昭和63年
年次経済報告
内需型成長の持続と国際社会への貢献
昭和63年8月5日
経済企画庁
第1章 昭和62年度経済の特徴
(緩やかな増加を示す輸出)
昭和62年度の我が国輸出の動向をみると,通関ベースで数量は,前年度比1.1%増と2年振りにプラスに転じた。また,62年度に入ってからの動きを四半期ベースでみると,62年4~6月期に前期比マイナスとなった後,7~9月期以降プラスに転じており,年度後半から緩やかな増加が続いている。
こうした動きを円ベースでみると,62年度は円高のテンポが緩やかとなったこともあって,前年度の大幅な減少(15.1%減)と比べるとその減少幅は縮小し,前年度比4.4%減の減少にとどまった。また,ドルベースでみると,円高基調のなかで価格が上昇したことから,62年度は10.7%増と前年度(17.8%増)に引き続き高い伸びを示した。このように62年度後半以降,輸出数量指数は緩やかな増加が続いているが,こうした動きの要因を輸出数量関数を用いてみてみると(第1-4-1図),まず,相対価格要因については,62年度に入って円高のテンポが相対的に緩やかとなったこともあって次第にマイナスの寄与を縮小させている。一方,所得要因(世界輸入要因)をみると,62年後半以降米国経済の拡大基調の維持,アジアNIEsの高い成長から,このところプラスの寄与が高まっている。このように,相対価格要因がマイナスの寄与を縮小させるなかで,所得要因のプラスの寄与が支配的となり,輸出の緩やかな増加がもたらされているものと考えられる。
最近の動きを地域別にみると(第1-4-2図),まず,アメリカ向けについては,60年度以降弱含みで推移しているが,62年度に入っても乗用車輸出の減少などから引き続き弱含みで推移している。西欧向け,アジアNIEs向けについては,資本財,中間財を中心に増加傾向で推移している。また,中近東向けについては,61年度に原油価格の大幅低下による購買力の低下から大幅に減少したものの,62年度に入ってからは横ばい圏内で推移している。また,品目別の動きをみると(第1-4-3図),まず,自動車はアメリカ向けについては,円高に伴う価格競争力の低下等から,減少傾向となっている。因みに,62年度における対米乗用車輸出は,221万4千台にとどまり,自主規制枠(230万台)を完全に消化できなかった。西欧向けについては,EC向けではモニタリングが開始されていることもあり,弱含みとなっているものの,EC以外の地域向けでは大幅に増加している。東南アジア向けについては,日系海外現地法人からの需要の増大等から増加している。化学製品については,世界的な需要増加からEC,東南アジア向けなどで大幅に増加している。一般機械についてはコンピュータ関連機器を中心にアメリカ,EC向けで一段と増勢を強めている。電気機器については,アメリカ向けは現地生産の進展や価格競争力の低下などから家電製品を中心に弱含んでいるものの,EC,東南アジア向けなどでは,通信機(ファクシミリ等),半導体集積回路(IC)等を中心に増加が続いている。精密機器については科学光学機器を中心に増加傾向にある。また,金属・同製品,繊維・同製品については,アジアNIEs等の追い上げなどから62年に入っても大幅な減少が続いている。このように,品目別で輸出数量をみた場合に低付加価値品については,現地生産への移行,アジアNIEs等の追い上げにより,弱含んで推移しているものの,コンピュータ関連機器,半導体,通信機等の高付加価値品については,増勢を強めており,こうした高付加価値品の伸長が全体の輸出数量の緩やかな増加をもたらしているものと考えられる。
(製品類を中心に増勢を強めた輸入)
62年度の我が国の輸入(通関ベース)は,数量ベースでは製品類の大幅な増加を主因として前年度比12.8%増加した(非貨幣用金を除くと同15.5%増,経済企画庁試算値,以下同じ)。金額でみると,原油価格の反転もありドルベースで同29.2%増となり,円ベースでは円高が進行したものの同11.4%増と,ともに3年振りの増加となった。四半期ごとの動きを非貨幣用金を除く数量ベースでおってみると,60年10~12月期以降着実な増加を示してきたが,62年度に入って前期比で4~6月期4.4%増,7~9月期5.1%増と伸びを高め,以後4%台の増勢を続けている(第1-4-4図)。こうした増勢の原因としては,60年秋以降の急激な円高が国産財から輸入財へのシフトをもたらしたことに加え,62年央以降の景気の急回復のなかで国内需要が堅調に推移したことがあげられる。
