昭和63年
年次経済報告
内需型成長の持続と国際社会への貢献
昭和63年8月5日
経済企画庁
第4章 豊かな国民生活の課題
今,東京集中が進行している。東京集中は国際化,情報化の流れの中で,東京の重要性が改めて認識されたものと考えられるが,このため東京と地方でそれぞれメリット,デメリットが拡大するなどアンバランスが大きくなっている。東京のアンバランス,地方のアンバランスを是正することが望まれるが,それは結果として東京と地方のアンバランス是正に繋がる。
(東京集中の実態)
東京集中がこのところ目立っている。人口の東京集中は戦後一貫して進展していたものであるから,より正確には,それがここへきて底上げされているあるいは加速していると言った方が適切である。人口移動をみると,三大都市圏への転入超過は30年代後半をピークに鈍化し,大阪圏,名古屋圏では50年前後から転出超過が続いた。一方東京圏は転出超過になることなく55年以降再び転入超過ペースが速まっている(第4-2-1図)。このことは,三大都市圏の集中と言っても最近では東京一極集中にほかならない(なお,本節では原則として東京,神奈川,千葉,埼玉の1都3県をまとめて東京圏として扱うこととする)。
東京集中の実態についてみると,東京圏が全国に占めるシェアは面積では4%にすぎないが,55年当時との比較でみると,実数で,人口,事業所数はそれぞれ6.6%(全国の増加率3.9%以下同じ),4.6%(3.4%)の増加,商業年間販売額は63.5%(48.8%)の増加,金融面をみても,主要金融機関店舗数,個人預貯金残高,全国銀行貸出残高はそれぞれ30.3%(21.5%),54.2%(52.9%),117.8%(96.9%)の増加となっている。全国に占める東京圏のシェアは,人口25%,事業所数23%,製造品出荷額等25%,商業年間販売額39%,そして,主要金融機関店舗数16%,個人預貯金残高27%,全国銀行貸出残高55%となっており,人,物,カネ,いずれの面でも東京に集中している状況が窺える(第4-2-2図)。また東京圏における従業員の推移を産業別にみると,工場分散が進展している製造業では伸びが低い反面,情報化等の下でのビジネス・チャンスの拡大や収益性を反映して金融・保険業,卸売・小売業・飲食店,サービス業,不動産で伸びが高い(第4-2-3図)。
(東京集中をもたらすもの)
このような東京集中が何によりもたらされたかは,必ずしも特定できるものではないが,国際化,情報技術革新などを底流とするビジネス・チャンスの拡がりが大きな要因と考えられる。最近のビジネス・チャンスを生み出す要因についてみると,①国際化によるもの,②技術革新によるもの,③公的分野に係わるものがあげられる。
第一に国際化についてみると,外国企業にとっては日本のマーケットの大きな成長力が注目され,自由化,市場開放も加わって活動の自由度が高まった。国内企業にとっては,国際取引,海外での活動の活発化がある。このように国際ビジネスを巡る環境変化は目覚ましく,その情報入手・交換の場として国内的に蓄積の厚い東京が活用されている。また,東京は世界中核都市の一つというばかりでなく,アジア地域の拠点という性格も有している。こうした状況の中で,外国企業の東京進出が活発化し,特に,情報技術革新の進展や自由化の流れの中で外国金融機関の東京進出が顕著となっている。例えば外資系企業の本社等の86%,外国金融機関の支店,駐在員事務所の86%が東京圏に立地している。国内企業では国際部門の比重が高まり,それは東京に集中している。
第二に,技術革新関連分野としては,ネットワークの構築,研究開発などがあげられる。情報・通信,バイオテクノロジー,新素材といった先端分野をはじめ,技術の世界は日進月歩である。ここで留意を要するのは,基礎研究と応用研究,応用研究とニーズ,ハードとソフトというように技術が多面性をもってこそビジネス化することである。例えば,通信・情報処理技術の開発はそれ自身重要なことであるが,VAN,POS,金融ネットワークなどという具体的なシステム構築に際しては特にソフト面においてユーザーサイドの意向を聴取しながら,また場合によっては共同で行うことが必要となる。研究所は顧客と直接接する機会が少なく,その点では比較的都心から離れて立地する可能性があるものの,情報が極めて重要な役割を果たすため,一部研究所の立地については,関東臨海,関東内陸を希望する企業が多い。
