昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
(3年連続の豊作)
61年度の農業生産は,繭生産が前年度比で12.3%減少したものの,耕種生産が0.3%程度増加し,畜産生産も0.7%程度増加したとみられることから,農業総合では総じて豊作だった前年度をさらに0.3%程度上回ったとみられる(第7-1表)。
主要作物の生産量を見ると,米の生産は,55年産からの4年連続不作の後,全国平均水稲作況指数が,59年産108,60年産104,61年産105と3年連続豊作となった。収穫量は,水稲の10a当たり収量が史上最高を記録した59年産に次ぐ508kgとなったものの,転作等目標面積が60年産の57万4,000haから原則面積の60万ha(他用途利用米の生産に係わる面積を含む。)とされたことから水陸稲計では前年産に比べ0.1%減の1,164万7,000tとなった。麦類(小麦,六条大麦,二条大麦及び裸麦の4麦計)の収穫量は,豊作であった前年産に比べ2.6%減少したものの122万tとなり,2年連続の120万t台となった。野菜は,春野菜,夏秋野菜は面積的には前年産並で収穫量は1%程度増加した。秋冬野菜は作付面積はほぼ前年産並みであったが,生産は暖冬傾向により成育が順調だったことから,低温等により作柄が不良であった前年産に比べ5%増加した。果実は,面積的にはその大宗を占めるみかんの減少等から年率1%強で減少を続けているが,61年産も1.2%の減少となり,55年を100とした生産指数ベースでみると1%程度減少し,3年連続で55年産の水準を下回った。畜産では,牛肉は肉専用種の生産がやや減少したものの,乳用種の増加がそれを補い,前年度に比べ1.3%の増加となった。生乳は需給緩和により54年度以降計画生産を実施しており伸びを低めていたが,61年度は対前年減産の厳しい計画がら年度間では1.0%の減産となった。しかし,ブロイラー,鶏卵では円高等による飼料価格の大幅低下もあり生産意欲が高まり,豚も前年度並みの水準で推移したことから,畜産総合では0.7%の増加となった。
(大幅な下落となった農産物価格)
61年度(概算)の農産物生産者価格は,養蚕が3.0%上昇したものの,耕種作物が6.6%,畜産物が2.7%それぞれ下落したことから農産物総合では5.6%の下落となった。
品目別にみると,主要な行政価格は,米が据え置かれた以外は全品目で引き下げとなった。また,市場で価格が形成される品目では,野菜は暖冬による需要減・供給増から大幅に値下がりし年度平均でも16.8%の下落となった。果実は一人当たり消費量がみかんの減少等から横ばいないし減少傾向であることから需給が軟調に推移しており,円高による輸入果実の増加等も加わって12.4%の下落となった。畜産物についてみると,円高と海外穀物相場の低迷から飼料価格が大幅に下落し生産意欲が高まり生産が増加したこと及び円高により輸入が増加したこと,更には暖冬で消費が伸び悩んだこと等により,鶏卵では12.5%,豚肉で8.2%,ブロイラーで6.5%それぞれ下落したことから畜産物総合では2.7%の下落となった。
他方,農業生産資材価格は円高や原油価格の下落等から総合で4.9%の下落となった。分類別にみると,農機具は0.2%の上昇となったものの,飼料が17.0%,光熱動力が16.5%,肥料が5.0%それぞれ大幅に下落した。
この結果,農業の交易条件指数は,畜産では飼料価格の下落等から大幅に改善したものの,農業全体でみれば農業生産資材価格の下落を上回って農産物生産者価格が下落したことから前年度を0.8ポイント(概算値ベース)下回った。
(総じて堅調な農家経済)
