昭和63年

年次経済報告

内需型成長の持続と国際社会への貢献

昭和63年8月5日

経済企画庁


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第2章 世界経済の中の日本経済

第3節 世界経済の中での日本の貢献

わが国は二次に亘たる石油危機をはじめ様々な外的衝撃を受けながらも大きく経済発展をとげてきた。今後とも順調な経済拡大を図るうえで,世界経済が持続的かつ安定的な成長をたどることが我が国にとって必須の条件である。このため,第1,第2節の検討を踏まえ,我が国としても,①市場アクセスの改善と経済の国際化に応じた制度の国際化を図るとともに,②世界経済の発展に貢献していくことが必要であるが,以下ではこうした点についてみてみよう。

1. 市場開放・市場アクセスの改善と制度の国際化

経済における相互依存の高まり,国際化の進展による緊密度の深まりとともに我が国は貿易摩擦を始めとする様々な対外摩擦を経験して来た。今日,我が国に対する国内市場の開放に加えサービス分野の国内制度と国際的制度との調整といった新たな課題も生じている。

(対外摩擦と外向きの国際化・内なる国際化)

62年度は,これまで主に欧米の輸出市場で生じていた貿易摩擦に加え,サービス分野も含めた市場開放の要求が一段と高まった。こうしたなかで,二国間交渉に加え,GATT(関税及び貿易に関する一般協定)の提訴も行なわれ,一部我が国の貿易制限的措置に対し改善を求める裁定が出された(第2-3-1表)。

このように,国際化の進展とともに対外摩擦もその内容が変化してきている。対外摩擦を分類するには,日本から進出していく場合(外向きの国際化),国内に外国の物・人等を受入れる場合(内なる国際化)を区分し,また,貿易関連分野とその他の分野に分けてみていく必要がある。類型化した対外摩擦を国際化の発展段階別にみてみると,対外摩擦はまず第2-3-2表の「1.」の輸出市場で貿易摩擦からはじまる。我が国の経験では輸出の進展とともに,37年の日米繊維交渉以来,様々な貿易摩擦を経験した。しかもその対象品目は繊維,鉄鋼といった素材品目から,家庭用電気製品,自動車を経て,ハイテク製品へと高度化している。62年度を例にとると,ECにおける部品に関するアンチダンピング規則の改正や半導体摩擦の再発があげられる。次に,国内市場が発展し魅力的となったことから,外国から貿易をつうずる参入が積極化し,内なる国際化(第2-3-2表の「2.」)が生ずる。ここでは国内で保護されている産業の市場開放要求が強まることになる。昨年から63年にかけ市場開放要求が高まりをみせた。国際化の中で市場アクセスの改善により,産業調整が必要となるという国際化に伴う「痛み」を経験することになる。たとえば,自由貿易体制の維持・強化という観点からは外向きの国際化の面と内なる国際化の面で対応の一貫性を欠いた場合には,対外摩擦が深刻になるのは避けられないだろう。

最後の段階として,制度・慣行に係わり,主に非貿易財の対外摩擦が生ずるが,これは国際化の一段の進展を示すものである。その一例は,以下で述べる公共事業への参入をめぐって生じた問題であろう。また,カネ・人といった面での国際化が行われて始めて各国間の制度格差による対外摩擦が鮮明に生ずるといった特徴もある。例えば,外国人労働者問題等人の移動に伴って生ずる新たな問題もある。また,国内の政策目的を達成するために制定した法令等による規制あるいは長年培った取引慣行といった市場特性も対外摩擦の原因となりうることを示すものである。なお,ECとの間で問題となっていた酒税制度は一部の課税方式につきGATT違反があるとの裁定が出,我が国はこれを受け入れた。各国とも制度・慣行には歴史的経緯や特定のグループに利害が偏在していること等があり,その改革は貿易財に関する従来の摩擦以上に国内調整が困難な分野である。

(日本に求められる対応)