第三に公的分野に係わるものである。東京は言うまでもなく日本の首都であるため行財政機能が集中しているが,いくつか留意を要する点がある。一つ目は,国際化,技術進歩への対応である。国際化や技術進歩は業際化等の問題を生じさせるが,業際化に係わるビジネス・チャンスが生じてくると,それを実際にビジネス化するため,民間企業でも公的部門との情報交換・折衝等を行う人員が必要となる場合がある。国際化や技術進歩が進むほどそうした傾向が強くなる。二つ目に,各種財団法人の設立である。国際化や技術革新の下で公的部門は,民間に人材等を仰ぎつつ,財団法人を通じて種々の案件対応を試みている。こうした法人についても東京に設立されることが多い。
このように東京にビジネス・チャンスが拡大していることが東京集中の一要因とみられるが,企業経営サイドからみてもこの点は裏付けられる。すなわち,ビジネス・チャンスがあるとして,実際にビジネス化し,大きな利益をあげるためには,ビジネスに係わる情報をいかに速く入手し,いかに速く意思決定し,フォローするかが重要である。そこで,情報入手,意思決定,フォローといった本社機能を東京に移す,ないし増強するという行動があらわれる。東京圏における就業者を部門別にみると(第4-2-4図),製造業の現業部門すなわち製造部門は頭打ちとなっているのに対し,本社機能などの事務・管理部門は最近むしろ増加を強めている。また,非製造業では現業部門が安定的に増加する中で,事務・管理部門の急増が顕著である。事務・管理部門の増加は,産業構造の変化を反映した全国的なものと考えられるが,東京の場合には,本社機能の東京集中化により増加している面もあろう。
これらの諸点をつうじて共通しているのは,情報の重要性である。これまでの情報化の進展の中では技術革新にもかかわらず,東京集中がかえって促進される傾向があった。これは,供給情報量といった量的側面にとどまらず(第4-2-5図),その内容・質が問われているのである。企業の意思決定が東京に集中してきていることから,ビジネスに直結する各企業の経営方針,新規事業等に関する「ナマ情報」など,東京でしか得られない情報が重要視されるようになったためである。
最近の東京集中は,企業にとっては東京に立地することのメリットが高まったことの反映であるが,それでは国民生活の観点からはどうであろうか。東京と地方を相対比較した場合,東京のメリットは地方のデメリット,地方のメリットは東京のデメリットという関係になっているが,国民生活の観点から全体評価を行うことはかなり難しい。しかし,東京集中に伴い東京と地方のそれぞれに歪みが生じ,かつ最近さらに悪化していることから,それを是正していくことがやはり必要である。
東京と地方のそれぞれのアンバランスを概観すると,東京のメリットすなわち地方のデメリットとしては雇用機会・産業基盤,賃金,文化的催事・教育,ショッピングなどがあげられる。一方,地方のメリットすなわち東京のデメリットとしては,物価水準,住宅,自然環境,交通混雑,公害などがあげられる。
また,雇用面について有効求人倍率,完全失業率からみると(第4-2-6図),やはり東京圏に雇用機会が相対的に多いことを示している。雇用機会に関連して,地域別の産業構造をみると,前述のとおり東京圏は情報,通信,サービス,金融・保険関連といった成長分野の産業のウエイトが高いのに対し,地方は農林・水産業,鉱業をはじめとする低成長分野を多く擁している点は否めない。
次に,賃金,物価面についてみると,東京(地方)は賃金水準が高い(低い)一方,物価水準も高く(低く),この結果実質的な賃金水準は東京と地方で名目賃金ほど格差がない姿となっている(前掲第4-2-6図)。この間,住宅地価の格差は極めて大きく(同図),住宅を保有していない者にとっては東京でそれを購入するのが極めて困難になっていることを示唆している。
東京圏の消費支出構成について今少し詳しくみてみる(第4-2-7図)。東京圏の消費支出構成を全国平均と比較してみると,住宅と教育がかなり高く,教養娯楽,保健医療,被服・履物,食料がやや高くなっている。一方光熱・水道,家具・家事用品,交通・通信の支出は低いものとなっている。
それでは住宅面について,広さからみていこう(第4-2-8図)。持家,貸家の1戸当り床面積をみると,やはり東京圏が狭く,全国平均との対比では持家,貸家とも84%にすぎない。次に家賃についてみると,東京圏がかなり高く,全国平均とくらべても,53%割高となっており,また可処分所得に占める家賃地代も16%となっている(第4-2-9,10図)。一方,東京都心3区への通勤・通学時間は片道60分~75分が全体の24%と最も多く,また1時間以上が全体の62%を占めている。このように東京の住宅は,手狭でかつ高価であり,また勤務先から遠い,という問題をかかえているが,こうした傾向は,マンションの立地が遠隔化するなど一層深刻化している。
