,都道府県が79.6%とほぼ目標を達成した。

予算執行状況を反映する公共工事請負金額の推移を見ると(第5-2図①),上半期は前倒し発注の効果があり5月以降前年同月を上回って推移した.その後,「緊急経済対策」の効果も加わり大きな伸びをみせ,62年年度全体では前年度比13.2%増と高い伸びを示した。

公共工事請負金額の動向を発注主体別に見ると,年度上半期,下半期を通じてすべての発注額が増加した。とりわけ下半期は,地方公社等を除く,国,公団・事業団等,都道府県,市区町村の全ての発注額が前年度比20%を超える増加となった。

一方,公共事業の進捗を示す公的固定資本形成(実質)の推移を見ると(第5-2図②),62年度全体では,内需拡大のための積極的な予算措置の影響があらわれ,前年度比10.8%増となった。四半期別にみると,前年比で4~6月期は1.7%増となった後,7~9月,10~12月,63年1月~3月期はそれぞれ3.1%増,6.6%増,4.0%増と堅調に推移した。公的固定資本形成のデフレーターは落ち着いている。

第5-2図 公共投資の動向

63年度の一般会計の公共事業関係予算(当初)は,62年度当初予算と同額を確保するとともに,NTTの株式売却収入の活用により産業投資特別会計社会資本整備勘定に一兆2000億円を計上したため,両者をあわせた公共事業関係費は前年度比19.7%増という高い水準を確保することとなった。なお,一般公共事業費で見ると,前年度補正後予算と同額となった。

(3) 大きく伸びた民間建設投資

建設費用のうち,民間建設投資は62.6%を占めている。また,建設着工総床面積のうち,民間建築主によるものは,91.2%を占めている(いずれも62年度)。そこで,ここでは民間建設投資の動向を大手50社の受注動向で見た後,民間建設の中でもシェアの大きい建築の動きを建築着工統計でみることとする。

まず,民間建設の動向を大手50社の民間からの建設工事受注額で見ると(第5-3表),61年度比9.0%増の後,62年度は大きく伸びて同20.9%増となった。

第5-3表 建設工事受注額の動向

これを業種別に見ると,製造業からの受注は,シェアの大きい機械工業が減少したものの,繊維工業,化学工業,鉄鋼業が増加したため,全体として大きく増加に転じ17.1%増となった。一方,非製造業からの受注は,商業・サービス業・保険業,不動産業,運輸業等幅広い業種にわたり増加したため,21.7%増と好調であった。

施工高は,前年度比で13.2%増となり,年度末消化工事高は,3.0%増となった。

なお,民間からの建設工事受注額を中小465社についてみると,前年度比で24.4%増と前年度を上回った。

次に,建設工事の動向を62年度の建設着工統計の床面積で見ると,前年度比で居住用は22.1%増と大きく増加し,非居住用も7.4%増となったため,全体で16.1%増と伸びを高めた。

居住用建設物の内訳をみると,居住専用,居住産業併用いずれも前年度比で20%を超える増加となった。また,非居住用建設物の内訳をみると,農林水産業用がやや減少したものの,商業用及びサービス業用は前年度比2桁の増加,鉱工業,公務・文教用も増加したため,非居住用建築物全体としては前年度を上回る伸びとなった。

(4) 住宅建設は貸し家を中心に一段と高い水準で推移

62年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総個数は173万戸で前年度比23.5%増と,昭和47・48年度につぐ過去3番目の高水準となった(第5-4表)。

第5-4表 新設住宅着工戸数の動向

これを資金別にみると,民間資金による住宅は,分譲住宅が大きく増加に転じ貸家が高水準で推移したことから,全体として27.7%増となった。公的資金を利用した住宅はウエイトの大きい公庫資金を利用した住宅が19・7%増と大きく伸びたことから,全体でも15.6%増となった。

また,利用関係別にみると,持家は公庫資金を利用した持家が増勢を強めたため17.3%増となり,貸家は民間資金による貸家が61年度に引き続いて30%台の著しい伸びをみせたため30.6%増と一段と高い水準になった。また,分譲は16.5%の増加と好調であった。

年度内の動きをその後の動きも含めてみると,貸家は61年度を上回る一段と高い水準で推移した。分譲住宅は,一戸建て,共同住宅ともに増加した。持家は,民間資金による持家は61年度わずかに減少したが62年度は増加した。一方,公的資金を利用した持家の大半を占める公庫資金を利用した持家は,金融全般の緩和基調を反映した住宅ローン金利の引き下げや公庫の貸付限度額の引き上げ等の融資条件の改善,特別割増貸付制度の定着等により,前年度比28.6%増と大幅に増加した。こうした動きを反映して,住宅建設は高い水準で推移してきたが,このところやや頭打ちの感がある。

なお,新設着工住宅の一戸当たり平均床面積は62年度には79.3m・と前年度を2.0%下回った。これは,持家,分譲住宅の着工戸数が伸びているものの,それらに比べて規模の小さい民間資金による貸家の着工戸数が高い伸びを示したためである。こうした結果,新設住宅着工総床面積は,前年度比21.0%と大幅な増加となったが,戸数ベースの増加率をやや下回った。

(5) 住宅金融及び金利の動向

62年の住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,全国銀行及び相互銀行は前年比で61年54.7%増の後,62年には60.3%の大幅増となった。また,住宅金融公庫は37.1%,住宅金融専門会社は52.9%のそれぞれ大幅増となった。

以上の結果,全国銀行,相互銀行,住宅金融公庫,住宅金融専門会社の新規貸出額の合計でみると,前年比52.6%増と大幅に増加した。また,一貫して低下を続けてきた住宅ローン金利の推移をみると,金利は62年10月に民間住宅ローン金利,12月に住宅金融公庫貸付金利がいったん上昇したが,63年に入って再び低下し,依然としで低い水準にある。

(6) 地価上昇は東京圏が突出

最近の地価の推移を地価公示でみると,全用途の全国平均の変動率(当年1月1日時点の価格の前年1月1日時点の価格に対する変動率)は,東京圏の突出した高い変動率の影響を受けており,61年に6年ぶりに前年を上回る2.6%,62年には7.7%,さらに63年は21.7%と前年を大きく上回ることとなった。

63年地価公示により62年中の全国平均変動率を用途別にみると,住宅地,宅地見込地,商業地,準工業地,工業地はそれぞれ25.0%,12.2%,21.9%,18.5%,10.4%と,前年を大きく上回る2桁の変動率となった。なかでも,住宅地,商業地の変動率は全用途の全国平均を上回るものとなった。また,これらの用途の変動率は,市街化調整区域内宅地4.8%に比べて相対的にかなり高いものとなっている。特に東京圏では,住宅地は68.6%,商業地は61.1%と極めて高い変動率となるとともに,住宅地の上昇が商業地を上回った。

地域別に全用途平均の動きをみると,三大圏の変動率が43.8%と地方の変動率2.4%を大きく上回っており,なかでも東京圏の変動率が65.3%と三大圏の中でも突出している。なお,地価動向調査によれば,62年10月1日から63年1月1日までの東京都の変動率は,住宅地,商業地ともにマイナスに転じたが,さらに最近の動きを63年1月1日から4月1日までの変動率でみると,住宅地がマイナス1.8%,商業地がマイナス0.9%となり,下落の兆しも窺われる。


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