昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
(下落を続けた卸売物価)
56年度以降安定基調で推移した総合卸売物価指数は,60年3月より前月比でマイナスに転じ,60年6月からは前年同月を下回り下落を続けた。61年に入ってからは,円高に加え原油価格の急落も重なり下落幅を拡大させたが,9月以降は円高の一服及び原油価格が上昇に転じたことを受け,下げ止まり傾向が見られ,62年に入ってからは,54年8月頃の水準で推移している(第9-1図①)。
こうした動きを反映して,61年度の総合卸売物価は前年度に比べ10.0%下落し,現行基準(55年=100)で遡及可能な35年度以降最大の下げ幅となった。これは,第一に輸入物価が円高と原油をはじめとする海外一次産品市況の下落を背景に前年度比で36.6%(対総合寄与度△4.1%)と大幅な下落となったこと,第二に国内卸売物価が輸入財価格下落の影響及び製造業を中心とした製品需給緩和等を受けたことから5.7%(同△4.5%)の下落となったこと,第三に輸出物価が円高にもかかわらず,世界的ディスインフレの進行,更にNICsとの競合等により円高調整値上げ(円ベースでの手取りの減少を契約通貨価格の引き上げで補てんすること)が円レートの上昇分程は進まなかったこと,などによる。
61年度の動きを四半期ベースの前期比騰落率でみると(第9-2表),61年4~6月期は国内卸売物価が石油・石炭製品,化学製品,鉄鋼等の下落により1.9%下落した。輸入物価が石油・石炭・天然ガスの大幅な下落等により22.5%下落した。7~9月期は国内卸売物価が石油・石炭製品,化学製品,非鉄金属等の下落により1.8%下落し,輸出物価は金属・同製品等の下落から3.9%下落し,輸入物価は8月初めのOPEC総会で協調減産の合意が成立したことから8月に契約通貨ベースで原油価格が底を打ち9月には上昇に転じたものの,輸入物価総合では円高,食料品・飼料等の契約通貨ベースでの下落もあり11.5%の下落となった。10~12月期になると,為替レートが一次的な円安に向かったこと及び原油価格が上昇したことから,輸出入物価ともに6期振りの上昇となった。一方,国内卸売物価は,輸出入物価が最大の下げ幅を示した4~6月期から半年遅れで2.4%下落と最大の下げ幅となった。62年1~3月期は年明け直後の急速な円高の進行から輸出物価が再び下落に転じているが,輸入物価は12月のOPEC総会での固定価格制度復帰の決定を受け原油価格が急騰したことから上昇し,国内卸売物価は下げ幅を縮小させている。なお,3月についてみると国内卸売物価は石油製品,非鉄金属,化学製品等の値上がりから,60年2月以来約2年振りに上昇へ転じ,4月,5月は3月下旬以降の急速な円高を受け再び前月比で下落したものの安定した動きとなっている。
(円高・原油価格下落が卸売物価に与えた影響)
今日の円高,原油価格の下落が卸売物価に与えた影響を整理すると次のとおりである。
まず円高の影響をみると,第一は直接効果として外貨建て契約の輸出入価格が円ベースで下落したことから輸出入物価を引き下げる方向に働いたことである。輸出物価については円高調整値上げがなされたが,NICs等との国際競争の激化から価格転嫁が進まず円ベース価格の下落を埋めきれなかった。第二は輸入物価の下落が製品の原材料コストを低下させ,国産品価格を引き下げる波及効果が生じたことである。第三は鉄鋼,繊維等のように円高により価格競争力が弱まり,輸入が増加したことから国内市場の需給が緩和し国産品価格を更に低下させたことである。
次に原油価格下落の影響をみると,第一は輸入物価の下落に寄与したことである。第二は原油価格の下落が原油を原燃料として使用する石油製品,電力・ガス等のコストを引き下げ,更にそれらの価格低下が他の品目の価格低下を促す波及効果である。
以上の点については本報告(第5章第1節,第I-5-1図)で分析しているところである。
また,今回の円高,原油価格下落の影響を語る場合,物価という指標を通して,産業間,業種間,またそれぞれの国際間での構造的格差を浮き彫りにしたという意味での影響が極めて大きかったと考えられる。