輸出及び輸入に係わる貿易財の分野では,GATTの下で我が国は自由貿易の体制の維持・強化に貢献する責務を負っており,一部に輸入制限品目(23品目)があるが,我が国は対外摩擦の軽減や輸入障壁の軽減・除去のため率先して努力して来た。なかでも,市場アクセス特に関税の分野ではかなりの成果をあげている。関税では既に世界最低水準(60年における関税負担率は日本が2.6%,アメリカが3.3%,ECが2.7%となっている。)になっており,一部高率のものがあるものの,全体としてみれば,市場アクセスの障害となっていないと考えられる。また,60年7月に始められたアクション・プログラムは「原則自由・例外規制」,「内外無差別」を運用指針として,3年間で決定した事項を実施に移しており,基準・認証制度等の市場アクセス面で評価できる成果をあげている。

現在,GATTの場あるいは先進国との間で我が国と争点になっているのは,市場アクセスと制度の国際化の2分野である。

第一の市場アクセスの問題では輸入制限品目の扱いとサービス部門の市場アクセス問題がある。前者は第3章でみることにして,まず,サービス部門の市場アクセス問題を見てみよう。最近の事例(第2-3-3表)のなかで公共事業への参入問題等が典型的な事例としてあげられる。これについて少し詳細にみると,公共事業では入札制度とその資格の評価が問題となった。公共事業の入札は各国で様々な方式がある。我が国の指名競争入札制度は英国等でも採用されている方式で特異なものと言えず,また,国内では確立された制度となっている。公共事業の指名競争入札の場合,指名に当たっては国内の事業実績が重視されている。問題は新規に参入しようとする外国企業にとって外国で十分な実績を上げていても国内での事業実績がないことにより,指名されにくいということである。いずれも「内外無差別」の原則の下で生じた対外摩擦という点でこれまでとは異なったものであった。一般論では,我が国の対応措置として,かつて日本がサービス分野の対外進出を行ったときの経験に照らし,外国企業に日本の制度・慣習の下で進出することを求めることも可能である。例えば,公共事業では,まず国内企業と合弁事業体を作り,事業実績を積み重ねる,しかるのちに単独企業としての事業実績を作り,最終的に公共事業に参入する,といったシナリオを相手側に要求することも考えられよう。しかし,我が国は積極的に市場アクセスの改善となる道を選んだ。事例の対応にみられるように,我が国としては率先して外国企業に市場アクセスを改善し,国際社会に於ける日本の経済的地位と役割を果たしていくことが重要である。このような対応は結果的には新たに競争要因を持ち込むことにも繋がり,市場の効率化を促し,ひいては国民の厚生を高めることにもなるものである。

我が国に対応を求められている第2の分野は,経済の国際化に対応した制度の国際化,経済活動の国際的な広がりによって生ずる各国間の制度格差に係わる問題である。取引の国際化や情報・通信の高度化により,付随する事業活動あるいは流動性の高い資本は国境を越え広く国際的展開を指向している。この中で,各国まちまちの制度を有しているのが現状である。特に,従来国際化に十分曝されていなかった部分をもつ,①金融・資本市場,②租税制度,③各国間の法制度格差,あるいは,④弁護士のような資格を要するサービス業等があげられる。これらを簡単に概観することにしよう。

①の金融・資本市場については,世界的な資本市場の一体化が一段と進み,国内外のニーズに応じた形で金融・資本取引の自由化を一段と推進することが望まれるが,この点については第3章で詳細に検討しよう。

②の租税制度では国毎の税制の相違が事業活動に影響を与えていることから,国内要因のみならず国際間の調整も考慮が必要となっている。従来からパナマ,バハマ等のタックス・ヘブンへの逃避が良く知られているが,これ以外に多国籍企業化した事業活動が高まる中で,国境を越えた同一企業グループ内の関連会社間取引価格(移転価格)の算定問題が生じている。米・英では税制改革によって税制の簡素化,税率のフラット化が進んでおり,我が国においても国際的視野からの税制改革が必要とされている。

③の法制度格差については,近年,経済活動の国際化に伴い,一定の場合に,自国の国内法を外国において行われた行為に対しても適用しようとするケースがみられるようになっている。アメリカの反トラスト法を例にとると,その適用にあたっては企業が国外で行った行為でも,その影響がアメリカに及ぶ場合にはアメリカの法が適用されるといわれている。このため,行為地においては合法的な企業活動が制約を受ける事態も想定される。また,この点に関しては,外国の主権の侵害といった問題が生ずることもある。いずれにせよ,経済活動が国際的に広がる流れの中で,各国間で法制度の格差が存在する場合,その適用について何らかの調整が必要と考えられるようになっている。