商品別の動きをその寄与度でみると,数量ベースでは,非貨幣用金を除く製品類が8.9%と圧倒的に高いが,61年度に寄与の小さかった鉱物性燃料,原料品が寄与を高め各々2.1%,1.2%となった。また,食料品も1.9%と昨年度を上回る寄与を示した。ドルベースでみると,やはり製品類が大幅な増加寄与となっているほか,61年度にマイナス寄与となった鉱物性燃料が原油価格の上昇からプラスの寄与に転じている(第1-4-5図)。以下商品別の動きをやや詳しくみてみよう。
食料品は,数量ベースで15.1%増となった。消費者の食生活の多様化や円高による輸入品の割安感から,肉類,魚介類,果実・野菜などが二桁台の増加となった一方,穀物は低い伸びにとどまった。また,並行輸入が盛んになったアルコール飲料が高い伸びを示した。原料品では,天然繊維ブームにわいた羊毛,綿花,建築向けの需要が旺盛だった木材が二桁の増加を示し,全体でも9.1%増となったが,金属原料は鉱工業生産の回復のなかで相対的に低い伸びにとどまっている。鉱物性燃料では,石油製品が35.0%増と2年連続して大幅に増加する一方,原粗油は若干の減少となった。ここにも,粗原燃料輸入から製品輸入への構造変化がうかがわれる。製品類をみると,記念貨鋳造用金輸入のはく落で大幅減となった非貨幣用金や化学製品の一部を除いて,ほとんどの主要商品が二桁台の増加を示した。特に,海外現地生産品の逆輸入も見られた電気機器や,大型乗用車の販売好調な自動車,国内生産を代替したアルミ・同合金製品などが5割以上の大幅な増加となった。
次に地域別の動きをドルベースでみると,アジアNIEs,ECからの輸入が製品類を中心に大幅に増加した。アジアNIEsからは,電気機器の部品類や家電製品のほか,繊維製品や鉄鋼などの素材製品も増加した。ECからは自動車などの機械類や化学製品が増加した。また,ASEAN,中近東等からの輸入は,原燃料価格の上昇などにより増加に転じた。ウエイトは小さいが製品類も高い伸びを示している。一方,アメリカからの輸入の伸びは,非貨幣用金を除くと高まったものの,アジアNIEs,ECなどに比べると低いものにとどまっている。特に,製品類の伸びが20%台にとどまっており,我が国企業への資本参加や現地生産に積極的な米国企業の対日戦略等が影響しているものと思われる(第1-4-6表)。
(経常収支黒字の縮小)
上述の輸出入動向から,62年度の貿易収支は13兆195億円(940億ドル)の黒字,また経常収支は11兆6,936億円(845億ドル)の黒字となり,共に前年度の黒字幅を下回った。
しかし経常収支の62年度中の動きをみると,原数値では年度初からほぼ連続して黒字幅が前年水準を下回っているが,季節調整値でみると前半はかなりのペースで黒字が縮小したものの,後半には縮小ペースが鈍化し一進一退の動きとなった。ここで,通関ベースの収支差(ドルベース)の前年差を要因分解してみると,輸入数量が一貫して増加を続け黒字幅の縮小に寄与してきたことと,62年度に入って原油などの一次産品価格の上昇により輸入価格も上昇し黒字縮小要因となったことが分かるが,年度後半には輸出価格の上昇に加えて輸出数量も増加したため,黒字縮小を阻害する要因となったことが示される(第1-4-7図)。また,収支差を地域別にみると,62年度に入って対中近東で赤字が拡大し始め,さらに対米でも黒字が縮小し始めている。
(貿易外収支の推移)
61年度にドルベースで赤字が拡大した貿易外収支は,62年度にもドルベースで赤字が拡大し,赤字額は57億ドルとなった。貿易外収支は投資収益収支とそれ以外の収支(以下便宜的にサービス収支という)からなるが,62年度も前年度と同様に投資収益収支の黒字が拡大する一方,サービス収支の赤字はそれ以上に拡大し,結果として全体でも赤字が拡大する形となった。