(際立つ東京の地価上昇)
最近東京問題で最も深刻化していることが地価高騰である。ここでは東京の地価高騰とその要因について探ってみる。
61年から62年にかけ地価が急上昇した。以前にもやはり地価が高騰したが,今回は若干様相を異としている。それはこれまでのところ東京圏の地価上昇が突出していることである。47,48年2年間の地価上昇率(全用途平均)は全国が73.3%(住宅地79.6%)に対し,東京圏が78.6%(同84.0%),一方61,62年2年間は全国が31.1%(同34.5%)に対し,東京圏が104.6%(同104.8%)であり,47,48年はほぼ全国一律の上昇を示している一方,61,62年は東京圏の上昇率が際立っており,しかも東京圏の上昇率は47,48年を上回っている(第4-2-11図)。
次に東京圏の地価をやや長期的にみると(第4-2-12図),上昇局面は47,48年と53,54年そして今回と3度ある。それぞれの局面を用途別にみていくと,47,48年は住宅地の上昇率が高く,やや遅れて工業用地が上昇,この間商業地の上昇率は相対的に低かった。53,54年も住宅地の上昇率が最も高く,一方工業用地は最も低かった。そして今回は商業地が既に59年から上昇,61年には急上昇しているのに対し,住宅地の上昇は61年からでしかも上昇率は62年に至ってはじめて商業地を上回り,また,工業用地の上昇本格化は62年と,商業地主導型であるというのが今回の特徴である。
(地価上昇の背景)
それではこのような地価の急上昇がいかなる要因により生じたのであろうか。地価は理論的には,土地の限界生産力や需要と供給によって決まるレントの動きや,地価やレントの上昇についての人々の予想等さまざまな要因によって左右される。また,こうした要因がどのような金融情勢を背景としているかによって異なってくる。すなわち,土地はビルや工場,住宅といった上物があってこそ価値をもつものであり,①土地1単位当りの財貨・サービスの生産額(土地の限界生産力)が増加したり,②オフイスや住宅といった需要が増加したりするとき,レントが上昇し,その結果として地価が上昇する。また土地を購入する場合,ビルや工場,住宅といった上物から得られる収益すなわちレントとビル等を購入する場合の金融等のコストとの相対関係も重要であり,コストが相対的に低くなれば,土地を購入してビルや工場,住宅といった上物を建てる需要が強まり,地価が上昇する場合が多い。さらに,土地は最終的にはビルや工場,住宅に利用されるとしても,通常の財と同様に取引円滑化のためには在庫が必要である。その場合,在庫保有のコストが低下すれば,土地の需要が増加して,地価は上昇する。なお,①金融緩和の場合は,キャピタルゲイン狙いの仮需的な動きが生じやすいこと,②高層ビルへの建て替え等土地の限界生産性の上昇が見込まれる場合には,レントの上昇期待から実際に地価が上昇することにも留意が必要である。
こうした考え方の下で,今回の東京の地価上昇の要因を探ってみよう。
東京のビル賃貸料(レント)と床面積当りの総生産額を比較してみると,最近両者がほぼ並行して上昇しており,建築物の高層化,OA化等による情報化などにより土地の限界生産力が上昇していることがレント引上げの要因になっていることが窺われる(第4-2-13図)。また,これまでみてきた東京集中が土地の供給制約の下で需要面からレント押上げの大きな要因になっているとみられる。東京では中枢管理機能の強化,国際化に伴う外資系企業や地方在来の企業の事務所の開増設等により,一層機能集中が強まった。こうした商業地の需給逼迫は金融緩和の下で,地価上昇をもたらしたものと考えられる。
東京の商業地,住宅地の地価上昇要因をレントを中心とした理論モデルで要因をみてみよう(第4-2-14図)。このモデルでは前述した地価やレントに関する人々の予想等が数量的に把握することが困難であるため,ここでは便宜的に捨象している点には十分留意する必要があるが,それによると,61,62年の上昇には金融緩和の下で,商業地ではレントの上昇がかなり寄与している一方,住宅地では相対的に寄与が小さいという結果であった。ここで留意すべきことは,商業地,住宅地ともに実際の地価がモデルによる理論地価をなお大きく上回っていることである。勿論理論地価自体幅をもってみる必要があるが,このような事態は人々の地価上昇期待が広範化し,金融緩和を背景に,土地の転売や仮需的取引が活発化したといった言わばバブル的要素が働いたことを示唆するものとみられる。因みに,前掲の理論モデルによればバブル的要素の作用の結果,61,62年の2年間で住宅地の地価は1.6倍のレント上昇(実際には1.1倍)があった場合と同じだけ上昇したとの試算も得られる。
