第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 六 財政・金融 2 金融の動向

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(一)年度中の進捗

 昭和二六年の金融の進捗はおおむね三つの時期にわけてみることができる。

 1 四月から八、九月まで(金融繁忙期)。この時期は貸出が大量に行われ設備投資も依然活発であつた。貸出の大宗は輸入物資引取資金である。前年度下半期に日銀ユーザンスを実施して大量の集中輸入を行つた結果、二六年度に入つてユーザンス決算資金の調達が問題となつた。貿易商社の手持原材料は値下りのために売れず、またメーカーは自己資金の多くを固定設備化した上に、商況不振が響いて資金繰が非常に窮屈となり、原材料の資金手当を自己資本で行うことができなかつた。従つて結局第一、第二、四半期にそれぞれ一五〇〇億円、一七〇〇億円に上つた引取資金(食糧分を除く)の大部分が、日銀信用に依存する銀行貸出でまかなわれた。

 この間、とりわけ第一、四半期までは、産業設備資金の需要もかなり活発で、やがて市況停滞気味を示すようになつた繊維および紙パルプなどの産業さえ、電力、海運、鉄鋼および石炭産業とならんで、引続き増設を行い、またビル建設も前年度下半期からこの時期にかけて活況を呈した。

第七一図 金融の動き

 このような銀行が大量の貸出に応じたのは、当時の景気後退を一時的と考え、この間貸出によつて企業の資金繰りを支えることにより、やがて景気好転したときに貸出の回収が行えると期待したからであつた。従つて輸入物資引取資金について日銀優遇手形の適用をうけていない油脂、ゴムその他、また六、七月に海外からの信用状未着、契約破棄によつて、打撃をうけた紡績等などの滞貨に対しても結局は融資が行われたのであつた。そのためこの過程を通じ全国銀行、特に一一大銀行のオーバーローンは激化した。

 2 九月から年末まで(金融引緊期)、この時期には、以上のように期待された景気好転も八、九月において一時的に反発しただけで近い将来には回復する望みも薄く、さきに融資した資金の回収も困難な情勢が明かとなり、銀行もようやく金融引締め、融資対象選択の態度を強めざるをえなくなつた。

 政府および日銀も前期の信用膨張の行過ぎを是正するために、電力、海運、鉄鋼、石炭以外の新規計画設備資金融資の抑制、市中預金金利の引上、二三年七月以降固定していた日銀公定歩合の引上げ、高率適用制度の強化、日銀ユーザンス(乙種)の廃止および輸入手形制度への切替えなどの措置を行つた。

 この金融引締方針は一〇月末から一一月にかけてのさきの滞貨金融の決算期に具体的にあらわれた。すなわち生糸、人絹織物および新三品(ゴム、油脂、皮革)取扱商社では若干の中流企業さえ倒産するものがあらわれた。かかる状態であるから、不渡手形の発生もまた著増した。しかしまだこの時期においても、一般に担保力のある大メーカー、とりわけ紡績、鉄鋼関係の大企業に対しては引続き融資が行われ、輸入物資引取資金の決済も一部は並手形への書換えですました。このやうな事情を反映して、第七二図にみるごとくこの時期の銀行の書換継続貸付額は特に一一大銀行において著しい増加を示している。

 しかも年末には、食官、外為会計の支払のほかに七次造船、電源開発資金などの政府資金が大量に放出された上、年末決算上やむをえない救済融資も大量に行われたので、一一月の商社倒産はその他の部面に波及することなく越年した。

第七二図 銀行別書換継続貸付の推移

 3 当初から最近まで(金融緩和)。この時期には、年末貸出の回収、季節的な商取引の閑散という事情に加えて、海上市場も各国からの競争がますます強くなり、商況はさらに沈滞したため、いままで持ちこたえていた紡績関係大商社もついに再建設備を行わざるをえなくなり、鉄鋼および紡績業事態も操短問題と真剣にとりくむに至つた。従つて日銀優遇の輸入手形決済資金や、政府資金と協調する電力、造船資金などを除いては、銀行が貸出に応ずる資金需要が少くなり、一―三月に輸入手形決済資金は約八〇〇億円貸出されているのに、その他の貸出は四二〇億円に止まり、それも約八〇億円の電力、造船資金以外は主として年度末の決算資金であつた。

 一方この時期の予金は比較的好調で、とりわけ定期性予金は著しく増加した。これは商況不振のため中小商工業者が仕入を手控えて売上を予金化したこと、昨年末以来家計収支の好転に加えて年末賞与の影響もあつて個人貯蓄が増えたことによるものである。かくて銀行資金は潤沢となつたが、貸出の方は企業の資金繰が依然苦しいにもかかわらずますます貸渋らざるをえなくなり、銀行、特に地方銀行の金繰りは企業とは反対に緩慢となつて、その余裕金は社債消化にあてられたほかコール市場への放出となり、コール残高は一〇―一二月の六、七〇億円台から三月末には一一四億円に増加し、四月中旬にはさらに一六三億円に上昇した。