投資収益収支黒字は,経常収支黒字を背景に増えていく対外純資産額に比例する形で引き続き急速に増加し,62年度は190億ドルに達した。一方サービス収支は,円高による海外サービスの割安感等から運輸,旅行,その他の各項目で赤字が拡大した。特に輸入の大幅増加と海外旅行者の急増,さらには携帯品免税金額枠の引き上げ等により,運輸のうちの貨物運賃・旅客運賃と旅行の支払額が大幅に増加し,運輸,旅行とも赤字額が30億ドル以上拡大した(第1-4-8図)。
このような各項目の傾向から,経済のサービス化の一層の進展もあり,貿易外収支の受取額・支払額は高い伸びを続け,相対的ウエイトを高めるものと思われる。結果としての貿易外収支の赤字は,投資収益収支黒字の拡大テンポにも左右されるが,経常収支黒字の縮小を進める上からもサービスの輸入拡大を一層推進していくべきであろう。
(長期資本収支の動向)
大幅な流出超過が続いていた長期資本収支は,62年度にはその流出超過幅が縮小し16兆8,225億円(1,195億ドル)となった。
まず本邦資本の流出超過幅は,16兆9,499億円(1,210億ドル)と縮小したが,このうち対外直接投資は,前年度の152億ドルから238億ドルの流出と拡大した。引き続き金融・保険業,不動産業関係の投資が多いが,製造業も電機,輸送機,化学等で増加した。また,借款も供与・回収とも大幅に増加している。
しかし最も大きな部分を占める対外証券投資は,流出(取得)超過額が前年度の1,101億ドルから719億ドルへと大きく縮小した(第1-4-9図)。このうち株式投資は,外国証券会社の日本進出や,各機関投資家の分散投資対象としての外国株式の研究の進展に合わせ,年度前半には取得・処分とも大幅に増加しネット取得額(買い越し額)も増加したが,10月のニューヨーク市場の暴落以降ネット取得額は減少し,一時売り越しにもなった。一方,対外債券投資は取得・処分とも減少した。これは,本邦機関投資家の行動に,円高の進展や米国債券価格の下落傾向といった事態の発生がブレーキを掛け,外国債券投資の姿勢が慎重になっているものとみられる。機関投資家のポートフォリオに占める外国債券の割合は,取得規制の緩和措置や我が国の債券に比べ高金利である米国長期債券のクーポン収入狙い等によるここ2・3年の急速な取得でかなり高まっている。なお,円建外債等(本邦において非居住者が行う債券の発行・償還)の動きを見ると,発行額が微増にとどまった反面,高金利時発行分の繰り上げ償還が引き続き増加したため,初めて流入(償還)超過となった。
次に外国資本は,年度を通してみると僅かに流入超過となった。対内株式投資では,日本の株式相場が堅調に推移するなかで年度当初から利食い売りの動きが一貫して続いたが,10月の株価の暴落以降大量に売られた。しかし本年に入って,昨年を通じる売り越しから外国人投資家に日本株の売り一巡感が生じてきたこと,海外市場に比べて日本の株式市場の暴落からの回復がより早いこと,日本経済のパフォーマンスの良さと企業業績の回復の評価等から積極的買い越しに転じた。対内債券投資は,年度合計では買い越しになっているが,最近では円の先高観が薄れてきたこともあり,やや低調で売り越しが続いている。外債(外国において居住者が行う債券の発行・償還)は,上昇を続けた日本の株式市場を背景に,発行手続きの簡単なユーロ市場を中心として,ワラント付き社債や転換社債の発行が盛んに行われた。
昭和62年度の雇用情勢は,完全失業率(季節調整値)が5月に既往最高の3.1%となるなど,当初厳しい状況に陥ったが,その後着実な改善をみせ,年度末には求人倍率,所定外労働時間とも50年代以降で最高の水準となっている(第1-4-10図)。
(急速に改善した労働力需給)
62年度の新規求人数は,前年度比23.3%増と大幅な増加となった。産業別新規求人数をみると,61年後半からの内需の回復を受けて年度前半は建設業,運輸・通信業を中心に増加したが,年度後半には鉱工業生産の増勢が強まったことにより製造業の新規求人も急増した。
新規求人の増加を常用,臨時・季節,パートの別にみると,前年度比で常用23.8%増(61年度7.2%減),臨時・季節9.5%増(同3.5%減),パート34.2%増(同18.2%増)となり,パート求人の増勢が続くなかで,常用労働者への求人も著しく回復した。
