昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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10. 労  働

本報告書第1部第4章で述べたように,昭和61年度の雇用情勢は,鉱工業生産の停滞等を反映し次第に厳しさを増していった。失業率も62年1月には既往最高の3.0%となり,求人倍率も61年度は新規0.91倍,有効0.62倍と低水準で推移した。しかし,その一方では,就業者,雇用者は緩やかに増加している。

ここではこうした状況を(1)労働力需給,(2)失業率,労働力率,雇用,(3)労働時間,賃金の順に検討する。

(1) 労働力需給

(低い水準で推移した労働力需要)

61年度の労働力需給を労働省「職業安定業務統計」によってみると,新規求人倍率,有効求人倍率とも60年央より低下傾向が続き,この結果61年度の新規求人倍率は0.91倍(60年度0.95倍),有効求人倍率は0.62倍(同0.67倍)と前年度に対し大きく低下した。しかし,62年度に入ってからは生産の下げ止まりや建設業での求人増加等から,求人倍率は下げ止まりの動きを示している。

こうした動きの背景をみるため,まず新規求人の動きをみると,61年度は3.9%減(60年度0.9%減,新規学卒除きパートタイム含む,以下同じ)と大幅に減少した。これを産業別にみると製造業は輸出比率の高い輸送用機械,一般機械,精密機械等機械関連業種の落ち込みから15.3%減(同9.0%減)となった。これに対し非製造業では建築の好調,金融・株式市場の活況等を反映し建設業が8.0%増(同1.7%増),金融・保険が6.8%増(同保合い)と堅調な動きを示した。これに対し非製造業の中でも,卸売・小売業,サービス業はそれぞれ1.9%減(同0.4%増),0.5%増(同8.1%増)と低調に推移した(第10-1図)。

次に新規求職の動きをみると61年度は0.3%増(同1.2%増)と増加基調が続いたものの増加幅は減少した。しかし総務庁統計局「労働力調査」によって求職理由別の完全失業者をみると,非自発的離職者は男子6万人増(同4万人減),女子2万人増(同保合い)とそれぞれ増加している。また労働省「雇用保険事業統計」により,事業主都合解雇者数の動きをみると製造業は輸出関連業種を中心に増加し,61年度47.6%増(60年度0.9%増),産業計でも16.2%増(同5.0%減)と雇用情勢の厳しさを示している。

最後に最近好調が続いているパートタイムの動向をみてみよう。労働省「雇用動向調査」で全労働者に占めるパートタイム比率をみると,卸売・小売業,製造業を中心に年々上昇しており60年調査ではそれぞれ14.6%(59年13.9%),8.5%(同7.5%)となっている。また労働省「職業安定業務統計」でパートタイムの求人動向をみると,新規求人は61年度18.2%増(60年度6.4%増)と大幅に増加し,求人全体の動きとは非対称的なものとなった。61年度に入ってからは61年4~6月期14.0%増,7~9月期17.2%増,10~12月期18.1%増,62年1~3月期23.1%増と卸売・小売業,サービス業を中心に伸びを高めている。

(2) 失業率,労働力,雇用

(高水準となった失業率)

総務庁統計局「労働力調査」によって完全失業率の推移をみると,61年度は2.8%と前年度に対して0.2%ポイント増加した。これは完全失業者が171万人と前年差で13万人増加(前年度比8.2%増)したのに対し,就業者は5,860万人と43万人の増加(同0.7%増)にとどまったためである。完全失業率の動きを四半期別にみると,61年4~6月期2.8%,7~9月期2.9%,10~12月期2.8%と高い水準で推移した後,62年1月には3.0%と同調査開始以来最高の値となった。

完全失業率を男女別にみると61年度は男子2.8%,女子2.9%といずれも対前年度0.2%ポイントの上昇となった。また,これを年齢階級別にみると男子15~24歳層5.5%(対前年度0.9%ポイント増),男子40~54歳層1.8%(同0.2%ポイント増)と男子若年層,男子中高年層で高まった他は男女各年齢とも保合いとなった。

なお,男子世帯主失業率は60年度2.0%の後,61年度は2.2%となった。

(男女とも低下した労働力率)

61年度の労働力率(労働力人口/15歳以上人口)は62.7%と前年度に対し0.2%ポイントの低下となった。これを男女別にみると男子は77.6%,女子は48.5%とそれぞれ0.4%ポイント,0.2%ポイント低下した。

最近の労働力率の動きをみると男子は50年代半ばで進学率は頭打ちとなったものの,高齢者比率の高まりから労働力率の低下が続いている。一方,女子は50年代を通じて職場進出意欲の高まり等から労働力率は上昇していたが,60年度,61年度と2年連続減少した。これは20~54歳(除く30~34歳)にかけては依然労働力率の上昇が継続しているものの,15歳以上人口のうちの55~64歳,65歳以上層の比率が増加しているためである。そこで女子に関して61年度の人口構成比に固定して労働力率の変化をみると0.3%ポイント上昇することとなる(第10-2図)。また,女子の配偶者関係別に労働力率をみると61年度は未婚者53.1%(60年度53.1%),有配偶者51.1%(同51.1%),死別・離別者32.2%(同32.9%)となった。