(外国人労働者に対する扱い)

これまで,カネと物を中心とした国際化,対外摩擦をみてきたが,次に,人の面で,我が国が如何なる制度で人の受入れを行うべきかが大きな課題となってきている。

外国人労働者の受入れに対する議論の高まりの背景には,①円高に伴う我が国所得水準の急上昇,②企業の多国籍化等に伴う人的交流の増大,③一部職種における慢性的人手不足等があり,技能労働者の受け入れには①,②が,単純労働者には①,③が特に影響している。国際的な日本の役割を考慮すれば,専門的な技術,技能を有する外国人労働者の受入れ拡大について国民的合意形成は容易であろう。しかし,単純労働者については,人手不足への対応のためなどもあり,受入れへの配慮を求める一部の声がある一方,逆に,西欧諸国の経験を踏まえた反対論も強く,合意形成には十分な議論が必要であろう(第2-3-4図)。

これまで就労を目的に日本への入国が認められているのは,「出入国管理及び難民認定法」によれば,①長期商用者(外資系企業管理者等),②大学等の教授等,③興行活動者,④高度な技術提供者,⑤熟練労働者(外国料理の料理人等),⑥日本人で代替することが難しい技能,技術を有する等のため法務大臣が特に在留を認める者(外国語教師等)であり,これらの技能労働者の受入れは認めるものの,いわゆる単純労働者は原則として受入れない政策を採ってきた。現在,法違反摘発件数特に単純労働の分野での不法就労が急増(第2-3-5図)しており,また劣悪な労働・居住条件等もあり社会問題を生じている。

外国人労働者の受入れについて,日本ではまだ目新しいものの,西欧では10年以上にわたる広範な経験があり,日本が直面する問題に一つの指針を与えるものである。例えば,西ドイツ・フランスでは第一次石油危機前の人手不足時にトルコ・アラブ圏,スペイン・ポルトガルを中心に外国人労働者を受入れた。石油危機後労働市場に構造変化が生じ,国内の失業率が高まったことから新規の流入を厳しく規制するようになった。また,外国人労働者の帰国を強力に進めたものの,現在でも両国で300万人以上の外国人労働者が存在している。これら外国人労働者は,①失業者のハードコアとなっていること,②定着の進展とともに受入れ国生まれの第2世代をもたらしており,第2世代には受入れ国以外帰る国がなくなっていること,③出身国の文化を持ち込んだ結果,受入れ国の異文化と摩擦を生じさせていることのほか,④社会不安,治安の悪化等当初予想すらされていなかった問題を現出させている。この結果,西欧諸国では原則として新規外国人労働者を厳しく制限する一方,例外的に既存の外国人労働者の親族に限定して入国を認めるとともに帰国奨励金の供与等帰国の促進を強力に行う政策を採っている。しかし,在留者を頼った不法労働者の流入は十分に阻止できていないといわれており,西欧においても依然として不法就労の問題が解消している訳ではない。

西欧の経験は多面的であり,単純な議論を許さないものであるが,経済的側面の問題を理論的に整理すれば,その経験から大きく二つの問題が抽出できる。まず,第一に適切な制度の整備なしに外国人労働者を受入れることの問題点である。受入国の最低賃金水準を大幅に下回る賃金水準でも労働力供給が十分に大きい国から外国人労働者を単純労働者として受入れた場合,制度的制約にもよるが,企業にとってその費用はたとえば最低賃金に職業訓練費用を加えたものとみることができよう。しかし,外国人労働者の定着指向性は著しく高く,短期的な労働力として受入れても長期在留することになり易いことが窺ええる。その場合長期在留者となった外国人労働者の雇用には最少限,住宅,社会保険,教育等の費用と賃金を合計した国内労働者を雇用するのと同じ社会的費用が発生し,加えて,社会全体では雇用機会を失う労働者への雇用対策費等が増大する。つまり,企業は人手不足解消のため,短期的費用のみ考慮して外国人労働者の雇用を強く希望するが,社会的には長期にわたる費用を考慮した上で受入れの可否を判断せざるをえないという判断基準の差が存在することも考えられる。従来の西欧の制度では,私的費用(企業負担する費用)と社会的費用に大きな乖離があり,社会的費用が私的費用に反映される制度となっていない。その意味で外国人労働者の受入れ問題については古典的な市場の失敗が生じており,社会的費用の負担が社会全体にかかってくる。第二は出身国との摩擦の問題である。景気循環局面では通常雇用調整を避けることはできないが,外国人労働者の場合,短期在留者は単に受入国で失職するだけでなく,出身国へ帰国し,失業せざるを得なくなるという事態も起こることから,ある意味では失業の輸出を意味することになり,国境を越えた社会的コストを発生させるものである。世界経済の相互依存が強まれば強まるほど先進国の不況期は途上国での不況期と一致することになり,出身国との関係を考慮すると容易に外国人労働者の雇用を調整できなくなるという問題を持ち込むことになる。

