昭和63年
年次経済報告
内需型成長の持続と国際社会への貢献
昭和63年8月5日
経済企画庁
1987年の世界経済は,世界的な株価暴落という混乱があったものの,懸念された景気の落ち込みを回避し,緩やがな拡大となった。アメリカではドル安により輸出が大幅に増加したことなどから,実質GNP伸び率は87暦年で3.4%となった。また,西欧では外需は総じて弱いものの,個人消費など内需を中心に経済は引き続き緩やかな拡大を示した。韓国や台湾はドル安により競争力を増したことなどから,大きく輸出を伸ばし10%を越える高成長となった。
こうした世界経済の動向を反映して,先進工業国の輸出数量(IMF「IF S」による)は86年2.2%増から5,1%増へと伸びを高めた。
一方,ルーブル合意以降,比較的安定していたドル相場は,10月下旬以降アメリカの双子の赤字への懸念が高まり再び下落した。原油価格は,年央に一時1バーレル20ドル台となったが,その後弱含みとなり,また一次産品価格は,横ばいないし緩やかな上昇を続けたが,その水準はなお低い。こうした中にあって,途上国の累積債務や先進国間の収支不均衡に対しては,各種の対応策がなされたが,依然として世界経済の不安定要因として存続している。
(62年度の輪出動向)
62年度の輸出(通関額)は2,380.5億ドルで前年度比10.7%増となった。これを価格・数量に分けてみると,価格(ドルベース)が同9.4%上昇し7たことに加え,数量も1.1%増と増加に転じた(第1-1表)。また,円ベーズでは,円高のテンポが前年度に比べ緩やかになったこと等から価格が5.4%の下落にとどまり,金額でも同4.4%(61年度同15.1%減)の減少にとどまった。次に,四半期の動きをドルベース(前年同期比)でみると,62年度後半以降は円/ドルレートが比較的安定し数量が増加に転じたこと,輸出価格が上昇したこと,などから年度末にかけ増加幅が拡大した。
(通信機,半導体は大幅に増加)
輸出動向を商品別(ドルベース,前年度比)にみると,繊維・同製品(ドル0.3%増,数量10.7%減)は,東南アジア向け,EC向けなどが増加したが,アメリカ向けなどで減少したため,ぼぼ横ばいとなった。化学製品(ドル22.7%増,数量8.0%増)は,世界的な需要増加から全地域で大幅に増加した。鉄鋼(ドル3.1%増,数量10.7%減)は,中国向け,EC向け,中近東向けで大幅に減少したものの,アメリカ向け,東南アジア向けで大幅に増加したことから全体でも増加に転じた。一般機械(ドル19.9%増,数量10.1%増)は東南アジア向け,アメリカ向け,EC向けで事務用機器を中心に大幅に増加した。電気機器(ドル11.1%増,数量1.6%増)は東南アジア向け,EC向けで通信機,半導体等電子部品を中心に大幅に増加した。また,テレビ受信機,VTRについては現地生産が進んだこと,アジアNIEsの追い上げなどから,アメリカ向けを中心に大幅に減少した。自動車(ドル6.1%増,数量4.3%減)はEC向け,東南アジア向けで増加したものの,アメリカ向けで減少したことから伸びを低めた。
船舶(ドル:32.3%減,数量26.7%減)は年度後半から年度末にかけて大幅に減少した。
(東南アジア向け,EC向けで大幅に増加)
次に地域別(ドルベース,前年度比)にみると,アメリカ向け(4.5%増)は化学製品,鉄鋼,一般機械が増加したものの,VTR,自動車が減少したことから伸びを大きく低めた。EC向け(19.8%増)は事務用機器,通信機,自動車などが大幅に増加したことから全体でも高い伸びとなっている。ただし,VTR,複写機については現地生産の影響もあり,弱含みとなった。東南アジア向け(27.1%増)はアジアNIEs等の高い成長を背景として,資本財を中心に大幅な増加となった。特に,半導体等電子部品,自動車,自動車部品などの増加が著しい。中近東向け(0.3%増)は,原油価格の持ち直しも手伝って自動車が大幅に増加したことなどから,横ばい圏内の動きにとどまった。ラテンアメリカ向け(3.3%減),アフリカ向け(13.1%減)はマイナスに転じた。共産圏向け(9.6%減)は,中国向けで自動車,鉄鋼が大幅に減少したことから前年度に引き続き大幅に減少した。
(62年度の輸入動向)
62年度の輸入は,円高の進展と景気の回復から拡大への動きをうけて,通関数量ベースで前年度比12.8%増となり,大幅に増加した61年度(10.7%増)を上回る伸びを示した(非貨幣用金を除くと61年度7.8%増,6・2年度15.5%増,経済企画庁試算値以下同じ)(第1-2表)。輸入通関額は,1,.620.4億ドル,29.2%増と製品輸入の増加に加え原油価格や一次産品価格の上昇もあり3年振りの増加となった。円ベースでも,224,655億円,11.4%増と円高の進展はあったもののやはり3年振りに増加した。通関価格はドルベースで14.7%上昇し,円ベースで1.4%下落した。四半期別の動きを数量ベースでみると,季節調整済の前期比で年度を通じて3~6%台と堅調な増加を続けた。
(増勢を強めた製品輸入)
商品別の動きを数量ベースでみると,食料品は,年度を通して着実に増加し前年度比15.1%増と伸びを高めた。内訳をみると,穀物(4.1%増)は低い伸びにとどまったが,肉類(23.6%増),果実及び野菜(13.0%増),魚介類(12.6%増)が大幅に増加した。また,ウェイトは小さいもののアルコール飲料(34.0%増),コーヒー・ココア(20.7%増)の増加も顕著であった。