61年度(概算)の農業所得(農家1戸当たり平均)は前年度比3.0%の減少となった(第7-2表)。これは,農業経営費が飼料,光熱動力等の下落から0.6%減少したものの,農業粗収益が野菜,畜産収入,果樹等の価格の大幅な下落から1.5%の減少となったためである。一方,農外所得は給料・俸給が2.3%増加したこと等から1.9%の増加となった。この結果,これら所得を合計した農家総所得は前年度比1.4%の増加となった。また,家計費は0.9%と小幅な伸びとなったものの,実質現金支出は農村物価の落ち着きから1.3%増と堅調な伸びとなった。
(我が国農業の課題)
我が国農業は,国民生活にとって最も基礎的な物資である食料の安定的供給をはじめ,活力のある健全な地域社会の形成,国土・自然環境の保全など我が国社会の発展や国民生活の安定のために重要な役割を果たしている。
一方,我が国農業を取り巻く最近の状況をみると,我が国農業の体質強化,円高による内外価格差の拡大,また国際的には貿易不均衡等を背景とした輸入自由化要求等があり,我が国の農業保護のあり方について今回の円高等による産業構造調整の流れの中で大きく関心を集めるに至っている。
このような状況の下で,農業生産資材価格の下落等による生産費の低下もあったことから,61年度は米を除くすべての行政価格が引き下げとなり,62年度についてもすでに加工原料乳,豚肉,牛肉,生糸,麦,なたねをはじめ7月には生産者米価についても5.95%の引き下げが決定している。
今後は,生産者・生産者団体の主体的責任を持った取組を基礎に需給の動向に即した生産を行うとともに,内外価格差を縮少し国民的理解の得られる価格水準で安定供給を図り得る生産性の高い農業構造の確立を推進し,産業として自立し得る農業としてゆかねばならない。そのためには,構造政策,新技術の開発・普及等を推進することが重要といえよう。また一方では,高齢化社会への対応,雇用や地域経済に与える影響,中長期的な基本的食料供給力の確保等への視点を見失ってはならず,長期的な視野での国民的合意の形成が不可欠となっていると言えよう。
(若干増加した木材需要)
木材(用材)の需要量は,48年の1億2千万m3をピークとして56年に1億m3を割り込んだあと,9千万m3台で推移しており,61年は若干増加し9,451万m3となっている(第7-3図)。(61年の木材需給に関する数値は速報値。以下同じ)61年の木材(用材)需要の部門別動向をみると,製材用,パルプ・チツプ用とも前年水準をやや上回った。これを主要な需要先である住宅建設と紙・ノ々ルプ産業の動向に関連してみると,住宅建設では新設住宅着工数が61年には136万戸,前年比10.4%増と前年水準を上回り,製材用の需要も増加傾向を示した。また,紙・パルプ産業では紙・板紙の生産が伸び率は鈍化したものの引き続き増加し,パルプ・チップ用の需要は前年比2.0%の増加となった。
次に61年の木材(用材)供給をみると,国産材の供給量は3,161万m3,前年比4.4%減となった。一方,外材の供給量は6,289万m3,前年比5.1%増となった。
この結果,木材自給率は33.5%と前年を2.1ポイント下回った。
木材輸入の動向を大蔵省貿易統計によって丸太,製品別にみると,丸太については南洋材,ニュージーランド材が減少したものの,円高により価格が優位となった米材が高い水準で輸入され,ソ連材も丸太生産が順調で,低水準であった59,60年以前の水準にもどったため前年比13.3%増となった。また,製品では製材品が前年比6.7%増,木材チップが4.1%増,合板が堅調な国内需要とインドネシアの輸出奨励策等により99.9%の大幅増となった。
(低迷を続ける木材価格)
木材価格は,55年をピークに若干の変動を伴いながらも長期にわたり低迷を続けている。
61年の木材価格の動向を日本銀行「卸売物価指数」の製材・木製品の価格指数でみると,円高により丸太,製材品,木材チップ等の外材価格が低下したことなどから,9月以降外材の値上がりがあったものの,年平均では3.4%の下落となった。
(我が国林業の課題)