国際化の進展により,外国人が我が国にビジネスチャンスを求め,また,我が国としても交流機会がふえる等互いにメリットがあることは事実である。これは一般論として外国人労働者の規制緩和を検討する十分な論拠となろう。しかしながら,上記のような問題に加え,更に,幾つかの留意も必要であろう。第一に,途上国の経済発展には,直接投資等経済協力の拡充により途上国国内の労働力需要を創出し,技術を移転するとともに,有能な労働力を国内開発に活用することが必要である。途上国にとって,若く働きざかりで中核をなす労働者が単純労働者として大量に流出する場合には,国内の発展を阻害するおそれがある。第二に,低賃金の単純労働者の受入れは,彼らと競合する日本人労働者の雇用をも不安定にし,労働条件を引き下げる可能性が高い。主として低賃金労働力に安易に依存する企業においては,生産性の向上を図る意欲が低下する可能性があるほか,技術革新が妨げられるおそれが生じ,結果として日本の国際的貢献を弱めるものになりかねない日本が外国人労働者に対しとるべき施策は,この問題が多面的であることから各要素を十分踏まえたものとする必要がある。経済的側面からいえば,まず外国人労働者の受入れについて国内の社会的費用を私的費用に正確に反映させるようにする必要があろう。この意味から,専門的な技術,技能を有する外国人労働者の受入れについては拡大することも可能であるが,単純労働者の受入れの自由化を図ることは社会的に好ましくない結果をもたらす。さらに,国際的なコストも反映されねばならない。したがって,専門的な技術,技能を有する外国人については,可能な限り受入れる方向で対処するとともに,その範囲を明確化するなどにより,制度の一層の透明化を図る。その際に予想される諸問題の検討に加え,外国人労働者の受入れに関するその他の問題についても,多面的影響を考慮しつつ,慎重にかつ速やかに検討を行うべきであろう。

2. 世界経済の発展と日本の役割

第1節でも述べたとおり,世界的な国際収支の不均衡,累積債務問題の深刻化にみられるように,現在,世界経済は大きな課題を抱えている。以下では,まず,世界経済が直面する課題を整理したうえでそれを解消するための方策を検討し,その中で日本がどのような役割を果たしうるかについてみてみよう。

1985年以降,主要国間の為替調整に進展がみられ,また,金融政策のみならず財政政策による内需拡大等を通じた不均衡是正のための協調政策が適宜実施されている。しかし,未だアメリカの財市場には超過需要があり,海外にアメリカ向けの輸出需要を作り出している。反面,大幅な資金不足となり,これを外国からの資金で埋め合わせている。日本,西ドイツのような黒字国ではちょうど逆の現象が生じている。アメリカの赤字は84年以降1000億ドル以上(87年では輸出額の64%)という莫大さで,資金需要の偏在を生み,貿易財と非貿易財の間で資源配分に歪みを生じさせ,貿易摩擦を激化させる等,世界経済のバランスある発展に問題となっている。特に,不均衡の影響を敏感に受ける途上国から開発のための新規資金である,ニュー・マネーを奪うことになり,累積債務問題のマイナス効果を増幅する結果となっている。

現在,世界経済を取り巻く環境は二つの意味で厳しいものがある。第一に,先進国間の不均衡は債務が債務を生むという累積効果が生じかけており,なによりも早期の是正が必要となっている。第二に,先進国で改善が進んだとしても累積債務問題の解決のため途上国はニュー・マネーが必要で,輸出の拡大によって自ら外貨を獲得できるような世界経済の拡大が不可欠となっていることである。

