昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-

第2章 改善が見えはじめた経常収支黒字

第3節 改善が見えはじめた経常収支黒字

1. 縮小に転じはじめた貿易収支黒字

上記のような輸出入の動きを反映して,61年度の貿易収支黒字は16兆2千億円(1,016億ドル)となり,また経常収支の黒字も15兆1千億円(941億ドル)と前年度を更に大幅に上回って史上最高となった。また,GNPに対する経常収支黒字の比率も4.5%と戦後主要国が記録したもののなかで最も高い水準に達した(米国は1947年の3.8%,西独は1986年の3.9%が最高)。

しかし,年度を通じての推移を季節調整値でみると,61年度前半は急増したものの10~12月以降は黒字拡大にも次第に頭打ちの状況が見えはじめ,年度末から62年度入り後はむしろ黒字縮小の動きが出てきており,5月の経常収支(貿易収支のみ季節調整値)は70.7億ドルの黒字と直前のピークだった62年1月(同87.2億ドルの黒字)に比べかなり減少し,また,原計数でも黒字幅は59年8月以来2年9か月振りに前年水準を下回った。このような最近での経常収支黒字縮小の動きをもたらしている要因は,第1に貿易収支面での黒字が減少気味となっていること,第2は貿易外収支の赤字が運輸・旅行収支を中心に拡大しはじめたことによる。以下ではこれらにつき簡単にみてみよう。

貿易収支の動向を通関収支の動きによって数量・価格要因に分けてみてみると (第I-2-11図),前述したような輸出入の動きを反映して年度前半には,輸出数量の弱含みと輸入数量の増加から数量面を通ずる黒字縮小効果があったものの,円高に対応したドル建輸出価格引上げ(円建分のドルベースでの自動的上昇分を含む)と輸入価格面での原油の大幅値下がりの両方から価格面を通ずる黒字拡大効果が大きく,それが数量面の効果を上回った結果,通関収支黒字は急テンポで拡大した。しかし年度後半以降においては,①輸入数量が非貨幣用金の反動減から一時やや減少気味となったが62年度に入って再び増勢に転じ,輸出数量も引続き弱含みに推移したため数量面からの黒字縮小効果が続いたこと,②価格面も原油価格の反騰による輸入価格上昇から黒字縮小方向に作用したことなどにより黒字幅に縮小の動きがみられた。

通関収支差を地域別にみると(第I-2-12図),年度としてはいずれの地域向けに対しても黒字が拡大ないし赤字が大きく縮小したが,四半期別の推移をみると,自動車輸出の一時的振れはあるものの各地域ともこのところ黒字拡大傾向に頭打ち感がみられる。このように収支の尻としては各地域ともほぼ同様な動きを示しているものの,各地域との貿易を数量ベースの行き帰りでみた場合,対アジアNICs,対西欧では,輸出入両面での拡大が顕著である一方,対米では非貨幣用金の一時的輸入増を除けばほとんど実質的な取引量の拡大がみられない点が異なっている。

2. 赤字幅拡大がみられる貿易外収支

貿易外収支を,投資収益収支とそれ以外の収支(以下ここでは便宜的にサービス収支という)とに分けてみよう (第I-2-13表)。投資収益収支は経常収支黒字の拡大に伴う対外純資産の累増を背景に57年以降一貫してかなりのテンポで黒字が増加し,61年度には106億ドルに達した。これを反映して貿易外収支の赤字も57年度から60年度までは顕著な縮小傾向を示してきた。しかし,61年に入ってから赤字の縮小に歯止めがかかり,その後やや赤字が拡大しはじめた。これはサービス収支赤字が目立って増大したことによる。内訳としては,旅行収支の赤字が前年に比べほぼ6割近く増加しているほか,その他民間取引の赤字がやはり前年比1割増のペースで拡大してきていることが大きい。

こうしたサービス収支赤字の顕著な増加の背景には,契約が円建になっているものについては円高が自動的にドルベースでの支払額を膨らませているという面もあろうが,他方円高に伴って割安化した海外のサービス(例えば海外旅行,外人タレントの招へい等)を購入しようとする動き,言い替えれば円高に対応したサービス面での内から外への代替が生じていることを反映している面も否定できない。その意味で円高は,財の貿易のみならずサービス取引の面でも収支調整効果を与えはじめたとの評価が可能である。

最近のサービス収支赤字拡大による経常収支黒字縮小への影響度を貿易収支の寄与と比較してみると (第I-2-14図),例えば62年1~5月の経常収支を前年同期と比べると,サービス収支の支払い超幅は28.2億ドル増加し,同期間での投資収益収支黒字幅の拡大分7.4億ドルを上回り,貿易収支黒字拡大分95.8億ドル(輸出増によるもの79.7億ドル,輸入減によるもの16.1億ドル)の一部を相殺した結果,79.6億ドルの黒字拡大に止まった。

今後については,対外純資産が当面は累増していくことが予想され,それに伴って投資収益収支の黒字もかなりのテンポで拡大すると見込まれる。しかし,経済の国際化・サービス化が進展していることや,円高による内外サービス価格の大きな変化に対応した各主体の継続的な輸入サービスへの需要シフトも勘案すれば,引続きサービス支払いも増加傾向を辿ると考えられる。既に経常支払いに占めるサービス支払いの割合は,62年1~5月で24.8%と55年当時の約19.3%よりかなり高まっており,経常支払い増加額に対する寄与度ではかなり大きな部分を占めるに至っているだけに,その動向はこれまで以上に注目していく必要があろう。


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