(増加が続く雇用者)

前述したように労働力需給が緩和した状況を続け,失業率が高水準で推移したなかで,雇用者数は61年度1.2%増(60年度1.1%増)と緩やかな増加を続けた。これを産業別にみるとサービス業3.5%増(60年度1.3%増),金融・保険業3.5%増(同1.0%増),卸売・小売業2.4%増(同0.7%増)と第三次産業は増加を続けたものの,54年度から増加を続けていた製造業は1.0%減(同1.2%増),労働力需給が好調な建設業も0.2%減(同1.5%増)とそれぞれ減少に転じた(第10-3図)。

(61年度の雇用情勢の特徴)

60年6月以降の景気後退局面での雇用情勢の特徴としては,①製造業と非製造業の二面性の明瞭化,②労働力需給の動きと雇用者数の動きの乖離,③労働力需給での常用とパートタイムの動きの乖離の3点があげられよう。この点について以下でみてみよう。

①製造業の求人は当初は半導体不況の,その後は円高の進展等による鉱工業生産全体の落ち込み等を反映し60年4~6月期より前年同期比でマイナスとなった。こうした中で60年度はサービス業が,61年度は建設業が増加することにより非製造業は堅調に推移した。一方製造業においても消費関連業種では個人消費が緩やかながら着実な増加を続けたことから比較的底堅い動きとなった。

このように61年度の特徴は円高の急速な進展の下での外需型の業種と内需型の業種のばらつきであったともいえる。

②製造業を中心に求人が減少するなかで,雇用者数は,製造業等では減少したもののサービス業,金融・保険業,卸売・小売業で増加が続き,産業計でも前年度なみの増加となるなど,労働力需給と雇用者数の動きに乗離がみられた。

これは製造業で新規・中途採用の停止等雇用調整が実施されるなかで,慢性的に雇用不足をかかえているサービス業,卸売・小売業等が積極的に採用をしたためであり,日本銀行「企業短期経済観測調査」(62年5月調査)で雇用判断D.I.をみると,非製造業では60年より不足と判断する企業が過剰と判断する企業を上回って推移している。但し,各統計のカバレッジの違いによって影響される可能性があることに留意する必要がある。日本銀行調査は資本金10億円以上の全法人企業に対し社数で27%程度であり,また労働省「雇用動向調査」(60年)によると職業安定所を通じて入職したものの比率は製造業で26.4%,サービス業で13.1%となっている。

③常用の労働者の求人が低迷するなかで,パートタイムの求人が好調を続けている。これは全体では求人が減少している製造業においてもパートタイムの求人は増加していることから,企業が円高の進展等に伴い景気の先行きに対し不透明感を強め,固定的な雇用増加(常用労働者の採用)に対し慎重な態度をとるようになったためであろう。したがって最近の求人の下げ止まり傾向については若干割引いて考える必要があると思われる。

(3) 労働時間,賃金

(所定外労働時間は減少)

61年度の労働時間の動向を労働省「毎月勤労統計調査」でみると,所定外労働時間は調査産業計で前年度比3.9%減(60年同1.2%増),製造業で9.0%減(同0.5%減)と前年度に較べ大幅な減少となった。これは製造業で輸出型関連業種を中心に残業規制等による雇用調整が実施されたためである。しかし62年度に入り,生産が下げ止まりの局面に入りつつあること等を反映し,所定外労働時間の水準も下げ止まり傾向を示している。なお総実労働時間は,所定外労・働時間の減少により,調査産業計で0.3%減(同0.3%減),製造業で1.0%減(同0.5%減)となった。

(賃金の伸びは業種間格差拡大)

61年度の賃金の動向を同じく労働省「毎月勤労統計調査」でみると所定内給与は前年度比3.7%増(60年度3.9%増)と前年度並みの水準となったものの,所定外労働時間の大幅な減少や特別給与の伸び悩みがら,現金給与総額では3.2%増(同3.8%増)と前年度を下回った。一方,実質賃金は,物価の安定を反映し3.5%増(2.0%増)と高い伸びとなった。

定期給与の動きを産業別にみると,電気・ガス・熱供給5.1%増,建設業4.2%増,サービス業3.9%増,卸売・小売業3.9%増と非製造業が比較的高い伸びを示しているのに対し,製造業は2.2%増と伸びが大きく低下した(第10-4表)。

現金給与総額の伸びを事業所規模別にみると規模500人以上で前年度比1.5%増(60年度3.2%増),100~499人で3.2%増(同4.2%増),30~99人で3.3%増(同3.4%増),5~29人で3.2%増(同2.5%増)と500人以上での伸びの鈍化が大きい。


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