これを受けて求人倍率も年度を通して上昇を続け,新規求人倍率は62年度1.20倍(61年度0.91倍),有効求人倍率は0.76倍(同0.62倍)とそれぞれ50年代以降で最高となった。今回の労働力需給の改善を前回及び前々回の改善局面と比較すると,改善が急速かつ大幅であるという特徴がみられる。景気の谷から5四半期目までの有効求人倍率(季節調整値)の改善幅をみると前々回(52年10~12月期以降)が0.12ポイント,前回(58年1~3月期以降)が0.05ポイント,今回(61年10~12月期以降)は0.27ポイントとなっている。
このような求人倍率の急上昇は,特に前回回復局面では求人が増加すると同時に,求職者もむしろ増加したために上昇幅が小幅にとどまったことと比べれば,求人の増加ばかりでなく求職者が順調に減少したことによって強められた。
62年度の有効求職者数は前年度比4.0%減(61年度同2.5%増)となったが,これは離職求職者の減少(雇用保険受給資格決定件数前年度比8.9%減)と就職件数の増加(前年度比5.1%増)の両面からもたらされており,62年度において労働市場が好転したことを示している。
(低下した完全失業率)
62年度の完全失業率は,2.8%と前年度に引き続いて過去最高となったが,特に4~6月期には3.0%(季節調整値)と既往最高を記録するなど,前年度にも増して厳しい状況に陥った。これは,61年末にかけての景気後退に伴い,輸出型製造業等を中心に深刻化していた雇用調整局面が62年度当初まで持ち越されたことによるものである。しかしながら,内需を中心とした景気回復が軌道に乗るに伴い,まず所定外労働時間や労働力需給が改善しはじめ,これが雇用増に結び付くに従って失業率も低下し最悪状況を脱した。10~12月期以降は季節調整値2.6~2.7%で安定して推移している。
離職失業者を理由別にみても,4~6月期には非自発的理由によるものが男子で前年同期を8万人上回るなど,厳しい状況となっていたが,年度計男女計では前年度を2万人下回った。
完全失業率を男女別にみると,男子で2.8%で前年度ともち合いとなったのに対し,女子では前年度の2.9%から62年度は2.7%と低下した。女子労働力率は,62年度48.7%と3年ぶりに前年度を上回り,供給圧力とともに女子労働力に対する需要が旺盛であったことが分かる。これは,就業者の増加がサービス業,卸売・小売業,飲食店など,女子比率の相対的に高い内需型産業で大きかったことにもよっている。
(遅れた製造業雇用の回復)
62年度における雇用者数は,前年度差70万人増の4,452万人となった。産業別にはサービス業,卸売・小売業,飲食店等で増加したの対し,製造業,運輸・通信業は減少するなど対称的であった。製造業の雇用者も10~12月期以降前年同期比増加に転じたが,これを過去の生産回復局面と比較すると,雇用増加に至るまでの期間(生産指数と雇用者数の3ヶ月移動平均前年同月比でみたボトムの遅れ)を長く要したという特徴がある(第1-4-11図)。
これは,輸出型業種を中心に生産を調整する過程で,企業が相当の過剰雇用を抱えていたために,生産を増加する際にはまずその人員の活用を図ったためと考えられる。製造業企業の雇用過剰感をみると,62年8月期から11月期にかけて,雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)は大幅に改善しており,雇用調整実施事業所割合も10~12月期に19%と前年同期の半分まで低下した。また,製造業雇用者のうち雇用調整の対象とされやすかった臨時・日雇雇用者も,62年度後半には増加しており,さらに常用雇用者も62年末から前年同月比増加するなど,今後製造業の雇用回復は一層進展するものと期待される。
(落ち着いた動きを示す国内卸売物価)
国内卸売物価は,60年2月以降,円高や原油価格の低下などにより,下落傾向で推移してきたが,62年に入って,建設需要の増加に伴う建設用材料の高騰等から,一時強含みで推移したものの,62年後半から63年に至り再び下落傾向の落ち着いた動きとなっている。用途別に国内卸売物価の動向をみると(第1-4-12図),大幅に下落していた燃料・動力は,62年1月からOPEC定例総会での減産強化,固定価格制復帰の決定等による原油価格の上昇をうけ上昇したものの,10月以降OPEC等の減産合意が不調に終わったことなどによる原油価格の下落に加え,円高の更なる進行とともに再び下落している。一方,建設用材料は,建設投資活動の活発化等により62年の夏頃から秋にかけて一部の資材価格が高騰したが,政府の講じた対策等による生産,輸入の増加から下落に転じた。