(世界経済の発展と日本の役割)

日本経済は二度の石油危機と最近の大幅な円高とを柔軟に乗り切って来た。むしろ,重大な危機に対処してより強靱な適応力をつけてきたといえよう。日本経済は1987年にはアメリカのGNPの53%(77年は35%)を占めるまでになり,一人当たりでも世界のトップクラスに位置付けられるようになった。世界経済の着実な発展は我が国にとって根幹をなすものであり,世界に占める我が国の地位を踏まえた役割が求められている。

世界経済の不均衡を是正し,世界経済の発展を実現していくうえで日本が世界に貢献できる役割には三つの面がある。第一に,広く世界に国内市場を開放し,内需中心の経済拡大を実現し,調和のとれた対外均衡を図ること,第二に,南北諸国間の均衡ある経済発展のため,途上国を支援し,経済協力の拡充や民間の資金協力を拡大すること,第三に,これらを通じて,自由貿易体制の維持・拡大や安定した国際通貨体制の構築等,世界経済にとっていわば国際公共財といった機能の提供について,その一翼を担うことがあげられる。以下では各々についてみてみよう。

(内需中心の経済拡大)

第一に,市場アクセスの改善や内需中心の経済拡大は,調和のとれた対外均衡の下で着実な経済発展を図ることを目標としている。輸出額は輸入額を61年度で1.93倍,62年度で1.68倍と大きく上回っている。この場合,我が国に求められるのは,貿易収支の不均衡を輸出の抑制で是正することではなく,むしろ輸入の拡大と生産を内需指向型にすることで,拡大均衡させることである。また,関税の引下げや撤廃,あるいは輸入制限の緩和等によって,国際価格が国内価格に反映され得るよう,市場アクセスの一層の改善を着実に進めることが重要である。加えて,近年,国民の物価に対する関心は,物価上昇率のみならず,国際的にみた我が国の価格水準へと広がってきている。今後は,物価の安定に加え,規制緩和や生産性向上のための努力,輸入政策の活用等により,内外価格差の縮小を目指した物価構造の是正を図っていくべきである。これらの施策が相まって,円高に示された我が国の経済力を国民生活に反映させることができよう。

これらによって,我が国の黒字体質(輸出が増え易く,輸入が増え難い)の改革となるとともに,我が国への輸出国の経済の発展を支援することになる。例えば,昨年,我が国はアジアNIEsやASEAN諸国から大幅に輸入を増加させたが,これらの諸国に与えた影響をみてみよう(第2-3-6表)。我が国の輸入の増加は実質で韓国の輸出増加の16.4%,タイの19.0%占めており,これらの国の成長率を各々1.3%,0.8%程度高めたと考えられる効果があった。無論,このように世界に対し受容性を高めることは全体としてメリットがあるものの,国内生産者や輸入業者と国内生産者及び輸入業者同士の摩擦も生じうるわけで,市場アクセスの改善から個々に生ずる「痛み」については資源の効率的利用を妨げないかたちで移行措置を講ずる必要がある。

第一章でみたように,輸入は堅調な増加を続けており,対外不均衡は着実に是正に向かいつつあるが,依然としてそのレベルは高く,この点に着目すれば,不均衡是正の努力が一層必要とされている。

(政府開発援助(ODA)の拡充)

途上国への支援の中心は政府開発援助(ODA)である。我が国はこれまで世界の南北諸国間の相互依存と貧困と飢餓等の問題に対する人道的考慮を基本とし,途上国の自助努力を支援し,発展に寄与することをODAの基本理念としてきた。また,累次にわたる中期目標を設定し,この実現を図ってきた。この結果,ODAの供与実績では飛躍的に増大し,1987年には約75億ドルと,中期目標設定前の77年に比べ5倍強となり,米国に次いで第2位の援助供与国となっている。しかし,我が国の援助はこれまで相対的に所得水準の高いアジア諸国を重点に,主に有償資金協力(円借款)によって供与されてきたため,グラントエレメント(援助の条件を金利,供与期間,据置き期間で比較する尺度,贈与は100%,金利10%の借款は0%と表示する)は諸外国の平均水準を下回っている。