(地価上昇の弊害)
以上のような地価上昇は,所得分配面,資源配分面,経済の安定性といった様々な弊害を及ぼすとみられる。まず所得分配面では,前節でみたように土地を持っている者と持たざる者との間で大きな資産格差が生じ,これより社会的不公平感の拡大がもたらされる次に資源配分面では,公共投資,住宅投資,設備投資などを行う場合,資金が土地代に食われてしまい,付加価値部分に回らなくなるといった歪みをもたらす。また,このような地価上昇の下ではいわゆる「土地神話」が正当化され,持てる者は土地を手放したくない,持たざる者は無理をしてでも土地を持ちたいということになり,土地の有効利用を阻害するあるいは資源配分を歪めるばかりでなく,地価の下方硬直性をもたらす。
そこで東京の地価上昇により,平均的サラリーマンにとって持家取得がどの程度遠のいてしまったかを試算してみよう(第4-2-15図)。これによると,61年度の生涯収支差額(住宅取得費を除く)で戸建て持家住宅を取得することは,全国平均ではほぼ可能とみられる。一方,東京都の場合,地価上昇により東京都の持家価格(約7,700万円)は生涯収支差額(住宅取得費を除く)を超えているものの東京圏では持家価格は約4,600万円となお取得可能である。しかし,62年度における東京圏での地価高騰により,持家取得は東京圏でも困難なものになっていると考えられる。このような状況下,サラリーマン世帯では持家取得が困難となり不公平感が強まっているばかりでなく,住宅建設がそれにより大きな影響を受けることが予想される。
これまでみてきたように東京と地方がそれぞれのアンバランスを抱えているが,東京と地方が各々その是正を図れば,東京と地方のアンバランスも是正されることになる。ここでは,地価問題,地方分散,経済広域化を中心にその是正策を模索していくこととする
(地価問題への対処)
まず,東京で最も深刻な地価問題について考えてみよう。住宅・社会資本等生活環境についても基本的には地価問題が底流にあり,それを是正していかなければ生活環境の改善も難しい。地価を沈静化させるためには,土地取引に規制を加える直接的アプローチと土地の需給バランスを改善させるマーケット・アプローチがあるとみられる。確かに昨年打ち出された直接的アプローチが功を奏し,東京都区部地価は62年9月に比べ63年3月は商業地で4.4%下落,住宅地で7.8%下落となるなど地価は下落の兆しが窺われる。しかし,水準自体が高すぎて引き下げの必要があるとともに,今後こうした傾向が定着するかは見極めがたい。そのためには今後,後でみる地方分散の推進を図るとともに,土地の公共性,社会性というナショナル・コンセンサスの下で求められる街づくりの青写真を十分検討したうえで,供給の増加,需要の適正化を目指したマーケット・アプローチが必要である。
すなわち第一に,市街化区域内農地の宅地化推進,埋立地・工場跡地の活用,市街化区域と市街化調整区域とのいわゆる線引きを今後とも適確に見直すことなど,土地供給の促進を図ることである。例えば,東京圏の市街化区域内農地のうち固定資産税の課税の適正化措置の対象となる農地は3万ヘクタール弱にのぼるが,このうち宅地化すべき農地については計画的な宅地化を進めていく必要がある。また,東京湾の埋立地の有効利用においても臨海部副都心で6万人程度,豊洲・晴海埠頭地区でも5~7万人の居住人口を確保することとしている。なお,固定資産税の課税の適正化措置の対象となる農地,線引きの見直し(第2回線引き見直しにより拡大した,又は拡大が予定されている市街化区域の面積),ウォーターフロントの開発(臨海部副都心,豊洲・晴海埠頭地区,MM21,幕張新都心とした)の面積は約41,000ha(東京都区部の約3分の2)となり,これがさまざまな用途に使われることになれば,住宅地としてもかなりの供給余力が存在していることになる(付表4-1)。
第二に,土地の高度利用を図ることである。日本さらには東京は土地の絶対量が少ないという指摘もあるが,空中や地下といった高度利用を行えば,そうした問題も回避しうる。現実の東京をみると,それが十分行われているとは言い難い状況である。良好な街づくりに配慮して土地の高度利用の促進を図るべきと考えられる。また,高度利用にともない,現在不足している公共空間(オープンスペース)の創出に配慮することが必要である第三に,土地税制の活用である。土地税制の活用については,その資源配分への影響等十分な吟味が必要である。また,望ましい土地利用の実現のためには,都市計画等他の制度・施策と一体的に土地税制の活用を図る必要があり,そのための条件の整備が必要である。