原料品も,9.1%増と伸びを高めた。天然繊維ブームといわれた羊毛(13.5%増),綿花(13.2%増)や建築向け需要が旺盛だった木材(11.0%増)などが大きく増加したが,鉄鉱石(6.3%増),非鉄金属鉱(5.3%増)などの金属原料は鉱工業生産の回復の中で他の原料品に比べて相対的に低い伸びにとどまった。
鉱物性燃料は,主力の原粗油が1.8%減と依然減少傾向にあるものの,石油製品(35.0%増)が昨年度に続いて大幅に増加したため,全体で5,2%増となった。原油輸入価格は,12月まで緩やかに上昇し1バーレル当たり18.4ドルとなった後やや下落した。62年度平均は18.2ドルで,前年度比31.4%の上昇となった。
製品類は,記念貨鋳造用金のはく落の影響があったものの,内外財の代替や水平分業の進展などから前年度比20.0%増と昨年度に続いて大幅に増加した。
非貨幣用金を除くと61年度の15.4%増から29.0%増と増勢を強めている。品目別にみると,電気機器(51.8%増),自動車(51.2%増),鉄鋼(50.4%増),アルミ・同合金(58.6%増)などの増加が目立った。61年度に大きく上昇した製品輸入比率は,62年度も上昇し45.6%となった。
(増加続けるアジアNIEs,ECからの輸入)
地域別輸入をドルベースでみると,アジアNIEs(49.2%増)からの輸入は,繊維製品,鉄鋼,電気機器などの製品類を中心に大幅に増加した。また,ECからの輸入も,自動車,衣類,医薬品などの製品類を中心に増加した(非貨幣用金を除くと42.3%増)。
一方,アメリカからの輸入は,木材,事務用機器,航空機などを中心に増加しており全体でも非貨幣用金を除くと27.6%増と伸びを高めたものの,アジアNIEs,ECに比べると低い伸びにとどまった。
また,ASEAN,中近東,オセアニア・南アなどからの輸入は,原油価格,一次産品価格の上昇などもあり増加した。
(縮小した経常収支黒字)
62年度の貿易収支は,上記の輸出入動向を受けて前年度より76億ドル黒字幅が縮小し,940億ドルの黒字となった(円ベースでも3.2兆円縮小し,13.0兆円の黒字)。また貿易外収支と移転収支は,支払額の増加によりともに赤字が拡大し,それぞれ57億ドル,39億ドルの赤字となった。この結果,経常収支の黒字は845億ドルど前年度より97億ドル縮小した(円ベースでも3.4兆円縮小し,11.7兆円の黒字)(第1-3表)。
貿易収支の動きをみると,原数値では6月以降連続して前年の黒字額を下回ったが,季節調整値では年度前半には黒字がかなりのペースで縮小したが,後半になると輸出数量が増加に転じたこともあり一進一退の動きとなった(第1-4図)。
貿易外収支は,2年連続で赤字が拡大した。前年同様に投資収益収支の黒字増加をそれ以外の収支の赤字増加が上回ったためである。対外純資産の増加による投資収益受取の増大の一方で,輸入の増加による運賃支払の増大と引き続き大幅に増加した海外旅行者等により,特に運輸と旅行で大きく赤字が増加した。
移転収支も赤字が拡大した。政府開発援助の拡大に加え,租税送金等の増加もあり,支払が増加したことによる。
(長期資本収支の流出超過幅縮小)
62年度の資本収支についてみると,長期資本収支は1,195億ドルの純流出,短期の資本取引の合計(短期資本収支と符号を転じた金融勘定の合計)は365億ドルの純流入となり,59年度以米の長期資本の流出超,短期資本の流入超傾向が続いている。
長期資本収支のうち本邦資本は,証券投資による流出額が依然大幅ながら前年度より減少し,1,210億ドルの流出超過となった。直接投資や借款による流出額は引き続き増加したが,円高の進行や米国債券価格の下落傾向,さらには我が国機関投資家の資産中に占める外国債券比率の上昇から取得姿勢が薄れたこと等から,米国債を中心とする外国債券投資の取得(流出)超過額は990億ドルから629億ドルヘ大幅に減少した。
一方外国資本では,外人の株式の売り越しが一層大幅だったことと,東京株式市場の活況を受けて引き続き外債発行が盛んだったことが主な動きであり,ネットでは15億ドルの流入超過に転じた。
短期の資本取引の合計は,短期資本収支が大幅流入超となったが,為銀部門の短期借り増加幅縮小から金融勘定の流入幅が縮小したため,流入超過幅は縮小した。なお外貨準備高は62年度末で848.6億ドルとなり,年度間で264.7億ドルも増加した。
(引き続き進行した円高)
外国為替市場における円の対ドルレート(東京外国為替市場銀行間直物中心相場)をみると,62年度も円高が進行し,62年1~3月期の153.2円の後,4~6月期には142.7円となった。7~9月期には146.9円とやや円が安くなったが,10月の世界的株価暴落の後再び急速に円高が進み,10~12月期には135.7円となり,63年の年初には一時121円台の最高値をつけた。しかし7各国の協調姿勢や不均衡の縮小方向が認識されその後概ね安定的に推移し,1~3月期に128.0円となった後,63年度に入ってもほぼその水準で推移したが,6月下旬以降ややドルが堅調な動きを示している。