このように,一部品目の高騰はみられたものの,景気の回復,拡大局面にある中で国内卸売物価は落ち着いた動きを示した。
そこで,過去の景気回復局面と比較してみよう。まず,需給判断D.I.と国内卸売物価についてみると(第1-4-13図①),一様に需給判断D.I.は大幅な改善を示しているものの,国内卸売物価は,3回前,4回前の時には上昇しており,今回,1回前,2回前はわずかながら下落している。しかし,今回に特徴的な動きは見うけられない。
次に国内需要材の需要段階別指数をそれぞれ景気の谷=100とした動きで比較してみると,図②素原材料では1回前,2回前が景気の谷に対してそれぞれ水準を下げているが,今回は前半やや上昇傾向で推移しているものの,直近では景気の谷にほぼ等しい水準で落ち着いている。また,図③中間財では一貫してほぼ横ばいで推移している。以上のように素原材料,中間財という生産財の段階では,今回の物価安定を説明し得るような特徴は見受けられないが,図④最終財を見ると明白な違いが見て取れる。つまり,国内卸売物価が今回同様下落していた1回前,2回前については,生産財の下落が寄与していたのみであり,最終財は全く下落を見せていない。一方で今回は,生産財が安定的に推移する中で,最終財のみが際立った下落を示している。これが,後に述べるように消費者物価の安定に大きく寄与しているものと思われる。
景気上昇にもかかわらず,物価が上昇していない要因を前年比でみてみると(第1-4-14図),円高に加えて契約通貨ベースでの輸入物価が62年までマイナスとなっていたこと,単位労働コストは上昇していたものの,需給の緩和により稼働率が低下したこと,また,製品輸入等の輸入品が直接競合していることがあげられる。
以上のように,今回の景気拡大局面においても落ち着いた物価動向であり,当面はこれまでの大幅な円高下や輸入数量の増加傾向がある程度ラグを伴いつつ引き続き国内卸売物価を押し下げる方向に寄与するものと思われるが,最近の稼働率上昇による需給の引き締まりや輸入物価契約通貨ベースの上昇等物価の押し上げ要因も見受けられ,為替レートの動きともあわせて,今後の動向に注意を怠ってはならない。
(安定した消費者物価)
62年においては,国内卸売物価が一時強含んだのに対し,消費者物価は安定した動きで推移している。このうち商品は,61年後半から62年初めにかけて下落傾向で推移した後,安定した動きで推移している。これは先にみたように円高,原油等の輸入原材料価格低下の効果が波及したことや,輸入品との競合による価格低下効果に加え,生鮮商品の下落も寄与している。
一方,サービスは,61年度2.3%の上昇に比べ62年度2.0%の上昇と上昇率は鈍化させつつも,上昇傾向で推移している。これは,輸入価格の低下の効果が小さく,人件費等コスト面からみてもその下落効果は小さいことや,そもそも景気や需給要因等による価格変化があまりみられないこと等によるものと考えられる。
対前年同月比上昇率の寄与度をみると(第1-4-15図),61年から62年にかけて商品が大きくマイナスに寄与しているものの,サ-ビスが上昇要因として働いている。中でも公共サービス料金を除くサービスは引き続き高い上昇寄与度となっている。
なお,広義の公共料金(公共サービス料金に電気,都市ガス,水道,米,塩,たばこを加えたもの)は,対前年度比で保合いとなった。
(公共料金等の改定)
62年度において,電気・都市ガス料金が,61年6月,62年1月に引き続き63年1月にも引き下げられた。この引下げ効果は,62年度消費者物価を約0.02%押し下げるものとなった。また,米穀の政府売渡価格が62年12月から平均3.4%引き下げられ,同0.02%の引下げ効果をもたらした。
その他の主要なものとしては,63年2月から日本電信電話の電話料金のうち遠距離料金が約10%引き下げられたこと等や麦の政府売渡価格が平均6.2%引き下げられた一方,国立学校授業料,大手6民鉄(関西5社等)の運賃等が引き上げられれた。
63年度は医療費の薬価基準の引下げと社会保険診療報酬の引上げ,大手民鉄関東6社の運賃値上げ等が行われた。