森林には林産物を供給する機能とともに,近年特に重視されている国土保全,水資源かん養,保養体養の場の提供,自然環境の保全形成等といった多様な公益的機能がある。これらの諸機能が高度に発揮されるには森林の適切な管理が必要であるが,その基礎となる林業生産活動は木材価格の低迷や林業経営費の増嵩による採算性の悪化等を背景として低調なものとなっている。加えて,保育,間伐等が適正に行われていない森林が増加しており,森林の多面的機能を高度に発揮する上で将来重大な影響を及ぼすことが懸念されている。したがって,今後は間伐,保育等人工林の適正な整備に加え,複層林,天然林施業の展開,総合的利用に対応した森林の造成等国民の要請に応じた多様な森林の整備を図るとともに国産材を主休とした木材需要の拡大,造林,林道等の生産基盤の整備,林業従事者の育成等により経営の安定を図り,林業生産活動を活発化することにより林業及び山村の振興を図っていくことが重要と言えよう。
(高水準となった水産業生産)
我が国の水産業生産は,59年以降1,200万t台を保持し61年(概数)には1,267万7千tで前年比4.2%増と過去最高であった59年に次ぐ総生産量となった(第7-4表)。
内訳についてみると,海面漁業の漁獲量は1,128万7千tで前年より3.8%増加した。これは,すけとうだらが沖合底びき網,母船式底びき網等で滅少したことから8.6%の減少となったものの,まいわし,さば類,かつお等が大幅な増となったことによる。海面養殖業の収獲量は119万tで9.4%増となり過去最高となった。これは,ぶり類は減少したものの,のり類,ほたてがい及びわかめ類が増加したためである。内水面漁業はしじみやえび類等の減少から,また内水面養殖業はうなぎやこい等の減少からそれぞれ減少した。海面漁業を部門別にみると,遠洋漁業の漁獲量は北方のすけとうだらや南方のおきあみ等の増加から7.2%増加し,沖合漁業は近年増加傾向にあり,まいわし,さば類等の増加から4.7%増加したものの,沿岸漁業は55年以降増加傾向にあったが,さけ類,さば類,あさり類等の減少から1.9%の減少となった。
(水産物価格は下落)
61年の魚介類輸入は,金額では円ベースで2.4%減少したもののドルベースでは39.4%の増加となり,数量指数でも14.9%の大幅な増加となった。
61年の水産物価格を指数でみると,産地卸売価格指数総合では前年比2.1%下落した。これは,生鮮品でさば類,まいわし,かつお等が下落し,冷凍品でもかつお,きはだ,めばち等が下落したことによる。一方,消費地卸売価格指数は,生鮮品がさんま,まあじ,まぐろ等の上昇から2.8%上昇したものの,冷凍品がえび類,さけ類,こういか類等輸入割合の高い品目の値下がりから5.9%下落したことから総合で1.7%の下落となった。また,消費者物価は生鮮魚介で前年比0.9%上昇したものの,塩干魚介は0.9%の下落となった。
(我が国水産業の課題)
我が国水産業の国内生産量は増加傾向にあるが,その増加は主としてまいわしの増産によるものであり用途としては養殖魚の飼料向けが大部分を占め,食用需要の高級化,多様化等には対応していない面もある。従って需要の変化に対しては,今回の円高を背景に消費者ニーズに対応しきれない品目を中心に輸入の増大を招き,食用向けにおける国内生産量の割合が相対的に低下してきていることから,高品質で多様なものを供給するために,資源管理型漁業を中心とした我が国周辺水域の高度利用を進める一方,多獲性魚等の有効利用を一層推進することが重要となっている。また,外食産業等へ安定的な原材料を供給するためにも,生産段階から流通・加工段階に至まで一貫した高鮮度保持,適正な在庫管理等に配慮した体制を整備していくことが重要である。更に,最近は需要の高級化等に対応した養殖業で密殖化傾向による漁場劣化等の問題を生じており,漁場利用の適正化等を図るとともに魚病発生の未然防止と薬品に頼らない安全な生産の確立を図ることが重要である。