国内商品市況の動きを日経商品指数(42種)の月末値でみると(第9-3図),需給緩和,急速な円高の進行,石油価格の下落等により大幅に下落した。62年3月の水準は,第一次石油危機直前の48年9月以来の低い水準となっている。四半期別騰落率をみると,今回の円高が始まった60年第2四半期からはほぼ為替レートの上昇に沿った下落となっており,一時的円安となった61年第4四半期には,原油価格の反騰もあり約3年振りの上昇となっている。この時期にも下落を続けたのは化学と鋼材であるが,化学は62年に入って石油価格の上昇と国際的に需給が堅調に推移したことから上昇に転じたものの,鋼材は需要の低迷と輸入品の増加から下落のまま推移している。4月以降は,2ヵ月程落ち着いていた為替レートが再度急速に上昇したものの,海外市場でドル安に伴うインフレ懸念から金融資産資金が商品市場に流入し海外市況を押し上げたことを受け,4月にほぼ横ばいになった後,5月には上昇に転じ国内商品市況も底入れしたものと思われる。
(前年同月比で下落もみせた消費者物価)
消費者物価(全国)の動きを総合指数の前年度比上昇率でみると,55年度は第二次石油危機の影響から7.6%と高い上昇率であったが,56年度に4.0%となった後は,57年度2.6%,58年度1.9%,59年度2.2%,60年度1.9%とほぼ2%前後の安定した上昇率で推移し,61年度は0.0%と33年度の0.4%下落以来約30年振りの低い伸びとなった(持家の帰属家賃を除く総合でみると61年度は0.3%の下落)。
61年度の動きを前年同月比上昇率でみると(第9-1図②),60年11月からは伸びを縮小させながらも1%台で推移し,61年6月からは1%を下回り10月から62年3月までは11月の保合いを除くと前年同月を下回った。特に62年1月の前年同月比1.1%の下落は,先進国の中でも西ドイツの61年11月1.2%下落に次ぐ大幅なものとなった。
以上のような大幅な下落をみせたのは,第一には海外一次産品の下落と円高が同時に進行し原燃料価格が下落し,差益還元等により製品価格が値下がりしたこと,また,電力・都市ガス料金が2度にわたり引下げとなったこと,第二には特殊要因として暖冬による生鮮野菜の供給増による大幅な値下がりがあったこと,第三には円高の直接効果として果物,ウィスキー等輸入品が下落したこと,第四には円高の間接効果として輸入製品の下落により競合国産製品の価格が下落したこと,によるものと思われる。
(大幅に下落した商品と上昇率の鈍化にとどまったサービス)
61年度の動きを特殊分類指数の前年度比騰落率でみると(第9-4表),商品は大きく1.6%下落したが,サービスは59年度3.0%,60年度3.1%,61年度263%と伸び率を縮小させはしたものの商品と比べ大きな上昇を示している。これは本報告(第5章第2節)でも触れたように,サービスは非貿易財であり輸入財との競合がなく,また費用に占める人件費の割合が大きいことから賃金の上昇が価格に影響しやすいこと等によるものと思われる。
大幅な下落となった商品についてみてみると,農水畜産物は,米類がわずがに上昇したものの生鮮商品が大幅に下落し,3.9%の下落となった。工業製品は,灯油,プロパンガス等の値下がりからその他の工業製品が3.2%,電気製品等の値下がりから耐久消費財が1.2%それぞれ下落したものの,出版物が4.2%,繊維製品は,衣料,シャツ,セーター類を中心に2.0%上昇し,食料工業製品も0.4%上昇した。それぞれの分類ごとにみると,いずれも大企業性製品について下落し,中小企業性製品について上昇するという傾向がみられる。
(公共料金等について)
公共料金については,物価安定を図るという観点から経営の徹底した合理化を前提とし,受益者負担,独立採算性を原則としつつ物価及び国民生活に及ぼす影響を十分考慮して厳正に取扱っている。こうしたことから,電力・都市ガス料金については今回の円高局面においても,61年6月と62年1月の2回にわたって暫定引下げが実施された。この措置による61年度の全国消費者物価指数に与える直接的効果は,寄与度で約0.3%引き下げる方向に働いたと考えられる。
また,62年産米の政府買入価格が31年振りに5.95%の引下げとなった。