昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-

第5章 一層安定化した物価動向

第2節 安定著しい消費者物価

国内卸売物価が大幅な下落を示しているのに対し,消費者物価はその上昇率を大きく鈍化させるにとどまってきた。しかし,62年1~3月期には生鮮食品の天候要因による大幅な値下がりもあって前年水準を下回っている。為替レートがそれ程変化していない,57年1月から60年1月までの約3年間における消費者物価の平均上昇率(年率)は総合で2.2%,持家の帰属家賃及び生鮮食品を除く総合でも2.1%,またサービスが3.2%あったことに比べると,60年2月から62年4月までの最近2年間の平均上昇率(年率)が各々1.0%,0.8%,2.6%となっており,かなり鈍化していることがわかる(第I-5-4図)。このように消費者物価においては,円高,原油価格低下の影響は上昇率の鈍化にとどまっており,価格の下落にはなっていないが,その理由としてサービス価格等の強い下方硬直性が考えられる。

そこでこの間の動きを需要段階別物価指数の推移でおってみた (第I-5-5図)。総合卸売物価素原材料は,60年2月以来下落を続け61年8月には既に底を打ち上昇に転じているものの,62年4月には60年2月に比べ40.0%の下落となっている。これに対し,中間財は素原材料が底を打った後もテンポは鈍化させながらも,下落を続けており同期間に14.9%の下落となっている。また,最終財は当初60年末まではほぼ横ばいで推移したが,その後下落をはじめ,62年4月には同3.4%の下落となっている。この間の素原材料の下落幅に対するこれらの下落の割合を追随率としてみると,中間財は37.3%,最終財で8.5%となっており,段階を経るに従って下落幅が小さくなっている。これは,段階を経るほど今回の円高,原油価格低下などにより大きく低下した費用の全休に占める割合が低下し,かわって人件費比率などが高まるためと言える。一方,消費者物価指数のうち商品は,60年2月以降上昇率を著しく鈍化させてきたが,61年に入ってその傾向は一層明瞭となり,季節性の強い生鮮商品と繊維製品を除いてみると61年5月からは60年2月の水準を下回り,62年4月には60年2月に比べて1.8%の低下となっている。このように,卸売物価最終財と消費者物価商品との下落幅に1.6ポイントの乖離がみられるのは,品目構成の違いによるところも少なくはないが,消費者物価商品の方が,円高,原油価格低下の影響を受けにくい流通コストの占める割合が大きいためと考えられる。流通コストは,大半が人件費で占められており,この間の生産性の向上は比較的大きかったものの賃金の上昇もあり,増加しているものと言える。このようにみてくると,円高,原油価格低下の影響はかなりの程度まで消費者物価商品にまで波及してきていると言えよう。

そこで,円高等による製品輸入価格の低下がどの程度,最終小売価格に反映されているかを経済企画庁,大蔵省,農林水産省,通商産業省による輸入消費財価格動向等調査によってみてみよう。これは,61年度の4月,7月,10月及び62年度の6月に発表されたもので,回を追うごとに波及は明瞭になってきており,最終小売価格に占める国内の流通コストは輸入製品も国産製品と同じであることを考えると,円高の効果はかなりの程度価格低下として表れているものと言える。今年6月末に発表された調査において調査された54の製品輸入品目のうち50品目が最終小売価格を低下させており,価格の低下幅も60年8月,9月に比べ10%を越えるものが大部分となっている。

しかし,この間サービス価格は,一度も低下することなく上昇率の鈍化がみられただけであり,こうした輸入原材料価格の低下などにはほとんど影響を受けていないように思われる。これは,商品の多くが貿易財であり,今回のような円高時に国内のコストの低下だけではなく,競合輸入品との価格にも大きく影響を受けているのに対し,サービスはほとんど非貿易財であることから,国際価格の影響からは無縁であり,費用の大半が人件費など国内要因であり,この変化や国内の需要動向で価格が決められているためと言える。サービスを構成している品目をみると,ウェイトの高いものは,1.家賃,2.外食,3.教養娯楽(月謝,入場ゲーム代),4.交通といったものとなっている。こうしたサービスは,普通の財とは異なって消費をするのに特定の場所にまで赴く必要があるものであったり,そのサービスの特殊性が強く差別化が容易であったりするものであり,こうした特性ゆえに地域独占に結びつき易いものが多く,また,料金が高いことが質の高さを意味するといった,いわゆるヴエブレン財的な色彩の強いものも少なくない。加えて,小規模経営をおこなっているものも少なくはなく,こうしたところでは生産性の向上は相対的に緩やかなものとなりがちである。このような要因が,サービス料金の下方硬直性をもたらしているものと考えられる。しかし,こうしたサービス料金も,円高などにより全般的に価格が下落していく中で,かつての上昇トレンドを下方に屈折させていることは間違いない。

今回の円高により内外価格差が拡大しているものは,こうしたサービスを含めた国際競争にさらされにくい財ということができる。

こうしたサービスを含めた国際競争にさらされにくい財の価格は,円高が大幅であったわりには我が国の消費者物価を割高と感じさせる一因となっていると考えられる。


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