昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-

第2章 改善が見えはじめた経常収支黒字

第2節 製品類を中心に増加を続ける輸入

1. 顕著な増加を示す製品輸入

通関ベースでみた61年度の我が国の輸入は,数量では製品類の増加を主因に前年度比14.1%増となったが,金額としては,原油価格の大幅な下落からドルベースで3.6%減,さらに円ベースでは,円高の影響が加わったため30.6%減と大幅に減少した。四半期ごとの動きとしてみると,数量では,61年4~6月期,7~9月期に記念貨鋳造用金が大量に輸入されたことがら顕著な増加を示したが,その要因が剥落した年度後半にはやや減少気味となった。ただ,非貨幣用金を除く実勢としては,62年1~3月期に一時伸びが鈍化し,4~5月のレベルも高くないが月次では3月以降連続して増加しており,61年度以降着実に増加傾向を辿っていると言えよう (第I-2-6図)。ドルベースでも,原油価格が急落した61年1~3月期,4~6月期には大きく減少したが,その後は横ばいとなり,62年に入ってからは,数量の増加と原油価格の反転に伴って明確な増加を示しはじめている。

国内景気の足取りが緩やかなものにとどまり,鉱工業生産も基調として停滞傾向で推移した中で,輸入数量が非貨幣用金を除いても前年度比10.3%増となった原因は,急激な円高が国産財から輸入財へのシフトをもたらしたことが大きい。この点を輸入数量関数を推計してみてみると,円レート要因の寄与がかなり大きかったことがわかる(第I-2-7図)。

2. 商品別,地域別動向

(商品別輸入動向)

61年度中の輸入の動きを商品別に分けてその寄与度をみると,数量ベースでは,製品類が7.3%,非貨幣用金を除く製品類でも3.9%と圧倒的に高く,続いて食料品が1.6%,鉱物性燃料が1.5%,原料品が0.2%となっている (第I-2-8図)。金額(ドルベース)でみると,鉱物性燃料が大幅なマイナスの寄与となっているほか,原料品の増加寄与も極めて小さいが,製品類が大幅な増加寄与を示し,食料品のプラスも無視し得ない大きさとなっている。この結果,61年度中の我が国輸入に占める製品類のウェイトは44.1%と前年度(31.5%)に比べ大きく上昇した。このように,最近の輸入増加を支えているのは製品類と食料品であるが,過去の景気上昇期を中心に輸入が拡大した時期と比較しても,かつては,製品類も増加したが原燃料もかなりの寄与を示していたのに対し,今回は製品類の増加が際立っているという点に大きな特徴がある。

商品別輸入動向をやや敷行して,今回の輸入増加の特徴的な動きを整理すれば以下のとおりである (第I-2-9表)。

鉱物性燃料は,原油価格の不安定な動きに対する思惑的な動きもあって振れは大きいものの,年度を通しての輸入量は鉱工業生産の停滞や電力需要の伸び悩みを反映して減少した。こうした中で目立った点としては,ガソリン等特定石油製品の輸入自由化等に伴って,石油製品の輸入が大幅に増加したことが挙げられよう。ナフサ,ガソリン,軽油,灯油,重油等石油製品の輸入は,数量ベースで前年度比26.2%増となり,原粗油を含めた総輸入量に対する比率も18.0%と5年前の2倍強に膨らみ,粗原料輸入から製品輸入へとその構造が変化しつつある。

原料品の輸入は,鉄鋼,繊維,非鉄等素材関連業種の生産が低迷していることを反映して,数量は弱含みで推移した。

食料品は,数量ベースで前年度比13.3%増となった。大きなウェイトをもつ穀物が微増にとどまった一方,肉類,魚介類,野菜・果実などは二桁の伸びを示した。これは,基本的には消費者の食生活の多様化や,円高による輸入品の割安感が影響している。このほか,自由化措置が実施されたたばこが前年度比5割増となった。また,加工食品では割安感を強めたことから輸入が急増した例(パスタ類35.0%増,せんべい類16.4%増など)があるほか,肥育用子牛の輸入の増大(生体牛95.4%増)がみられたところである。

製品類の増加について,ドルベースで主な品目ごとの伸び率をみると,非貨幣用金を除いても,自動車,衣類,鉄鋼,電気機器,人造プラスチック,一般機械などほとんどの商品で二桁台の増加を示している。このような製品類の全般的な増加の背景としては,国内需要が増加したというよりは,円高による輸入品の有利化に伴って,ユーザーや消費者の輸入品への需要シフトが生じたことや生産を海外へ移行して逆輸入する動きが強まってきたこと等が指摘できよう。

(地域別輸入動向)

地域別にみると(第I-2-10表),中近東をはじめ,豪州,カナダ,中国,ASEAN等からの輸入は,原油価格の急落や原料品が量・価格とも低迷したことから減少した。

一方,アジアNICs,ECからの輸入は,大幅に増加した。アジアNICsからの輸入は,主に製品類の輸入増によるものであり,繊維製品,化学製品など素材製品のほか,電機関係の部品類や,家電製品などががなり増加した。ECがらの輸入増加も製品類によってもたらされており,この中には非貨幣用金の増加という一時的な要因のものもあるが,自動車や,資本財などの機械が多い。

この間,対米国についても全体としては増加しているが,その内訳をみると非貨幣用金の寄与度が大きく,これを除くと一桁台の伸びにとどまっている。

これには,第1に食料品が対世界では21.7%増と大幅に増加しているものの対米では7.3%増と増加が小幅であること,第2に製品類(非貨幣用金を除く)がアジアNICs,ECとも5割程度増加しているのに対し米国からは10%強の小幅の伸びにとどまっていることが影響している。このような状況をみると,大幅な円高の下でも米国からの輸入があまり増えない背景には,とかく我が国市場の固有な問題とする声も聞かれるものの,現実には,米国企業の対日戦略が我が国企業への資本参加,現地生産等に積極的である一方で,対日輸出については,一部においてニーズへの適合度,販売網整備等を通ずる拡販努力といった面で必ずしも十分な対応が行われていないところもあることを示唆している。

3. 当面の輸入動向

当面の輸入数量の動きとしては,所得要因からは大きく増加するとは期待し得ないものの,国内においては在庫調整が最終段階に入りつつあるとみることができ,加えて第II部第2章で詳しくみるように,円高による内外比価の大幅な変化に対応した経済各主体の輸入品シフトの流れが継続的に作用することが考えられるため,引続き増加傾向を辿っていくとみることができよう。