この間,地価形成の適正化も望まれる。実際,土地取引といってもある地域の一部といった限界的なものにすぎないが,その限界的な取引により地域全体の地価が上昇してしまう傾向がある。また,その取引についての情報が乏しく,実態がわからぬまま上昇してしまうケースが少なくない。そこで,土地取引情報の提供の充実が求められる。
(地方分散の推進)
地方分散の推進は,東京の地価,環境問題,混雑問題の改善に役立つ一方,地方の雇用機会を増加させるなどメリットが大きい。
まず,産業機能の分散について,地域(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,愛知県,三重県,京都府,大阪府,兵庫県を除く38道県)における62年の工場立地件数(速報値)をみると,50年を100とした指数では177.2と全国の172.4を上回っている。過疎地域の企業立地数でみると,60,61年度の2年間は円高進行の下で鈍化したが,62年度に入って再び増勢に転じているとみられる(第4-2-16図)。最近の傾向を業種別にみると,電気機械といった輸出型に加え,食料品,金属製品といった内需型が増加している。円高下において,当初海外現地生産へのシフト,あるいは輸入代替から国内製造業は打撃を受け,企業の地方立地など今後ありえないとの見方が強かったが,現実には再び企業の地方立地が進展している点に注目すべきである。企業としても,国内生産を継続するのであれば地価をはじめコストが低い地方を選択するという面もある。一方,過疎地域における地域自らの努力による地域産業おこし(ここでは地域の資源や技術を活用して独自の特産品づくりを行うことにより新たな産業をおこすものをいう)の件数もこの4年間で6割増と着実に増加しつつあり,こうした傾向が定着することが望まれる。
ここで留意すべきことは,財政支出である。地域によっては,財政支出,特に公共事業支出がその地域経済にとって重要な地位を占めている。そこで国,地方を通ずる行財政の簡素合理化及び地方分権の推進の観点に立って,地域づくりにおける地方公共団体の自主性,自律性の強化等を図ることを基本に,地域の総合的な行政主体である地方公共団体の行財政基盤の強化を図る必要がある。また,基本的に人材を育成しつつ地域の人々が自らのためにオリジナリティをもった施策を打ち出し,実施していくことが重要である。
次に行財政機能の地方分散である。それには,地方への権限委譲等を進めること,政治・行政の中枢機関の移転再配置について幅広い観点から本格的検討に着手することが考えられる。前者については,地域のことは地域の人々が考えることが自然であり,地方分権の推進の観点にたって,できるかぎり権限・財源の地方への委譲等を行いつつ,全体のバランスは中央がみていくという姿が望ましい。
後者については,政治,行政システムを効率的に運用するために,全体のビジョンづくりを行うことが重要である。そうした青写真の下で地方移転を行えば,東京や移転先あるいは政治,行政システムの混乱を回避しつつ地方分散が進展することが期待可能である
(経済活動の広域化)
地方分散が進むには,単に経済主体が分散するということではなく,ネットワークの拡大という形で経済活動の広域化に結びついていく必要がある。例えば,製造工場が東京から地方へ移転するとしても,その工場が東京と無縁になるのではなく,東京と地方,地方と地方の関連が強まる形である。そのようなネットワークの拡大は,東京と地方あるいは地方間の相互交流を強めることにより,それぞれが活性化し,ひいては日本経済全体の活性化に繋がるとみられる。
こうした経済活動の広域化を図るためには,航空,道路といった交通網や,通信網の整備が望まれる。これらはいずれも量的充実が必要であるが,航空では路線の多様化,空港からのアクセス,道路では高規格幹線道路の充実,通信網では高速・高品質の総合的通信ネットワークであるISDN(Integrated Services Digital Network:サービス総合デジタル網)の整備というような質的充実も必要である。さらに,これらの利用料の一層の低廉化により国民生活を含めた経済活動の広域化が一層可能となり,東京に立地する必要性は薄められる面もある。その意味では,これまで情報化が東京集中を促進する側面のみが目立ってきたが,今後においては上述のネットワークの整備により情報化が流れを変える可能性も否定できない。