昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-
第6章 緩やかながら着実な増加続く家計支出
民間最終消費支出(実質)の動きを国民経済計算でみると,60年度に2.6%増加した後,61年度も3.0%の増加と比較的堅調さを維持している。しかし,四半期別に推移を追ってみると,前期比で4~6月期1.2%増,7~9月期1.3%増と堅調な伸びを示していたが,10~12月期には暖冬等の特殊要因により0.7%の減少となった。民間最終消費支出が前期比でマイナスになったことは,第一次石油危機後の49年1~3月期以来12年振りのことである。その後62年1~3月期には再び堅調さを取戻し同1.8%の増加となっている。
一方,家計調査でみると全世帯では60年度0.2%増の後61年度に1.4%増,また勤労者世帯では60年度に前年度比0.1%減とわずかながら減少となった後,1.9%増と緩やかながら着実に増加している。なお,家計調査での消費支出と国民経済計算での民間最終消費支出の伸びとの間には大きな差が生じているが,これは家計調査が一世帯平均の消費の動きを示しているのに対し,国民経済計算では家計数の伸びや単身者世帯,農家世帯の消費がカウントされていることや家計調査では消費支出に含めていない帰属家賃,社会保障費や年金・保険などが含められている等の違いによるものと考えられる(第I-6-3表)。
そこで家計調査での消費支出の増減を簡単な定義式を用いていくつかの要因に分解してみた (第I-6-4図)。これによると実収入の伸びは最近では低下してきているとはいえ,一貫して消費支出を拡大する要因として働いている。これに対し物価上昇はこれまで一貫して消費支出を引下げる要因となってきたが,60年10~12月期以降次第にマイナスの寄与度が縮小し,61年10~12月期に至って逆に引上げ要因となっている。また,非消費支出要因も消費支出自体を引下げる要因となっているが,61年度に入ってその寄与は急速に縮小している。58年以来消費支出にたいしてマイナスの寄与をしてきた消費性向要因は,61年1~3月期から再びプラスの寄与に転じている。61年度の消費支出の特徴は,実収入の伸びが鈍化するなかで消費性向が好転し物価の下落,非消費支出の伸びの鈍化が消費支出の伸びを緩やがながら着実なものとしたことにある。
(消費性向の動き)
そこで消費性向の動きについてみてみよう。家計調査の勤労者世帯の消費性向は50年以降緩やがに増加し,57年10月~12月期に80.2%,57年度平均でも79.5%とかなりの水準にまでなったが,その後低下しはじめ,60年度には77.1%となるに至っている。61年度に入ってがらは4~6月期には78.1%と上昇したが,その後再び僅かずつ低下していき年度平均では77.4%と前年度の水準を僅がに上回った。そこで,こうした平均消費性向の増減の要因をみるため,関数を推計し要因分析を行ってみた(第I-6-5図)。これは,消費性向の変動を所得の動き自体(所得要因)や過去での消費の慣性(慣習要因)価要因)や労働需給変数(雇用要因)などで分解したものである。平均消費性向が高まりをみせた57年度までは,年によって変動はあるものの,概ね全ての要因が消費性向を上げるように働いていた。しかし,57年度以降の低下期においては所得要因,慣習要因が共に消費性向を押し下げる方向に働き,雇用要因も60年末から同様の寄与を示すに至っている。ただ,物価要因だけが57年以降にも消費性向を押し上げている。
次に,世帯主の就業先別に消費性向の推移をみてみよう(第I-6-6図)。これをみると製造業,卸・小売,サービス業などが概ね80%前後で変動しているのに対し,金融・保険はかなり低いものとなっていることがわかる。こうした違いは,主に平均所得の差から生じているものと思われる。最近の動きを詳しくみると,製造業,卸・小売,金融・保険は60年末頃を底として消費性向は高まったが,その後製造業では一貫して消費性向を高めているのに対し,卸・小売,金融・保険は61年央以降低下している。また,サービス業ではこうした循環は多少早く現れ60年初から上昇し,60年末から低下し続けている。61年初からのサービス業以外の消費性向の上昇には,交易条件の改善による国内物価の安定が寄与していると言えるが,年末にかけての製造業と非製造業の動きの違いには,冬期の賞与給与額の違いにみられるような所得の伸びの違いによるものと考えられる。
(必需的消費と選択的消費)
次に費目別の動きをみるために消費支出を必需的な消費支出と選択的な消費支出とに分けてみてみよう (第I-6-7図)。ここで必需的な支出とは,消費生活を行っていく上で必要不可欠なものとし,支出項目から食料,家賃地代,光熱・水道,保健医療,通勤・通学定期,教育を取出した。一方,選択的な支出にはそれ以外の項目から外食,設備修繕・維持,家具・家事用品,被服及び履物,交通通信,補習教育(学習塾など学校外学習活動の費用),教養娯楽,その他の消費支出(理容・美容など)を選出した。こうした分類は諮意性をまぬがれえないが,これによると必需的支出は,54年以来の8年間には際立った伸びも落込みも見せることなく,1%前後の増減を繰返している。傾向的には55年度を除いて光熱・水道が増加の寄与をしているのに対し,食料が減少の寄与をしている。最近の動きを四半期ごとにみても,概ねこうした傾向には変わりはないが,61年度に入ると家賃・地代と教育が寄与を高めている反面,光熱・水道が寄与を低下させている。これは,61年度に入って民営家賃が増加したこと,また暖冬の影響から灯油等の買い控えが行われたことが反映したものと思われる。一方,選択的支出は57年度までは消費支出全体を上回る伸びを示してきたが,58年度は減少を示し,61年度も全休の伸びを下回っている。内訳をみると,被服及び履物が60年度を除いてマイナスの寄与であった他は概ねどの項目もプラスの寄与をしており,特に教養・娯楽と交通通信の寄与が目立っている。しかし,こうした中でその他の消費支出は大きくマイナスに寄与しており,選択的支出の変動をもたらしていると言えよう。最近の動きには,多少変化がみられており,その他の消費支出がマイナスの寄与から,再びプラスの寄与に61年度に入って転じている他,家具・家事用品が60年度はプラスに寄与していたのが61年度になってマイナスの寄与に転じていること,61年秋からは暖冬の影響から被服及び履物がマイナスに寄与したこと,また自動車等関係費の高い伸びから交通通信の寄与が高まったことも注目されよう。
この結果,消費支出全体の動きは必需的消費の変動が小さいこともあって,選択的支出の動きに大きく依存していると言えよう。最近において耐久財の回復がみられているが,選択的支出の大半はサービス支出であることを考えると,やや長期的にみればサービス支出の需要が高まっていると言えよう。