昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-

第6章 緩やかながら着実な増加続く家計支出

第4節 中期的にみた消費支出の傾向

(中期的な消費構造の変化)

では,中期的に消費支出の動向をみた場合,どのような特徴があるのだろうか。国民経済計算の形態別消費支出(実質)での各形態への支出の国内消費支出に占める割合をみてみると (第I-6-10表),40年代の後半から最近に至るまで,非耐久消費財及びサービスが約80%,耐久消費財が約20%という割合いはほとんど変化していない。。しかし,詳細に眺めれば40年代後半には非耐久財及びサービスの割合は82%で変化がなかったものが,50年代にはわずかに低下し60年度には80.9%となっている。非耐久消費財及びサービスの中では,財支出の割合の低下が著しく40年代後半も50年代にも同様の傾向を持ち,昭和45年度に37%の割合であったものが,60年度には30.9%と6.1%ポイントの低下をしている。一方,この間サービス支出の割合がこれを相殺するように上昇しているものの,その全てを打消してはおらず5%ポイントの上昇にとどまっている。また,耐久消費財の中では耐久年数の短い財(半耐久財)に比べ,耐久年数の長い財(耐久財)の支出割合に増加傾向があり,50年代に入ってその傾向を強めている。

次に,国民経済計算の目的別消費支出で項目別の支出の伸びを5年ごとに区切ってみると (第I-6-11表),40年代後半には全体の消費が,実質で平均5.5%の伸びを示しているのに対し,医療・保健,交通・通信,家賃・水道・光熱がそれより高い伸びとなった他は低い伸びにとどまっている。50年代前半にもこうした傾向には変化はないが,レクリエーション・娯楽・教養・文化サービスが伸びを高めているのが目立っている。しかし,50年代後半の5年間では,若干変化がみられレクリエーション等と家具・家庭器具・家計雑貨が全体より高い伸びを示しているが,サービス支出のうち家賃・水道・光熱,医療・保健,交通・通信といったこれまで比較的高い伸びを示してきた項目への支出は全体と同程度の伸びにとどまっている。

このように,国民経済計算でみる消費支出は全体として伸びを鈍化させながら,食料などの必需的非耐久財の割合を低下させ,サービス支出を増加させてきている。こうしたサービス支出の増加には50年代を通して質的な変化が生じていると思われる。すなわち50年代前半までのサービス支出の増勢は主として医療・保健,家賃・水道・光熱といったいわば必需的な支出に依存していたが,50年代後半には既にその前から萌芽がみられていたレクリエーションなどの選択的な支出の寄与が高まっている。また50年代前半までは,所得の増加に伴う消費の拡大が,主として必需的なサービスの質の向上などに向っていたが,その後は選択的な財,サービスへの需要が相対的に高まっているものと言えよう。

特に,選択的なサービス需要には趣味的な色彩が濃く,社会全体のニーズの多様化に見合って今後とも高い伸びが期待できよう。

(循環的な動き)

次に50年代に入ってからの財とサービス支出の循環的な動きを「家計調査」のデータで追ってみると (第I-6-12図),58年頃までは財,サービスともに多少のずれは伴いながら同じようなサイクルで循環しており,概ねサービス支出の方が高い伸びを示してきた。しかし,59年以降ではサービス支出の好調な時には財支出が不振であり,逆にサービス支出が不振な時に財支出の伸びが高いなどちぐはぐな動きとなっている。財の循環的な変動を形作っていると思われる耐久財についてもその変動をみてみると,これまでは3年から4年で循環を繰返していることがわかるが,乗用車については次第にこうした循環的な変動が崩れてきており,58年度以降かなり短い期間で増減を繰返している。こうした財,サービス支出の循環的な動きは,景気変動との関連は52年末からの回復局面でともに盛上がりをみせ55年初からの下降局面で伸びを鈍化させている他は,明瞭に読み取ることはできず,特に58年以降は景気の山谷とは反対の動きとなっている。また,金利との関係をみてもはっきつとした相関は見出しにくいが,61年初来の金融緩和とは耐久財の増勢とが相関しているようにみえる。

以上総じていえば耐久消費財の循環は,概ね買替え需要により循環が作り出されてきたという側面が強く景気等に比較的関係が薄いと言えよう。


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