今般,我が国は,先進国のODA総額に占める我が国の分担割合を,計画期間中に,先進援助国中の我が国の経済規模の割合に見合った水準に引き上げることを念頭において,厳しい財政事情の下で今後ともODAの拡充を通じた我が国の世界に対する貢献を更に意義あるものとするため,1988年から5か年を対象とし,実績総額を500億ドル以上とするよう努めるとともに,併せて,GNP比率の着実な改善を図ることを中心とするODAの第4次中期目標を本年6月に設定したところである。援助を通じ積極的に国際社会に貢献しようとする我が国の決意を内外に示したことは評価できよう。

この際,援助の内容については,量的拡大とともに,その質的改善を図る必要がある。このため,①後発開発途上国(LLDC)向けの無償資金協力の拡充,②留学生対策などの人造り協力等を含む技術協力の拡充,③国際機関の財政基盤の強化と人的貢献の強化,④円借款の形態の多様化・供与の強力化等の質的改善に加え,内外諸情勢を踏まえた一般アンタイド化の推進措置を講じ,途上国の自助努力を支援するとの基本理念の下に,各種協力を総合的,機動的かつ弾力的に行う必要がある。加えて,ODAの実施に際しては要員の充実,国別専門家の育成,地域研究の充実,案件発掘・形成機能の強化,評価活動の充実,コンサルタントの活用等を含む援助実施体制の充実及び民間活動との連携強化を図るべきであろう。

援助の実施面でみてみると第二次石油危機以降新たな課題が生じている。現在,途上国の現況は分極化が進んでおり,従来我が国が中心的な援助対象地域としていたアジア特にASEAN諸国と,これに対し,サブサハラ諸国等の発展段階の低い途上国との間で著しい経済パフォーマンスの差が生じている(第2-3-7図)。この分極化を踏まえ,援助を供与するに当たってはそれぞれの途上国側のニーズに応えられるようより一層きめ細かな対応が必要であろう。また,もし,これら諸国が自助努力の推進に困難な状態に陥った場合には,我が国も従来の基本理念の枠組みの下で,本年6月に決定した債務救済措置の拡充や国際機関などとの協調の下で途上国の経済政策を支援するための援助にみられるような,弾力的な援助を実施することが必要になろう。

(資金協力)

経済協力の第二の側面は,経常黒字国として,途上国に対し,ニーズに合致した資金の円滑な循環を図ることである。既に,民間による直接投資の拡大等,市場を通じた資金還流が実現されつつある。政府においても,資開発援助(ODA)の第3次中期目標の一部繰り上げ達成を決定し,資金還流措置については63年6月までに前者について承諾ベースで約9割,後者は約7割実施されており,順調な進捗をみせている。我が国の経常収支は対GNP比率でみれば次第に低下していくと期待されるが,絶対額としては引き続きかなりの黒字が残ることが予想される。したがって,今後も当面残る経常黒字を如何に活用するかが課題となる。

資金の円滑な循環には市場の役割と政府の役割の明確化という課題がある。経常黒字や金融機関が調達した資金は,市場メカニズムだけに任せておいては,重度債務国や資金ニーズが強いがリスクも高いラテン・アメリカに流れないという問題がある。第一次石油ショックのときは資金偏在を市場の手で解消できたといわれる。すなわち,アラブOPEC諸国に集まった資金がユーロ市場を通じ,多くをラテン・アメリカや開発指向型の途上国へ還流し,更に,途上国へ流入した資金が原油高騰のため国際収支赤字に陥った先進国へ開発資機材の輸入代金として循環したといわれる。この結果,心配された程の国際的金融危機は生じなかった。

現在の状況はアメリカが大きな資金需要を作り出しており,また,借手としてのアメリカは途上国とは比較にならないほど安定かつ高収益の国である。このため,市場に任せると資金はアメリカや成長が著しいアジアNIEs等一部の国だけに流入することになりかねない。ここに政府と市場の役割の接点がある。例えば,ラテン・アメリカの既往の累積債務に係わる資金の循環は市場がその力を発揮し,対処する課題であり,市場メカニズムがその機能を十分発揮することができるよう健全な市場が育成される必要があろう。また,民間部門からの資金供給を促進するため,環境整備も重要であろう。

