第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 八 労働 2 労働条件

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(一)労働時間

第三八表 主要産業労働時間の推移

 動乱を契機とする生産の増加は主として労働時間の増加、労働能率の向上、臨時雇用の充足等によつて行われたため、労働時間は昭和二六年においても六月頃までは依然増加傾向を続けた。しかし七月以降は、引続き生産が増加している鉱業を除くと、労働時間は漸次減少傾向に転じ、二七年に入つてからもこの傾向は続いている。これを年間平均でみると、「毎月勤労統計」による製造工業及び鉱業においては、前年に比較していずれも約二%、二二年に比較するとそれぞれ四%および五%の増加となつている。

 この傾向を規模別にみると、大規模事業と小規模事業とではかなり異つた動きを示している。すなわち大規模事業になる程労働時間は少くなつており、また六月以降においては大規模事業の労働時間は減少傾向を続けているに反し、小規模事業所においては、かえつて増加傾向を示している。これは主として小規模事業所が採算の悪化を労働時間の延長によつて補つていることによるものと思われる。

 (二)賃金

第三九表 主要産業平均現金給与の推移ならびに業種別較差

 昭和二六年の名目賃金は「毎月勤労統計」による鉱業、製造工業、商業、金融業、公益事業の五大産業における三〇人以上の常傭労働者の平均において、前年に比較し二五・八%、製造工業において二八・三%の上昇を示している。このような顕著な上昇は前年より持続された物価の高騰に対する賃金率の引上げ、および臨時給与の大巾な増加、労働時間の延長による超過労働給の増加、ならびに生産、利潤等の増大による奨励給的給与の増加等によるものである。特に賃金率の引上げおよび臨時給与の大巾な増加はレッド・パージいらいやや沈滞状況にあつた労働運動が動乱を契機とする物価の高騰、生計費の膨張に対する賃上攻勢として活発化し、春秋二期にわたる統一的な労働攻勢によつて推進された結果である。そのため、この名目賃金の上昇は雇用動向の場合とは異なり、前半期と後半期とにおいてはそれ程顕著な差がみられず、かえつて年末における臨時給与の大巾増加によつて、後半期における上昇率が幾分高くなつている。従つて物価、利潤に対する賃金の遅れは後半期においてかなり回復され、二六年における実質賃金向上の大部分はこれに基因するものであつた。また臨時給与が特に増加したのは、一部には企業利潤の増大によるボーナス的給与の増加もみられるが、大半は動乱景気の特殊性から賃金率の引上げをできるだけ回避し、賃上げ要求の一部を一時金によつて解決したことによるものと考えられる。

 このような名目賃金の動きに対する実質資金の状況をみると、二六年の三月より五月頃までは毎月二―三%ずつの消費者物価の高騰が続いたので、賃金の上昇はこれに追つけず、実質賃金は概して低下を続けていた。しかし、六、七月における臨時給与の大巾増加と六月以降における消費者物価上昇の停滞、秋季賃上攻勢による賃金率の引上げと年末臨時給与の大巾支給、勤労所得税の軽減措置などにより六月以降漸次回復を示し、二七年に入つてからも物価の低落傾向を反映して、季節的変動を除くと概ね向上を保つている。そしてこれらを二六年の平均でみると、「毎月勤労統計」による五大産業の総数において前年に対し七・六%、製造工業および鉱業においてそれぞれ九・〇%及び八・七%の向上となつている。

 さらに名目賃金の動向を産業別及び規模別にみると、動乱を契機とする跛行的傾向は産業別においてはやや緩和された観があるが、規模別にはかえつて拡大の傾向がみられる。すなわち、前年においてもかなり高い上昇率を示していた金属工業、商業などは二六年において引続き高い上昇を続けているが、製材木製品、雑品工業、公益事業等は前年に続いて低い上昇に止まつて跛行的傾向をあらわしており、その他の産業において概ね前年の上昇が比較的高かつた産業は、二六年においては上昇率が低く、これと反対に前年の上昇が比較的低かつた産業は、二六年においては上昇率が高くなり、漸次調整の方向がみられる。しかし、「毎月勤労統計」にあらわれない建設、サービス、農業、林業などの賃金上昇率は、五大産業に比較するとかなり低位に止まつている。

