昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
61年度の建設投資総額は名目で52兆9200億円(見込み),前年度比6.4%増となり,57年度以来4年ぶりに50兆円を超える見込みである。また,名目建設投資総額を実質建設投資総額で除したデフレーター(以下「建設投資デフレーター」という。)が前年度比約1.4%の低下となったため,実質では同7.9%増となる見込みである(第5-1表)。54年度に名目GNPの21.3%を占めた建設投資は,その後シエアが低下傾向にあり,60年度には15.5%にまで低下すると見込まれるが,61年度は,15.8%と7年ぶりに前年度を上回るものと見込まれている。
61年度の名目投資額(見込み)動向を建築と土木とに分けてみると,まず建築は,前年度比で住宅投資が10.2%増と2桁の高い伸びを示し,非住宅投資も5.7%増と比較的高い伸びが見込まれるため,全体としては,8.1%増と投資総額の伸びを上回った。一方,土木は公共事業が7.7%増となったものの,公共事業以外が3.0%減となったため,全体としては4.0%増となった。61年度は住宅投資の高い伸びに支えられて建築が好調,土木も前年度を上回り,全体として比較的高い伸びを示したといえる。
投資主体別にみると,前年度比で政府投資の4.4%増に対して民間投資は7.7%増と好調であった。
建設投資デフレーターは落ち着いている。
建設資材価格の動きを品目別にみると,金属製品,鉄鋼は低下傾向にあるが,窯業・土石製品はほぼ横ばい,製材・木製品は上昇傾向にある。
公共投資の動向を一般会計の公共事業関係費予算(当初)でみると,60年度の前年度比2.3%減に引き続き,61年度も同2.3%減と抑制された。しかしながら,内需拡大の要請に対応しつつ,社会資本の計画的,着実な整備を推進するため,種々の工夫を行うことにより,一般公共事業の事業費としては,前年度比4.3%増を確保することとなった。
こうした予算枠の中にあって,予算執行は機動的・弾力的に行うこととされた。すなわち61年度上半期の公共事業等の施行については,61年4月の「総合経済対策」及び5月の閣議決定において過去最高の契約済額を目指して,可能な限り施行の促進を図ること,各地域の経済情勢に即した適切な施行を行うよう配慮するものとし,景気の動向に応じて機動的・弾力的な運用を図ることが決定された。さらに同月の公共事業等施行対策連絡会議第1回会合において,上半期の契約率を77.4%とすることが了承された。
予算執行状況を反映する公共工事請負金額の推移をみると(第5-2図①),61年4月は「国の補助金等の整理及び合理化並びに臨時特例等に関する法律」の成立の遅れの影響も前年ほどはなく,前年同月を大きく上回り順調なすべり出しとなった。その後積極的な上半期前倒し発注等の効果もあり,10月まで前年同月を上回り推移した。その後一時息切れの状態を呈したものの,61年11月の補正予算の効果が年明け後出始め,61年度全体では前年度比8.4%増と比較的高い伸びを示した。
公共工事請負金額の動向を発注主体別にみると,年度上半期,下半期を通じて,地方公社等を除く,国,公団・事業団等,都道府県,市区町村の全ての発注額が増加した。
一方,公共事業の進捗を示す公的固定資本形成(実質)の推移をみると(第5-2図②),61年度全体では,内需拡大のための積極的な予算措置の影響があらわれ,前年度比7.3%増となった。四半期別にみると,前期比で4~6月期は3.6%増となった後,7~9月,10~12月,62年1~3月期はそれぞれ1.8%増,1.1%増,1.0%増と堅調に推移した。公的固定資本形成のデフレーターは落ち着いている。
62年度における一般会計の公共事業関係予算(当初)は前年度比2.3%減と4年連続してマイナスとなった。しかしながら,一般公共事業の事業費については,財政投融資の活用,補助・負担率の見直し等種々の工夫を行うことにより,前年度を上回る水準(前年度比5.2%増)を確保することとなった。
建設投資のうち,民間建設投資は61.6%を占めている。また,建設着工総床面積のうち,民間建築主によるものは,90.2%を占めている(いずれも61年度)。
そこで,ここでは民間建設投資の動向を大手50社の受注動向でみた後,民間建設の中でもシェアの大きい建築の動きを建築着工統計でみることとする。
まず,民間建設の動向を大手50社の民間からの建設工事受注額でみると(第5-3表),60年度に前年比10.4%増の後,61年度も堅調に推移し前年度9.0%増となった。