また,途上国の債務返済能力を高める成長に必要な新規資金の供給を促進するため,貿易保険や日本輸出入銀行の保証の機能の活用を図るとともに,カントリー・リスク情報の提供等市場機能強化が必要であろう。加えて,債務を増加させない資金調達は途上国にとって極めて重要である。生産・経営等に係るソフトの技術移転をもたらす直接投資がそれで,我が国の海外投資保険制度,MIGA(多数国間投資保証機関),日本輸出入銀行の保証制度の活用等により投資リスクの軽減を図ることや途上国による投資規制,部品調達規制等の撤廃による直接投資促進措置も有力な方策である。貿易の拡大による資金調達の増大に加え,ニュー・マネーの供与促進にこれらを通じて我が国も貢献することが期待される。

(国際経済システムの安定化のために)

このような我が国の内需中心の経済拡大や援助を核とした途上国の支援を通じて,世界経済の均衡の回復と着実な発展がもたらされる。また,ひいては,我が国の貿易依存度や債権国化から重要な意味をもつ,国際経済システム(自由貿易体制と第1節で検討した国際通貨体制)の維持・安定化を図ろうとするものである。以下では自由貿易体制について詳しくみてみよう。

自由貿易体制はGATTに基づき,原則自由,例外制限を基本的方針に,戦後の国際貿易を急速に拡大してきた最大の原動力である。貿易制限品目も,GATTの精神では例外的に制限を認めようとするものであった。この協定のもとで,多国間交渉により関税率を7回にわたって引き下げる等の成果を生み,国際貿易の拡大をもたらし,日本をはじめ輸出指向型の経済発展を採った国は大いに恩恵を受けることになった。

しかし,2回の石油危機の洗礼を受け,先進国では経済成長の鈍化が生じ,西欧にみられるように高失業率が持続する等,各国は容易に解消できない不均衡を国内に抱えることになった。加えて,1980年代に至り,世界で大きな対外不均衡が発生し,従来,自由貿易を支持してきた諸国にも貿易摩擦の激化とともに保護主義的な動きが強まっている。また,ECが92年の完全統合に向け,域内の税制等の統一化を進める動きがあり,米・加の自由貿易協定の締結など,地域協力の推進もみられる。こうしたなかで,自由貿易を促進し,保護貿易をぼう圧するため,GATTウルグアイ・ラウンドにおいて実質的な交渉が行われている。

我が国としては,自由貿易体制が世界経済の発展に不可欠であることを認識するとともに,ウルグアイ・ラウンドでは自由貿易体制を維持・強化し,最大の受益国として保護主義を防ぐため交渉のすべての項目,即ち,GATTの体制とルールの改革,市場アクセス,農業及びサービス貿易,貿易関連の知的所有権,貿易関連投資措置といった新分野について積極的に対応することが必要になっている。

貿易体制や第1節で検討した国際通貨体制は世界経済にとっていわば国際公共財といった機能を持つもので,各国の経済運営の在り方が大きく依存することになる。自由貿易体制とIMFを中心とした通貨体制はこれまで世界経済の発展に大きく寄与してきたが,なかでも我が国はその最大の享受者であり,今後も政策協調と両制度の強化による不均衡の是正と国際経済システムの安定化に貢献していくことが必要である。

これら経済を中心とした貢献のほか,我が国としても科学技術,文化面を通じた国際的貢献を行っていく必要がある。これまで我が国は基礎研究の分野で受益者になることが多かった一方,応用研究や工業化を中心に技術開発を行ってきたといわれる。しかし,今日基礎研究の分野においても我が国の国際的地位に相応して貢献することが求められている。科学技術が人類共通の財産であることも踏まえ,外国人研究者との交流や国際共同研究の促進も検討課題である。従来世界との交流は経済面に偏りがちであったが,今後文化面での交流についても,民間ベースの交流を尊重しながら,拡充していくことが望まれる。

我が国の国際化の進展や国際経済に占める大きさを考えると,世界経済の着実な発展とそれを支える国際経済システムの安定性は我が国経済にとって重要な基礎的条件である。世界に貢献することは翻ってみれば自らの発展の基礎作りを行っているに等しい。国際国家として生存していく上で責務であると同時に自らが受益者であることも自覚する必要がある。