 一方規模別の賃金較差においては大規模事業所ほど賃金水準は高くなつているが、特に鉱業、製造工業の規模別の開きは顕著である。毎月勤労統計による製造工業の五〇〇人以上(大規模)、一〇〇―四九九人(中規模)、三〇―九九人(小規模)の三段階においても、二五年一―六月当時は大規模一〇〇に対し、中規模八六・八、小規模七〇・一であつたが、二七年一―三月においては中規模七七・二、小規模五九・〇となつて較差は拡大している。さらに労働時間は小規模程多くなつているので、労働時間当り賃金の較差は一層開いており、二七年一―三月においては大規模一〇〇に対し中規模七五・三、小規模五六・三となつている。

第四〇表 製造工業規模別賃金較差

 また動乱以後急激に増加した臨時的労務者の賃金水準は常傭労務者に比較すると一般的に低位にあるが、失業保険申告による賃金統計によつてみるとその上昇率もかなり低いことを示している。すなわち、失業保険申告による賃金統計の製造工業「一般被保険者」「常傭化した日雇」「日雇失業保険にあるに日雇」の賃金を二五年一一月と二六年同月との比較においてみると、「一般被保険者」は二二%上昇しているのに対し、「常傭化した日雇」および「日雇保険による日雇」の賃金は、それぞれ八%および九%に止まつている。

 一方実質賃金の向上に伴い生活給偏重、賃金の平準化傾向は漸次緩和されつゝあるが、二六年においてもこの緩和傾向は持続されている。また「毎月勤労統計」による製造工業の労務者、職員の賃金較差も二四年平均の職員一〇〇に対する労務者七二・七に比較すると、二七年一―三月においては職員一〇〇に対し、労務者六四・八とかなり拡大している。また公務員給与においても二四年一月実施の六、三〇七円ベースと二六年一〇月実施の一〇、二〇〇円ベースを比較すると、上下の開きは約二倍近く拡大している。

 次に動乱勃発によつて幾分減少した資金遅払は、二六年の後半以降における景気の後退により再び増加の傾向を示し始め、二七年に入ると紡織、機械等の遅払増加がやや目立つてきている。特にこれらの遅払事業所の大部分が一〇〇人以下の小規模事業所であることなどは、規模別賃金格差の拡大とともに注目すべき傾向といわねばならない。

(三)労働生産性と労務費率

 動乱勃発を契機とする労働生産性の急激な上昇傾向は、昭和二六年においても生産上昇を持続していた六月頃までは全般的に維持されていたが、六月以降においては鉱業を除き全般的な生産の停滞と雇用の減少とにより、僅かに上昇線を保つている状態にある。

 しかし、これを年間平均にみると当本部生産指数と毎月勤労統計による常傭労務者の雇用指数とにより算出した労働生産性指数は、前年にくらべて製造工業三〇%、鉱業一九%の向上を示している。特に前年の上昇率が比較的低かつた機械、製材、食料品などはいずれも四〇%を超える上昇を示している。さらに主要業種の労務者一人一ケ月当生産高をみると綿糸を除き、石炭、鉄鋼、硫安、生糸等いずれも前年に比較しかなりの増加を示している。そしてこれらの業種においては二六年の後半以降においてもこの傾向が続いている。

第四一表 主要業種労働生産性

 このように二六年において労働生産性が向上した主な原因は、生産の急激な上昇に対し雇用の増加が極めて僅少であり、生産の増加は労働時間の延長、労働能率の向上などによりもたらされたものが多かつたことによるものと考えられる。しかし、後半においては雇用の減少が労働生産性の減少を阻止しえた原因をなしているものと思われる。次に賃金と労働生産性との関係についてみると、鉱業は前年に引続き賃金の上昇が労働生産性の向上を上廻つているが、製造工業における賃金上昇は概ね労働生産性向上の範囲内に止まつている。しかし、六月以降は製造工業においても漸次賃金上昇が労働生産性向上を上廻る傾向を示している。

 さらに賃金と雇傭、生産と生産物価格との相乗積との関係より製造工業平均の労務比率指数をみると、年平均においては二六年は前年は七〇%(二四年の五五%)とさらに縮小を示した。しかし、七月以降は労働生産性の停滞と卸売物価の横這い、賃金の上昇傾向などにより、労務比率はやや拡大の傾向を示している。

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