これを業種別にみると,製造業からの受注は,繊維業,化学工業が増加したものの,シェアの大きい機械工業が大幅に減少したほか,鉄鋼業も減少したため,13.1%減と大幅な減少となった。一方,非製造業からの受注は,商業・サービス業・保険業,不動産業,運輸業等幅広い業種にわたり増加したため,14.9%増と好調であった。
施工高は,前年度比で0.6%減となり,年度末未消化工事高は,1.3%増となった。
なお,民間からの建設工事受注額を中小465社についてみると,前年度比で12.8%増と前年度を上回った。
次に,建設工事の動向を61年度の建築着工統計の床面積でみると,前年度比で居住用は7.9%増と3年連続の増加となり,非居住用も1.8%増と前年度の減少から再び増加に転じたために,全体で5.3%増と3年連続で増加した。
居住用建築物の内訳をみると,居住専用,居住産業併用いずれも増加となった。また,非居住用建築物の内訳をみると,商業用及びサービス業用が前年度比2桁の増加を示したものの鉱工業は大きく減少,公務・文教用は低い伸びにとどまったため,非居住用建築物全体としては低い伸びとなった。
61年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は140万戸で前年度比11.9%増と3年連続して増加し,54年度以来の水準となった(第5-4表)。
これを資金別にみると,民間資金住宅は,分譲住宅が3年連続で減少したものの貸家が好調であったことから,全体として15.2%増となった。公的資金住宅はウエイトの大きい公庫住宅が8.8%増と増加に転じたことがら,全体でも6.2%増となった。
また,利用関係別にみると,持家は4.2%増と増加に転じ,貸家は民間貸家の大幅増加により25.0%と好調であったのに対して,分譲は3.1%の減少と低調であった。
年度内の動きをその後の動きも含めてみると,貸家は60年度に引き続き高水準で推移している。分譲住宅は,一戸建て,共同住宅とも動きは鈍い。持家は,民間持家は59,60年度と連続して増加したものの61年度はわずかに減少した。
一方,公的持家の大半を占める公庫持家は,住宅ローン金利の引き下げや融資対象床面積の拡大等の融資条件の改善,60年10月から実施された特別割増貸付制度の定着等により,前年度比9.1%増と大幅に増加した。こうした動きを反映して,住宅建設は高い水準で推移している。
なお,新設着工住宅の一戸当たり平均床面積は61年度には80.9m2と前年度を2.7%下回った。これは,持家の動きが相対的に緩やかななかで,持家や分譲住宅に比べ規模の小さい民間貸家の着工戸数が高い伸びを示したためである。こうした結果,新設住宅着工総床面積は,前年度比8.8%の増加となり,戸数ベースの増加率をやや下回った。
61年の住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,全国銀行及び相互銀行は前年比で60年51.9%増の後,61年には54.7%の大幅増となった。また,住宅金融公庫は14.1%増となり,住宅金融専門会社は72.6%の大幅増となった。
以上の結果,全国銀行,相互銀行,住宅金融公庫,住宅金融専門会社の新規貸出額の合計でみると,前年比43.7%増と大幅に増加した。また,住宅ローン金利の推移をみると,金利は61年度を通じて,民間住宅ローン金利,住宅金融公庫貸付金利とも一貫して低下し,史上最低となった。
最近の地価の推移を地価公示でみると,全用途の全国平均の対前年上昇率は,58年4.7%,59年3.0%,60年2.4%と年を追って鈍化していたが,61年には6年ぶりに前年を上回る2.6%となり,62年は東京圏の高い上昇率の影響を受けて前年を更に大きく上回る7.7%となった。
62年の地価公示による対前年上昇率を用途別にみると,宅地見込地は1.5%と前年の上昇率を下回ったものの,住宅地,商業地,準工業地はそれぞれ7.6%,13.4%,6.0%と,前年の上昇率を上回った。なかでも商業地の上昇率は全用途の全国平均を上回るものとなった。また,これらの用途の上昇率は,市街化調整区域内宅地1.2%に比べて相対的に高いものとなっている。特に東京圏の商業地は48.2%,住宅地も21.5%となり,地価上昇の地域による顕著な2極分化傾向が一層明らかとなった。
地域別に全用途平均の動きをみると,三大圏の上昇率が15.0%と地方の上昇率1.5%を上回っており,なかでも東京圏の上昇率が23.8%と三大圏の中でも最高となっている。