 このやうな事態に、政府は異常に増加した外貨の保有にかんがみ、併せて国内金融の緩和に資するため、さきの日銀外貨貸付を復活し(たゞし、金利期間等に若干の相違あるほか、個別審査を原則とする)、まず二月には、ポンドおよびオープン勘定地域からの紡績等の原料輸入に、また四月には近代化設備輸入に、これをドル地域まで拡張して実施する事とした。このほか二七年度予算成立当時には一応見込まれていなかつた資金運用部の金融債引受(二七年度上期予定一六〇億円)を再開し、これがつなぎの意味もあつて年度末には政府指定予金の放出を行つた。

(二)産業資金の供給

 以上の金融動向を通じて、二六年度に供給された産業資金は一一、〇一三億円で、二五年度の七、八三六億円に比して四一%の増加である。このように多額の資金供給が必要であつたのは、設備の拡充、物価騰貴および保有量増大に伴う棚卸資産の増加、賃金ベースの引上などによるものである。株式、社内畄保自己資金による調達分は全調達資金の約三割で二五年度の二割に比べればかなり増加をみているが、戦前(九―一一年平均)が九割であつたことを思えば、まだまだ低位にあるというべきである。また金融機関貸出(外貨貸付を調整)の全体に占める割合は、自己資金、政府資金の増大により前年度に比し幾分低下したが、金額的には依然圧倒的であることを示している。

 産業設備資金供給額は減価償却費を含めて四、四二八億円で、前年度の二、四二九億円より八二%(物価修正すれば三〇%)増加し、総産業資金供給の四〇%を占め、二六年度における設備投資が活発であつたことを示している。

 設備資金供給における政府資金の役割は増大し、見返資金のほかに、新設の農林漁業資金および開発銀行の資金が供給され設備資金総額の一八・二%に当り、前年度の一一・八%より著しく増加している。これらの投資に債券発行銀行を通じて主として長期資金を供給した資金運用部の金融債引受および買入二九八億円(前年度一七九億円)を加えて考えれば、設備資金供給上の政府資金の役割はさらに増大することになる。なお二五年度の市中銀行の設備資金供給に大きな役割を果たした日銀オペレーション(国債買上)は二五年度の二六四億円から二六年度には僅かに一三億円に減少した。

 次に主要産業別に設備投資状況(但し社内畄保と減却償却を除く)をみると、前年度投資の花形であつた繊維への投資は二〇〇億円から一五〇億円に減少した。石炭鉱業への投資は前年度と大した変化がなかつた。二六年度投資が増加したのは鉄鋼、化学、電力、海運業で鉄鋼業は前年度の九〇億円から一七〇億円へ、化学工業は一五六億円から二二〇億円へ電力事業は一七〇億円から四五〇億円へ、海運業は二四〇億円から五六〇億円に増加した。

第三三表 産業資金供給実績 その(一)産業資金供給額

第三三表 産業資金供給実績 その(二)産業設備資金供給額

(三)預金の分析

 民間貯蓄は現金手持による貯蓄を除けば、主として証券投資と金融機関予貯金の形で行われる。二六年度の証券投資のうち金融債、事業債への民間投資は比較的少く(二九六億円)、株式投資が大きい。二六年度は投資信託(年間を一九六億円)と無償株交付(一六八億円)の二大要因に支えられて、株式払込は前年度の二・一倍の八三六億円に上り、このうち金融機関の年間株式保有の増加一二二億円を差引いた七一四億円が大体民間消化分に相当することになる。

 これに対して一般予金の年間増加額は六四五二億円で、民間貯蓄において圧倒的比重を占めている。

 以下に一般予金の動向を分析すると、年間の増加額六、四五二億円は前年度増加額三八五八億円に対し六七%増である。

第三四表 一般預金金融機関別純増

 かかる増加の要因としては、主として上半期は産業資金が大量に供給された反映として預金が増加したこと、第三・四半期は政府資金の大量の払超、二七年に入つてからは主に商況不振に基く運転資金の遊休化、個人所得予金の増加によるものであると推測せられる。

第七三図 全国銀行の預金者別残高

 さらに金融機関別にみると、相互銀行、信用金庫などの中小金融機関預金の強い増勢が注目され、銀行預金は、平均以下の増加率であつた。郵便貯金は年央、年末のボーナス期には顕著な増加を示しているが、年度間を道じては平均以下であつた。銀行預金を種類別にみると個人預金が著しく増加し、短期性預金の増勢が低調で長期性預金が著増している。

 これらのことは商取引の不活発と遊休資金の増加、中小商工業者と中流以上の所得者の貯蓄の増加を示している。また農協系統金融機関の預金も農家収入の増大によつて著しく増加した。

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