第二部 各論 一〇 国民生活 6 財政と国民生活


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 財政は国民生活に直接間接大なる影響を与えるが、まづ租税負担総額の国民所得に占める比率は二二%で前年と大差なかつた。しかし二七年一―一二月間の国税徴収実績によると、所得税の対前年増加率が約九%であつたのに対し法人税のそれは二二%となつており、個人の税負担が相対的に軽減をみたことがわかる。

 つぎに歳出面において直接国民生活に関連するものをみると、健康保険、失業保険、生活保護、遺家族援護など広義の社会保障費は一般会計歳出の約一二%を占め、また輸入食糧補給金も引続き二・四%支出せられている。これらの国民厚生に関する支出は十分とはいえないまでも戦前よりは実質的にかなり増大し戦後の疲弊した国民生活に或る程度の役割を果している。なお、さらに広汎にいえば住宅公庫貸付金、文教費などをも挙げねばならないであろう。

第八八表 国民所得に対する租税負担の割合

 以上昭和二七年の国民生活は各面に亘つて目覚ましい向上を示し、戦後長年の念願であつた消費水準の戦前復帰もほぼその達成をみるに至り、また同時に消費構造の歪みを急速に是正せられてかなり正常な形態に近ずいた。しかし、住宅事情の改善は依然として遅々たる状況であり、その他一般に個人資産の蓄積もいまだ戦前の状態に遠く及ばない。

 しかも、二七年の国民生活向上は朝鮮動乱に伴う景気の一巡過程であり、その背後に特需の支えがあることを思うとき、生活事情の一時的好転に心を許してはおられない。企業が資本蓄積と合理化に努力を傾けなければならないと同様に、国民生活においても不急不要の消費を節し、無駄を排除して、生活の各面における消費の合理化を図り、堅実なる生活から蓄積力を生み出してゆく地道な努力が要請される時であろう。

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