第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 七 食糧・農業 4 林業および水産業の現状

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(一)林業

 終戦によりわが国森林面積は戦前の五五%、蓄積は六七%に減少したのに対し、木材需要はかえつて増加したため、森林の保全と保続を前提とした木材需給の極度の困難に陥つた。しかし木材の表面的な需給は、蓄積への食込みによる増伐のため、それほど逼迫をきたすことなく経過した。いま戦前戦後の木材需給をみると第八四図のごとくで戦後における輸入の激減が注目される。昭和二六年度は価格関係から南洋材の輸入がかなり増加したが、米材を中心とした世界の木材事業からみて戦前のごとき輸入増加は到底望むべくもなく、需要の二%、約二〇〇万石程度が輸入可能の限界であろう。従つて今後当分国内材のみに依存せねばならぬ状態である。

 次に二六年度の用途別消費実績よりその比率をみると、建築用材三〇%、パルプ用材一六%、坑木一二%、包装用材一一%、その他三一%、立木換算合計一億三千万石となつており、この外薪炭材として約一億石が消費されている。このように戦後の消費量はすでに戦前の水準を越え、戦時中甚しい濫伐が行われた頃の使用量に近ずきつゝある。しかも木材需要は今後到底減少するものとは考えられず、他方年間の保続供給力は九八百万石(この外薪炭材として七一百万石)、既開発林のみでは四九百万石(薪炭材三四百万石)に過ぎない。従つて需給の調整のため、奥地林の開発と利用の合理化を促進すると共に、森林の保続、国土の保全のため、治山造林費用等の財政支出、民間資金の欺業への投資を誘致しうるごとき金融措置を講ずる必要がある。

第八四図 木材需給の推移

 最近における木材価格の動きをみると、二六年五月頃より原木高製品安およびパルプ用材、坑木など特殊材の高騰が顕著である。原木特に特殊材の騰貴は改正森林法による伐採調整措置を考えての先高見込みからと基本的には木材資源の涸渇によるものであり、製品安の現象は特需の減退と生産過剰に直面して融資難が加わり、木材加工業の多くが資力の弱い中小企業であるため持ちこたえられなかつたことに原因したものであろう。

(二)水産業

 昭和二六年の海面漁業の生産は頗る順調で、前年より一八%、数量にして一億五千万貫近く増加して、戦前の最高水準の八三%程度にまで回復した。

 このように、前年より増産を実現しえたのは、漁船が次第に大型化した上、魚群探知機、電気集魚灯などの新しい装備をそなえて高性能化したことが主な原因である。しかし、一操業当りの漁獲高は二五年よりかなり減少しているので、かかる増産は操業の強化によるものとみられ、必ずしも水産資源の増加によるものではないことを示唆している。

第八五図 海面漁業漁獲高の推移

 これは、同時に生産コストを、従つて魚価を高め、国内市場において獣肉、鶏卵などに対する魚価の割高を招いた一因と考えられる。一方、輸出市場をみても、二六年一月以降、米国のマグロ油漬罐詰に対する関税引上げや、最近における冷凍マグロに対する関税賦課問題等によつて今後楽観を許されない。このようなコストの上昇と内外市場の縮小傾向とは、特に中小規模の経営を圧迫し、そのシワは結局漁業労働者、漁家の家計に集中されるに至つている。

 他面独立によつて、被占領期間中、課されていた漁区制限が消滅した結果、遠洋漁業が活発化するものと期待されている。従つて沿岸漁船を沖合で操業させ、沖合漁船を遠洋で活動させる政策の発展により、資源の保護、経営改善の両問題にある程度明るい見透しを与えることとなろう。

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