第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 八 労働 1 人口および雇用

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(一)人口と就業者

 戦後急激な増加傾向を辿つた人口も、復員、海外引揚等の社会的増加の終了、自然増加率の減退に伴い、昭和二三年を境として漸次増加率を減じつつあるが、二六年においても約一四〇万人増加して八、四六〇万人となつた。自然増加率が減退したのは出生率が死亡率の低下よりも一層減少したことによるものである。

 これに対し就業者の増加は二四年以降極めて緩慢であり、二六年の就業者総数は労働力調査によると三、六二二万人となり、二四年に比較して一五万人、二五年に比較して五〇万人の増加にすぎない。従つて総人口に対する就業者数の比率をみると昭和二五年の四五・五%に対して二六年は四二・八%に低下した。

第八六図 人口と就業者

 このように就業者総数の増加は二四年以降停滞に近いが、その産業別構成には顕著な変化がみられる。すなわち二三年より二四年にかけて農林業就業者は著しく増加し、就業者総数の五〇%を占めるに至つたが、二五年からは減少傾向に転じて二六年においても約一三〇万人の減少となり、就業者総数の約四五%にまで縮小した。そしてこれらの労働力は一部は家族労働の減少などにより非労働力化したものもあろうが、大部分は他に転業したものと考えられる。一方非農林部門においては、鉱業および製造工業は、二六年において若干の増加を示しているが、いまだ二三―四年当時の就業者数よりも少く、就業者総数に対してそれぞれ二・四%および一七・四%程度に止まつている。これに反し卸売、小売、金融、保険、不動産業およびサービス業などの流通、サービス部門は、統制の撤廃、生活水準の向上、鉱工業生産活動の活発化などにより二五年以降急激に増加し、二六年においても、流通部門で一一六万人、サービス部門で四三万人の増加をみており、就業者総数の二三・一%を占めるに至つた。しかしこれらの増加就業者の約五〇%が個人業主として就業していることは、流通、サービス部門において、零細事業が著しく増加していることを示しているものともみられよう。

第八七図 雇用の動き

(二)雇用の動き

 昭和二六年の雇用情勢は、六―九月頃を境としてその前期と後期においてはかなり異なつた動きを示しているが、全体的にみると前半には臨時工、日雇、社外工などの臨時的雇用の増加が著しく、後半の生産停滞期にはこれら臨時的雇用が急激に減少するなど、臨時的雇用は生産量の増減に対する調節的作用を営み、その変動が極めて激しいのに反し、常用労働者は二六年における雇用増加の大半が四月の入職期に行われているなど、その動きは臨時的労働者に比較するとかなり緩漫である。

 次に「毎月勤労統計」によつて二六年における常傭雇用の主な動きについてみると、四月の入職期には、紡織関係をはじめ大部分の産業において概ね四%前後の増加を示した。これは臨時的労務者増員が限界に近ずいたことと、設備の新設拡張が行われた結果と考えられる。

 しかし六月頃から世界的な景気の後退と電力事情等を反映して、まず紡織、化学等が減少傾向に転じ、続いて金属、製材、機械、窯業等も減少傾向に向い、二七年に入ると、二六年の後半よりかえつて増勢に転じた鉱業と印刷関係を除き全般的に減少傾向に移つた。

 かくして二六年の年間平均においては、製造業、鉱業、商業、金融業、公益事業の五大産業における規模三〇人以上事業所の常用労務者は、前年に比較し約二%、製造業においては約五%の増加となつた。しかしこれらを二二年に比較すると五大産業においては約一%増加となるが、製造業においてはようやく二二年の水準に達したにすぎない。

 一方臨時工、日雇、社外工等の臨時的雇用の状況については、当本部の調べによると、製造工業における臨時工は四―六月において最高を示し、動乱前に対して五五%の増加となり、日雇および社外工は七―九月が最高で、それぞれ動乱前に対し四八%および六二%の増加を示した。しかし、一〇月以降は急激に減少して二七年一―三月においては、いずれも動乱前の二七―八%の増加にまで減少している。

第三七表 製造工業における臨時工、日雇、社外工の動き

 さらにこれらの臨時雇用の状況を産業別にみると、臨時工は機械窯業、食糧品などにおいて、日雇は食糧品、機械、窯業において、社外工は食料品、化学、機械、金属において著しく増加している。そして前述した臨時工と常傭工とを総合した製造工業の在籍労務者総数においては、前年に比較し約七%程度増加しているものと想定される。

 このような雇用状勢を反映して、労働力調査による完全失業者は年央において三五万六千人にまで減少したが、漸次増加傾向を辿り、二七年一―三月においては動乱前の半年平均約五〇万人の水準にまで戻つた。また不完全就業者(短時間就業者の追加就業希望者)、非求職の就業希望者、失業保険給付人員は年平均においてはかなり減少しているが、一〇月を境として漸次増加を示し、二七年に入つてこの傾向が一層強まつている。一方失業対策事業の就労延人員も前年に引続き増加傾向を保つている。

第八八図 失業者の動き

 以上述べたように二六年度には生産の減退とともに雇用は漸次減少傾向に転じ、二七年に入ると一層この傾向が強まり、四月以降においては一部産業の操業短縮によりかなりの雇用減少をみていること、および十月以降における完全失業者、不完全就業者の増加傾向がみられることなどわが国経済が産業の合理化、近代化により国際競争力を強化しようとする方向にある折から、今後の雇用状勢は楽観を許さないものがあると考えられる。

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